今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のBiz Pick編は中国のブロックチェーン実用に向けたニュースの他欧米の金融分野への実用化事例が並びました。金融機関によるブロックチェーン実装に向けた動きは最近毎週ニュースが出ており、実用化に向けて着々と進んでいることが窺われます。
プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。
1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減
2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現
Section1: PickUp
●中国、デジタル通貨DCEP発表に続いて法律・認定制度・ファンド創設など活発化。インパクトは国内外の商業銀行にも
中国では、国家主席によるブロックチェーン活用の推進が表明され(先週のNewsletter)、今後の国家レベルでの動向が注視されていたが、早速、中央銀行によるデジタル通貨の発行が正式に示唆された。このデジタル通貨はDCEP(Digital Currency Electric Payments)と呼ばれ、商業銀行に限定した形で試行開始が見込まれている。
発表によれば、DCEPの題目としては「グローバル個人ペイメントのディスラプト」、「企業・国家間セツルメントの改革」「グローバル通算発行メカニズムの改革」および「産業チェーンの効率改善」が掲げられている。題目としてペイメントやセツルメントといった決済システム関連に留まらず、「産業チェーンの効率改善」を含めたことは特徴的だ。5Gネットワークの普及につれてあらゆるモノがインターネットに繋がっていく中で、インターネットとファイナンスの関係も、デジタルプラットフォーム企業が金融サービスを提供するだけでなく、金融機関が産業界のニーズに応える形でデジタルプラットフォームを構築するあり方が登場していく可能性がある。そうしたときに、DCEPのようにプログラマブルな中銀デジタルマネーの存在は必要不可欠な存在だと考えられる。
実際、国をあげてIndustry4.0といった形で「サプライチェーンのデジタル化」を進めているドイツからは、ドイツ銀行協会が「ユーロベースのプログラム可能なデジタル通貨が求められている」と声明を発表しており、各国の中央銀行・金融機関において、ビジネスのデジタル化推進における「プログラマブルマネー」の意義が徐々に浸透してきていることが窺える。
中国の動向に話を戻すと、中国人民銀行の高官が、商業銀行にブロックチェーン技術の導入を求める等、ブロックチェーンの適用にむけた動きが国家レベルで大きく推進される兆しが見られる。例えば、中国共産党中央委員会広報部が、ブロックチェーン技術について教育する動画を公開しており、その中ではビットコインやイーサリアムに関する具体的な内容がアップされているとのこと。
また、中国人民銀行からは、ブロックチェーン関連の11製品に公認資格を付与する製品認証の仕組みが発表された。その他、広州市のような地方レベルでも、10億元(約150億円)のブロックチェーン産業ファンドが創設され、プロジェクトあたり最大1000万元(約1.5億円)の資金が投入されることになっている。法規制面でも、暗号を「国家機密」と「商業用」に分類する「暗号法」が成立し、2020年1月1日より施行される予定だ。
先週の国家主席の発表から、わずか1週間のうちに、これだけの動きがあったことには、驚きを禁じ得ない。他方、国家主導によるデジタル通貨DCEPのあり方を巡っては、検閲・利用停止といった課題が残る可能性もあることから、今後の具体的な発表・関連動向に注目したい。
●PaxosがCredit Suisse社、ソシエテジェネラル社と行う証券決済実証実験に向けたノーアクションレターをSECより獲得
Paxos社が米国でCredit Suisse社やソシエテジェネラル社とともに証券決済分野におけるブロックチェーン技術応用の実証実験におけるノーアクションレターをSECより獲得したと発表した。今回の実証実験に対するノーアクションレター獲得のために水面下でPaxos社などは18ヶ月以上活動していた、と説明されており2018年初期より長い期間をかけて準備を行なっていたことが窺われる。
今回の実証実験にはPaxos社が自社で開発したパーミッションチェーンが利用される模様だ。今回承認された実証実験では、証券決済において証券保管機関のDepository Trust&Clearing Corporationや、米国のクリアリングハウスであるNational Securities Clearing Corporationを経由することなく既存の証券決済が米国で実現されることを目指す。こういった事例は、両システムが稼働されて以降初の試みであると担当者はインタビューに回答している。証券決済にブロックチェーンを利用することで、清算といったカウンターパーティーリスクの発生要因を減らすほか、情報共有の際の突合業務削減による決済の迅速化・コスト削減を達成できるかが目標であると報じられている。
