今週の注目トピック
Eisuke Tamoto (@coin_ettomato)より
今週のbiz編のpick記事には、トレードファイナンス領域からR3社が世界的に展開しているMalco Poloプロジェクトが、Programmable Securitiesの領域から米国適格投資家要件改正のニュースとスイス証取による取り組みのニュースが並びました。
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Section1: PickUp
●Marco Poloプラットフォーム、オープンアカウント取引のトレードファイナンスについて最大規模のトライアルを完了
R3とTradeIX社の開発したMarco Poloプラットフォーム上で売掛債権を用いたファクタリングが行われた。支払期日前に配送される商品について、信用状を用いて金融機関が買い手の支払を保証する掛け売買におけるファイナンスである(トライアルはreceivables discountingソリューションにフォーカス)。今回は、25か国から金融機関・通信・運輸・海運・不動産・病院・自動車など70機関から340の参加者を交えた大規模な取組みとなっている。今回よりMarco Poloに加入したABN AMROやBMW、SBI、住友商事なども参加した。
15.5兆ドルとも言われるグローバル商品輸出のうち8割がトレードファイナンスを必要としているとされ、輸出入業者にファイナンスすることによって、グローバルトランザクションを潤滑なものにしている。トレードファイナンストランザクションは、インボイスの紙面に対して銀行・顧客企業・サプライヤーの三者間リコンサイルを行う。その中でグローバルサプライチェーンは紙に依存し、書類が物理的にやりとりされるため、商品輸送や支払いの遅延あるいは書類改ざんなどの不正リスクを孕んでいる。
そこで、Marco Poloは、単一参加者に依存することなくデータを分散管理するブロックチェーン技術を活用し、ERPシステムから分散台帳へ直接ドキュメントを共有することによって、リコンサイルを不要にしようと取り組んでいる。ERPシステムに直接繋がった単一ダッシュボード画面(金融機関のオファリングを集約されたオンラインマーケットプレイス)を通して、複数銀行からファイナンスを得る機会を提供する。ERPシステムとのインテグレーションとしては、これまでにOracle NetsuiteやMicrosoft Dynamicsの他、Xeroが可能となっている。プロダクションユースにむけては、インボイスをアップロードする代わりにBill(請求書)をERPから直接引き出してどの銀行と付き合うかを選択できるようにする展望もある。
Marco PoloはMastercardのほか、Bank of America、Commerzbank、ING、Standard Charteredなど30社以上がメンバー企業として名を連ねる。R3とTradeIXがソフトウェアを開発し、TradeIXがオペレーションしている。Marco Poloが他のトレードファイナンスコンソーシアムと異なるのは、他のコンソーシアムは、銀行のジョイントベンチャーであるのに対し、スタートアップ企業TradeIXがネットワークオペレータである点だ。TradeIXは、プロセス自動化を通じて貿易およびトレードファイナンスをデジタル化することを掲げ、売掛・買掛にかかる「調達から支払いまで」「受注から入金確認まで」のプロセス自動化の実現を目指している。Marco Poloネットワーク以外に、AIG・DHLおよびSiemensなどとプロジェクトを推進中とされる。
グローバル貿易におけるインボイスのやりとりにおける情報共有を通じてリコンサイル不要にすることに加えて、複数企業からファイナンスを得る機会を提供するといったオープンなブロックチェーン利活用の取り組みとして、引き続きMarco Poloの今後の動向に注目したい。
●SECがAccredited Investorの定義枠を拡大するためにパブリックコメントを募集へ
米国証券取引委員会が、Accredited Investorの定義の拡大修正を見据え、パブリックコメントを募集すると発表した。Accredited Investorの定義は米国私募証券に参加できるプレイヤーの定義になるものなので、市場に関連するプレイヤーの注目を浴びている。
この定義変更はPS発行プレイヤーにも大きい影響を与えうる。Accredited Investorのみを対象とした私募発行を行い、米国証券法の定めるReg Dなどの例外規定を適用すると目論見書提出などの義務を免除され、発行にかかる金銭的・時間的コストが大幅に削減される。なので、既存のPS発行プロジェクトのほとんどはこの例外規定を利用した発行となっているのである。それ故、今回のAccredited Investorの拡大はPSマーケットそのものの拡大を意味しているため、PS関連プレイヤーも注目しているのである。
SECは「投資家保護」を目的としたAccredited Investor基準が現在は資産要件のみ(具体的には、年収が$200,000以上、保有資産が$1M以上など)になっていることが投資家保護の実態とあっておらず非効率になっている点に問題意識を表明した。今回の拡大修正を通じて、投資に関する「知識・経験・資格」を有した投資家もAccredited Investorの定義に加えることでより効率的・活発な私募市場形成と適切な「投資家保護」を実現していきたい、としている。
