今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のBiz編Pickにはドイツの暗号通貨に関する新法情報、HSBCによるブロックチェーンを利用した資産管理のデジタル化のニュースが並んだ他、日銀による中央銀行発行デジタルマネーに関する考察のニュースが並びました。日銀もデジタルマネーについて公表をし始めている点は非常に注目されます。今回よりSection2のList編も統合しましたので、合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●ドイツ、銀行が暗号通貨の販売・管理できるマネロン新法を連邦議会可決
EUの第4次マネーロンダリング指令を施行するマネロン新法がドイツ連邦議会で可決され、銀行による暗号通貨の販売・保管などの金融サービスが可能となる旨、現地経済紙で報道された。
この新法が州議会で承認されると、2020年1月以降、銀行は、カストディアンや暗号通貨交換業者を仲介することなく、暗号通貨関連サービス(販売・保管)を顧客へ提供できるようになる。これにより、消費者は、銀行口座に暗号通貨を銀行に預けて保有することが可能になる。
ドイツ銀行協会も、銀行は顧客資産の保管やリスク管理に豊富な経験を有し、投資家保護に努めつつ、金融監督当局によるコントロールを受けてきた経緯から、効果的にマネロンおよびテロ資金供与対策(AML/CFT)が可能であるとして、この新法を歓迎する立場を表明している。
この新法の中核は、「crypto values」という概念が、ドイツ法に初めて登場したことだ。これは、価値をデジタルに表象するもので、中央銀行や公的機関によって発行されるものでないものの、交換手段や支払手段ないしは投資目的で受け入れられる点が特徴とされる。
今回の法案に先立ち、ドイツ銀行協会は「ユーロベースのプログラム可能なデジタル通貨が求められている」と声明を発表する等、デジタル通貨には前向きな姿勢を示してきた経緯がある。また同じくドイツの中央金融機関であるドイツ証取は、Swisscomと共同で、キャッシュおよび株式の双方をトークン化し証券ポストトレード決済(11/26付Newsletter)を行なった他、コメルツ銀とも証券ポストトレード決済(10/29付Newsletter)を行うなど、証券分野におけるデジタルアセットの受入準備を進めてきている。
今回の新法を通じ、ドイツでは、銀行という既存の金融インフラへ暗号資産が初めて取り込まれることになる。そのインパクトは、中銀デジタルマネーや、証券分野のデジタルアセットの取り組みとあいまって、新たなデジタル金融サービスの地平を開く可能性がある。投資家保護やAML/CFTが十分に行われることは最低限の条件として、今後の動向に期待したい。
●HSBCが紙上で管理されていた200億$の資産をブロックチェーンカストディ上で管理へ
HSBCは紙上で管理されている200億$に上る資産の管理を2020年三月までにブロックチェーンのカストディサービス(Digital Vault)上に移行させると発表した。今回移行させようとする資産額はHSBC全体で管理している資金の40%に当たると報じられている。
既存の資産管理は紙ベースで行われており、かつ標準化もなされていなかったことから、投資家からの資産照会業務や資産トラッキング業務などに対して多大な時間的コストがかかっていた。今回のブロックチェーン管理への移行によりこれら業務にかかっていたコストの削減をめざすとされている。ただ、一方で具体的にどれくらいのコストが削減されるのかという実数値は公表されていない他、移行完了後標準化がなされていくまで1年程度はコスト削減は難しいのではないかといった意見も出されており、実際の効果を知るには今回の移行プロジェクトの結果を待つ必要もある。
HSBCはブロックチェーン応用に向けたプロジェクトを今年頭より複数発表しており、金融分野全体へのブロックチェーン活用の積極的な姿勢が窺われる。1月には国際送金の記録にブロックチェーンを活用する実証実験を実施し、実際に300万のFX取引をDLT上に記録した実績を有している。また、先月にはシンガポール証券取引所と提携して社債をブロックチェーン上で発行するプラットフォーム開発に向けて動き出したことも発表している。(LayerXニュースレターBizリスト 第33刊でもこちらのニュースを取り上げています)
今回のプロジェクトは「来年3月」と具体的に期間を明示した形での実用化を発表しているだけに実現可能性が高いことを窺わせる。実際にどういった効果があるのか、今後金融へのブロックチェーン応用を考える上で貴重な試金石となるだろう。
●日銀が「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」の概要版を公開
2019年11月29日、日本銀行が、日本において中央銀行デジタルマネー(CBDC)を発行する場合の課題についてまとめた「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」報告書の概要版を公開した。
本ペーパーは今年の9月27日に、日本銀行金融研究所によって公開されており、法的観点から、CBDCの法貨性や一般受容性、はては犯罪に関してまで、どのような解釈ができるか、発行方法から資金(権利)の移転方法の累計にまで踏み込んで検討が行われている。
CBDCの発行形態を、既存の口座型とブロックチェーンベースのトークン型、日銀が直接発行する直接型と、市中銀行が発行する間接型の四象限にわけて整理した上で、大前提として、完全デジタルのCBDCを、有体物を前提とした銀行券として解釈することの難しさや、その場合に通貨として成立させるための法改正が必要であること、AML対策における懸念や、万が一CBDCの偽造や複製が起きた場合の不正決済への対応方法についても記されている。
