今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のBiz編では今まで何度かニュースレターに登場しているJP Morganやドイツ証券取引所のブロックチェーン実装事例の新たなニュースが並びました。中国のニュースも続いて登場しています。先進的な企業や地域では突出して実用化が進んでいることが伝わってきます。Link編とあわせてご覧ください。
Section1: PickUp
●JPMorgan、在庫トラッキングを通じた自動車ディーラー向けファイナンス
自動車ディーラー向けファイナンスはフロアプランファイナンスと呼ばれ、金融機関が車両の状態を継続的にモニタリングして、信用リスク管理やリコンサイルするために複雑なプロセスを必要としている。そうした過程においては、ディーラーから不正確な情報が報告されるため、別途現地実査が必要となる等、情報の非対称性が課題となっている。
そうした課題を解決すべく、JPMorganが車体番号とテレマティクスやセンサー情報を用いて在庫トラッキングを管理することによって、
車両と在庫のリコンサイル(ディーラーシステムと銀行システム間)の手間を削減する方法を提案し、特許を申請中であることが明らかになった。テレマティクス等を通じて取得した情報の管理にブロックチェーンを用いることによって、透明性向上・信用リスク低減・即時支払が可能とする点が特徴となっている。フロアプランファイナンスへのブロックチェーンの応用は、インドのTCS(Tata Consultancy Services)も検討している。ブロックチェーン上で管理することによって、一台の車両を担保に複数金融機関がファイナンスするダブルフロアリングも防止できる。
車体IDやセンサーなど捕捉情報の管理ばかりでなく、JPMCoinといったプログラマブルマネーを用いた即時支払いをも可能となっている昨今、フロアプランファイナンスが次のステップへ向かっていると言えよう。また、こうした取り組みは自動車に限られたものではないだろう。IoTセンサー情報(位置情報・稼働情報)とブロックチェーンを用いて、ファイナンスにおける情報非対称性を解消していくモデルは、自動車のほか、建機のような分野でも進展していく可能性がある。今後の新たなサービス展開に期待したい。
●中国浙商銀行、製薬会社とサプライチェーンファイナンスソリューションを構築
製薬会社Real CanがZheshang Bank(浙商銀行)との協働によりサプライチェーンファイナンスソリューションを構築したことを発表した。Jixiangtianと呼ばれるこのプラットフォームは、サプライチェーン上の企業のファイナンスニーズを探索・収集した上で、データは即時に金融機関へ伝えられ、リスク分析やサービス提供にあてられる。
ブロックチェーン上に改ざん困難な形で格納されたデータに基づき、高速かつ信頼性ある支払いが可能となることに加えて、サプライチェーン上の企業と銀行の間におけるコミュニケーション・コラボレーションの効率アップを通じて、ファイナンスのチャネルがあらゆる産業に開くことにつながることが期待されている。Real Canは1000を超える製薬関連企業と取引があり、将来計画では、数万の医療機器メーカー・医療機関を受け入れる予定とのこと。
こうした形でサプライチェーン上の行為に対してブロックチェーンを利用するケースは、医療費支払いなどでも有望だ。例えば、同じく中国の浙江省では、6000億円相当の医療費についてAnt Financialのブロックチェーンを用いて請求書を発行したことが発表された。この仕組みを用いることによって、病院を予約し、通院後に処方箋を受取り、支払いを行い、請求書の保存ができる。ビジネス面の効果としては、文書発行・承認時間の短縮を通じ、請求書の発行・支払いにかかるスピードが96倍になったという。
ブロックチェーンの商用化事例としては、国際送金や証券決済を中心として語られることが多いが、サプライチェーン上の商取引においてもこういった形で着実に事例が積み上げられていることから、その動向に注目していきたい。
●Deutsche Börse、CordaとHyperledger Fabricを使ったポストトレード処理の実証実験に成功
2019年11月19日、Deutsche Börseが、Swisscom、Falcon Private Bank、Vontobel、Zürcher Kantonalbankらが、PS化した持分をDLT上で決済するPoCに成功したとの発表を行なった。本実験は、Deutsche BörseとSwisscomの設計したアーキテクチャ上で展開された他、リーガル面での検討には、MMEとWalder Wyssが参画した。
本実験では、スイスに実在する企業の株主名簿が、daura社の提供するプラットフォームによってデジタル化された後、株式を表象するProgrammable Securityが発行された。資金側も、Eurex Clearingのスイス中央銀行の当座預金内に担保として預け入れたSwiss Francを元に、Programmable Moneyの発行を行なわれた。カストディサービスとしては、SeisscomとSygnum社のジョイントベンチャーであるCustodigitの提供するプラットフォームが用いられた。ここで、参加銀行がカウンターパーティとなり、二つを用いたDvP決済が行われた。
本実験の最大の特徴としては、Programmable MoneyとProgrammable SecurityのDLT基盤として、CordaとHyperledger Fabricの二つが用いられ、クロスチェーンでDvP決済を実現した点にある。Deutsche Börseは、先月にもCordaを使ったポストトレード領域の実証実験結果について発表している。今後も同社の動向に注目していきたい。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Regulation : 規制動向(「米議会、Libraを証券として整理する法案提出」など)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「野村が、ジャージー諸島での機関投資家むけ暗号通貨の新規カストディサービス(Komainu Digital)について、規制当局の承認を得たとする報道」など)
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「単数担保型Daiから複数担保型Daiへのバージョンアップのタイムラインとアクションについて」など)
4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「TokenSoftがFidelityのリサーチチームとともにERC1404のPoCを完了」など)
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「Ant Finantialの相互保険Xiang Hu Bao(翔胡宝)」など)
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「米FEMA、洪水保険のカバレージギャップ解消へブロックチェーンとパラメトリック保険の適用が必要とするレポート発表」など)
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「Orchid、分散型ネットワークルーティングマーケット」など)
8. Articles : 論考(「Binance Researchによる「Institutional Market Insights」レポート」など)
9. Future Events : 注目イベント
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