今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週の注目ニュースに日英のクリプト規制に関わるニュース記事がpickされました。イギリスでも日本同様にProgrammable Securityと決済暗号資産の分類が進んでいるようです。日本では改正金商法の細部について、イノベーションを阻害させないような形になるように働きかける動きが進んでおり、新経済連盟による今回の提言もその一つと言えるでしょう。
その他、フィリピン中央銀行のサポートを受けた市中銀行によるステーブルコイン発行など注目ニュースも並んでいます。ぜひリスト編と合わせてご覧ください。
プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。
1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減
2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現
Section1: PickUp
●新経済連盟、ブロックチェーン/暗号資産に関する要望を金融担当大臣ほか関係大臣宛てに提出
5月31日に「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、資金決済法・金融商品取引法が改正された。制度の細目は今後制定される内閣府令等で定められることとなっている。
このほど、新経済連盟は、「今後府令やガイドライン等の詳細を定める際は、セキュリティトークンやカストディ、ステーブルコインについて、現状の課題を十分に踏まえ、イノベーションを阻害しない規制の内容とすべき」と要望を出した。
セキュリティトークンについては、現状の新法においては「投資型ICO等で発行されるセキュリティトークンは金融商品取引法の適用対象」「セキュリティトークンは、内閣府令で定められる場合を除き、1項有価証券としての厳格な規制が課される」こととなっている。これに関連して、新法の条文上、「流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合」は電子記録移転権利(1項有価証券)から除外されることとされているほか、新法の国会審議においても、流通性が低い場合は1項有価証券に分類しない旨を金融庁局長が答弁している。
こうした「流通性」について、スマートコントラクト等により流通性を制限する場合は流通性は低いままであり規制の実質的根拠がなく、契約又は技術により流通性が制限されている場合は、1項有価証券としての規制を課す実質的根拠がないと考えられる。そのため、「電子記録移転権利に該当しないと府令で定めるもの」として、以下を含めることを提案している。
- 譲渡対象が制限されている (例:サービス内の会員やホワイトリスト掲載者にのみ譲渡可能)
- 一定のロックアップ期間が設定
- スマートコントラクト等の技術により、流通性が制限されていることが担保されている、などまたカストディについては、カストディ事業者の定義は、単に「他人のために暗号資産の管理をすること」とされており、具体的範囲が明確でないこと、少額預入の場合であってもカストディ事業者から除外されないなど規制の範囲が広範になりすぎる懸念があること、およびコールドウォレットの定義によっては、事業者にとって過大な負担となる懸念があることを課題提起している。
そこで、「カストディ事業者への該当性及び規制内容の判断はリスクベースアプローチを採用し、必要最小限の規制とすること」「秘密鍵の管理方法によってリスクのないケースは、カストディ事業者とならない旨、ガイドラインにおいて明確化すること」および「コールドウォレットの定義を”流出リスクが十分に低減されている又はそれと同視できる状態での保管”とし、物理的な遮断(例:秘密鍵を保管するハードウェアを金庫に保存)に限定しないこと」を提案している。
ステーブルコインについても、通常の暗号資産の場合に「日常の決済において、決済等のたびにコインの時価を気にする必要がある」ことや「電子記録移転権利の配当を支払うにあたり、銀行口座に法定通貨で支払うのではブロックチェーンのメリットが発揮できない」ことから、通常の暗号資産の性質を補うものとして、今後の普及が期待されている。
これに対して従来の規制は、ステーブルコインの存在を想定しておらず、ステーブルコインにはさまざまな類型のものがあるが、その法的な位置づけが明確でないといった課題があると指摘している。そこで、「ステーブルコインの類型ごとの法的性質を、ガイドライン等により可能な限り明確化する」「特に、法定通貨担保型以外のコインは、非通貨建資産であり暗号資産となることを明確化する」ことを提案している。
主にセキュリティトークン・カストディ・ステーブルコインに関して言及されている。内容としては、新法の改善が期待される点・問題点についてまとまったものになっていると考えられる。日本が世界で存在感を発揮していくためにも「イノベーションを阻害しない規制の内容とすべき」という主張に賛同したい。
●フィリピンUnionBank、ペソ連動ステーブルコインを発行
