LayerX Newsletter for Biz (2019/08/12–08/18)
Issue #20

今週の注目トピック
Satoshi Miyazaki より
今週のbiz編pickでは、IBM主導によるサプライチェーン領域での新たなコンソーシアム誕生の動きや、Coinbaseによる巨大カストディ事業の買収、OpenLawのDAIペイメント対応とClauseのサプライチェーン分野進出が並んだ。2019年初頭から後半にかけて、ブロックチェーンの実社会における活用に向けた議論や、金融領域への参入に向けた動きが、ますます活発化していることが伺える。
プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。
1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減
2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現
Section1: PickUp
● IBMがNokiaらを巻き込んだ新たなコンソーシアムを設立へ
サプライチェーンのコスト削減・迅速化を目的にIBMを主導としてNokiaやボーダフォン、レノボらが新たなコンソーシアムTrust Your Supplierを設立した。このコンソーシアムには他にも製造業、製薬業、飲料製造業、電話産業など幅広い業界の大手企業が参画する予定であると発表されている。技術提供にはHyperledger Fabricをメインとしてブロックチェーン実装に向けたコンサルティングサービスを提供しているChainyard社が参画している。
このコンソーシアム形成の背景には、現在サプライチェーン管理に多大なコストがかかっていることが存在する。物流のトラッキング以前に、サプライチェーン上の各企業情報の監査監督に手作業が多く、情報も共有化されていないことから時間的、金銭的コストが課されているのである。Trust Your Supplierでは、サプライチェーンに参画する各企業の銀行情報や税務情報、ISO情報などの情報をデジタルアイデンティティとしてコンソーシアムチェーンに登録して情報の共有化を進め、サプライチェーン管理のコストを下げることを目標としている。
Hyperledgerを利用しているので、情報をチェーン上で共有しながらも、特定の企業のみにデータを開示できるので、プライバシーの問題も解決できるとされている。さらに、このコンソーシアムにはサプライチェーンを形成する企業の他に第三者の監査機関も参画し、彼らの監査がチェーンに載っている情報の正確性を担保する仕組みとなっている。
IBMはすでに自社のサプライチェーンに載っている4000 社の情報をTrust Your Supplierに登録して実用化する実証実験を行なっている。また、IBMがすでに形成したトレーサビリティコンソーシアムをインターフェースを通じてTrust Your Supplierに接続し情報登録から実際のモノのトラッキングまでを一貫してブロックチェーン上で提供可能にできるように動いている模様。
IBMは早くからブロックチェーン技術のトレーサビリティ分野への応用を進めている。実際にWalmart社などとともに食料のトラッキングを進めるFood Trustコンソーシアムを形成するなどコンソーシアムをいくつも作っている。今回のTrust Your Spplierはトレーサビリティの前提環境に必要な条件を揃えに行っているとも見ることができる。今後もトレーサビリティに関連した新たなサービスを提供する可能性もあり、IBMの動きから目を離せない。
● Coinbase Custody、Xapoの法人向けカストディ事業を5500万ドルで買収し、世界最大のカストディ事業者に
2019年8月15日、仮想通貨取引所 Coinbaseの運営するCoinbase Custody(コインベースカストディ)が、スイスの暗号資産カストディ事業者であるXapo(ザポ)の法人向け事業を5500万ドル(約58億円)で買収したことが明らかになった。Xapoは、2013年に設立された、ビットコインのカストディサービスを提供する企業である。スイスアルプスの山中にある、24時間衛星で監視されている、地下壕内の金庫にて、安全にビットコインを管理できることが最大のセールスポイントとなっている。
CoinbaseのCEO、Brian Armstrong氏によると、Coinbase Custodyは、毎週、新規のクライアント10社と、約2億ドル(約200億円)相当の暗号資産が流入しているとのこと。今回のXapo買収により、クライアント数は、あわせて150社を超えると見られている。
