構成
はじめに:今週の注目トピック
Section1: Business Topics
1–1 Regulation : 規制動向 [見出し1](#見出し1)
1–2 Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
1–3 Decentralized Finance : DEXやトークンなど
1–4 Security Token : 証券トークン関連
1–5 Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
1–6 Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
1–7 Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
Section2: Articles & Papers
Section3: Future Events
はじめに: 今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。
1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減
2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現
用語変更の背後にはこういった考えがある、と頭の隅に置いたうえで今週以降のニュースレターもご覧いただけると幸いです。
では、今週のPS分野の注目トピックを軽くご紹介します。
注目トピックは「BitbondのSTOがドイツ政府から認可され実施へ」です。政府公認の社債PSが発行されるという事項も注目ですが、今回注目したいのは「10年債」という部分です。
ブロックチェーンは未だ発展途中の技術であり、10年後どういったものになっているか想定が難しい技術です。今回採用されたStellarも例外ではありません。チェーンが機能しなくなる等のリスクが多分に含まれると考えられます。
Bitbondが技術的なリスクも十分に考えられる中で中長期債をどのように管理していく計画なのか、システムリスクをどのように対応しようとしているのか、は今後のPS実現に向けていいケーススタディになるかもしれません。
@th_sat より
G20の開催が迫る中、各種の動きが急ピッチで表面化しています。このほど改正資金決済法・改正金融商品取引法が参院本会議で可決・成立し、今後は具体的内容が府令やガイドラインなどで定められ、2020年4月に施行されるとのこと。5/31には金融庁担当者を交えたMeetupが開催され、法令の内容や金融庁のスタンスなどについて、活発な質疑が交わされました。これ以外にも、金融庁からは、ISOCO(証券監督者国際機構)が発行した仮想通貨交換業者むけ論点に関する市中協議文書が公表されるなどしています。
こうした活発な動きの先には、6/8–6/9に予定されている「G20財務相・中央銀行総裁会議)があります。この中では、仮想通貨によるマネーロンダリングやテロ資金供与を阻止するための新規制に合意する見通しとされています。昨年リオデジャネイロで開催されたG20において、仮想通貨を巡る犯罪防止に向けた国際的統一制度を2020年までにまとめることとしており、これを受けて各国のマネロン対策を審査するFATF(金融活動作業部会)も従来のマネーロンダリング規制の対象に仮想通貨を加える姿勢を明らかにするなどしています。FATFの勧告内容に対して多くの仮想通貨関連業者から意見表明が出されているなか、どういった方向性が示されるか注目の週末になりそうです。
Section1: Business
1–1 Regulation : 規制動向
●改正資金決済法・改正金融商品取引法が参院本会議で可決・成立(カストディ規制に関する記事はこちら)
仮想通貨の交換業者や取引に関する規制強化策を盛り込んだ「改正資金決済法」と「改正金融商品取引法」が成立し、2020年4月に施行される見通し。G20などの国際会議で使う表現にあわせ、行政手続きでは仮想通貨の名称を「暗号資産」に改めるほか、明確な規制がなかった仮想通貨の取引ルールをつくり、相場操縦や風説の流布といった行為を禁止することなどがポイント
具体的内容は、今後作成される府令・政省令・ガイドライン等に定められる。例えば、他人のために暗号資産を管理する「カストディ」が規制されるが、一体何が規制対象となる「仮想通貨の管理」に該当するのか、「利用者の暗号資産を利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令で定める方法で管理しなければならない。」とはどんな方法なのかなどは、今後具体化される
5/31には金融庁担当者も交えたMeetupがNeutrino(渋谷)で開催されており、その模様はこちらのリンクに詳しい
●「G20財務大臣・中央銀行総裁会議」の開催迫る(日経記事はこちら)
6月8日〜9日に財務相・中央銀行総裁会議を開き、仮想通貨を巡る課題を議論予定。仮想通貨によるマネーロンダリングやテロ資金供与を阻止するための新規制に合意する見通し。取引時の本人確認の厳格化などで足並みをそろえ、資産の流れを透明にしていくとされる
また、仮想通貨の流出防止対策など、各国の規制に活用するための手引書の策定にむけた議論を始め、年内に取りまとめていくともされる。手引書の中では「顧客資産を保護するうえでの必要な対応」「サイバー攻撃対策」「顧客への情報提供のあり方」など、各国が取り組む際に参考となる法規制のあり方などを例示すると見られている
規制強化の前提には、各国のマネロン対策を審査するFATF(金融活動作業部会)のルール改定がある。2018年10月、仮想通貨交換業者などもマネロン規制の対象に加えると表明し、交換業者に免許制または登録制を導入して監視できる措置をとるべきだと各国に勧告している
