LayerX Newsletter for Biz (2019/10/14–10/20)

Issue #29

今週の注目トピック

Eisuke Tamotoより

今週のBiz編pickには、グローバルステーブルコインに関するG7議長声明に加え、ブロックチェーン×IDの実用に向けたニュースが並びました。@th_sat による解説も含め厚い内容でお届けしております。List編にはその他たくさんのニュースが並んでおります。List編と合わせてご覧くださいませ。

プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。

  • 1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減

  • 2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現

Section1: PickUp

Libraを念頭においたグローバル・ステーブルコインについてG7議長声明

  • ステーブルコインに関する G7 議長声明が発表された。今回のG7に先立ち、FSBから「Regulatory issues of stablecoins」としてレポートが発行され、ステーブルコインの持つポテンンシャルおよび課題・リスクについて提起された他、G7ワーキンググループ(国際通貨基金IMF・国際決済銀行BISの連名)で「各国当局がペイメントや金融サービスの効率改善・コスト低減にむけたロードマップを描くべき」と示唆する「Investigating the impact of global stablecoins」報告書が提示され、議長声明もこれらの論調を踏まえたものとなっている。

  • 声明の中では、まず冒頭で、「技術革新は金融サービスや金融商品を変革する潜在性を有する」ことが明示された上で、国内決済システムについて、「未だに非効率性が残っており、とりわけクロスボーダー決済、特に送金などのリテール分野は未だに遅く、高価かつ不透明」であるとし、「決済サービスにおける責任あるイノベーションは、こうした欠陥のいくつかに対応できる」とした。この点において、既存の決済システムの抱える問題点を率直に指摘した上で、技術革新を通じた課題解決に期待している姿勢を窺うことができる。

  • その一方で、以下に関する法規制監督上の課題・リスクとして、次の9点を提起した(「法的確実性」「健全なガバナンス」「マネーロンダリング、テロ資金供与及びその他の違法な金融活動」「決済システムの安全性、効率性及び公正性」「オペレーションの頑健性やサイバー耐性」「市場の公正性」「データのプライバシー、保護及び移転可能性」「消費者や投資家の保護」「税務コンプライアンス」)。これらは、決済分野におけるイノベーションを推進する上でクリアすべき重要な論点として、ステーブルコインのみならずFinTechに関わるプレイヤーが意識すべきものだろう。

  • また、(Libraを念頭においたと見られる)「グローバル・ステーブルコイン」という新語を用いて、そのサービス開始については、「適切な設計及び明確かつリスクに応じた規制を遵守することによって、法律上、規制上及び監督上の課題やリスクに十分な対応がされるまでは、開始すべきではない」「規制に加え、公的権限や通貨主権の中核的要素の維持は勘案されるべき」と制した。

  • この点に対して、Libra Associationは、「規制当局とともに既存の法定通貨同等のAML/KYC基準に取り組み、また国家の通貨発行主権を侵害するつもりはない」旨の声明を発表している。

  • G7の声明では、民間による「グローバル・ステーブルコイン」について、前述のとおり課題を示した上で、各国中銀によって研究・検討が進められている「中央銀行デジタル通貨(CBDCs)」についても言及がおよび、「中央銀行により進められている協力的な取組を歓迎」すると結ばれている。この点については、まさに先般スイスがNSB(スイス国立銀行)やSIX(スイス証取)と共同取り組みを発表したほか(先週のNewsletter)、中国人民銀行も取り組みを準備中とされる(9月のNewsletter)であることから、各国間の協調のもと、より優れた形での中銀デジタル通貨が登場することに期待したい。

  • このように、今回のG7議長声明においては、Libraを念頭に「グローバル・ステーブルコイン」の持つ課題が提起されたわけだが、Libraに対する懸念だけを取り上げられているのではなく、既存の決済金融サービスの欠陥への言及で始まり、中銀デジタルマネー検討を促すメッセージで締め括るなど示唆ある内容になっている。金融機関は勿論、決済分野において進展の進むFinTechや、あるいは分散型金融・中銀デジタルマネーなどといった「プログラム可能なマネー」においても、それぞれの立場でここで挙げられた論点をクリアにしながら、金融ITイノベーションを進展していくことが望まれる。

