Eisuke Tamotoより
今週はFacebookやUBS等複数の大手商業銀行によるFnalityプロジェクトなどステーブルコインに関する大きい情報が発表されました。各プロジェクトは同じステーブルコインと括られるものの、目的を異にしているため整理して理解しておく必要があります。今回のPick記事は整理の一助になるかと思います。
さらに同じ決済分野からVISAによる国際送金プロジェクトのニュースを取り上げているほか、米国証券取引委員会による民間人登用に向けた動きなど海外のニュースを取り上げています。海外情報のキャッチアップとしてページ下部にあるリンク集とともにご覧ください。
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プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。
1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減
2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現
Section1: PickUp
●Facebookの仮想通貨構想、コンソーシアム参加企業名が報道される
Facebookが独自仮想通貨(コードネーム=Libra)を今週6/18に発表予定。法定通貨との交換レートが一定に保たれるステーブルコインであり、且つ単一通貨に依存せず各国の法定通貨バスケットと連動するものとなる見込み。自社メッセージングアプリのMessenger・WhatsApp・Instagramなどのプラットフォーム上で利用できる世界共通の仮想通貨として、銀行口座を持たない市場など新興国での利用が期待されている。Libraの運営に約1000万ドル出資を求め、合計で10億ドル(約1080億円)を調達することを目指しているとされる。
ホワイトペーパー発表に先立ち、アップデート情報が出ているので整理しておく。立ち上げは2020年の計画とみられており、Libra Blockchainテストネットを来週ローンチ予定。Facebookとパートナー企業によるLibra Association(ジュネーブ)がLibraを監督する。Libra Associationのコンソーシアム参加企業としては、交換業者(Coinbase)、カストディ(xapo)、投資(a16z、USV)、通信(vodafone)、EC(ebay)、ライドシェア(Uber、lyft)、音楽(Spotify)、ペイメント(VISA、Mastercard、PayPal、stripe)、NPO(Women’s World Banking)など名前が挙がっている。コンソーシアム参加企業からの資金は、通貨バスケットに連動したコインと引き換えに、ノード運営者としてコンソーシアムへ代表を送ることができる。リアルアセットの準備金(Libra Reserve)を担保とし、この資産から金利を得た上でそれをユーザに還元すべくGlobalCoinユーザーに利息を払う可能性がある。
このように、Libraはこれまでの仮想通貨と比較していくつかの特徴がある。一つは、既に20億人以上の自社プラットフォームユーザーを抱えており、またメンバーに決済市場のリーダーであるPayPalが加わっていること。これからの世代は、Libraベースに買い物やシェアリングサービス利用や各種課金などの支払いを済ませるようになる可能性がある。
Facebookのネットワークを基盤として、各方面の決済で利用できる点は、日本で見るSuicaのような閉じた世界観に近い。Suicaが新しい通貨を発行するわけではなく、ネットワークを提供し、コンビニなどの店頭決済で利用することができる。コンソーシアム参加企業がKYCを行った上で、その顧客網を利用して、決済サービスを提供するとされる。
仮想通貨という立ち位置をとっているが、実際に競合するのはBitcoinのような暗号通貨ではなく、現実世界の法定通貨であり、もしLibraが金利を提供することになれば、銀行事業にもインパクトを及ぼすことが想定される(コンソーシアムメンバーに銀行の名前は見られない)。Facebookのようなグローバルプレイヤーを核としたコンソーシアムコインが普及した先に、Bitcoinのようなオープンな暗号通貨が普及する時代が待っている可能性もある。そうした意味で、近日予定されているホワイトペーパーでどのような技術を用いて実装するのかに注目したい。
● 14の大手商業銀行が参加するFnalityプロジェクトの詳細が判明
UBSが主導し、その他世界大手商業銀行13行(日本からは、三菱UFJ銀行と三井住友銀行とが加盟)が参加するステーブルコインプロジェクトのFnalityが来年2020年のローンチに向けてプロジェクト情報の公開を行なった。これら銀行はすでに合計で5千万ドルを投資したとの報道もされている。2015年にこのプロジェクトが開始され、今年までUtility Settlement Coin(USCコイン)の名称が使われてきたこのプロジェクトであるが、公開データが少ないと言われていた。そんな中で初めて情報が大々的に公になったといえよう。