●金融庁、ISOCO(証券監督者国際機構)の市中協議文書「暗号資産交換業者に関する論点、リスクおよび規制に係る重要な考慮事項」を公表。付録Aとして、各国における暗号資産交換業者への規制フレームワークまとめ
●金融安定理事会(FSB)、規制当局が仮想通貨分野における金融活動についてリスク評価戦略を改善する必要ありとのレポート発表(日本語記事はこちら)
●仮想通貨使ったメッセージアプリKin、米SEC告訴にむけクラウドファンディング開始(日本語記事はこちら)
●豪州当局ASIC、ICO関連の規制ガイダンス発行
●エジプト政府、エジプト中銀が暗号通貨を規制しライセンス発行できる法案を提案
1–2 Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●Coinbase、EOS取扱開始
●Bitfinex、Lightning Network上でのTether発行を検討
●コインチェック、Monacoin取り扱い開始を発表
●ヤフー子会社傘下の仮想通貨取引業者TaoTao、サービス開始
●GMOコイン、GMOあおそらネット銀行に続いて取引所取引API(注文や情報取得)をリリース
●楽天ウォレット、機械学習によるトランザクション分析を行うCipherTraceと提携
●Nayuta、BitcoinのLightning Network決済を福岡市内のバーで試験導入
1–3 Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●0x、DEXやマーケットプレイス作成可能なフロントエンド伴う0x Launch Kitをローンチ
●BlockFi、Stablecoin GUSD(gemini dollar)をサポート追加
1–4 Programable Security : プログラマブル証券関連
●BSTXがPS取引所として初の認可をSECから獲得へ
Boston Security Token Exchange がPS取引所認可へ向けた登録をSECへ実施。これが認められた場合、USではPSセカンダリーの認定は初となる。今までは既存のATSライセンスを利用したセカンダリー取引所の運営をどの企業も行っていた
BSTXはBOX DigitalとtZEROとのジョイントベンチャー。BOX Digitalが法規制やスキームの部分を担当し、tZEROがPSセカンダリー開発に必要な技術を提供
●BitbondのSTOがドイツ政府から認可され実施へ
Bitbondの社債PSの発行がドイツ政府から認可を受ける。ドイツでPS発行の認可を受けるのは初の事例となる。
Ethereum上での発行ではなく、Stellar上でのPS発行を行うというニュースは先日発表されたばかり
10年債として発行され、利払いは固定4%に加えて収益に応じたクーポンが付与される模様
● LeonovusがSecuritize, Entoroを利用したPSを実施へ
分散クラウドサービスを開発するLeonovusがPSを実施。Securitizeをプラットフォームとして採用し、Securitizeと提携しているEntoro capitalをBDとして利用
BDへの仲介手数料としてはFundingの1.75%。さらに、BDが抱える投資家の勧誘を通じて出資した分については5.00%の仲介手数料が取られる模様
●Blockchain credit Partnersが初の高金利融資ファンドの設立をPSで実施
Blockchain Credit Partnersが高金利融資のファンドをPSを通じて設立へ。利用するプラットフォームはSecuritize
投資ファンドのLP部分をPSで発行する模様
事業収益が見込め、担保価値も高い不動産や自動車を担保にした融資を実行することで高金利融資を実現させる
●Tokensoftが独自で提供するwalletにSegwitを導入へ
PSアドバイザリサービスを提供するTokensoftが独自で開発するKnoxs walletにSegwitを導入すると発表
このWalletを利用したPSを実施することにより、BTCを利用したPSも実施できるようになる
●PolymathがCrowdEngineと提携へ
Polymathが資金調達プラットフォームのCrowdEngineと提携へ
この提携でPolymath上でPS発行しようとするプレイヤーはCrowdEngineを利用した投資家募集が可能に
CrowdEngineが提供する技術を利用することでKYCチェックやEscrowなどを実施することも可能になる
1–5 Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●バハマ中銀、中銀デジタル通貨を2020年発行へ
●フィリピン第7位の銀行Union Bank、Stablecoin発行へ
●米国State FarmおよびUSAAが保険金の自動支払にむけた実験
●アイルランド銀行、従業員の資格情報検証にむけたパイロットプログラム実施
●新韓銀行、ブロックチェーン活用した貸付プラットフォーム公開
1–6 Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●海運大手MCSとCMA CGM、貿易金融プラットフォームTradeLensへ参加表明
●中部電力、Cryptoeconomics Labと個人間電力取引に関する実証実験開始を発表
●高級腕時計ブランドVACHERON CONSTANTIN、デジタル鑑定書への適用を発表
●Swisscom TV、ERC721トークンとしてデジタルアートを購入できるアートギャラリーを開設
●ドイツテレコム、分散型IoTネットワークの共同開発へFetch.AIと提携
1–7 Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●Standard Tokenization Protocol、トークン発行プロセスの透明性向上プラットフォーム