また、現在の銀行システムが中央銀行を頂点とした階層構造になっており、日本銀行が唯一の発行体となる直接型のモデルを採用した場合、日本銀行に利用者の個人情報が集中することによって、KYC関連業務の負担が増加する他、情報を活用したい市中銀行のビジネスを阻害してしまう可能性についても触れられており、非常に幅広い観点から分析された報告書となっている。今後も技術的なアップデートに伴って、どういった観点が登場するか、引き続き注目していきたい。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●米ワイオミング州、暗号資産およびデジタル証券に関する4法案が通過
●スイス、ブロックチェーン利用アプリケーション開発の法的障壁撤廃へ
●タイSEC、デジタルアセット規制を2020年にも改正へ。投資家保護しながらデジタルアセットビジネスの成長はかる
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●Coinbase、「自己学習型コンプライアンス決定・執行プラットフォーム」で特許。各アカウントのコンプライアンススコアの計算と不正アカウントの自動閉鎖など
●スイスの暗号通貨銀行SEBA、仮想通貨インデックス商品を機関投資家へ提供
●Alipay、UAEの決済プラットフォーム企業Finablrと共同でブロックチェーンベースの国際送金プロジェクトを立ち上げ
●韓国の暗号通貨交換業者UpBit、$49mのEtherが流出被害に
●JCBA(日本仮想通貨ビジネス協会)、ステーキング部会を立ち上げ
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●InstaDApp、SAI(シングル担保Dai)からDAI(マルチ担保Dai)へのマイグレーションツールをローンチ
●Set Protocol、ソーシャルトレーディング機能を2020年発表へ
4. Programable Security : プログラマブル証券関連
SecuritizeがSBIホールディングスより調達を実施したと発表した
調達額は公表されていない一方で、CEOのカルロス・ドミンゴはミリオンドル単位での調達を受けたと説明している
今回の調達資金はSecuritizeの日本オフィス開設に使われる見込み。今年中の開設を見込む。
●OpenfinanceNetworkが50M$の調達を目指しRegDを登録へ
OpenFinanceNetworkが50M$の調達を目指してRegDを登録
すでにいくつかの投資家から8M$を超える調達を実施した模様
●UBSの商品組成部リードを務めた人物が新たにPS発行プラットフォームを立ち上げへ
UBSの国際ハイイールド商品担当リードだったClaude Waelchli氏がUBSを独立し、PS発行を目的にした新会社Tokenyzを設立した。
サービスローンチ当初は、トランザクション組成費を発光体から徴収するとともに、媒介に対して投資家紹介料を徴収する形でのマネタイズを計画している
Fidelityの傘下のFidelity Digital Assetsが運営する仮想通貨交換所が年末をめどに登録を実施すると発表した
今までは機関投資家に対してOTC形式で取引の場を提供していたが、年末の登録完了後はATSの板方式での取引が可能になる
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●世界経済フォーラム、デジタル通貨が持続可能なグローバル経済に寄与する旨のレポート発表
TetherやUSDCoinおよびGemini DollarのようなドルベースのStablecoinに加え、ドバイemCashやシンガポールUbinおよび中国人民銀行DCEP(Digital Currency Electronic Payment)といったプロジェクト、そしてLibraなどが活動している。
単一システムへの依存リスクを軽減する上でも、ブロックチェーン間のインターオペラビリティに加えて、法定通貨〜デジタル通貨間、集中型システム〜分散システム間のインターオペラビリティが必要と主張。
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●深圳市の行政アプリ「i深圳」でブロックチェーンを活用した「証明書」サービスが登場
同サービスで「住民証」「戸籍証」「結婚証」を活用でき、また「運転免許証」「積立金」「電子社会保険カード」「運転免許証」も同アプリに入る予定とのこと
●KPMG、四大会計ファームで初めてのブロックチェーンプロダクト「KPMG Origins」。サプライチェーン横断で製品情報を共有。第一弾は食品トレーサビリティ
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●chai、DSR(Dai Savings Rate)中のデポジットへの請求を表象するERC20トークン
8. Articles : 論考
●中央銀行がデジタル通貨を発行する場合に法的に何が論点になりうるのか:「中央銀行デジタル通貨に関する法律問題研究会」報告書の概要
「日本銀行はCBDCを発行できるのか」「CBDCは通貨たりえるのか」「CBDCの取引を制限できるのか」「マネーロンダリング、テロ資金供与をどう防ぐのか」「個人情報保護をどう考えるのか」「CBDCが偽造・複製されたり、消滅したりしたら、どうなるのか」「CBDCを差押えることはできるのか」等の論点に言及。
●日銀 FinTechセンター長 副島豊氏に聞く、ネオ・マネーの登場と変わりゆく決済インフラ
●国はブロックチェーン技術の活用をどのように検討しているのか
9. Future Events : 注目イベント
●Hong Kong Blockchain Week(3/2–3/6 at Hong Kong)
●Consensus(5/11–5/13 at New York)
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