Coinbase Custody CEO Sam Mclngvale氏に対する、Fortuneの独占インタビューでは、「金利2%を超える米ドル預金口座や、Compoundのようにレンディングによって収益を得られる手段が存在する中、カストディフィーによってマイナス収益になる手法は魅力的ではないのではないか」という質問に対し、「暗号資産カストディのビジネスモデルは急速に変化しており、顧客がさらなる収益を上げられる手法として、今後はレンディングの展開も視野に入れている」との回答が行われた。
また、Coinbase Custody内の暗号資産については、同社のホットとコールドの暗号資産それぞれにかけられていることに保険がかけられていることに加え、金額が莫大であることから、ロイズ・オブ・ロンドン(Lloyd’s of London)率いるシンジケートによって保険がかけられていることも、合わせて明かされた。
機関投資家の参入を促すためには、暗号資産カストディは欠かせない事業となる一方で、投資家サイドが十分な恩恵を得られるようなビジネスモデルを構築することが鍵となるだろう。今後国内においても、レンディングやデリゲート機能を持つ通貨を用いたステーキング事業に対し、注目が集まると考えられる。
●OpenLaw、オンチェーントランザクションの価値交換手段としてDAIを利用へ。プログラマブル・マネーの新たな展開
OpenLaw Finance上の金融トランザクションむけセツルメントに用いるStablecoinとして、DAIを用いることが発表された。OpenLawのマークアップ言語を用いて金利スワップ契約を生成し、自動計算にもとづいて、DAIを利用したペイメントが可能になる。たとえば、日数や金利に基づいて支払金額を計算し、ペイメントをDAIで受け取るオプションを得ることができる。
OpenLaw上でDAIのインボイス発行するだけでなく、cDAIで金利収入を受け取ることが可能になる(cDAIインボイスのテンプレートはこちら)。cDAIは、CompoundのcTokenを用いたもので、DAIをレンディングサービスに預け、報酬としてcDAIホルダーはレンディングの借り手から得られる金利収入の一部が得られるもの。
CompoundのcDAIの派生形として、rDAI(redeemable DAI)も提案されている。rDAIは、Compoundのマネーマーケットレンディングによる金利収入のみをコミュニティファンドやチャリティや利用しているdappへ譲渡できるもの。Compoundへ預けてcDAIが発生し、DAIの持ち主にはrDAIが渡される。持ち主はいつでもrDAIを元のDAIに戻す事ができる利点がある。
cDAIやrDAIは、寝かせておくだけは価値を産まないマネーに対して、レンディングを媒介させることによる金利収入を動的に移動する機能を付加したものであり、「プログラマブル・マネー」の一種として考えることができる。DeFiの主要プレイヤーとして、CompoundがDAIとの連動による新規サービスを拡大していく中、OpenFinanceのような「金融トランザクションをプログラマブルに執行するプラットフォーム」においても、決済手段としてDAIとの連動がはかれるようになってきている。「プログラマブル」なデジタルアセットを活用することによって拓かれる、今後の新たな金融サービスの創出に注目していきたい。
●スマートリーガルコントラクトのClause、燃油サーチャージ事務でサプライチェーン分野進出。あわせてDocuSignとも提携発表
将来の燃油価格における不確実性は、運輸・ロジスティクス・倉庫などの業界にインパクトを与えるものであり、交渉・管理プロセス煩雑さが課題である。例えば運輸キャリアは、燃油価格変動に合わせた契約としないと採算がとれない。各社が個別計算したサーチャージを各々チェック重ねるためプロセスは遅く管理コストが嵩むといった問題を抱えている。
そこで、法律事務所BakerHostetlerは、スマートリーガルコントラクトClauseと協働で、燃油価格データに基づく計算およびペイメントシステムを連動させることによって、折衝からドラフト作成・執行における手間を削減しようとする取り組みを発表した。具体的には、ロジスティクス契約、プライシング、インボイス発行、ペイメントのプロセスにおいて、署名後の執行を既存のエンタープライズシステムと連動して燃油サーチャージ事務を試行する。
ベースとなるのは、ClauseのSmartClauseを応用したBakerHostetlerのConnected Contract。「Connected Contract」は静的な契約文書を内外のビジネスデータと連動させて契約義務遂行を自動化するもの。Clauseの「Smart Clause」には、自然言語テキスト、パラメータ、およびコードが含まれる。Smart Clauseにより契約文書中のテキストと内外データソースおよび既存システムを連動できる。
