今週の注目トピック
Eisuke Tamoto(@coin_ettomato)より
新年明けましておめでとうございます。ニュースレター新春号に早速世界各地のニュースが並びました。中国は今号でも実用事例が取り上げられています。2020年はブロックチェーン・分散台帳技術の実用化に向けて急加速していく年になることを予感させます。
本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
Section1: PickUp
●中国広東省、中小企業向けにブロックチェーンベースの融資プラットフォームをローンチ
広東省政府は中小企業の融資獲得プロセス迅速化を目的として独自ブロックチェーンネットワークの実運用を開始したと1月2日に発表した。広東省政府は昨年夏頃より、香港やマカオの金融機関らと共にブロックチェーンを利用したネットワーク開発を手がけており、今回はその開発が実用化に至ったとされている。
中国平安保険の子会社であるOneConnect社が今回技術提供を行っているほか、参加機関の一つにアントフィナンシャルも存在している。また、中国工商銀行などのメインバンクも参画しているところから、中国の主要金融機関が実用化に足を踏み出していることがわかる。特に、アントフィナンシャルは、自社でも中小企業向けブロックチェーンネットワークを開発している中で今回同様の他社主導のネットワークに参画しており、ブロックチェーンの実用化のためには自社主導にとらわれずにコンソーシアムを形成できている点が注目すべき点であろう。
今回のブロックチェーンネットワークでは、参画している26のブロックチェーンネットワークから財務情報を集めて、中小企業のダイナミック信用格付けを実施できるようにする。今回収集される財務情報には、知財情報や輸出入情報も含まれており、既存システムより更に精緻な信用格付けが可能になるとされている。また、政府機関や複数の金融機関で情報が共有されているので、各情報の確認期間も減ることから融資実行までの期間を大幅に短縮することが可能になる。(既存では30日以上かかるとされている)
2日にサービスローンチが発表された直後に早速、中国商工銀行より合計$160,600分の融資が3社に対して行われたことが報告されている。工数が削減&信用をより正確に測れることになったことで、融資にかかるコストを削減可能になり、金利を18%から5.5%に削減することができた、と説明されている。
中国の中小企業ファイナンス強化におけるブロックチェーン活用の流れは先月のLayerXニュースレターでも解説したが、その流れが月単位で加速していることがこのニュースからわかる。また、中国のブロックチェーン活用の方針として「データの信頼の担保として複数の政府機関で共有されているデータが利用できることにある」とOneConnectのCEOは発言しているように、政府の関与が重要なファクターになっていることもわかる。2020年更にたくさんのニュースが中国から出てくると予測されるので今後も動向を注視していきたい。
● 欧州中央銀行がCBDCの設計上の課題に関して述べたワーキングペーパーを公開
2020年1月3日、欧州中央銀行(ECB)が「Tiered CBDC and the financial system」と題したワーキングペーパーを公開した。
ペーパーの冒頭部分で、CBDCは中央銀行の当座預金と銀行券(紙幣)に次ぐ、ベースマネーの第3の形態であるとして紹介しており、今回はその中でもホールセール決済用ではなく、民間での決済にも使える一般通用型のCBDCを論ずる対象にするとしている。
この種類のCBDCの発行形態としては大きく2種類ある。1つは、中央銀行の預金口座内で管理される資金を元に発行する形式で、一般通用型のCBDCを発行する場合、中銀口座を開設可能な主体が金融系機関(約10,000)だけでなく、EU圏に住む一般市民や法人(約3億〜5億人)にも開放する必要がある点が課題となる。加えて、マネーの動きについては、彼らの口座を元に把握することが可能であるため、マネロン対策が容易になる一方、相対的に匿名性が低くなってしまう点が特徴となっている。もう一方は、分散型台帳の基盤の上にデジタルトークンを発行する形式である。こちらは、2019年12月のECBによるCordaを用いた先行研究にもある通り、実装によっては匿名性を一定程度確保できる点が特徴であるとされている。
この上で、CBDCを発行するメリットとしては、効率的かつ安全で、モダンなアーキテクチャに則った中銀マネーを民間に開放できる点や、マネロン対策が施しやすいこと、金利政策の手段の増加や、CBDCの発行によって相対的に民間銀行マネーが減少することによるリスク低減を図れること等が挙げられている。
