LayerX Newsletter for Biz (2019/09/16–09/22)

Issue #25

今週の注目トピック

Eisuke Tamotoより

今週のBiz編は先週に引き続き畑島氏による海外カンファレンス超速報解説記事(今週は上海blockchain week)がメイン記事となっております。その他、Wells Fargoによる決済用ステーブルコインの活用のニュースや、Harborによる不動産証券化プロジェクトなど金融に関するニュースが今週はリスティングされております。

プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。

  • 1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減

  • 2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現

Section1: PickUp

上海Global Blockchain Summit現地レポート:シンガポールDBS銀行・中国WeBankのブロックチェーン戦略

  • 上海のBlockchainWeekの一環で、Global Blockchain Summitが開催された。Wanxian Blockchain Labsのホストのもと、第5回を数えるものであり、中国最大かつ最も影響力のあるブロックチェーンの会合と言われ、今回の参加者2000名にのぼる大規模なものだった。内容は、技術・応用の両面にわたるが、中でも「シンガポールDBS銀行」のサプライチェーンファイナンス、「WeBank」によるBank4.0的な利活用戦略を中心に概観する。

  • シンガポールDBS銀行は、「World’s best digital bank 」の称号を冠されること複数におよぶデジタル推進の急先鋒。ブロックチェーンについても「バンキングのReimagining」を図るべく取り組みを推進しており、
    その一つが「金融 x サプライチェーンの取組」である。ブロックチェーン上に商品やインボイスの流れを記録し、サプライヤーによる商品提供をうけて生成されたインボイスに基づき、買い手が支払い決済を要求すると、銀行APIを通じて即座に資金移転を実行し、その結果を通知する。

  • このように、ブロックチェーンと銀行APIを連携させて、サプライチェーンの全参加者を単一プラットフォーム上でシームレスに情報交換した上で、おカネ・ロジスティックスおよびサービスのフローを効率的に統合することができる。ブロックチェーンを用いることによって、複数参加者間のデータの同期・透明性・追跡可能性を維持し、商品の物理的な動きとファイナンスの流れを同期(リコンサイル )したり、紙の書類やデータインプットといった手作業を排除し、時間短縮を図ることに寄与する点が特徴的といえる。

  • 次に、中国WeBankは、Tencentによる株式保有が3割で、エンジニア比率5割にのぼる、個人および中小企業むけにサービス展開をはかっている「チャレンジャーバンク」である。技術戦略である「ABCD(AI、Blockchain、Cloud、BigData)」の中でブロックチェーンは主要な一角を占めている。同社のブロックチェーン適用における考え方は、銀行以外の事業会社を含めたマルチプレイヤー環境において、流通する情報のトラストを担保するための「トラストマシーン」として活用するというもの。

  • 例えば、複数銀行をブロックチェーンを用いたリコンサイルシステムで接続するほか、オープンソースのコンソーシアムブロックチェーンプラットフォームFISCO BCOSを組成するなどが代表的。オープンソースで「WeIdentity(デジタルID)」「WeBase(ミドルウェア)」「WeEvent(イベント駆動プロセス)」を提供し、銀行・サプライチェーン・新小売・スマートシティ分野での展開をめざす。具体的には、マカオ政府の大湾岸圏構想において、ブロックチェーンによるスマートシティー構築で提携関係を構築。金融機能をパーツとして提供していくという、いかにも「Bank4.0」時代を代表的な取り組みと言える。
    (1) WeIdentityは、分散IDファウンデーション(DIF)メンバーとして開発したデジタルID(W3CのDID仕様準拠)。資格証明書のコンテンツハッシュ値や発行者の署名をブロックチェーン格納し、欧州GDPR準拠で認証データ管理するのが特徴。
    (2) WeBaseは、ノード管理やデプロイ、秘密鍵管理、データ分析、マイクロサービスなどの機能を提供するミドルウェア。
    (3) WeEventは、イベントドリブンで組織横断・プラットフォーム横断のコラボレーション・イベント通知を行うもの。イベントはブロックチェーンに格納されるため、改ざん困難・トレーサビリティ・監査可能性を担保できるのが特徴。(上記3つのGitHubはこちら

  • このほか、保険コンソーシアムのB3iについて、世界のリーディング再保険プレイヤーが集まり、市場全体のプロセスを自動化・最適化することによって、単体では実現できない時間やコストの極小化を目指している旨が紹介されるなどした。このように、ロジックのアンバンドル化が進展し、アセットの発行・交換ロジック等が、KYC/AML組込を含め、プログラマブルな世界になりつつあることが窺えた。

  • さらには、IoTやAIにおけるデータへの信頼をブロックチェーンが補完するという位置付けのもとに、モノのアイデンティティと連動したIoTペイメントなど、5G時代を見据えIoTによる新しい金融サービスを目指す動きも。上海Global Blockchain Summitのテーマは「新十年新起点 New Decade & Beginning」であったが、LayerXが賭ける「次の10年」に繋げていきたい。