また、今回の実証実験には、9月にPaxos社がSECより認可を獲得した金ペッグのProgrammable Moneyを利用した資金と証券との同時決済も視野に入っていると説明されている。これにより、今まではプラス2日間かかっていた証券決済の同時決済とカウンターパーティリスク削減を目指す。
ノーアクションレターで認めれた実証実験では、一日の証券譲渡口数の上限が定められているほか実験期間も1ヶ月と報じられており、小規模での実証実験であることが窺われるが、実際にSECから認可を受けたプロジェクトの実証実験が成功すれば実用化に向けて大きく動き出すことが予想される。先週のニュースレターでは、ドイツ証券取引所による証券のポストトレード分野への実用化実験への着手を報じるなど、各国大手金融機関による決済・約定分野への参入のニュースが続いている。この傾向は世界各国の金融セクターが実用化に向けて本格的に動き出したことの現れであり、実際の実証実験の結果がどのように現れるのか、その結果実用化が進むのか今後も目が話せない。
● ドイツ証券取引所のVC Deutsche Börse Venture NetworkがCashlink社と提携し、DLT上で完結する融資を提供へ
2019年10月30日、ドイツ証券取引所のベンチャーキャピタル部門であるDeutsche Börse Venture Networkが、Cashlink社と提携することをプレスリリースにて発表した。Deutsche Börse Venture Networkは、ドイツ証券取引所(Deutsche Börse)の本体とシナジーを創出する狙いで、上場前のフェーズにある企業に対し、投融資を行う組織となっている。
Cashlink社は、ドイツでデジタル証券を発行できるwebプラットフォームを提供している。利用者となる企業は、予め用意されたフォームに回答し、リーガルテンプレートを埋めていくことで、EUの証券法に沿った自社株を簡単に発行できるサービスとなっている。Cashlinkプラットフォームに備えられた招待リンク機能を利用することで、クローズドに投資家の募集を行うことができる点も特徴的である。今回、両社が提携することにより、適格投資家向けに、DLTベースのオンライン完結型の融資手段が提供される見込みとなっている。
ドイツ証券取引所は、10月28日にはCommerzbankと、アセットマネージャーを務めるMEAGと共同で、社債のDvP決済を行う実験を完了しており、Programmable MoneyとProgrammable Securityの領域において積極的なリリースが続いている(ニュースレター Issue #30にて紹介)。過去には、デジタル証券取引のリーガルスキーム構築を担当していたことについても報じられており、今後も証券取引業務におけるSTP(Straight-through-processing)化に関するニュースが続くことが予想される。この領域において、海外でどのようにブロックチェーンやDLT技術が使われていくのか、引き続き注目していきたい。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Regulation : 規制動向(「フランス、高校カリキュラムに金融システムの理解促進の一環で仮想通貨・ビットコインを追加」など)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「Bakkt、2020年に消費者むけアプリをローンチ予定」など)
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「11/18以降は、いまのSingle Collateral DaiはSai、Multi Collateral DaiをDaiと呼ぶことに」など)
4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「HarborがTransfer Agentライセンスを獲得」など)
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「英FCAの規制サンドボックスにおけるuPortとOnfidoの取組」など)
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「Zamna、空港・行政などでサイロ化された旅客アイデンティティの検証・共有へブロックチェーン活用し、空港セキュリティプロセスにおける手作業チェックを9割削減」など)
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「Maple、CompoundのcTokenを用いたスマート債券」など)
8. Articles : 論考(「タイムスタンプの再発見と「いわゆるブロックチェーン」」など)
9. Future Events : 注目イベント
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