LayerX Newsletter for Biz (2019/06/17–06/23)

Issue #12

今週の注目トピック

Eisuke Tamotoより

Biz編の注目トピックにはブロックチェーンのビジネス面にとって大きい影響が出ると予想される「FacebookによるLibra構想、FATFガイダンス」の二つのニュースに対して厚めの解説を加えております。これらのニュースは他のサイト等でも解説記事がありますが、本ニュースレターでは手頃に読める分量に解説をまとめたので理解の一助として読んでいただければと思います。
また、これら2大ニュースの裏にも通常通りたくさんのニュースがありました。SECによるAccredited Investorの定義変更可能性への言及といったPS分野への影響が考えられるニュースも登場しています。これらもトピック解説や、リンク集にニュースをまとめておりますので、キャッチアップとして是非ご覧ください。

プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。

  • 1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減

  • 2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現

Section1: PickUp

●Facebook、Libra構想をホワイトペーパーとして発表

  • 17億人とも言われるunbanked層が世界にいる中、貧しい人ほど金融サービスを受けるのにより多くのお金を払っている。そうした中、Libraは、数十億人の人々むけにシンプルなグローバル通貨・金融インフラを可能にすることをミッションに掲げ、unbankedな人でも手軽に安価に金融サービスをうけられることをめざす、金融ソフトウェアプラットフォームとしてLibraを開発。

  • この構想を支える主要要素として、「インフラプラットフォーム」「裏付け資産」「運営主体」「インセンティブ設計」についてまとめる。

  • 「インフラプラットフォーム」としては、Libraブロックチェーンを開発し、オープンソース提供している。Libraブロックチェーン上では、デジタルアセットLibraの振る舞い・制約を、プログラム言語を用いてプログラブルに取り扱うことができる点が特徴である。トランザクションの検証(バリデート)は、後述するLibra協会メンバーによって行われる。また、ウォレット「Calibra」を提供し、Libraを使ってFacebookプラットフォーム上でシームレスな送金が可能にする。

  • 「裏付け資産」としては、複数通貨バスケット。法定通貨で払い込まれた元手をリザーブとして保全し、通貨バスケットとして安定性の高い資産に分散投資運用される。この通貨バスケットと連動することによってボラティリティを低く抑える仕組みとしている。

  • ネットワークおよびリザーブの「運営主体」は、独立した「Libra協会」によって担われる。Libra協会はスイスにある非営利組織であり、Facebookも他メンバと同一権限をもって創設メンバーの一つとして参加する。協会は技術ロードマップ設定やインセンティブ分配・資金調達などを行う他、トランザクションバリデート(検証)はLibra協会メンバーによって行われる。リザーブはカストディで保全され、外部監査も行われる。協会のコンソーシアム参加するには、評価額・顧客資産などの資産を持つ他、グローバルリーチプロダクトの保有、Fortune500などの評価企業であることが条件とされ、$10m以上の出資が必要となる。

  • 「インセンティブ設計」としては、Libra(支払い手段)の他に、Libra Investment Tokenの発行による資金調達を行うデュアルトークンモデルをとっている。資金調達は機関投資家のみに限定された私募形式をとっている。

  • 上記のように、Libraのインパクトは、既に巨大なユーザーベースを抱えるアプリケーションを持つコンソーシアムを組み上げている点にある。これまでに低ボラティリティを図るステーブルコインが登場してきているが、利用用途が暗号通貨関連投資などに限られており、Libraのように座組みが既にできておりすぐにも利用可能なシーンが提供されている意義は大きいと言えよう。

  • 加えて、デジタルアセットの振る舞いや制約をプログラム可能であるため、今後様々なアプリケーション開発が行われることを通じて、さらにエコシステムが広がる可能性を感じる。特に金融取引においては、先般のFATF規制に代表されるような法規制遵守が前提となっていることから、Libraに触発され、こうした形でのプログラムで制御可能な「プログラマブルなデジタルアセット(証券など)」の重要性が高まるのではないか。(LayerXでも、Programmable Securityという呼称で当該分野の応用に着目している)

  • また、米国政府によるFacebookのヒアリングが来月7/16に予定にされている他、銀行とも協議が進められており、こうした政府・既存金融機関との間の折衝の行方を含め、注目していきたい。

FATF、全体会合を開催し仮想資産サービス業者むけガイダンスを発表

  • FATF(Financial Action Task Force on Money Laundering:金融活動作業部会)は、マネロン対策における国際協調を推進するために設立された政府間会合であり、テロ資金供与に関する国際的な対策と協力の推進にも指導的役割を果たしている。FATF勧告は、マネロン対策及びテロ資金対策に関する各国審査においても基準とされるなど、マネロン対策及びテロ資金対策に関する国際的基準となっている。

