LayerX Newsletter for Biz (2019/06/03–06/09)

Issue #10

今週の注目トピック

Eisuke Tamotoより
各国政府などのRegulatorや既存金融機関を巻き込んだ重要ニュースがBizの分野では多かった一週間となりました。特に、G20で分散金融や分散型台帳について話題にのぼった点は注目です。
さらに、アメリカではkikのICOについて証券法違反かどうかをSECとプロジェクトとが争う動きが出ています。他のプロジェクトにも結果が波及すると予測されるので要注目です。

Section1: PickUp

G20財務大臣・中銀総裁会議で暗号通貨および分散金融について議論

G20サミット(6/28–6/29・大阪)にむけて、財務大臣・中銀総裁会議が6/8–6/9の日程福岡で行われた。暗号通貨および分散台帳による分散金融も主要トピックとして、いかにリスクを低減しながらイノベーション通じた便益を引き出すかについて議論が交わされた。昨年秋のG20サミット(ブエノスアイレス)において、「FATF(金融活動作業部会)の基準に沿ったマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策のため、暗号資産を規制し、必要に応じてその他の対応を検討する」との首脳宣言が示されており、その内容を受けた具体的なステップにあたるものである。

今回の財務大臣・中銀総裁会議では、仮想資産や関連業者に対してFATF基準を適用することのコミットメントが再確認された。六月中にFATFとして解釈ノート・ガイダンスが採択予定。昨秋に示されたFATF勧告では、業者間の仮想通貨移動において、送信者だけでなく受信者のKYC(本人確認)情報を求める基準が含まれている。それらを基準とする場合、仮想通貨サービス提供業者(VASP:Virtual Asset Service Provider)には一般金融機関同等の対応が銀行並みの対応が必要になっていく可能性がある。

財務大臣・中銀総裁会議の開催に伴い、国際組織・中銀・規制当局およびテクノロジー分野の要人が登壇するハイレベルセミナーも行われ、規制・ビジネス・技術が三つ巴になって、これからの金融を巡って意見が示されたことは貴重な機会であったので、以下にトピックを紹介する。

麻生副総理の開会挨拶では、「ビル・ゲイツは1994年に、銀行機能は必要だが今ある銀行は必要なくなると発言した。今のところ我々は銀行を使っているが、分散台帳技術の普及によって、銀行なしに銀行機能が提供されることが可能となるかもしれない」とする旨が示され、今後の新しい金融システムの姿を模索する姿勢の一端が見て取れた。

IMFラガルド専務理事のスピーチでは、「サイバーリスクやAMLのための国際協力が不可欠。G20諸国の間でさえも暗号資産の規制をどう進めていくか、合意が形成されていない」とし、国際協調の重要性が提起された。

金融庁遠藤長官のスピーチでは、「新しいサービスの便益が実感される前に規制を設計して予め全てのリスクに対処しようとすれば、イノベーションを窒息させかねない。金融サービスのアンバンドリング・リバンドリングといった技術革新に規制が追いついてない。分散型金融システムにおいて金融機関のプレゼンス低下する可能性ある中でいかに公益確保できるかなどを鑑みると、規制だけに依存するアプローチが持続可能か考えるべき時期」だとし、新しい規制の姿を見出そうとする規制当局のトップの姿がを垣間見ることができた。
また、「かつて情報通信セクターは金融セクター同様に厳格な規制に服してきたが、インターネットが代替する中で当局規制とは異なり、IETFなどマルチステークホルダー型ガバナンス」とし、インターネットが辿った道にも学びを求める方向。

Blockstream社のAdam Back氏は、「ブロックチェーン上で資産をトークンとして表現することによって、セキュリティをコントロールできるため、規制機関にとっても有益。仲介業者を信用したり第三者によるカストディの必要性がなくなる、信用面でのインパクト」とし、エスタブリッシュな金融セクターの要人に混じって、Bitcoinの中軸に関わってきたBlockstream社のAdam Back氏が登壇したことも、今回のG20福岡において象徴的なシーンであった。

今後、暗号通貨およびブロックチェーンをベースとした「新しい金融」の姿が具体的な形として現れてくる上で、規制当局・金融セクター・テクノロジーという多様なステークホルダーにおける対話を通じて、金融や規制の姿を議論していくことが不可欠になる。今回のG20福岡を踏まえて、次のトピックは今月中に示されるFATFのガイダンスに移るが、リスク低減とイノベーションをどのように両立させていくのか、引き続き注視したい。

