今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のBiz編には米国大手医療保険会社による保険分野でのブロックチェーン応用事例が紹介されました。金融系で実用化が進むトレンドの中で、保険分野でも実用化への動きが進んでいることがわかります。その他、ホールセールに関する実用例に関するニュースが二つ並んでおります。下部のList編と合わせてご覧くださいませ。
Section1: PickUp
●米国で第二位の医療保険会社Anthem、ブロックチェーン用いて患者が安全に自身の医療データをアクセス・共有可能に
医療保険会社Anthemは、メンバー企業間の異なるシステム間の情報交換を相互運用性ある形で可能とすることをはかっている。「保険金請求にあたり、患者が複数のプロバイダーからカバーされている場合に、保険会社としてどの患者のどの治療がどのプロバイダーからカバーされているかをタイムリーに把握できる」ようにすることが狙い。
ユーザー視点でみると、「患者がスマホアプリからQRコードをスキャンすると、ヘルスケアプロバイダーが患者データに適切な形で利用可能に。データ利用可能期間は限定され、期間が過ぎると再びデータはプライベートなものになる」とのこと。Hyperledger Fabric・Burrow・Indyを用いたシステムを従業員200名でパイロット試行中であり、2020年初めにはメンバー企業へローンチ予定とされる。
今回、医療データという、保険という形で金融サービスに関わる一方、ヘルスケアという形で医療・健康などの非金融サービスに関わるものを例にあげたが、EUの「トレードファイナンスとサプライチェーンにおけるブロックチェーン」レポートによれば、金融・非金融を問わず、複数機関を横断して流通するデータは、ブロックチェーンへの相性が良いと見られる。監査可能でトラストできるデータを多数の参加者で共有できる他、ペイメントトランザクションの自動化を図ることができるため、金融サービスをサポートすることも可能だ。
たとえば、航空機エンジンメーカーGE Aviationの取組では、航空機部品のライフサイクルをMicrosoft Azure BlockchainとBlockchain Data Manager用いてトラッキングすることで紙の書類を代替する。機体間を移動するエンジンはリースされることも多く所有権管理が煩雑なため、ユーザーが検証可能な共有レポジトリを開発するとのこと。
また、中国建設銀行は2018年1月に、輸出業者が中長期の売掛金を割引いて現金化できる国際ファクタリングをローンチしている。そこでは、ブロックチェーンおよびスマートコントラクトを通じて、債権の自動識別・移転およびトランザクション可視化を実現する。
ブロックチェーンの利活用について、EYは次のように整理している。
「買い手・売り手・金融機関から成る調達契約において、互いの識別および契約内容の交渉・合意にブロックチェーンを用いる。契約書そのものは可読性あるフォーマットで各社内に保管しておき、ブロックチェーンには”各自いつどのように互いの義務を完遂したか” の数学的証明のみを残す」という使い方だ。ブロックチェーンの必然性についても、「現在は多くの企業が共有事項のやりとりをメールなど当事者間メッセージを介して行っている。双方の事実データの共有だけでなく、エコシステムにおけるビジネスロジック含めて標準化上で構造化データを安全にやりとりすることによって、企業間のコラボレーションを可能にするのがブロックチェーン」としている。今後、こうした形で、ブロックチェーンを介したビジネスエコシステムが形成されていくと考えられることから、継続して注視したい。
●サンタンデール銀行のブロックチェーン社債の償還が完了
スペインの大手銀行、サンタンデール銀行が9月に発行した20M$相当のブロックチェーン社債の償還を実施したと発表。この社債はパブリックEthereum上で発行されており、大手金融機関がパブリックチェーンを利用して実運用をした事例では初の事例だと言われている。
発行体、投資家ともにサンタンデール銀行グループ内であること、3ヶ月の超短期債であることなどから今回の社債発行は実証実験的な立ち位置であることがわかる。一方で、社債トークンをパブリックEthereum上で発行するだけではなく、資金を表象するトークンもEthereum上で発行し、DvP決済実現も目標の一つに掲げられていたことから注目を集めた。サンタンデール銀行グループの一つ、Santander Security Servicesに信託された資金がトークンとして発行されるスキームを取っている模様である。(なお、このプロジェクトの詳細は、LayerX Newsletter Biz編24号で取り上げているので興味のある方はご覧ください。)
