LayerX Newsletter for Biz (2019/07/01–07/07)

Issue #14

今週の注目トピック

Eisuke Tamotoより

今週もBiz編ではLibraやFATF関連のニュースが含まれるなど先週の記事と関連した話題が解説されています。Libra発表後に積極的に動き出した中銀コインプロジェクトの解説や、先週末早稲田大学で開催された「暗号資産×法規制」に関するシンポジウムのサマリー解説が行われています。どちらもこのニュースレターならではの記事となっております。
また、三つ目の記事ではDocuSignのスマートコントラクトへの取り組みが解説されています。自社ビジネスモデルに対して影響を与えうるブロックチェーンに対してどのように対処しようとしているのか、学びのある先行事例となっています。
今週もリスト編とともにご覧くださいませ。

プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。

  • 1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減

  • 2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現

Section1: PickUp

●日銀・IMF・BIS、Libraの動向などを踏まえて中銀発行デジタル通貨に言及

  • 中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)は、中銀マネーに対してパブリックなアクセスを可能にする媒体。CBDCとして、ホールセールむけと一般利用むけがあるが、ここでは後者を念頭におく。中銀に口座を開いて口座間振替決済を行う「口座型CBDC」(口座が商銀でなく中銀にある)とスマホなどにCBDCを格納して利用者間で価値移転する「トークン型CBDC」(発行主体が民間企業でなく中銀のプリペイド電子マネー)とがある。

  • 先般、BISが、中銀デジタルマネー発行へのサポート可能性について言及した。スウェーデンのように中銀がCBDC発行に興味示している国もある中、BISハブをスウェーデン・シンガポール・香港に配置し、FinTechのR&Dを進める予定。これを通じてデジタル通貨の開発も加速していく方針であり、CBDCを開発しようとする多くの中銀をサポートしているとのこと。Libraの発表はスウェーデンのRiksbankのような中銀のCBDC計画のスピードを早める可能性がある。そうした環境を踏まえると、思うよりも早く中銀はCBDCを発行開始しマーケットに流通するかもしれないと指摘。その一方で、CBDCのクリアなユースケースがまだなく、明確な需要があるとはいえない(電子ウォレットを使うことによって必要なことはできてしまう)としている。

  • 同様に、IMFも、中銀暗号通貨についてレポートで言及している。189カ国の中銀・財務相に調査を行い、回答者の20%がCBDC発行可能性を探索中との回答であったが、多くがアーリーステージにあり、4つのパイロットが進んでいるのみ(ウルグアイなどがパイロット実施。他に近いのは、バハマ、中国、東カリブ通貨連合、スウェーデン、ウクライナ。これ以外にフィリピンやバルバドスでは、民間によるデジタル法定通貨を規制サンドボックスでサポート)。その中でCBDCに対する期待としては、「コスト低減」「金融政策の実装効率向上」「ペイメント市場の競争促進」「リスクフリーなペイメント手段の提供」のほか、「匿名性のないCBDCによってトランザクションモニタリングを可能にすること」などが挙げられている。

  • そうした中、日銀の雨宮副総裁が「日本銀行はデジタル通貨を発行すべきか」との講演を行った。日銀としては、近い将来においてCBDCを発行する計画はないとしている。その上で、講演のまとめとして、「日本銀行も含め多くの中央銀行は、近い将来CBDCを発行する計画はないにもかかわらず、CBDCに関する調査研究に熱心に取り組むのはなぜか?」という問いについて、次の2つの回答を示している。
    1. 技術革新によりCBDC 発行の必要性が急速に高まるかもしれず、そうした事態にも対応できるように、最新技術動向やその CBDCへの応用可能性に関する理解を深めておくため。
    2. CBDC の調査研究を通じて、「お金に求められる機能とは何か?」「中銀マネーと民間マネーの補完関係をどのように改善できるか?」「民間デジタル通貨の機能をどのように向上することができるか?」といったより根源的な問題を考察し、決済システム全体を改善していくヒントが得られるため。