韓国金融決済院、ブロックチェーンベースのデジタルIDを金融サービス向けにローンチ

  • 韓国では、10月中にも、スマホに格納されたモバイルアイデンティティ情報を使うだけで、口座開設が可能となる見込みだ。これは、金融機関によってモバイルアイデンティティ情報を発行した後、スマホのウォレットに保存された情報だけを使って、他の事業者がアイデンティティを検証し、サービスを利用可能とするもの。利用者は、住民登録カードや運転免許証などの本人確認書類を提出する必要なしに、銀行口座開設や送金が可能になる。

  • この仕組みは、ブロックチェーンベースのIDシステムであり、W3C標準に準拠して構築されている。Web標準化団体であるW3Cは、コミュニティグループを通じてDID・資格証明に関する動きを進めてきており、今夏にはDID SpecのCommunity Final Draftをまとめた(8月のNewsletter)上で、DID Working Groupを新設して初回Meetingを開催している(9月のNewsletter)。

  • アイデンティティ情報は、ブロックチェーンネットワークに格納され暗号化された後に、DID(分散型アイデンティティ)を生成し、参加する機関によって格納・管理される。こうした分散型アイデンティティサービスは、従来の集中管理型サービスと比べて、情報がサイロ化しないことに加えて、ハッキングに対して強固な点がメリット。

  • 今回のコンソーシアムには、銀行および証券会社・保険会社およびFinTechサービスをふくむ30の金融機関が参加している。今後、モバイルID保有者に対して、保有する個人情報にもとづいてカスタマイズされた金融データを提供していく予定のほか、雇用証明など金融・教育・公共機関で利用可能となる見込み。スマホ紛失にそなえ、利用に際しては、スマホに生体認証アプリをインストールすることが必須となる。

  • この取り組みは、韓国で初めてDID(分散型アイデンティティ)を商用化したものとして注目される。本Newsletterでも紹介してきたとおり、今年に入り、韓国では、DIDの取り組みが活発化している。サムスン電子など韓国大手企業7社(サムスン電子の他、通信業界・金融・IT業界)によるコンソーシアム結成が発表された他、同国の金融当局FSCが規制サンドボックス内で分散アイデンティティ「my-ID」プロジェクトを導入している(7月のNewsletter記事)。

  • また、金融分野で注目される国外の取組としては、uPortが、英国の金融サービスにおける顧客アイデンティティのポータビリティ向上をはかるべく、アイデンティティ検証プロバイダーOnfidoおよび監査法人PwCとの提携を発表している(9月のNewsletter記事)。

  • さらに、先週には、バミューダ諸島が、ブロックチェーンベースのIDシステム開発を発表した。同国では、併せてUSDCステーブルコインによる納税も受け入れることを発表している点が注目される。

  • 日本国内で関連する取り組みとしては、「FinTech実証実験ハブ」において、顧客の本人確認手続きを金融機関共同で実施するシステムの構築が検討されてきた中、「本人確認のみの委託は認められない」という結論となっている。一方、JCBと富士通がデジタルアイデンティティ領域における共同研究を開始している。デジタルアイデンティティを巡る取り組みは、その対象が個人・法人・モノと広範にわたる特徴もあいまって、金融のみならず産業分野における新規サービス創出にも有用なことから、国内外における今後の動向に注目したい。