フィリピンの大手商業銀行であるUnionBankがペソに連動する独自のステーブルコイン(PHX)発行を発表した。PHXは、UnionBankの準備金を担保として価値の裏付けを行うものであり、フィリピン中銀の承認・サポートを得た上で、銀行間や個人間の送金における効率・透明性の向上をはかるとしている。利用方法としては、同行の口座からペソを引き出してPHXを購入するほか、PHXを口座へ入金してペソに戻すことができる。同行曰く「PHXはステーブルなSoV・交換手段であり、また自己実行ロジックを持つプログラマブルなトークンである。ペイメントの透明かつ自動的な執行を可能にする」とのこと。
すでに、他の国内商銀を接続するブロックチェーンプラットフォーム「i2i」上で国内送金を確認済み。「i2i」は、ConsenSys社のKaleidoプラットフォーム上で開発された決済システムである。
UnionBankは、「銀行として新たな金融モデルにおけるサービス提供を推進することが重要」という意図のもと、新しい銀行サービスに積極的な銀行である。傘下にFinTech企業UBX Philippinesを設立して、IoTなど銀行以外のプラットフォームを通じた銀行取引を行う「Embedded Banking」に取り組んでいる。デジタルアセット関連分野においても、仮想通貨ATMの設置を通じて、ペソと仮想通貨の交換チャネルを銀行顧客に提供し、トークンのエスクローサービスやカストディアンサービスを開発している。さらに、デジタルIDを活用したインターフェース開発を通じて、これを新たな銀行口座としてウォレットの機能拡張を狙うなど、ブロックチェーン技術を活用した新たな金融サービスモデルの構築にも積極的である。
こうしたUnionBankが独自に発行したステーブルコインであるPHXは、支払いの自動執行も可能であり、これを応用したあらたなサービス開発も考えられる。また、銀行間のリコンサイル (突合・照合)に関する非効率の課題が解消されるほか、コンプラ対応の効率化・監査の透明性向上も期待できるとしている。デジタルアセットに関するエスクロー・カストディアンサービス、デジタルアイデンティティサービスといった、新たな金融モデルの構築がさらに進展していくことに期待したい。
●MOBI(Mobility Open Blockchain Initiative) 、分散台帳ベースの車両アイデンティティの標準を発表
クルマに関連したデータをブロックチェーン上で生かす動きが広がり始めた。例えばBoschはEV充電に取り組んでいるほか、BMWはリセール価格操作を狙ったオドメーターデータ改ざん防止に取り組んでいる。
そうした中、ホンダ・GM・Ford・ルノー・BMWなどが参加し、自動車業界横断でブロックチェーン活用にむけた検討を行なっているのが、MOBI(Mobility Open Blockchain Initiative) 。MOBIのChris Ballinger CEOは、日経xTECHの取材に対して、ブロックチェーン活用の意義を
「(グーグルなどは)自らが所有するデータを『サイロ(貯蔵庫)』に囲って、大きく成長してきた。MOBIではデータのサイロを破壊し、広く活用できるようにする」と述べている。また、4/21づけの日経記事では「使われるトークン(デジタル権利証)は主に2種類ある。1つは資産トークンと呼ばれる。例えば車1台ごとに製造から流通、所有権、走行、修理まで履歴が残り、新しいIDになる。中古車の売買やシェアリングなどで、仲介者なしで個人間の取引もしやすい」「2つ目はお金の代わりになる決済用のトークンだ。燃費の良い運転、渋滞を緩和するような運転をする人にトークンを与えて、特典があれば環境や都市問題の解決につなげることもできる」「車が分散型データを持ち、互いの周辺認識や走行の特徴を自動で交換すれば、より安全で効率的な交通が実現できる」と述べている。このほど、MOBIのVehicle ID(VID)ワーキンググループより、「分散台帳技術ベースのVehicle ID」に向けたスタンダード文書が発表された。初版のVIDスタンダードでは車両の出生証明にフォーカスし、カギ管理ふくめた全体システム概要、車両識別子のフォーマットや出生定義など記載されている。システム概要としては、中核にVIDを据え、車両にはアイデンティティや所有権やワランティや走行距離など資格証明を格納するウォレットを搭載し、道路料金や駐車場などのネットワークとも接続するとしており、データオーナーはデータマーケットに参加してデータのマネタイズを選択することもできるとのこと。現行ソリューションと比較した利点として、データの共有や規制に際する「データソースや来歴の確からしさ」を挙げている。
今回のVID標準策定によって、MOBIは異なるアプリケーションが同一のアイデンティティフォーマットを参照できるようにする狙いがある模様。今後、アイデンティティ向け共通言語によるアプリケーション開発(料金支払いなどのV2X通信)などを想定している。第1フェーズでは新車の存在証明を備えるVIDをターゲットとし、将来的なカーライフサイクルのイベントトラッキング(所有権変更・修理・保険請求)に繋げる考えであり、その際にはVIDを通じてデータアクセスを可能とする。このほか、V2V通信(車両対車両)やV2I通信(車両対道路インフラ)といったV2X通信を介して、自動運転への応用も期待されている。