  • 上述のようなBIS・IMF・日銀の言及を踏まえ、現時点におけるCBDCを巡る論点を整理しておきたい。BISとしては従来CBDCを否定してきたが、昨今のLibra発表などを受けて、想定をこえたマーケットの登場を踏まえたCBDC支持に転じた。CBDC発行は中銀マネーへのアクセスを容易にすることから、民間の商銀収益を圧迫する可能性もあり、規制面の考慮や、具体的なユースケースの想定とあわせ考慮していく必要がある。

  • また、「ウォレットサービスやペイメントサービスと何が違うのか」など、CDBCならではのユースケースが見いだせるかも論点になる。将来は、暗号通貨・企業発行マネー(Libra・JPM Coin)・そしてCBDCの三者による競争・棲み分けがなされる世界が広がるのではないか。たとえば、現在は「中銀が中銀マネーを供給し、民間銀行が中銀マネーによる信用創造を通じて預金通貨を供給する」という2層構造になっているが、この構造は、中銀マネーによって通貨への信認を確保しながら、民間銀行によって経済への資金配分を効率的に実施するというメリットがある。CBDC固有のユースケースを考えることに加え、こうした相互関係を念頭において、全体機能を検討していくことが必要と考える。

●FATF対応や強制執行など法規制面の論点に対して、署名・ゼロ知識証明など暗号技術による課題解決の動き

  • センシティブな顧客情報を犠牲にすることなく、安全に送金元・送金先の情報を共有できる方法が模索されている。FATFガイダンス対応にむけたID保護ソリューション開発に向けて、CipherTraceとShyftが提携を発表した。送金元・送金先の情報を暗号化された形でオンチェーンに配置し、アイデンティティに関する知識証明を利用してアクセスコントロールした上で、意図した受け手のみが復号できるようにする。ID情報そのものを明かすことなしに、ネットワーク横断でKYCチェックを提供できるアイデンティティハブを目指す構想とのこと。

  • このように法規制面の論点に対して暗号技術を掛け合わせることによって、課題解決の道筋を見出すことができる場合がある。このほど、法学と暗号学の接点に着目したシンポジウムが早稲田大学で開催されたので、その中からトピックを絞って紹介したい。

  • 早稲田大学法務研究科の久保田教授からは、「強制執行を行う上で、プライバシー保護や各国で扱いが異なるなどといった法律上の問題を、暗号技術によって解決できるかもしれない」旨の提起がなされた。これに対応する形で、産総研の花岡研究グループ長からは、暗号・署名の基本解説にはじまり先端トピックまで紹介した上で「署名鍵を取引所・個人で分散管理すれば、取引所に秘密鍵を預ける・個人が秘密鍵管理するの中間的なことを実現できるのでは」との発表がなされた。また産総研の寶木総括研究主幹からは、「秘密鍵の分散保管とゼロ知識証明を使ったアイデンティティによって、中央管理者なく認証・認可・課金する仕組みを研究中」との発表がなされた。

  • 冒頭で紹介した、FATFガイダンス対応にむけて暗号技術を用いたID保護ソリューションを開発するというトピックは、同シンポジウムの主題である強制執行にかかるものではないものの、FATFという暗号資産法制への対応について、暗号学との協働を通じて解決する方法を見出そうとするものと考えられることから、同シンポジウムとあわせて紹介させて頂いた。こうしたシンポジウムは、暗号学の専門家および法学の専門家が集い、暗号資産の強制執行を巡るトピックについて意見を交わすという大変貴重な機会であった。法学単体で解決の難しい課題に対して、その解決の糸口を暗号技術を用いて示すことができるという意味で、先のG20における声明において暗号通貨規制をめぐって必要性がフォーカスされた「マルチステークホルダー」による議論の重要性が改めて認識された。「特定の事業者の都合を超えた社会全体の便益・不利益」について議論を交わすべく、規制当局・金融機関・技術者・事業者などが集う場や共通言語づくりが盛んになっていくことを期待したい。