米ウェルズファーゴ、クロスボーダー決済サービスWells Fargo Digital Cash立ち上げ計画を発表

  • 米Wells Fargo銀行が、ブロックチェーンプラットフォーム上で稼働する
    クロスボーダー送金サービスの立ち上げ計画を発表した。「Wells Fargo Digital Cash」は、トークン化されたドルであり、社内決済用に試験運用するとのこと。グローバルネットワークにおける国境を超えた社内決済を可能にすることが狙い。トークンを用いて資金移動することによって、クロスボーダー決済における摩擦を緩和するだけでなく、通常の業務時間外に資金移動が可能なほか、仲介業者の必要性をなくし送金時間とコストを削減できる点がメリット。

  • 試験運用を2020年に行なった上で、将来的には米ドル以外の通貨への拡大が見込んでいる。プラットフォームは、「Corda Enterprise」のクロスボーダー送金向けアプリケーション「Corda Settler」上で構築される予定。なお、「Wells Fargo Digital Cash」を「トークン化された法定通貨をサポートする分散台帳にもとづく社内決済システム」として位置付けており、仮想通貨やStablecoinとはみなしていないとのこと。

  • この「Wells Fargo Digital Cash」に近い取り組みとして、JP Morganがクロスボーダー送金市場におけるJPM Coinならびに銀行間情報ネットワーク(Interbank Information Network:IIN)をあげることができるだろう。IINは、Quorumブロックチェーン上に構築され、クロスボーダー決済に関するデータを分散台帳管理することによって、顧客企業同士の情報交換を促すことで銀行間決済の時間・コストの削減を図るもの。3月時点で185の銀行が参加表明していたが、9/18に開示されたリストによれば、ドイツ銀行のような大手を含む300を超える銀行が名を連ねている。さらに今後2019年末までに400行の参加を目指しているとのこと。

  • 銀行送金の競争は、中銀デジタルマネーやJP Morganのインフラ、IBMの国際送金ネットワーク「IBM Blockchain World Wire」などメガプレイヤー中心の競争が展開されることになるだろう。それ以外の金融機関・事業会社としては、こうした送金プラットフォームを用いた、新たな金融アプリケーション・サービスの競争へと軸足を移していくことが想定され、今後の動向に注目したい。

Harborが方針を転換し、ホワイトラベル形式での既存証券のトークン化へ着手

  • Harborが独自のサービス上で投資家を募集するクラウドファンド型のビジネスから、自身のプラットフォーム機能を既存金融プレイヤーへ提供するホワイトラベル形式のビジネスモデルに変更していくと発表した。その第一弾として今回、不動産管理企業のiCap Equityとともに彼らが運営する100M$相当の不動産のファンド持分のトークン化を実施する。

  • この不動産ファンド証券化プロジェクトはすでに投資家が1000人以上参画し、媒介機関も17機関参加している合計4つのファンド持分をPS化するものである。既存持分をPS化することで持分の流動化を容易にすることを目的にしているとCEOは発言している。従来の不動産ファンドの持分は数年ロックアップが存在するほか、流動化する場合譲渡先の投資家を自ら探す必要がある上に譲渡に際して紙の資料を通じた手続きが煩雑に存在すると言った弊害があった。それをPS化させることで自動化を進めることが狙いである。既存の市場でもすでに年間2M$程度の流動化ニーズがiCapに存在しているとiCapの担当者は説明しており、自動化が進めばこの規模がさらに拡大する可能性があるのだと推測される。

  • Harborの今回の事業方針の変更の背景には一号案件の失敗があったと推測される。Harborは今年初めに、20M$規模の学生寮の不動産証券化をPSで実施しようとしたが失敗しリファンドを行ったという経緯がある。原因として銀行ローンとの折り合いがつかなかったことがあるという記事が出ている。こうした経験の中で、自社でPS事業を行うこと以上に既存プレイヤーとの提携の方が効果が大きいと踏んだのだと考えられる。HarborのCEOは仮想通貨に投資する投資家のニーズと不動産証券化のようなPSに投資する投資家のニーズとは全く異なるものだったと発言しており、独自でビジネスを行う難しさが垣間見える。

  • Harborは早くからPS分野でも不動産に特化して事業を行っており、この事業経験が事業方針変更によって今後どのように活かされていくのか目が離せない。

Section2: ListUp

(リンクはこちら

1. Regulation : 規制動向(「BIS(国際決済銀行)、ブロックチェーンに組み込まれた形での規制をレポートで示唆」など)

2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「Abraウォレット、キャッシュレス決済企業ECPayと提携しフィリピンのセブンイレブンでBitcoin購入可能に」など)

3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「Gnosisによる初めての予測市場アプリケーションがローンチ」など)

4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「Asset BlockがAlgorandを利用した不動産証券化プラットフォーム開発へ言及」など)

5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「Bank of America、Marco Poloトレードファイナンスコンソーシアムに参加」など)

6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「伊藤忠など、コーヒーのサプライチェーントラッキング」など)

7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「PoL、MakerDAOと協業しDeFiむけオンライン学習カリキュラムを提供」など)

8. Articles : 論考(「Gartnerのブロックチェーンビジネス版ハイプサイクル」など)

9. Future Events : 注目イベント

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