SECのプレスリリースには具体的な資格基準案が述べられている。資格基準には “Series 7, 65 or 82 license, or other credentials issued by an accredited educational institution” , のように認定機関の資格を有していること、が挙げられている他、知識・経験基準として、ファンドでの勤務経験などをもとにした、 “knowledgeable employee” が挙げられている。
金銭基準は画一的だという批判もある一方で、明確な基準であったというメリットも持つ。上記のような抽象度のある基準を入れるとAccredited Investorの基準が不明確になってしまう可能性もあるだろう。SECは今後60日間でパブリックコメントを募集している。私募市場ひいてはPS市場に大きい影響を与える今回の改革が今後どのように進んでいくのか、要注目である。
● スイス証券取引所とSygnumが、スイスのdauraの株式を取得
2019年12月18日、スイス証券取引所(SIX)と、スイスで銀行ライセンスを保有するSygnum社が、daura社の持分を取得したことを発表した。出資額については、明らかになっていない。
daura社は、主に中小規模の事業者の持分発行、およびPS化を施す技術を保有していることで知られる、スイスの企業である。同社は、過去数ヶ月に渡り、SIX、Sygnum、Swisscom、Custo-digitらとともに、持分のPS化からポストトレード業務までを行う実証実験を進めてきている。また、daura社は、11月にDeutsche Börseや、Swisscom、Falcon Private Bank、Vontobel、Zürcher Kantonalbankらと共同で、スイス法人の持分をPS化して取引する実証実験にも参画していることでも知られている(Issue #34で紹介)。
daura社が未上場の中小規模の事業者向けのサービスに特化させているのに対し、SIXは大口の法人向けサービスの開発を進めている。SIXは、昨年9月よりデジタル証券取引所(SDX, Swiss Digital Exchange)の開発を進めており、2020年度における公開を目指している。
今回daura社の持分を取得した狙いとしては、スイスにおけるデジタル証券のライフサイクル全般に渡って、共通の規格をもたらすための下地づくりを進める狙いがあると考えられる。今後も同社の動向に、注目していきたい。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●“Crypto-Currency Act of 2020”法案が米下院提出
暗号通貨を“crypto-commodities”、 “crypto-currencies” 、“crypto-securities.” の3種類に大別
どの規制当局がデジタルアセットを主管するかを明確にするもので、crypto-commoditiesについてはCFTC、crypto-securitiesはSEC、crypto-currenciesはFinCENという紐付け
Crypto-Commodityは、「交換性があり、誰が生産したかを問わず市場が取り扱い、ブロックチェーンまたは分散台帳上で記録された、経済的な財・サービス」とのこと
Crypto-Currencyは「ブロックチェーンまたは分散台帳上に記録された、米国通貨または合成デリバティブを表象するもの」とのこと。「(1)Stablecoinのようにコルレス銀行口座内で完全担保されたデジタルアセット」「(2)分散オラクルやスマートコントラクトにより定義され、デジタルアセットにより担保された合成デリバティブ」を含む、としている
Crypto-Security はブロックチェーンまたは分散台帳上に記録されたデット・エクイティおよびデリバティブ商品。例外あり、財務省にマネーサービスビジネスとして登録し、銀行秘密法および他のAML/CFT要件、ならびに外国資産管理局およびFinCENのスクリーニング要件を遵守し運営される合成デリバティブ
●バーゼル銀行監督委員会(BCBS)、暗号資産に対する慎重な取り扱いの設計についてコメントを募集
銀行が今後クリプトアセットを取り扱っていく上での指針を示していこうとしている
CBDCに関わるIMFの役割、CBDC開発に対するIMFの見方、CBDC実装にまつわるメリデメ、CBDCの代替品、の4点
●犯罪収益移転危険度調査書 / 国家公安委員会 令和元年12月
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●Coinbase、メールアドレスでBitcoin送金できる特許
●Fenbushi CapitalがStakedと協業してアジアのステーキングマーケットに参入
●CircleはOTCトレーディングデスク売却しStablecoin USDC事業に注力
●ドイツ取引所、HQLAx社と提携しコラテラルスワップ管理向けソリューション開発へ
●State Street、Geminiとデジタルアセット事業のジョイントプロジェクトを発表
●Forbes、ETHを会員料の支払いオプションに追加。会員権はブロックチェーン上のNFTトークンで管理