●Defisurance、DeFiデポジット者とDeFiプロトコル開発者が、保険を購入できるプラットフォーム
●スマートバリュー、石川県加賀市でブロックチェーン用いた住民ID基盤「 GaaS( Government as a Service )」
Section2: Articles & Papers
秘匿化やアイデンティティに関する論考が多く発表されていますので、トピックを共有します。
2–1 論考
●EYのリーダーが書いている秘匿トランザクションプロトコルNightfall発表コメント
プライベートなものを超えるのがパプリックチェーンであり、そのためにNightfallを開発したとのこと。ERPが単体企業にもたらしたようなことが、パブリックチェーンによりビジネスエコシステムに起きるとしている
「現状のビジネスエコシステムにおける課題は?」 — 今は情報システムが企業間で統一されてないため、それぞれが異なる定義でデータを保有。取引の持つ本来価値が、こうしたコストや複雑さによって制約を受けている
「ERPではダメなのか?」 — ERPが基幹システム統合するために社内で直面した課題が、企業をまたぐ社外の協調において発生している。たとえばサプライヤー横断の協調購買をしようとするとシステムが異なるだけでなく、競合と情報共有することも障壁になる
「EDI(Electronic Data Interchange)ではダメなのか?」 — 複数企業間で取引しようとすれば重複したEDIメッセージが必要であるばかりでなく、EDIメッセージにはビジネスロジックが含まれていないため「所定ボリュームに到達したら金額変更」という合意事項を盛り込めない
「集中型業界ポータルではダメなのか?」 — ネットワーク運営者が独占者としてその情報を使うことになりやすい。そのためそれらの多くは参加者に信用されずミッションクリティカルなトランザクションに使われることがなかった
「パブリックチェーンの意義は?」 — トランザクションやビジネスロジックをネットワーク横断して、共通ルールのもと民主的に検証し完遂できる。機微情報についても、実際の情報を明かすかわりに数学的証明を明かすことで検証することが可能になってきている
「秘匿化の課題は?」 — たとえばトランザクションコスト。昨年秋バージョンではトランザクションあたりのガスコストに$100要していたが$8–10にまで抑制できるようになった
EYはNightfallの他にOpsChainやBlockchain Analyzerを開発しており、これらにNightfallを組み込んでいくだけでなく、ゼロ知識証明を用いて盗難トークン特定できるDye Packを開発中とのこと
●競合企業間で台帳共有するコラボレーションについてのForbes記事
ブロックチェーンは異なる組織同士で「何が真実であるか」について同意することを促し、運営コストを低減するとともに新市場創造に寄与する。例えば運輸業界のBiTA、JP MorganのIIN、貿易金融のTrade Lens等
「従来の競争戦略の考え方と何が違うのか?」 — 競合と共有のビジョンをセットするというマインドシフトは従来のMBA教育と対立。ポーターの5フォース理論等は固定サイズのパイをどう分け合うかの議論であり、協調から得られる価値は考慮されていない
「企業間の共有データプロジェクトは何が難しいか?」 — 完全かつ正直な情報共有が無ければ成功できない。競合ふくめまず信用して共通ビジョンに沿って実行しないといけない。このとき最大の障壁はテクノロジーではなくエコシステム内の歴史的競合という人間心理。これを壊す動機を見いだすこと
誰もがどこにいてもOpenFinanceのような経済システムにアクセスする上では、他者からアイデンティティやデータを守る、自己統治アイデンティティが必要になってきている。個人データの認証から、個人のデータおよびおカネに関する認証へのシフトが背景
「これまでのアイデンティティではダメか?」 — ウェブベースのアイデンティティ保持ではユーザーの行動データが収集されるほか、一方LDAPのようなクローズドなネットワークでのアイデンティティ管理はハッカーによるフィッシング攻撃リスクがある、とのこと
分散ウェブによる保持を目指すのがCoinbaseのClear Protocol、エコシステムアプローチをとるのがBlockstack、プロトコルベースで進めるのがMicrosoftの Identity Overlay Network (ION)、Ethereum Dappむけにシングルサインオンと自己統治ウォレットを提供するのがuPort
コンピューティングの時代から、マシンインテリジェンスの時代へ移行する中で、OpenFinanceやマーケットなどのユースケースにおいて、こうしたブロックチェーンベースのアイデンティティが重要になるとのこと
Section3: Future Events
●SEC FinTech Forum(5/31)
●金融 x ブロックチェーンテクノロジー(6/6 at Fukuoka)
●Security Token London Meetup(6/12 at London)
●Crypto Valley Conference(6/24–6/26 at Zug, Switzerland)
バックナンバー
#1 (2019/04/01–04/07)
#2 (2019/04/08–04/14)
#3 (2019/04/15–04/21)
#4 (2019/04/22–04/28)
#5(2019/04/28–05/05)
#6(2019/05/06–05/12)
#7(2019/05/13–05/19)
#8(2019/05/20–05/26)
Disclaimers
This newsletter is not financial advice. So do your own research and due diligence.