MOBIとして、クルマのアイデンティティ情報として、クルマに紐づく来歴という車両価値にするデータを共有するユースケースを掲げたといえる。今後、クルマの各種履歴情報がVIDを介して共有され、さらには決済やV2X通信とつながっていくことを通じて、未来のモビリティのあり方・ユーザー体験のあり方が進化していくことを期待したい。
●イギリスFCAが暗号資産の分類に向けたガイドラインを提唱
イギリスのFinancial Conduct Authority(FCA)が7月31日に暗号資産の定義に関するガイドラインを発表した。このガイドラインは元々今年の一月にFCAより発表されたドラフトを基にパブリックコメントを募集し、そのコメント等を勘案した上で再度修正されて発表されたガイドラインとなる。
パブリックコメントに銀行や法律事務所、仮想通貨取扱い業者など92社が参加するなど多くのフィードバックが受け付けられた模様である。そのうち今回のガイドラインは多くのフィードバックで賛成を受けたものが並んでおり、官民連携の取れたガイドラインになっている。今後はこのガイドラインを基にイギリスのクリプト規制が形作られていく。
このガイドラインではブロックチェーン上で発行される通貨を、FCAの監視下に入るSecurity Token、e-moneyと規制が特に課されないExchange tokenとに分類する基準を表している。具体的にSecurity Tokenの適用基準は、FCAがすでに証券判断として定めている「Specified investment」に該当するか、で判断される。e-moneyは今回新たに設定された分類で、法定通貨建のステーブルコインが該当するとされている。Exchange Tokenには中央管理者がおらず取引のみに用いられている通貨が当てはまる。具体的には、BitcoinやEthereumがここに該当すると説明されている。故に、BitcoinやEthereumに加え、Security Tokenやe-moneyに当てはまらないユーティリティトークンには、KYCなど一般的に求められている規制以外は課されない、という事になる模様である。
一方で、仮想通貨取引所については投資家保護の観点などから独自規制を設ける動きがあったり、デリバティブ取引についても10月を目処に規制を制定するという動きもあるなど、実際にBitcoin等を用いてビジネスを行う際には規制が課されるという点には注意したい。
また、今回のガイドラインはあくまで一般的な分類であり、個別トークンの証券該当性などについてはFCAによる個別アナウンスや今後の判例が出てくるのが待たれている状況である。EU離脱等により国内の自律性が増すと今後FCAの影響力はさらに高まると推測されるため、FCAの動きの注目度は今後さらに高まっていくだろう。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Regulation : 規制動向(「米上院、仮想通貨・ブロックチェーン関連規制に関する公聴会」など)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「Facebook、Libraローンチの延期・中止の可能性を示唆」など)
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「Set Protocol、”ETH20SMACOのリバランス”を初めて実行」など)
4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「TokenSoft、toBのe-KYCサービスを提供へ」など)
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「保険コンソーシアムB3i、再保険むけプロダクトをCorda上でローンチ」など)
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「ウォルマート、限定された小売店や提携先でのみ利用可能な米ドルベースのStablecoin発行の特許」など)
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「BlockBase、トークン用いた3Dデータ権利移転の実証実験」など)
8. Articles : 論考(「Libraの法的性質と今後の展望についての検討」など)
9. Future Events : 注目イベント
バックナンバー
#1 (2019/04/01–04/07)
#2 (2019/04/08–04/14)
#3 (2019/04/15–04/21)
#4 (2019/04/22–04/28)
#5(2019/04/28–05/05)
#6(2019/05/06–05/12)
#7(2019/05/13–05/19)
#8(2019/05/20–05/26)
#9(2019/05/27–06/02)
#10(2019/06/03–06/09)
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