Fnalityは商業銀行間のホールセール決済用ステーブルコインの開発を目指す。すなわち、中央銀行を介してクリアリングやセトルメンとが行われている現在の送金システムに改革を起こし、分散台帳上で送金を実現させようとする試みである。各銀行に預けたお金と同額のステーブルコインを獲得でき、それを銀行間決済用に利用できるというものである。最初は米ドルから提供を開始する予定であるが、将来的には日本円、ポンド、ユーロ、カナダドルの5通貨に対応したステーブルコイン開発を目指す模様である。
技術面では、2015年よりUBSとともに本プロジェクトに参画し、技術面のサポートを提供しているClearityが独自開発するAutonityが採用チェーンとなる模様である。このチェーンはEthereumのパーミンションドバージョン、すなわちコンソーシアム向けのチェーンとなっている。Autonityはすでにgithubを公開しているので、こちらのリンクを参照されたい。
Facebook主導によるステーブルコイン(詳細は上記記事参照)やJPMorganが主導するJPMcoinが大手企業によるステーブルコイン発行として注目を浴びているが、Fnalityはそれらと性質を異にする。前者二つは個人間や企業間決済であるリテール決済を目的にしているのに対して、Fnalityは上述の通りホールセール決済を目的としている。銀行間を跨ぐ送金になった場合、前者二つのコインは独立では機能しない。したがって、今後各銀行がリテール向けのステーブルコインを発行した場合、それらのステーブルコインの送金を橋渡しするコインとしてFnalityが機能する可能性がある。
今年に入って大手企業のステーブルコイン発行のニュースが活発になってきている。FacebookによるLibraプロジェクトのホワイトペーパー発表も目前に迫っている。今後も各注目プロジェクトの開発状況、協力状況については見逃せない。
●Visa、クロスボーダーB2Bペイメントネットワーク「Visa B2B Connect」ローンチを発表
銀行間でクロスボーダーペイメントを行う場合、従来は、支払い到達までに各地の銀行をまたぐやりとりが必要となり(例えばSWIFTでは目的銀行へ送金するまでに中継金融機関を介する)、トランザクションデータ不一致や確認コスト・遅延など問題が発生しがち。そこでVisaは、コーポレート顧客がダイレクトに銀行間トランザクションを可能にすべく「Visa B2B Connect」の構想を2016年秋に発表していた。2015年に出資したChain(Nasdaq社とNasdaq Linkを開発するなどした会社)社が主要な役割を担って開発を進めてきたが、ChainがStellarに買収されInterstellarになった後、Hyperledgerへ切り替えて開発を進めてきた。2017年秋には銀行間接続テストのパイロットフェーズを開始し、このほどローンチしたもの。
「Visa B2B Connect」は、分散型元帳ベースの非カードプラットフォームで、利用にあたりVisaカードは使わない。多国間ネットワークとして1対多のグローバルトランザクションを直接参加銀行へ送信することによって、ペイメントの透明性・予測可能性を向上。
SWIFTやコルレス銀行ネットワークを利用不要で、取引時間を数週間から1~2日まで飛躍的に短縮することができる(高額クロスボーダー送金を対象とするためAMLプロセスを経る必要があり、送金は即時ではない)。許可型ネットワークであり、参加者はネットワークに登録された一意のデジタルアイデンティティを持つ既知の参加者。これにより不正の可能性を減らせるとする。プラットフォームはIBMと協働でHyperledger Fabricベースに開発したほか、ネットワークのスケーリングへむけて、ペイメントソリューションでBottomline Technologie、金融ソフトウェアプロバイダーでFISと提携し、2019年末までに90カ国の市場へ拡大予定。
各組織に対してデジタルアイデンティティを生成し、銀行口座番号などセンシティブなクライアントのビジネス情報をトークン化し、一意の識別子を割り当てる。これによって口座番号など詳細を明かすことなくトランザクション可能にする。
銀行間決済の高速化にむけた動きは、この他にJP Morganの「JPM Coin」「IIN(Interbank Information Network)」、IBMの「Blockchain World Wire」などがある。クロスボーダーB2B決済は高額になることが多く、企業がクレジットカードを使う場面はほとんどなかった。「B2B Connect」によって決済期間が短縮でき、既にVISAと提携している銀行やサービスも多いことから、VISAとしての市場を急速に拡大できる可能性がある。