  • 2018年10月に、仮想資産関連の金融活動に適応すべくFATF勧告に変更を加えるとともに、「仮想資産(VA)」「仮想資産サービス提供者(VASP)」の用語を定義した他、VASPに対して、アンチマネロン・テロ資金供与対策(AML/CFT)の目的から、規制下におくとともに、免許制/登録制としたり、監視/監督システムに従うよう求めてきている。

  • こうした中、2019/6/16~6/21の日程で、FATF全体会合が米オーランドで開催された。FATFから仮想資産の扱いについても、ガイダンスが発表されるとのことで注目が集まっており、6/21に、仮想資産関連のアンチマネロン・テロ資金供与に関連するガイダンスが発表された。その中では、取引所だけでなく仮想資産の送金・資産管理・発行販売を、業として顧客に代わって行う場合に対象とされており、関連業者は相応のインパクトを受けるため、そのトピックについてまとめておく。

  • 対象となる業者(VASP: 仮想資産サービスプロバイダー)は、取引所だけでなく送金・資産管理(カストディ)・発行販売(ICO)を業として顧客に代わって行う場合に対象になる。集中型・分散型などの形態や、適用技術が何かは問わないとし、P2Pで行う場合も対象である他、スマートコントラクトによるDappであっても価値交換移転行うなら同様となる。一方、VASP対象外となるものとして、「マイレージのように閉じた世界で使われ交換移転不可能なもの」や「ハードウェアウォレットやノンカストディアルウォレット供給者」などが挙げられた。

  • 求められる情報管理として、仮想資産(VA)の移動に際して、オリジネータ(送信者)および受益者(受信者)双方の情報を取得する必要があると示された。必要となる情報は、「オリジネータ名称(送信する顧客)」「オリジネータのアカウント番号(VAウォレット)」「オリジネータの地理的住所や国民番号や顧客識別番号や生年月日」「受益者名称」および「受益者のアカウント番号(VAウォレット)」の5点。それらを保持・送信し、他業者と情報共有するプロセス構築が必要になる。個別トランザクションの再構築や関連要素の即時提供ができるよう、例えば当事者特定に係る情報として、公開鍵などの識別子やアカウントやアドレス、トランザクション日付、送金額などを管理必要。

  • ブロックチェーンの公的情報を用いることは可能だが、ウォレットアドレスと個人名が紐付かない場合があり、自然人を関連付ける付加的情報が必要となるためブロックチェーンのみにレコードキーピングを依存することは不十分とのこと。

  • 匿名性拡張技術について、ミキサーやタンブラーなど顧客特定が難しい送金はハイリスク認定している点に注意。VASPには、リスクベースアプローチとして、リスクの管理・軽減を確実に行うことが求められており、ミキサーやタンブラーなど匿名性拡張技術の利用に関わる活動に係るリスクの管理・軽減を確実にできない場合は当該活動が許可されない事態になる。

  • 上記を踏まえた「顧客デューデリジェンス」として、顧客名・物理的住所・生年月日・国民識別番号などの顧客識別・検証情報の取得・検証が必要。継続的にモニタリングし、顧客プロフィールの変更識別(顧客の行動、プロダクト利用、金額)を通じて直近に保つことが必要。また、「トランザクションモニタリング」として、モニタリング通じた疑わしい取引の識別、報告が必要。

  • 2020年6月に遵守状況のレビューが入る予定とされ、リスク管理体制として、担当役員設置や独立監査などの内部統制確立が必要となり、これらは中小規模のプレイヤーにとっては負担になる可能性がある。顧客デューデリや検証プロセスをサードパーティに依拠することは可能だが、サードパーティは当局による規制対象であり顧客デューデリやレコードキーピング要件を遵守可能な先に限られる。これらの監視監督責任として、VASPの監視/監督は、自主規制団体ではなく規制当局のみが行えるとしている。

  • 多々インパクトはあるが、価値あるアセットを取り扱い流通する経済圏を離陸させていく上で、当然対応していかないといけない一里塚。有象無象のプレイヤーには厳しいが、機関投資家など新たなプレイヤーの参画・マネーの流入を招く可能性もある。特に、「必要とされる情報の取得」を行えるようにするプロセス整備が厳しいと想定される。今後KYCの不十分な関連業者の生き残りが難しくなるほか、国内の事業者連携が進む一方で海外の事業者との連携をどう行うかが課題になるとの見方もある。

  • オリジネータおよび受益者の情報確認が前提となることから、KYC済みアカウントが銀行口座なみの重要なアイデンティティになるだろう。加えて「KYC済みアカウントに限定した送金コントラクト(Settlement Coin)」の重要性が高まりそうである。VASPの監視/監督は「自主規制団体ではなく」規制当局のみが行えるものとするとされ、JVCEAと金融庁の力関係や分担に変化が生じる可能性もあるのでないか。顧客デューデリ(初期および継続的)・トランザクションモニタリングだけでなく、関連するプロセス整備およびその継続的運営において、第三者活用の可能性も考えられる。一方で、完全に管理が分散された新たなタイプのDEX(分散型取引所)が登場する可能性があり、アングラなマネーがそうした場へとシフトしてしまう懸念も残っている。