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●MakerDAO、Dragonfly Capital Partners と Paradigmから$27.5m資金調達
●Kyber 2020. 単一エンドポイント, エコシステムの提携, KNC
4. Programable Security : プログラマブル証券関連
●StateStreet社がGemini Trustと提携へ
ボストンに拠点を置く、米国大手のState Street社がDigital Asset領域でのビジネス展開を目的にGemini Trust社と提携をしたと発表
背景には、StateStreet社の自社調査で顧客の38%が将来的にDigital Assetを保持したい、と回答したことにある、とされている
●Smartlandがロンドンにある高級住宅の証券化を実施へ
Smartlandが高級不動産ブランドのサザビース社と提携し、ロンドンにある高級住宅の証券化を実施すると発表した
Smartlandとして、不動産仲介ブランドとともに不動産証券化を行うのは初めての事例
● SBIホールディングスがBoerse Stuttgart Digital Ventures/Exchangeへ出資
●Fidilityが欧州の機関投資家向けにDigital Asset事業を展開へ
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●JCB、PaystandとMOUを締結し、中小企業を対象とした新たなB2B決済ソリューションサービスの検討に着手
●ドイツBoerse Stuttgart、デジタルアセットエコシステムを欧州・アジアで構築すべくSBIグループとの協業を発表
SBIは、ドイツ銀行法準拠のデジタルアセット取引所Boerse Stuttgart Digital Exchange(BSDEX)へ出資
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●韓国テレコムKT、釜山でブロックチェーンベースのデジタル通貨を今月末発行へ
釜山市とKTは2月にブロックチェーンを用いたローカル店舗むけデジタル通貨・ペイメントシステム開発の契約締結していたもの
韓国テレコムが発表した釜山のブロックチェーンベースのデジタル通貨、年間3000億ウォン発行へ。
ユーザーはデパートや市場などで利用でき、利用促進のため6%のキャッシュバックを行う他、モバイルアプリの他、ハナ銀行・釜山銀行の窓口でチャージ可能
●Tradeshift、パブリックEthereum用いて買い手とサプライヤー間のクロスボーダートランザクションコスト削減にむけてMoneriumと提携
ERC-20トークンであるe-Moneyをプログラマブル通帳として発行
インボイス受け取るとトークン化し、期日になるとスマートコントラクトが自動的にインボイストークンをスワップ
インボイスをプログラマブルアセットに変換可能とすることによって、新たな次世代金融サービスを可能に
TradeshiftとMoneriumは10月にe-Moneyを用いてIKEAむけにスマートインボイスを発表していた
今年3月から10月にかけて314万件の訴訟活動について紛争解決をみた
中国ではこのように人間が裁判所に出向く必要のないインターネット裁判所で扱われている
昨年9月には、デジタル署名とブロックチェーン通じて収集・格納されたデジタルデータをエビデンスとして、タイムスタンプやハッシュ値が真正性を証明するものと認識されている
●BMWとDHLの自動車部品サプライチェーンの取組み。従来は各社独自システムのデータ記録のため、手作業によるリコンサイルで輸送データをマッチングであったと
●中国に続いてスロベニアも国立ブロックチェーン基盤をローンチ
●ロシアのダイヤモンド採掘会社Alrosa、WeChat上の取引について、Everledgerのブロックチェーントラッキング用いるべくTencentと三社共同声明
●ByteDance、上海東方新聞とブロックチェーン及びAI分野におけるジョイントベンチャーを設立
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●Alchemy、ブロックチェーン・インフラ・プラットフォーム
8. Articles : 論考
●IOSCOレポート、付録の中で債券発行プロセスへのブロックチェーン適用に言及
債券発行市場における公平な割当てに、ブロックチェーンの透明性が有効とするレポート
●日本の不動産市場におけるセキュリティトークン(デジタル証券化)の有用性について
●ブロックチェーンはあなたの業界をどう変えるのか? -Corda導入事例-
●中国のブロックチェーン・プロジェクト:金融サービスから大手企業、政府の取り組みまで
●日本CTO協会のまとめたDX Criteria「2つのDX」とデジタル時代の経営ガイドライン
9. Future Events : 注目イベント
●Hong Kong Blockchain Week(3/2–3/6 at Hong Kong)
●Consensus(5/11–5/13 at New York)
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