今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のBiz編には、中国系のブロックチェーン応用事例が2つ、日銀総裁による講演の要約がpickされました。中国の金融分野におけるブロックチェーン応用の積極性が今週のニュースからも窺われる一方、日本でもブロックチェーンの社会実装に向けて機関中央から少しずつ動き出していることが伝わります。ニュース下部のリスト編と共にご覧くださいませ。
Section1: PickUp
●米国NYSE上場準備を進める中国平安保険の子会社OneConnect社の取り組み
中国平安保険グループの子会社であり、金融サービスむけにAIやデータ分析およびブロックチェーン分野におけるテクノロジーを提供するOneConnect社が、ニューヨーク証券取引所に上場予定であると発表された。FinTech関連ブロックチェーン特許でAlibabaやChinaUnicom・Tencent・WeBankを抑えてトップであり、その取り組みを俯瞰する。
OneConnect社は、ブロックチェーン開発におけるプライバシー保護(ゼロ知識証明)やパフォーマンスおよび相互運用性を解決するFiMAX S3C を開発している。FiMAXはBlockchain-Network-as-a-Service (BNaaS)を標榜し、チェーンやノードが単一アカウントにより生成される一般的なBaaS (Blockchain-as-a-Service) と異なり、ユーザが独立してブロックチェーンネットワークを生成できる点が特徴。ユースケースとしては、トレードファイナンス・サプライチェーンファイナンス・中小企業むけファイナンス・再保険の他に、ABS(資産担保証券)などを対象としている。
トレードファイナンス分野では、2018年10月に、香港金融管理局HKMAのトレードファイナンスプラットフォーム「eTradeConnect」を開発。12の銀行が参加し、FiMAXを用いてシームレスな情報共有を実現している。さらに2019年4月には、天津港のクロスボーダー取引検証プロジェクトを実装済み。
サプライチェーンファイナンス分野では、FiMAXを介して、注文や輸送のデータを管理し、ペーパーレス契約やコンプライアンス検証、金融リスク評価などの機能を実装。ペイン解決に加えて、サプライチェーンのデータ価値を最大化することによって、サプライチェーンファイナンス業界の発展を加速するとしている。具体的には、中小企業むけファイナンスとして、FiMAXブロックチェーンを通じて、企業データを暗号化しした上でアップロードすることによって、情報の透明性を向上を図る。改ざん困難で追跡可能な形でデータの真正性・信頼性を確保することで、中小企業が金融リソースにアクセス可能とするとともに、金融機関が中小企業の信用力評価をより正確にできるようにする。中国国内に止まらず、フィリピンUnionBankとも提携している。
再保険分野においても、FiMAXを用いて、複雑なリコンサイルや非効率なコミュニケーションなどを解決している。
さらには、こうしたFiMAXだけでなく、スマートリーガルコントラクトALFA Smart Contract Cloud Platformも提供。これは、1000種類の標準契約テンプレートを用意し、契約サイクルのプロセス管理を図るもの。具体的には、ブロックチェーンに登録されたテンプレートをもとに編集してコントラクトを生成し、コントラクト実行結果をロギングする流れ。平安グループの各セクターへロールアウトされており、ABS(資産担保証券)の契約管理においては、通常2–3週間かかるところを30分に短縮できたという。
このように、ブロックチェーンを用いた金融サービスにおける情報管理・契約プロセス管理を通じて実績を積み重ねているOneConnect社の取り組みに引き続き注目したい。
●日銀 黒田総裁による講演:「決済のイノベーションと中央銀行の役割―ステーブルコインが投げかけた問題―」について
2019年12月4日、創立35周年記念FISC講演会にて、日銀の黒田総裁が「決済のイノベーションと中央銀行の役割―ステーブルコインが投げかけた問題―」と題し、講演を行った。講演内容の全文はこちらで公開されている。
講演の導入部では、今年一年を振り返って一番大きなニュースとなったのは、FacebookによるグローバルステーブルコインのLibraであったと述べ、従来の民間マネーと異なり、マネーロンダリングや投資家保護の観点において十分な検討を行わないうちには、国際金融の安定性を揺らがしうるものであったとし、グローバル・ガバナンスの観点からステーブルコインを整理するとどうなるのか、また既存の決済システムをどのように改善していくべきかについて、述べる内容となっている。
グローバルステーブルコインについて整理する上で、「金融のトリレンマ」の概念を用いて説明を行っている。これは、1. 金融の統合(Financial integration)と2. 金融の安定(Financial stability)、3. 国内金融の規制(National financial policy)の3つを同時に達成することはできず、1つは諦めざると得ない、とするものである。グローバルステーブルコインはグローバル送金を推進するものであり、1の金融の統合の要素を有している。ここで、同時に2の金融の安定を守る場合、国際的に規制の歩調をあわせて安定化を図る必要が出てくるため、3の国内金融規制は諦めざるを得なくなる。
グローバルステーブルコインは、既存の通貨の持つ価値を依り代にして発行するものである。これは「国際金融の安定」という国際公共財を使って通貨を発行していることに他ならず、グローバルステーブルコインが公共財の器を超えるほどのリスクを背負い込んだ場合、急激な資本移動等により、国際金融市場の安定性が脅かされうる可能性についても、言及している。