Facebook、ステーブルコインを通じた送金インフラを構想中

世界のメッセージングアプリケーションのうち、WeChatは決済機能を有しているのに対してFacebookは決済機能を持っていない。そうした問題意識のもと、Facebookは元PayPalトップのDavid Marcusを迎えるなど準備を進めてきた他、今年の年次開発者むけイベントF8において「送金を写真投稿並みに簡単にする」といった発信を行うなど、決済・送金への進出が取りざたされてきた。

Facebookを介してゼロ手数料で送金可能なインフラの計画が進んでおり、6/18にホワイトペーパーが発表される予定との報道が出ている。金融サービスへのアクセスを持たないユーザー(銀行口座を持たない成人人口はWeChat経済圏である中国を除くと世界で15億人規模)をターゲットとした、ステーブルコイン(価格変動を最小化する仕組みを組み込んだ仮想通貨)を提供する見込み。ステーブルコインとしては価格変動を最小化すべく、法定通貨などのアセットを担保とする場合が多いが、米ドルなど単一通貨担保ではなく、複数の法定通貨から成る通貨バスケットを担保とするものとのこと。

Facebookのような大手プレイヤーが通貨発行することには、強大な力を持ちすぎることへの懸念の向きも大きいことから、通貨のガバナンスを目的とした独立財団を立ち上げる予定。トランザクション検証を行うノード運用に$10mを見込んでパートナーを探索中であり、こうした分散性を導入することによって、Facebook単体によるコントロールの色を薄める狙い。

同社の通貨発行に関連する名称としては、GlobalCoinという名称が登場しているほか、金融サービス向けにLibra Networks社がスイスに登記されている。Libraという名前はLIBOR(銀行間金利のベンチマークとして使われるLondon Inter-bank Offered Rate)をもじったもので、LIBORは銀行むけ、Libraは一般利用むけを志向しているネーミングとのこと。

今回のFacebookの取組は、こうした一般ユーザーがSNSベースで友人どうしの送金や、海外に出稼ぎに出ている家族からの送金など、ペイメントや商取引で利用する上で新しい時代を開く可能性がある。果たしてFacebookがどのような形でブロックチェーンを使うのか、ホワイトペーパーの発表が待たれる。

●Utility Settlement Coin (USC) 、ホールセールバンキング向けデジタル決済アセットローンチへ向けて$63.2m調達しFnality International創設

海外送金では、送金元と送金先の間に中継を行う銀行(コルレス銀行)が入るなど、複数にわたるプレイヤーとの間で取引が発生し、手数料の高止まりや時間がかかることがネックとなりやすい。そうした中、UBS主導のもと、日米欧の大手銀行14行が協力して海外送金の即時決済ができるセツルメントむけプラットフォーム開発が進んでいる。

ホールセールバンキング向けデジタル決済アセットとして、法定通貨を担保とした独自の決済通貨Utility Settlement Coin (USC)を発行する予定。プラットフォーム開発をコントロールする独立エンティティとして「Fnality International」を設立し、$63.2mを調達した。「即時セツルメント」として、トークン化証券市場におけるDvPのほか、ファンディング市場におけるPvPなどを可能にする狙いがある。既にR&Dフェーズは完了しており、2020年までにローンチ予定。ドル・ユーロ・ポンド・日本円・カナダドルに対応予定とのこと。

USCを用いた送金プロセスとしては、まず送金元銀行は中央銀行の当座預金にデポジットすると、Fnalityが対応するUSCを発行した上で、送金先銀行の口座と間で決済を行う。送金先銀行は受け取ったUSCに相当する法定通貨を顧客口座に入金することによって送金決済が完了するため、即時決済が可能となるほか、仲介業者手数料を減らすことができる。

プレイヤーとしては、Clearmaticsが引き続き技術パートナーを務め、BNY Mellon・ING・State Street・Nasdaq・UBSなどの他にMUFG・SMBCが参加。Clearmatic社は、ブロックチェーン上でトークン化アセットの発行・償還を行うdFMI(分散金融市場インフラ)を目指しているスタートアップであり、2015年夏頃からUBSと組んでSettlement Coin開発に取り組んできた。決済仲介者を介さないセツルメントのファイナリティ実現に向けては、クリアで透明なルール執行力がポイントになる。こうしたガバナンス機能を持たせるべく、今回パブリックチェーンは採用しないものの、経済的協調に向けたインセンティブモデルは必要となるほか、規制要件を充たすルールおよび技術標準が必要となる。そのためオーナーシップ・マネジメントとオペレーションは別エンティティとするのが望ましいと考え、Fnality設立に至ったものと考えられる。

