今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のBiz編Pickは先週に引き続いてスイス証取のPSへの取り組みが紹介された他、IKEAによるProgrammable Moneyへの動きや、BitGoによるステーキング事業のトピックなどブロックチェーン×金融の話題が並びました。List編とともにご覧くださいませ。
プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。
1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減
2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現
Section1: PickUp
●IKEA Iceland、プログラマブルマネーe-moneyで支払執行するスマートインボイス。ファイナンス担保として利用可能に
IKEA Icelandが、Ethereumブロックチェーン上でインボイスをトークン化し、さらにブロックチェーン上のe-moneyでセツルメントを行なった。e-moneyは、アイスランド当局のライセンス済みのMoneriumが発行した、スマートコントラクトベースに条件などを指定できるプログラマブルマネーであり、アイスランドの法定通貨Kronaで決済可能。
今回の取り組みにおける商流は、IKEA IcelandからNordic Storeが購入し、期限到来でe-money用いた支払いを自動執行する流れとなっている。インボイスアセットをトークンとしてデジタル化した上で、取引相手に付与することによって、インボイスが生成する将来キャッシュフローの所有権をトークン保持者に与えることができる。ここで交わされるインボイスは、スマートコントラクトベースに、受け手・金額・支払い条件・期日に基づいて自律的に決済を行うため、「スマートインボイス」と称している。一連のプロセスを自動的に行うため、手作業データ入力やインボイス管理が不用となる。
IKEA Icelandは、情報流と金流をつなぐことによってサプライヤーと顧客のやりとりを変革する取組を、「プログラマブルな金融サプライチェーン」と称している。従来のマネーは、インボイスとセツルメントが分断されており、そのため支払不履行リスク軽減のために多くの参加者が必要となり、ファクタリングなどの金融商品が複雑なものとなっている。今回の取り組みのように、プログラマブルマネー(e-money)とスマートインボイスを組み合わせることによって、支払いが自動化され予測可能なものになり、リスクやヒューマンエラーを減らすことが可能。また、単に管理コスト低減だけでなく、売掛金をトークン化して資産担保ファイナンスに利用できるほか、サプライヤーが同じインボイスを複数回売却するといった不正の防止にも寄与する。
このように、ブロックチェーン上のインボイスとプログラマブルマネーを通じた自動化によって、従来手作業に縛られて実現が難しかった新しいファイナンス機会が可能になることに期待したい。
● BitGo、ステーキングサービスをローンチ
2019年10月3日、世界最大級の暗号資産カストディアンであるBitGoが、ステーキングサービスの提供開始を発表した。また、合わせて、ステーキングサービスの開発企業として知られる、Hedge社の買収完了についても発表された。これにより、BitGoの顧客は、同社のコールドストレージにて資産を安全に保管したまま、ステーキングの恩恵を受けることが可能になった。
BitGoのステーキングサービスは、DASHとAlgorandの2通貨から開始され、最大年利は7~13%の範囲に収まる見込み。万が一、預かり資産が盗難などの被害にあった場合、1億ドル分までが保障の対象になっていることが明言されている。また、年内に対応通貨を増やしていく予定についても発表されており、今後のラインナップに注目が集まる。
ステーキングは、2019年8月時点で、160億ドルを誇る市場規模となっている。多くのプロジェクトがPoS方式に移行することにより、市場規模はさらに大きくなることが見込まれている。今回、BitGoの発表と時を同じくして、10月3日には、Binanceの公式ウォレットであるTrust Wallet上で、COSMOS(ATOM)のステーキング機能の提供開始についても発表が行われ、直近では海外を中心に、大型の事業者によるステーキング市場への参入が相次ぐ形となっている。
高年利のステーキングビジネスは、投資家にとって魅力的な選択肢となるため、暗号資産取引所やOTC事業者、カストディ企業において、事業として活発な動きが続くものと考えられる。各社がステーキング用に対応通貨を増やして鎬を削る中、今後周辺領域においてどのようなビジネスが立ち上がっていくか、注目していきたい。
● SIXスイス証取、独自PSプラットフォームによるPS発行に向け、金融機関を束ねて国際的なコンソーシアム形成に着手
SIX(スイス証券取引所)グループでPSプラットフォーム開発を進めるSDX(スイスデジタル取引所)がPS発行に向けて複数の国の金融機関を束ねたコンソーシアム形成に向けて着手していると発表した。このコンソーシアムには複数の金融機関が参加すると見られているが、全て投資家の立場としての参加が想定されている模様だ 。カストディサービス等はSIXグループ自社で提供するとのこと。
今回のコンソーシアム形成の背景には、SIXが作るPSプラットフォームが既存の金融システムの上位互換としてワークすることを示す狙いがある。資金調達だけであれば中東の王族ファンドや個人富裕層をターゲットにするだけで良いがシステムとしてワークするものとして複数の金融機関からのお墨付きを得ることが狙いである、と担当者は発言している。最初はコンソーシアム内での資金調達を行い徐々にオファリングの幅を広げていく見込みだ。PS一号案件の発行自体は来年中頃の実施を想定している。
金融機関の巻き込みを目的としてSIXはPS戦略の転換も図っている。従来SIXは株や社債など、金融機関の既存メイン金融商品のPS化を目的としてプラットフォームを開発していたが、方針を転換し現在では不動産証券などのオルタナ金融商品の組成を目的に動きを進めている。理由としては金融機関業務とのカニバリゼーションがある。PS化はコスト削減に繋がることから金融機関の一時的な収益低下が見込まれる。そこで、SIXは金融機関の巻き込みを進めるためオルタナ金融商品という新たなマーケット構築を先に推し進めて収益増加をアピールしていく方針をとった、と説明されている。
先週のLayerXニュースレターでもSIXの動きを取り上げたように、SIXのPSプラットフォーム開発の進捗は早く目を離せない。Programmable moneyの発行についても中銀に対して働きかけたというニュースを以前公表した一方で、中央台帳管理期間であるSIXは独自で担保FIATを元にProgrammable moneyを発行する計画もあるようだ。最新のニュースに今後も要注目である。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Regulation : 規制動向
(「米SEC、EOS発行企業Block Oneへ未登録ICOで罰金」など)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
(「有価証券性を評価するCrypto Ratings Council (CRC)が創設」など)
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
(「MakerDAO、Multi-Collateral Daiアップグレードで不具合」など)
4. Programable Security : プログラマブル証券関連
(「日本STO協会がSBI北尾会長主導のもとで設立へ」など)
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
(「野村とLINE、ブロックチェーン関連でアライアンス」など)
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
(「WWF、ConsenSysと慈善活動プラットフォームで協業」など)
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
(「bPassport、bitFlyer BlockchainによるIDシステム」など)
8. Articles : 論考
(「SWIFTのカンファレンスSibosに見る「新しい金融」トピック」など)
9. Future Events : 注目イベント
(「DeFi Summit」「Sibos」など)
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