今回の償還を通じて、「社債ライフサイクル全体の管理をパブリックチェーンを利用して行うことができると証明した」と担当者は発言をしており、今後もパブリックチェーンを利用した事業開発を進めていくと推測される。パブリックチェーンを利用しているので取引履歴をEtherscanで確認することもできる。
秘匿性などの観点から多くの金融機関はコンソーシアムチェーンや独自のプライベートチェーンを選択するのが先行事例のトレンドになっている一方で、サンタンデール銀行はあくまでパブリックチェーンでの応用を見込んでいる。セカンダリーへの拡大もサンタンデール銀行は示唆しているなど、今後独自の路線でどのように実用化を進めていくのか、そしてどういった課題が生まれてくるのか、注目をしていきたい。
●BISがホールセールデジタル通貨に関する主要論点について述べたペーパーを公開
2019年12月12日、BIS(Bank of International Settlement)の決済・市場委員会が、「Wholesale digital tokens」と題したペーパーを公開した。分散型台帳を用いて、資金と証券がトークン化されることによって、既存のホールセール決済がどのように改善される可能性があるかについて、論じた内容となっている。
デジタルトークンの利用による主要なメリットを、第3章にて述べており、大きく3つ取り挙げている。
1つ目は、現状のDvP決済が複雑であることを述べた上で、ブロックチェーンを活用することで、第三者機関による仲介を行わないDvP決済の手法を利用できることとしている。次に2つ目として、中銀マネーへの直接的なアクセスを持たない、比較的小規模なノンバンク事業者に対し、信用力の高い決済手段を提供できる点を挙げている。最後に3つ目として、その他の各種業務の効率化が実現することとしている。これには、決済サイクルの短縮や、稼働時間の拡大、メッセージングの手段の統一化などが含まれている。
続く第4章では、これらの仕組みを現実的に実現させる上で、重要となってくる問いについて、紹介している。これには、デジタルマネーを取り扱うことのできる事業者が誰になるのか、基準は存在するのか、発行と償還が各国で法的にどのように整理されるのか等、重要な観点が並んでいる。このペーパーはCBDC(Central Bank Digital Money)の実現に向けた現実的な課題について網羅的に整理しており、これまでBIS内で慎重に議論されてきたことが伺える内容となっている。今後も各国中央銀行を含め、CBDCがどのように整理されていくか、注目していきたい。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●CPMI(Committee on Payments and Market Infrastructure)、ホールセールむけデジタルトークンの設計にむけたガイダンスを発表
高額決済のセツルメントに用いられるデジタルトークンの設計上の疑問に応えるクライテリアを示すもの
●バーゼル委員会(BCBS)、クリプトアセットの規制上の慎重な取扱いについてディスカッションペーパーを発表
銀行が今後クリプトアセットを取り扱っていく上での指針を示していこうとしている
市場環境変化を受け4年になるBitLicenceの総括にむけた第一歩。コメントは1/27まで
●BISミーティングでニューヨーク連邦準備銀行が語った、暗号通貨に対する米国の規制アプローチについて
●連邦裁判所に対するNY検察の主張とBitfinex/Tetherの反論
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●ECBラガルド総裁、デジタル通貨/Stablecoinについて言明
多くのプロジェクトが水面化で動いており、先回りして動くべき、なぜなら明確な需要がありそれに対応せねばならないからだ、と。
CBDCタスクフォースを組成。デジタルペイメントシステムTIPS(銀行口座間の即時決済システム)やPEPSI(全欧州支払システム構想)にも言及
●スウェーデン中銀Riksbank、技術的可能性に関する銀行の知識を広げるべく、テスト環境でe-kronaをパイロット開発へ
初年度中にスマホ・時計などモバイル端末からの支払い可能なプラットフォームを開発。但し、Riksbankはe-kronaの発行予定は無いとしている
●デジタル人民元テスト、年明け以降に深センと蘇州での試験運用。四大国有銀行と三大通信キャリアが参画
●スイス政府、中銀デジタルマネーについて、リテールではなく銀行間ホールセール決済におけるメリットを重視する見解を発表
●リトアニア中銀、独立記念日コインLBCoinをブロックチェーンベースで発行
●ING、ゼロ知識証明技術の研究開発やトレードファイナンスへの取組をへて、デジタルアセットカストディにも着手