銀行間決済インフラにおける独自通貨の構想としては、この他にJP Morganの「JPM Coin」「IIN(Interbank Information Network)」、IBMの「Blockchain World Wire」などがある。各中銀も独自に電子通貨を発行する検討を進めており、国際送金の効率化を巡ってこれらとUSCも交えて競争・レベルアップが活発化している。ユーザーとなる金融機関の立場からみれば、複数の中銀に当座預金を持つことに伴う費用のほか、現行システムを維持するための二重費用といった課題があるとされ、これらをどのように解決していくかに注目したい。

SECがKikが実施したICOは証券法違反として告訴へ

米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission、以下SEC)はカナダに拠点を置きメッセンジャーアプリを提供するKikを証券法違反として告訴した。告訴の対象となったのは、Kikが2017年に実施したICOである。Kikは同ICOで1億ドルの調達を成功させたが、この告訴が認められると、調達額の返金さらには証券法に基づく罰金を支払うことになる。

SECはKikを告訴した大きい理由は以下の三点である。

  • 1: Kikが提供したICOは米国の証券法基準に照らし合わせると証券に該当すると判断

  • 2: その一方で証券法で要求されているSECへの登録、もしくは例外規定適用の申請がなされていない

  • 3: 証券提供に必要な情報提供が投資家になされていない

それぞれの理由について少し細かく説明すると以下の通りである。
1について:
米国ではHowey Testに基づいて証券性が判断されている。その中には複数の基準が存在するが、ICOの文脈では「第三者の運営によって利益が上がることが期待されていること」という観点が論点になる。投資した対象を管理する第三者が存在し、その者が活動することによって価値を享受することを投資家が想定している、と判断されれば米国では証券に当たるとされている。現に判例ではオレンジの木に対する投資や航空機に対する投資でも証券に当たるとされていたこともある。
今回のKikの事例では、Kikが自社の活動によってトークン価値が上昇する旨をICO時に広告しており、この点が上記の基準に該当する、とSECの告訴状では説明されている。
一方、運営者が存在しない場合は証券に当たらないとされており、この文脈からEtherなどの通貨は証券に該当しないとSEC幹部から発言されたこともある。

2について:
証券と認定されると目論見書等複数の証券発行に係る書類をSECに提出する必要があり非常にコストがかかると言われている。一方、適格投資家のみへの発行などの一定の条件を満たす場合には、Reg D等の例外規定を利用することができ、目論見書の提出等の免除を受けることができる。今まで行われてきた多くのPS(プログラマブル・トークン)発行プロジェクトはこの例外規定を利用している。
今回のKikの事例では、資料提出や例外規定適用の手続きをしていなかったことが問題となる。Kikは適格投資家以外にもトークンを発行してしまっているので、証券認定がなされた場合には、多大なコストを払って目論見書提出に動くか返金手続きに応じる必要が出てくると予想される。

 3について:
2に関連して、証券認定がなされた場合には投資家に対して十分なリスク説明や財務情報の説明が要求される。翻ってKikの事例を見ると、Kikの財務情報などの提供が投資家へなされていなかったようである。SECの告訴状を読むと、KikはICO時厳しい財務状況に立たされていたなどと説明がなされており、これらが事実だった場合必要な情報提供がなされていなかったと認定されてもおかしくはないだろう。

一方で、KikはSECの告訴に対して徹底抗戦の姿勢を示している。500万ドルの訴訟費用をクラウドファンディングで募集してSECと裁判に臨むと発表している。Kikとしてはそもそも証券性の判断が曖昧であること、ICO時にSECは適切な対応を取っていなかったこと等を理由としてSECの今回の告訴は棄却されるべきだと主張する模様である。

今回の訴訟でSECの主張が認められた場合、同時期に行われた数多くのICOプロジェクトが同様の形で告訴される可能性が高いと言えるだけに今回の裁判の結果に注目が集まると考えられる。

Section2: ListUp 

(リンクはこちら

1. Regulation : 規制動向(「FSB(金融安定理事会)、分散金融技術のもたらす安定性・規制・ガバナンスについてレポートを発表」など)

2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「Binance、TrustTokenと提携でステーブルコインTrueUSD(TUSD)の発行・償還を可能に」など)

3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「Bitfinex、Omni・Ethereum・TRONに続いてLightning Network上のアセットとしてUSDTローンチへ」など)

4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「Coinbase custodyがBcap Tokenの取り扱いを開始」など)

5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「日銀と欧州中央銀行による共同調査報告書(第3フェーズ)が公表」など)

6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「Walmart 、医薬品来歴管理コンソーシアムへ参加」など)

7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「Flueree」「Zerion」など)

8. Articles : 論考(「業務改善の歴史の中でブロックチェーンを紐解く」など)

9. Future Events : 注目イベント

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