今週の注目トピック
Satoshi Miyazakiより
中央銀行によるステーブルコイン発行が、中国を中心にいよいよ現実味のある話となりつつあり、今後の動向に注目である。一方、Bakktによるビットコイン先物契約の提供が間近になりつつある他、オーストラリア証券取引所の株式精算・決済システム開発にブロックチェーンが活用される方針が明らかになるなど、既存金融システムと分散型台帳の間にあった距離が縮まりつつあることが伺える。
プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。
1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減
2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現
Section1: PickUp
●中国人民銀行のデジタル通貨を巡る報道とBinanceResearchレポートについての概観
Libraの発表を踏まえて、中国人民銀行は資本流出による人民元弱体化を警戒し、自身のデジタル通貨立ち上げを加速している。中国人民銀行にとってデジタル通貨を発行する狙いは、「金融政策の効率性を改善すること」「中国のすべての個人とビジネスに関してより包括的に理解すること」および「人民元の回転率と世界における影響力を拡大すること」があるとされる。
このほど、中国建設銀行出身のPaul Schulte氏の話として、中国人民銀行が発行するデジタル通貨を受け取る機関や発行時期などが、Forbesより報道された。デジタル通貨を受け取り、市民へ広げる責任をもつ機関として、中国建設銀行のほか中国工商銀行、中国銀行、中国農業銀行、アリババ、テンセント、決済企業の7社の名前が挙がったほか、発行予定日は11月11日(独身の日)が示された。しかし、こうした報道に対し、中国の情報筋は「発行機関や具体的な発行時期は推測に過ぎない」と否定してみせている。
中国人民銀行が採用するとして示された、商業銀行むけとリテール利用者むけの「2段階システム方式」について、以下に概観する。第一階層では、登録された実名機関を対象として、中国人民銀行と商業銀行をむすび通貨発行・償還を行う。その上で、第二階層では、商業銀行がデジタル通貨を小売業者など市場参加者に再分配するものと位置付けられている。
Source:Digital Currency Research Institute of PBoC, Binance Research
こうした二階層とすることによって、中銀として秒間30万トランザクション処理可能にすることが期待されている。ただし、この方式において、ブロックチェーンを利用するかはまだ決まっていない模様。また、懸念点として、個人の金融プライバシーの喪失をあげることができる。今後どういった形で中国人民銀行のデジタル通貨が公式にローンチするか引き続き注目したい。
● Bakkt、ビットコイン先物開始に向けて、6日から顧客BTCの預かり開始へ
2019年8月28日、米インターコンチネンタル・エクスチェンジ(ICE)の子会社であるBakktが、9月6日より、Bakkt Warehouseにて、顧客のビットコインを安全に保管するサービスの提供開始を予定していることを、Twitter上で発表した。
Bakktは8月中旬に、ビットコインの先物契約を、9月23日より提供開始予定であることを、公式ブログ上で発表している。こちらの先物契約は、ICEの提供する米国向け市場にて、取り扱われる見通しとなっている。
同社のカストディには、ウォーム(オンライン)ウォレットと、コールドウォレットが用いられており、資産の大半はコールドウォレット内で保管されている。説明によると、こちらのウォームウォレットには、FIPS 140–2 レベル3規格(※暗号モジュールのセキュリティに関する、米国連邦標準規格)以上のHSM(ハードウェアセキュリティモジュール)が用いられており、秘密鍵の閲覧、改変、抽出が物理的・論理的に困難になっているとのこと。コールドウォレットに関しても、鍵を暗号化し、m-of-nのアーキテクチャを用いた上で、保管場所をグローバルで地理的に分散させるため、BNY Mellon(バンク・オブ・ニューヨーク・メロン)との協業を行っている。上記のセキュリティに加えて、同社の暗号資産は保険会社により、1億ドル分までの保険がかけられており、安心して利用できる旨について述べられている。
Bakktの4月の公式ブログの投稿によると、ブロックチェーンのさらなる発展に貢献するため、パブリックチェーン上での「価値の移転」に重きを置いたプロダクトの開発を検討しており、その実現のために2年もの歳月をかけて、安全に資産を管理するカストディ機能の立ち上げを行ったとの説明がされている。今後は、先物契約まわりにとどまらず、Bakktによる送金ビジネスやウォレットの開発など、周辺領域への進出にも注目していきたい。
●オーストラリア証券取引所がブロックチェーンを基盤とした株式清算・決済システム開発に向けてVMwareと提携へ
オーストラリア証券取引所がブロックチェーンを利用した株式清算・決済システム開発のためにクラウド事業者大手のVMwareと提携すると発表した。
ブロックチェーン技術サポートは以前よりオーストラリア証券取引所と提携しているDigital Asset社が提供を行う。両社は2017年より既存の株式清算・決済システムCHESSの代替を目的に協業を進めていた。今回VMwareと提携をすることによって両社で進めていたブロックチェーン応用開発をVMware blockchainを基盤として行う形となる。
今年の4月にはDigital Asset社は別途VMware社と提携を発表している。Digital Asset社が開発するDAML言語をVM Blockchain上で利用できるようにすることを目的とした提携である。DAML言語とは、DLT上での金融商品化に特化した言語で今年4月にオープンソースとして公開されている。すでにアクセンチュアやBNP パリバ等の金融関係の大手企業が導入を進めているとも言われている。
オーストラリア証券取引所の新清算・決済システムは従来2020年のローンチが予定されていたが、今回の提携発表時にサービスローンチは2021年Q2にずれ込むことを発表した。Digital Asset社CEOは、既存金融システムの代替は複雑で時間がかかっていると発言している。
先週発表された世界銀行のブロックチェーン債もオーストラリアで発行され、同国の大手金融機関が中心の役割を果たしていたように、既存金融機関が主導するブロックチェーン 実用化事例としてオーストラリアの動きが盛んだ。数年にわたって取り組みが進められており、実用化に近いプロジェクトも多いことから今後もオーストラリアの動きから目が話せない。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Regulation : 規制動向(「スイス当局、Seba Crypo と Sygnumの2社に銀行ライセンスを付与」など)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「Binance、レンディング分野に参入」など)
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「Dharma、v2でCompountと連動して固定金利レンディング」など)
4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「Securitize、取引の事前認証機能を搭載へ」など)
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「平安保険のOneConnect、欧州へ進出」など)
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「中国メルセデスベンツ、自動車残存価値プラットフォームを構築」など)
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「Gaudiy、個人の信用スコアに応じてトークンの売買価額が変動する”Trust Economy bonding curves”をZilliqaで実装」など)
8. Articles : 論考(「欧州中央銀行ECBが発表したステーブルコインに関するレポート」など)
9. Future Events : 注目イベント
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