スマートコントラクト活用に向けDocusignの動きが活発に

  • 電子署名大手DocuSignによるスマートコントラクト応用に向けた動きが先月から相次いでニュースになっている。Accord Projectへの参画が先月中旬にに発表されたほか、先月末にはClauseへの投資が発表された。DocuSignはスマートコントラクトの部門に2015年から参画している。実際の参画事例を紹介するとともに、Forbes記事にまとめられた彼らの軌跡と考え方についてまとめてみたい。

  • DocuSignがスマートコントラクト分野への参入を最初に発表したのは2015年である。Visaと共同でBitcoin上で稼働する自動執行コントラクトを目標にPoCを行った。PoCの紹介動画では、自動車内のナビに従ってDocuSignで契約締結、Visaで決済を行うことで即時決済、執行が実現される未来が描かれている。しかし、このプロジェクトはBitcoinのスケーラビリティなどの技術的な理由により実用化には至らなかった。

  • DocuSignはその後、Enterprise Ethereum Allianceに加盟しEthereum上で電子締結のタイムスタンプや契約書そのもののハッシュ値を残して、契約 証明を実現させるPoCを行った。しかしこちらも同様に失敗に終わる。理由として、「ユーザのニーズが無かったこと」をDocuSignの担当者は挙げている。ユーザにとってDocuSignはすでに信用できる機関であり、契約締結の照明を目的としてわざわざコストが高くUIも劣るスマートコントラクトを利用したプロダクトを利用しようとしなかったのである。

  • 技術的要因、自社の既存影響力によって過去のブロックチェーン応用プロジェクトは失敗に終わっている一方、DocuSignはブロックチェーン活用のための積極的投資を緩める予定はない模様である。その背景には、ブロックチェーンを活用することによって以前には考えられなかったユーザ提供価値が生まれてくる、という強い仮説がDocuSign内に存在するため、であると説明する。特に、自動執行までを一気通貫で実現できることは大きい価値であると考えているようである。

  • この考えのもとで先月の二つのニュースが関連してくる。Accord Projectは技術中立なスマートコントラクトオープンソースコードを開発しようとするプロジェクトであり、IBMやCordaなど100社以上が参画している。Clauseはスマートコントラクトと実際の契約執行を結びつける技術を開発する企業であり、後者の部分でDocuSignの電子署名とのコラボレーションを目指している。実際に先月のDocuSign主催のイベントではそのデモ動画が公表された。

  • このように、DocuSignは既存e-契約書大手ながらも新たなユーザ価値を探すためにスマートコントラクト、ブロックチェーン分野への参画を積極的に進めている。一見自らのビジネスモデルを破壊するように見えるスマートコントラクトという新たな技術に対して、積極的に投資を実施し自社プロダクトとのコラボレーションを通じて応用を目指していく動きは他のエンタープライズにとっても良いケーススタディになるかもしれない。

Section2: ListUp

(リンクはこちら

1. Regulation : 規制動向(「英FCA、個人投資家の仮想通貨デリバティブ取引を禁止」など)

2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「Binance、仮想通貨先物取引所の立ち上げを発表」など)

3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「BlockdataからStablecoinレポートが発表」など)

4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「EUで取引所を運営するEURONEXTがTokenyへ出資へ」など)

5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「豪州CWB、ブロックチェーンベースの連帯保証プロセスを試行開始」など)

6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「IBMとMaerskのTradeLens、Hapag-Lloyd と Singapore-based Ocean Network Express (ONE)が新規参加」など)

7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「ZenGo、Libraのサードパーティーウォレット」など)

8. Articles : 論考(「PwCとCryptoValleyによるICO/STOレポート」など)

9. Future Events : 注目イベント

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