今回の取り組みでは、Smart Clauseテンプレートとペイメントシステムおよび燃料価格データを連動し、週次で価格計算に基づいて契約で求められる支払額を調整する。台帳としてHyperledgerFabricを用いて関連業者や監査における透明性を確保するとしている。
売り手・買い手などステークホルダーは、Connected Contractに関わるデータや計算リソースを分散台帳上で共有する。手作業によるドキュメント作成・レビュープロセスを削減するため、インボイスは自動生成され、事前に定めたアラートとあわせ自動承認。ペイメント情報は共有台帳に記録されるほか、自動APIコールが燃油価格をサーチャージ契約とリンクして燃油サーチャージ計算を行う。
ブロックチェーンを用いる便益としては、以下3点を挙げている。
①サーチャージ計算二重チェックにむけた重複手作業をプロセス簡素化。
②関与する多くのプレイヤーの実行結果を監査証跡として記録することにより、納得感の醸成や、透明性・信頼性の向上に寄与。
③各社が独自にDBを立上げ同期をとる代わりに、共有台帳上で複数パーティ間の情報を同期。Connected Contractは、サプライチェーン分野におけるスマートリーガルコントラクト用いた新規サービスカテゴリーを拓くもの。今回のソリューションにより、通信・エネルギー・製造などサプライチェーンや調達分野でのスマートリーガルコントラクト適用をはかるとしている。
この他、このほどClauseは、DocuSignとの提携を発表した。DocuSignを通じて送られた文書に組み込んだ上で、監査証跡にデータを追加したり、特定のイベントをトリガーしたりといったオペレーションを行うことが可能。DocuSignのenvelopesと繋げて、条件を満たしたときに自動的にペイメントを行なったり、信頼できる外部データを用いてコントラクト内の値を計算したり、エンタープライズシステムとコントラクトデータをリコンサイルするなどが可能。Clause Platformが提供するConnectorを用いて、データをコントラクトに持ち込んだり、外部システム上でアクション実行することが可能。例えばリアルタイムプライシングなど。
スマートコントラクトを法的契約と連動させたスマートリーガルコントラクトのキープレイヤーとして、OpenLawと並ぶClauseの戦略が、明らかになってきた。金融のみならず、燃油サーチャージといったサプライチェーン関連分野への進出や、DocuSignなどリーガルテックのメインプレイヤーと連携することを通じて、現実的な実装例を見出していくことに注目していきたい。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Regulation : 規制動向(「ニュージーランド内国歳入庁(IRD)、給与を仮想通貨で受け取る場合の課税ガイダンス提供」など)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「Bakkt、ビットコイン先物を9/23ローンチとの発表」など)
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「rDAI(redeemable DAI)、Compoundのマネーマーケットレンディングによる金利収入のみをコミュニティファンドやチャリティや利用しているdappへ譲渡可能」など)
4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「tZEROトークンが一般投資家にも解放へ」など)
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「中国人民銀行、二階層モデルで中銀デジタル通貨を準備」など)
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「モスクワ市、Ethereumベースのオークションシステム構築」など)
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「CurioInvest、Ferrariなど高額かつ工場から直販でありまた恒常的メンテナンスが不可欠なため手が届きにくい高級自動車への投資を可能とするプラットフォーム」など)
8. Articles : 論考(「Facebook仮想通貨「リブラ」は本当に危険か?グローバル金融システムの破壊者にはなれない」など)
9. Future Events : 注目イベント
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#3 (2019/04/15–04/21)
#4 (2019/04/22–04/28)
#5(2019/04/28–05/05)
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