●スイスベースのクリプト銀行SEBA、シンガポールの他に香港・英国・伊・独・仏・蘭・オーストリア・ポルトガルへ拡大
●Libra、ホワイトペーパーからインセンティブ設計に該当する投資家への配当支払い条項を削除
●CoinbaseのVisaデビットカード、Daiサポート追加
●Coinbase、Head of Stablecoinポストを募集
●BitFury、暗号通貨交換業者どうしがFATFトラベルルール遵守でデータ共有をはかるソリューション開発へむけて、データアグリゲーション会社Shyft Networkに出資
●Elliptic、仮想通貨取引交換業者のリスク評価するツールを発表
●Twitter Jack Dorsey CEO、ソーシャルメディアの分散型スタンダード開発へむけてチーム募集
●Croatian Post、仮想通貨の現金化サービスを提供開始へ
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●tBTCチーム、ZcashバックトークンtZECを立ち上げへ。DeFiエコシステムへプライバシー導入はかる狙い
●レンディング格付けを行うDefi Scoreとサービス比較
●Introducing The Gasless Wallet for MCD Dai
●How to turn $20M into $340M in 15 seconds
4. Programable Security : プログラマブル証券関連
●Bitbond、Sterllarベースの不動産証券トークンプロジェクトを発表
●TokenSoft子会社のDTAC LLC、SECへ証券代行認可申請
●Nike、デジタルな靴の所有権を組み合わせたデジタルスニーカーの特許取得
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●JP MorganのIIN、2020年1月に日本国内ゴーライブを計画との報道
●スペイン取引所BME、担保権設定証明をブロックチェーンベースにデジタル化するDLT-Predaプラットフォームを開発。担保設定に紐付くトランザクション検証に必要な情報に、金融機関が リアルタイムアクセス可能とすることによって、24時間かかった担保権設定が10分で可能に。
●中国建設銀行、中小企業から債権を買い取ったファクタリング会社から金融債権を購入できるリファクタリングプラットフォームを開発
中国建設銀行は2018年1月に、輸出業者が中長期の売掛金を割引いて現金化できる国際ファクタリングをローンチ。ブロックチェーンおよびスマートコントラクトを通じて、債権の自動識別・移転およびトランザクション可視化を実現
このほか、中国4大銀行による中小企業むけ活用事例としては、中国工商銀行が2018年11月に、中小企業むけにファクタリングプラットフォームを発表し1300ユーザーを集めている
●ふくおかフィナンシャルグループ、傘下のiBankマーケティングが運営するポイントサービス『myCoin』の利用メニューを拡充し、他社運営のポイントサービスとのポイント交換先およびユーザー間でポイントを送りあえる機能を追加
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
航空機部品のライフサイクルをMicrosoft Azure BlockchainとBlockchain Data Manager用いてトラッキングすることで紙の書類を代替
機体間を移動するエンジンはリースされることも多く所有権管理が煩雑なため、ユーザーが検証可能な共有レポジトリを開発
●中国深圳市、ブロックチェーンベースにライセンス認証機能を提供するスマートシティアプリをリリース
身分証明書、戸籍簿など使用・閲覧頻度の高い24種類の電子証明書をブロックチェーン上に保存
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●Upvest、API用いて企業が不動産やプライベートエクイティなど金融アセットのトークン化
8. Articles : 論考
●LayerX Newsletter 【年末企画】2019年のブロックチェーン実用化事例を振り返る
「DeFiはこれまで暗号通貨経済を中心に浸透してきたが、その成長につれレガシー金融システムとの接続・統合が進むと、そのシステミックリスクはEthereumやMakerDAOなど内部的なものに留まらず外部的なものへ波及する。」と指摘している
「システム全体のルールの自動執行について、単一のグループが直接統治するにはコストが高すぎるが、分散統治していく上で、新しい形態のシステミックリスクにどう対処していくか。人間の能力では理解・統治が難しくなっていくかもしれない」とも