また、既存の決済サービスの課題として「相互運用性の欠如」を挙げている。今日では、各社でそれぞれ決済サービスを提供しているものの、相互の運用性がないが故に、ネットワーク効果による便益が限られたものとなっている。ここで、デジタル円のようなグローバルステーブルコインを用いることで、相互運用性が確保されることによる決済サービスの改善に期待できる可能性があるとしている。今後、日本における民間デジタルマネーがどのように発展して相互運用性を獲得していくか、また中銀マネーにどのような影響を与えていくかについて、引き続き注目していきたい。
●中国銀行が中小事業者支援を目的とした2800億円規模のブロックチェーン社債を発行
中国銀行は自社開発のブロックチェーンプラットフォームを利用して、中国国内の中小事業者支援を目的とした2800億円のブロックチェーン社債の発行を行ったと発表した。発行された社債は利率3.28%の2年債であると発表されている。
今回のプロジェクトでは、社債権者の証明・書面のやりとりの証明などの部分でブロックチェーンが利用されていると発表されている。利用しているブロックチェーンは中国銀行が独自で開発したものだという。中国銀行は中小企業への融資支援を推し進めており、今回の自社ブロックチェーン債発行もその戦略の一つであると推測される。9月には約6000億円にも上る融資を国内中小企業向けに実施しているなど直近の動きが活発化している。
中国銀行の担当者は、ブロックチェーンを利用した社債発行は中国国内では初めての事例であると述べており、以前から金融領域のおけるブロックチェーンの活用における中国金融事業者の動きが活発であったが、今回のこのプロジェクトにより「社債発行」の分野にも進出してきた事になる。
このニュースと同時期に、格付け会社Fitch Rating社より「ブロックチェーンを利用した証券化領域に置いて中国は牽引する立場にある」、とするレポートが発表されるなど世界各国でも中国のブロックチェーンへの取り組みに注目する動きも見られている。ただ、同レポート内で中国のブロックチェーンプロジェクトはプライベートなコンソーシアムを利用したものであり格付け等が難しい一面もある、またブロックチェーンは業務全体の一部でしかまだ活用されていない、などの指摘もなされており成熟余地はまだまだ多いことがわかる。分散台帳の技術が逆にコンソーシアム外への情報隔絶にも繋がる可能性があることを示唆したこのレポートから窺われるのは、一機関がコンソーシアムを主導した場合に如何に透明性を担保したエコシステムを作り上げるのか、がブロックチェーンの効果や意義を最大化する一つのポイントになってくると推測される。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●中国、Ethereum ブロックエキスプローラEtherscanをブロック
●英領ヴァージン諸島、米ドルに1対1で連動するデジタル通貨を開発
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●Bakkt、現金決済BTC先物・BTCオプションの詳細を公開
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●ConsenSysによる2019年のDiFi振り返り記事
Open Financeの特質として、(1)Interoperable,(2)Programmable,(3)Composableを挙げている
●DeFi向けにEOSと1:1ペグするERC20トークン pToken
マルチTEEオラクルを介したTrusted Computing用いてブロックチェーン技術を補完し、クロスチェーン実現するとのこと
4. Programable Security : プログラマブル証券関連
●NeufundがeBike開発業社のPS発行を実施し約1.5億円の調達に成功したと発表
●Provenanceを開発するFigure社が100億円を超える調達をシリーズCラウンドで実施
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●Ant Financial、中小企業の融資審査時間を3か月から最短1秒に短縮
●中国ネット裁判所、ブロックチェーンで1.94億件以上の証拠保全データを保存
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●中国独身の日に活躍したAnt Financialのブロックチェーン。トレーサビリティ、著作権保護、サプライチェーンファイナンスで
●Boschの「Economy of Things」チーム、セカンドレイヤープロトコルPerun用いた実装ソリューションとしてオープンソースプロジェクト「Direct State Transfer」立ち上げ
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●Centrifuge、サプライチェーンファイナンスをブロックチェーンに適用
8. Articles : 論考
株式や債券、集団投資スキーム、等のタイプ別に証券トークン化のプロセスを定義している他、技術・法務面のガイダンスを提供
●日銀黒田総裁講演「決済のイノベーションと中央銀行の役割―ステーブルコインが投げかけた問題」
●国際決済銀行BISによる「マネーとペイメントシステムの未来」レポート
●仮想通貨はどこへ向かうのか?GMOインターネット株式会社 代表取締役会長兼社長 グループ代表 熊谷正寿氏が描く未来
●Outlier Venturesが行ったイベントDiffusion 2019の動画
●Programmable money~ブロックチェーンが引き起こす劇的な変革のシナリオ:デジタル通貨と決済
9. Future Events : 注目イベント
●Hong Kong Blockchain Week(3/2–3/6 at Hong Kong)
●Consensus(5/11–5/13 at New York)
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