一方で、CBDCによって発生しうるリスクと課題感についても述べられている。例えば、家計が自身の紙幣を元にCBDCを発行する場合は、中銀のバランスシートに変化を及ぼさないので問題ないものの、民間銀行の預金口座内の資金が全てCBDCに置き換えられてしまった場合は、中銀は民間銀行の信用創造分についても裏付け資産を担保として確保する必要が生じるなど、様々な不都合が生じる恐れがある。加えて、CBDCと民間銀行の預金の交換速度が早い場合、取り付け騒ぎの起きるスピードが飛躍的に早くなるため、金融システムにさらなるリスクが増加する恐れがあるなど、実務面での課題についても詳細に述べられている。
近日に入り、中国のDCEPの発表に続く形で、各国でCBDCに関する研究結果が相次いで公表されている。今後も引き続き、各国マネーの動静に注目していきたい。
●英チャレンジャーバンク「Starling Bank」前CTOがクリプトバンクZigluをローンチ
Starling Bankの前CTOのMark Hipperson氏が、新たに法定通貨と暗号通貨の間で資金移動可能なデジタルバンクを立ち上げ予定。新銀行はZigluという名称で、当初はサービスを英国内の顧客に限定してスタートするもので、2020年早々にパブリックローンチを計画している。
法定通貨および5種類の暗号通貨をアプリベースのウォレットでライセンスのもとに保管できる。複数の交換業者とインテグレーションしており、暗号通貨・法定通貨を最適な価格で売買可能としている。加えてユーザーはMastercardデビットカードを使って暗号通貨を利用可能。
FCAの電子マネー発行者ライセンスを申請中であり、2020年中に10億ドルのトランザクションを処理する構え。現在は英国居住の18歳以上が利用可能だが、今後米国など他国への拡大を計画しているとのこと。
昨今、法定通貨と暗号通貨の距離が急速に接近しており、例えば独BitWalaは、独ソラリス銀行と提携を通じて、スマホのウォレットと銀行口座を接続したモバイルバンキングアプリをローンチするなどしている(2019/9/8付ニュースレター)。今後、こうした形でバンキングと暗号通貨の連携が進むことを期待したい。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●COSO、ブロックチェーンに関するエンタープライズリスク管理ガイダンスを発行へ
●「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)に対するパブリックコメントに対する金融庁の回答
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●CBDC発行が商業銀行の流動性に影響もたらすとして必要性に否定的だった韓国中銀、監督者として決済システムの安全性強化にむけて積極的役割果たすべくCBDC研究の強化へ
●中国Penghua Fund、ブロックチェーンETF上場申請
●Google、AndroidのアプリストアからMetaMaskを削除
●GMOインターネット、「GMO Japanese YEN(GYEN)」の
内部実証実験を開始
●楽天ウォレット、楽天ポイントを仮想通貨に交換できるサービス開始を発表
●東海東京、Huobi日本法人への出資・連携つうじ仮想通貨サービスを地銀にも提供へ
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●Multi Collateral DAI導入に伴いローンチされたDai Savings Rate (DSR)
DAIの市場供給量を調整するため、コントラクトへDAIをロックすることで、自動的に計算された金利を支払うもの
このように銀行機能を自動化することによって、コストを抑え報酬を参加者で共有するDAIは、「競合は銀行口座ではなく、Vanguard不動産ETF(REITインデックス連動投信)に近い」とのコメント
●DeFi Thesis — スケール化していくエコシステム
DeFiの世界観として「金融分野における新しいバリューチェーン」「誰でもアクセス可能なユニバーサル金融マーケット」「スケールしていくエコシステム」を挙げている
レンディングやデリバティブに注目集まった一方、スクラッチによる新たな金融システムへの動きも
今後は、分散アイデンティティや暗号通貨から法定通貨への経路の容易化などがマイルストーンに
●Set Protocol、CompoundのcTokenと連携したセットを発表
ステーブルコインUSDCをcUSDCとスワップする20日間移動平均クロスオーバーイールドセット
4. Programable Security : プログラマブル証券関連
●インドの中央決済機構が独自開発するブロックチェーンプラットフォームの情報を公開へ
インドの中央決済機構(NPCI)が独自のエンタープライズ向けブロックチェーンプラットフォームVajraを開発したと発表。プラットフォームを利用して自動での精算・決済実現を目指す