  • 今回のFATFの提唱を受けて、G20など国際的議論が行われる他、国内の法制度化が進むことから、その動向に注目したい。

米国証券取引委員会(SEC)が米国証券法証券発行例外規定改定のためにパブリックコメントを募集

  • SECは米国証券法の証券発行例外規定(Reg D, Reg A+, Reg CF, RegS)の改定のためにパブリックコメントを募集すると発表した。中小企業など資本の少ない企業に対して低いコストでの資金調達を実現するために導入された本例外規定であるが、実際のところ最適に機能しているのかをヒアリングし、問題が発見された場合最適化された形に改定するために今回のパブリックコメントを募集するに至ったと説明されている。

  • この例外規定は上述の通り初めは資本力の少ない中小企業の資金調達を目的として設定された規定であるが、PS(プログラマブルセキュリティ)を発行するほとんどの企業もこの例外規定を採用してオファリングを行なっている。このため、このパブリックコメントを通じ、例外規定に改定が行われた場合、PS発行のスキームに大きい影響を与える可能性が高いと考えられる。PS発行を考えているプレイヤーにとって、パブリックコメントと改定の行方は非常に注目すべきものとなるだろう。

  • 募集する論点は大きく分類すると以下の種類となる。
    1:例外規定が中小企業の資金調達の妨げになっていないか?なっているとしたらどの例外規定に問題があるのか?
    2:例外規定の対象となっている投資家や投資額は適切なものか?Accrediterd Investorの定義は適切なものか?
    3:セカンダリーの規制が流動性確保と投資家保護とのバランスが取れたものになっているか?

  • 先週もSECがPS専門家の短期採用のニュースを取り上げたようにSECによる積極的に民間の声を吸い上げる動きが目立つ。今回の論点の中には、Accredited Investorの定義そのものにもメスを入れるものある。これが変わると、例外規定全体の枠組みを変えることにも繋がるので今後の情報には注意が必要だろう。

生命保険大手Metlifeが子会社を通じてEthereumを利用した生命保険請求サービスを提供すると発表

  • 生命保険大手Metlifeがシンガポールベースの子会社LumenLabを通じてEthereumベースの生命保険請求サービスを提供すると発表した。Metlifeはこのサービスを通じて、被保険者死亡後の保険金請求のプロセスの迅速効率化と、条件判断の透明性を向上させることが狙いであると説明している。

  • LumenLabは他に、シンガポールに拠点を置く統合メディアSigapore Press Holdings(SPH)、シンガポールの生命保険会社NTUC Incomeと協力してこのサービスを実現するLife Chainというスマートコントラクトを開発、運営する

  • ブロックチェーンを利用した保険金支払い決定までのプロセスは大きく以下の三段階を経ると説明されている。
    1:被保険者の死亡情報をSPHが獲得後、被保険者の遺族に対して保険金請求に際し、当該サービスを利用するか打診
    2:被保険者が承諾した場合、Lumenlabは公的な死亡情報を獲得し、そのデータをハッシュ化させてブロックチェーンに載せる
    3:その後NTUCがブロックチェーン上の情報と保険条件とを突合させて保険金支給を決定

  • Metlifeの担当者はブロックチェーンを利用する大きいメリットとして、異なるエンティティ同士で一社に依存することなく情報を共有できることにあると発言している。これにより互いに情報を確認する手間が省け時間と金銭コストの削減につながるのである。今後は、このメリットをさらに大きくするためにさらに多くのプレイヤーを参画させたいと述べている。

  • 一方、Ethereumを利用することへの課題も挙げられている。現在の実験段階以降のスループットにEthereumが耐えられない恐れがあるのだ。課題次第では別のpublic chainやpermissioned chainに変更する可能性もあると言及されている。既存大企業がPublic Chainで実証実験をしている数少ない例でもあるので、Ethereum上でどこまでフェーズが進んでいくのか注目していきたい。

Section2: ListUp

(リンクはこちら

1. Regulation : 規制動向(「金融庁、仮想通貨ガイドライン改正案およびパブコメを公表」など)

2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「LINE、国内で仮想通貨の取引開始との報道」など)

3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「Moneriumがアイスランドで決済手段として政府から認可を獲得」など)

4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「ベルギーのセトルメントハウスがP2Pのセトルメント技術を開発」など)

5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「欧州証券決済機関Euroclear、社債発行プラットフォームを開発中」など)

6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「Medici venturesがWyoming州のTeton地区の不動産情報のブロックチェーン化に成功」など)

7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「Liquality、Bitcoin・Ether・Dai間のアトミックスワップ」など)

8. Articles : 論考(「日本法上のステーブルコイン」など)

9. Future Events : 注目イベント

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