デジタルトークン提供条項を含めたconvertible noteを、質問に答えながらカスタマイズして動的生成できるもの
法律事務所Latham & Watkins LLPとOpenLawが今年5月に発表した
●Chainlinkハッカソンに見るスマートコントラクト応用ケース
LinkPalはPayPalインボイスが支払われたことの確認にオラクルを利用するエスクロー
Celebus Walletは電話のプッシュ通知を暗号通貨トランザクションの2要素認証に利用することで秘密鍵盗難に備える
●Thomson ReutersとOpenLawの協業に見る、ドキュメントオートメーションツールとスマートコントラクトの統合トレンドについての記事
JP Morgan や Goldman Sachsのような大手金融機関がデジタルアセットに取組む上で、法定に安全性あり、且つデジタルアセットのトランザクションが動くブロックチェーンと接続された契約の立て付けは不可欠
Contract Expressは、Practical Lawの標準ドキュメントからコントラクトを生成し、ブロックチェーン上のスマートコントラクトとして追加することで、ブロックチェーンの専門知識無しに、シームレスで直感的なプロセスを可能にすると
Contract Expressのドキュメントオートメーション。テンプレートとマークアップ言語を用いて、ドキュメントのドラフトプロセスをシンプル化。SalesforceやDocuSignとのインテグレーションも可能
●金融マーケットインフラのシンプル化とコストダウンに向けFnalityの考える三要素
「トークン化されたアセット」「新たな価格発見の場」および「ペイメントの相互運用性」
Utility Settelement Coinは相互運用性に着目し、分散台帳ベース金融インフラ上におけるトークン化アセットの取引・セツルメントをサポート
●シンガポールMASのProject Ubinでの知見を用いた応用
例えば南アのProject Khohkaは、南ア準備銀行SARBが7つの商銀とQuorum用いてインターバンクシステム構築するもの
この他、フィリピンのProject i2iは大手銀UnionBankの地元銀行と連携したペイメントシステム
食品トレーサビリティではIBMのFood Trust(Walmart・Carrefour・Nestle・Dole等)
海運ではIBMとMaersk主導のTradeLens(MSC・ONE等)やGlobal Shipping Business Network (GSBN)、Open Trade Blockchain
銀行加盟ではMarcoPoloがBoNYなど28行集めている
●EUの「トレードファイナンスとサプライチェーンにおけるブロックチェーン」レポート
監査可能でトラストできるデータを多数の参加者で共有でき、ペイメントトランザクションの自動化を図ることができ、金融サービスをサポートする旨
●If you build a blockchain, will anyone come?
「買い手・売り手・金融機関から成る調達契約において、互いの識別および契約内容の交渉・合意にブロックチェーンを用いる。契約書そのものは可読性あるフォーマットで各社内に保管しておき、ブロックチェーンには”各自いつどのように互いの義務を完遂したか” の数学的証明のみを残す」という使い方
「現在は多くの企業が共有事項のやりとりをメールなど当事者間メッセージを介して行っている。双方の事実データの共有だけでなく、エコシステムにおけるビジネスロジック含めて標準化上で構造化データを安全にやりとりすることによって、企業間のコラボレーションを可能にするのがブロックチェーン」と
「EYのNightfallのように、パブリックチェーン上でプライバシーを確保する技術の成熟につれて、エンタープライズ分野においてもパブリックチェーンの普及が進むと見られている
これにより、ビジネスエコシステムを横断したアセットや複雑なやりとりの追跡・管理が可能になる」と
「パブリックチェーンは競合関係にある企業間のエコシステム。占有的にコントロールするエンティティがいたとしても、他のメンバーから得るものではない」としている
●Swiss Blockchain Federationが発行したデジタルエクイティ向けトークン発行ガイドライン
●ケンブリッジ大のGLOBAL ENTERPRISE BLOCKCHAIN BENCHMARKING STUDY レポート
9. Future Events : 注目イベント
●Hong Kong Blockchain Week(3/2–3/6 at Hong Kong)
●Consensus(5/11–5/13 at New York)
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