チェーン上にはにはトランザクションハッシュのみが保持され、取引の詳細はオフチェーンのDBに保持される見込み
DLTを利用することで自動化を推し進めると共に、リコンサイル削減や紛争防止によるさらなるコスト削減を狙う
韓国中央銀行が発行した「2020金融政策」において、DLTの決済分野への応用可能性調査、他国のCBDC情勢調査を目的に専門家を採用したリサーチタスクフォースを創設すると発表した
●ロシア銀行がサンドボックスを通じてステーブルコイン開発を認可へ
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●スペインSantanderやBBVAなど交えたペイメントネットワークIberpay、スマートコントラクトベースのペイメントPoCを行ったと発表
商品配送などのイベントに基づき法人が自動支払い
●トルコTakasbank、ゴールドを担保としたデジタル資産の発行・償還・送金を行うブロックチェーン基盤のシステム「BiGA Digital Gold」稼働開始を発表
デジタル資産はイスタンブール証券取引所が保管している1グラムの金と紐づけられている
●TradeshiftとMonerium、デジタルユーロ用いたクロスボーダー取引をEthereumメインネット上で実施
Tradeshiftスマートコントラクト上で注文書・請求書を発行し、ライセンス済みMonerium e-money用いてオンチェーン決済を自動執行
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●サッカーUEFAユーロ2020のチケットをEthereumブロックチェーンで発行
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
8. Articles : 論考
●森・濱田松本法律事務所の増島雅和弁護士とLayerX 福島の対談記事
●拡大しゆくブロックチェーンベースの金融エコシステムに向けたガバナンス機構構築のためのマルチステークホルダーコミュニケーション
規制上の目的達成にむけて規制当局がエンジニアや事業者や利用者などと協調すべきと
●Forbesの金融分野におけるデジタルアセット・ブロックチェーン取組みハイライト記事
JPMorgan IIN、中国DCEP、欧州中銀Eurochain、他に、豪州ASXのCHESSリプライス
デジタルアセット分野ではBakkt、Fidelityカストディ
Libraの他、Utility Settlement Coin/Fnalityなどのデジタル通貨
ビジネスプロセスの自動化と、デバイスが請求発行・支払受取可能になることを促す
(1)クルマ・センサー・マシンによるスマートコントラクトが利用ベース課金、リース、ファクタリングが可能に
(2)小さなスマートコントラクト用いたDvPでアセットや証券の売買が効率的に
(3)個人・法人・マシンのデジタルアイデンティティ管理が効率的に
●Forget the paper trail — blockchain set to shake up trade finance
クロスボーダー取引における膨大の紙のやりとりをデジタルで代替することを通じて、商品が目的地へ近づくにつれ金利変動するダイナミックファクタリングのような新しい形態を導入できるようになると。
過去取引データ蓄積通じて金融機関によるリスク評価にも有用
●世界経済フォーラムWEFの2020見立て。分散金融、CBDC、スマートコントラクト通じたインパクトへの期待
●a16zによる2030年ストーリー。スマートコントラクトと暗号通貨が溶け込んだビジネスサプライチェーン等
●TIMEのBitcoin記事。Lightning NetworkやウォレットUXに言及しながら、Unbankedを中心としたマネーの「自由」についてまとまっている
●工業情報化省傘下のシンクタンクCCID (中国电子信息产业发展研究院)発表によれば、中国ではブロックチェーン関連企業が12月時点で33000社のとのこと
●SecuritizeとATカーニー、ashurst等による証券のデジタル化がもたらすインパクトについて述べたペーパー
●中央銀行デジタル通貨の発行を目指す中国 ― 予想されるマクロ面での影響 ―
●プログラム的なルールを活用した「リーガルエンジニアリング」を通じて、ビジネスコスト低減をはかる取組み
●IPA、「非金融分野におけるブロックチェーンの活用動向調査」の報告書を公開
9. Future Events : 注目イベント
●CESDigital Money Track(1/7 at LAS VEGAS)
●Hong Kong Blockchain Week(3/2–3/6 at Hong Kong)
●Consensus(5/11–5/13 at New York)
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