一方で適用技術としては、VISA一社に大きく依存したプライベートブロックチェーン。複数企業で連合をくんで運営するコンソーシアムの難しさは各所でみられる中にあって、VISA一社が主導権を握って構築・展開をはかることはスピード面ではメリットが大きい。その一方で、ネットワークの堅牢性という面では、一社に強く依存している点が今後どのように作用するのか、またどのように対応策を打つのか、今後の展開に注目したい。
● 米国証券取引委員会がPSに精通した専門家の短期特待採用募集を開始(Programmable Security:証券トークン。いわゆるSecurity TokenをLayerXとして呼称したもので、詳細はこちら。以下略してPSと呼ぶ。)
米国証券取引委員会(SEC)がPSに精通したPhDや教授1〜2名を特待生としてSEC本部もしくは各支部で採用すると発表した。目的としては、日々進化を続けるブロックチェーンやPS分野のキャッチアップと適切な法規制構築に向けて、実務と学術両面で最先端を走る人材の確保にある。ただ、要件は厳しいものがある。大きく三つの要件があり最低でも1つはクリアしていることが必須条件となる。
1つ目は、ブロックチェーンや分散台帳技術に学術、実務両面で詳しいこと、である。この要件では具体的に、暗号化技術に精通していること、実際にブロックチェーンプロジェクトやトランザクションに関与したことがあること、などが要求されている。
2つ目の要件は、PSの発行フローに関与したことがある人材、である。一つ目の要件よりも実務に重きが置かれているといえよう。具体的には実際に、ブローカーディーラーやカストディなどのプレイヤーとして実際のPS発行に関与した事がある人材、とされている。
3つ目の要件は、PSファンドに関与した事がある人材、である。こちらも2つ目の要件に似て実務よりの要件となっている。実際にファンドマネジャーやフィナンシャルアドバイザリーとしてPSファンドに関与した事がある人材、とされている。
これらの要件を満たし、特待生として採用されると、SECメンバーへのPS分野に関するレクチャーや、実務におけるコンサルタント業務が主に課せられる事になる。さらには、SECがFintech分野における官民連携のために開設している、FinHubの積極的な参加ができるも課される。特待生にとっては、最先端の情報が集まってくる場所で専門知識を生かす事ができるのが魅力だとアピールされている。
SECはFintech領域をカバーするためにfinhub(詳細はリンクをご覧いただきたい)を上述のように立ち上げ、積極的に民の声を聞き入れる活動を行ってきた。それに加えて、民からの人材登用という動きは今後も民間の新鮮な情報を受け取っていきたいというSECのシグナルとして非常に興味深いといえよう。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Regulation : 規制動向(「インド、仮想通貨禁止法案提出」など)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「Coinbase、Coinbaseカードを英国に加え欧州6カ国でも発行へ」など)
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「Coinbase、教育プログラムにステーブルコインDaiの学習コースを追加」など)
4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「1000$以上の取引に報告を義務付けるFATF規制が発表へ」など)
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「野村ホールディングス、有価証券等の取引基盤の開発・提供を行う合弁会社設立へ」など)
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「ソニーミュージック、音楽の権利情報処理システムにAmazon Managed Blockchainを採用」など)
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「リクルートが出資したLightning Network対応ウォレットBreez」など)
8. Articles : 論考(「「不完全なお金」としてのデジタルトークン」など)
9. Future Events : 注目イベント(Security Token London Meetupなど)
バックナンバー
#1 (2019/04/01–04/07)
#2 (2019/04/08–04/14)
#3 (2019/04/15–04/21)
#4 (2019/04/22–04/28)
#5(2019/04/28–05/05)
#6(2019/05/06–05/12)
#7(2019/05/13–05/19)
#8(2019/05/20–05/26)
#9(2019/05/27–06/02)
#10(2019/06/03–06/09)
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