ホンダなど自動車業界コンソーシアムMOBI、車両IDを用いた車両間ペイメントのマルチステークホルダー実証実験を開始

  • MOBI (Mobility Open Blockchain Initiative)は、BMWやフォード・GM・ルノー・ホンダなど自動車メーカーおよび関連プレイヤーから構成されるコンソーシアムとして、自動車分野におけるブロックチェーン利用の標準化を推進する非営利組織である。所有権やプライバシーを保護しながら、車両の特定や、モビリティサービス向けペイメント、データの交換・マネタイズにむけた、各種デジタル化を目指している。MOBIとのパートナーシップを通じたブロックチェーン利活用イメージは、存在証明の他、アクセスコントロール管理・所有者履歴・車両ライフサイクルを通じたイベントトラッキング等が想定されている。

  • MOBIの具体的な活動としては、7月のNewsletterで紹介したとおり、
    Vehicle ID(VID)ワーキンググループを立ち上げた上で、「分散台帳技術ベースのVehicle ID」に向けたスタンダード文書(VID標準)を発表している。また、9月にはVID標準のテスト実装へむけた合同取り組みを立ち上げ済みだ。

  • このほどMOBIは、このVIDを用いたマルチステークホルダーPoCとして、車両間ネットワークと電気自動車による自動決済サービスの実験を行うことを発表した。これは、ブロックチェーンを介して個別の車両間でペイメントを行い、決済の自動化を図るもの。

  • 車むけに信頼できるデジタルアイデンティティを作ることによって、V2V/V2Xトランザクション(車車間・路車間通信)や、グリッドネットワークとの統合・利用ベースサービス・渋滞課金・カーボンフットプリント管理など、モビリティペイメントネットワークが構築できる。ブロックチェーンベースのVIDとすることによって、車両ペイメントを、法人や個人の口座を必要とせず、車両にダイレクトに関連づけた上で、スマートコントラクトを介してダイレクトかつ低コストでイベントベースのマイクロペイメントを自動駆動可能なため、利用ベース課金やMaaSなどのトレンドを加速することが期待できる。

  • こうしたVID標準化の取り組みは、車両を特定し他の車両と安全にコミュニケーションが可能となるため、将来のブロックチェーンベースのモビリティサービスの基盤となるものだ。VIDを通じて、車両が相互にスピードや位置や方向や故障などの情報をトラッキングするモビリティネットワークを構築することによって、安全なロードシェアリングも可能になる。

  • 公式なPoCの完了には数ヶ月かかるものの、11/12–11/13に米Los Angelesで予定されているMoCoにおいて、VID標準を用いた車両ウォレットの初回デモが予定されている。

  • 本Newsletterでも紹介を重ねてきたように、自動車業界では、モビリティサービスへの業態転換にむけた大きなうねりと歩調をあわせる形で、ブロックチェーン利活用の取り組みが相次いで発表されている。例えば、独ダイムラーは、独Commerzbankと協働で、銀行口座で換金可能なデジタルキャッシュを用いたトラック充電・ペイメントを実施した(8月のNewsletter)。また、中国メルセデスベンツは、中古車の残価自動計算・売却価格提示プラットフォームを開発した(9月のNewsletter)。さらに先日には、米フォードが、位置情報と組み合わせた排気ガス規制対応パイロットを独ケルンで開始している。

  • これらは、ブロックチェーンを用いた、新たなモビリティ経済の創造にむけた重要な一里塚となるものであり、自動車業界のみならず、金融・公共サービスなども巻き込んだ業際的取り組みとして、今後の趨勢に注目したい。

Section2: ListUp

(リンクはこちら

1. Regulation : 規制動向(「G20、グローバルステーブルコインに関してプレスリリース発表」など)

2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「Libra Associationが正式にローンチ」など)

3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「仮想通貨決済サービスWyre社、Wyre V2を発表」など)

4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「ドイツ銀行がEOSを利用して自社社債をPS化」など)

5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「Finality社の取組」など)

6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「EY、政府機関向けブロックチェーン財務管理ソリューション提供開始」など)

7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「Layer1、米国で再生エネルギー用いたマイニング」など)

8. Articles : 論考(「Why Blockchain Matters (なぜブロックチェーンは重要なのか)」など)

9. Future Events : 注目イベント

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