今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
今週より新規執筆陣として、Satoshi Miyazakiが加わりました。早速「私募債プラットフォームCadance」についての記事をPickupしていますので、ご一読ください。
Eisuke Tamotoより
今週のbiz編pickには、保険決済用ステーブルコイン開発のニュース、社債プラットフォームの実用化、契約自動化等ブロックチェーンの実装に向けてフェーズの進んだ話題が並んだ。ここ数ヶ月で、各注目ニュースの開発フェーズがどんどん進んでいることが感じられ、ブロックチェーン応用が急ピッチで進んでいることがわかる。
プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。
1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減
2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現
Section1: PickUp
●保険大手Alliantz、決済用に独自ステーブルコインの開発へ
保険大手のAllianz Global Corporate & Specialty SE社がブロックチェーン利用した独自のステーブルコインを開発し、国際保険決済エコシステム構築を目指していると発表した。このエコシステム構築で、保険業務に係る国際決済の迅速化、コスト削減を目指すと説明されている。
使用するチェーン等の具体的な技術については発表されていないが、Alliantz社は技術開発をadjoint社と提携することで進めている模様である。初期PoCは終了しており、いよいよ実際の送金決済業務のPoCに入るフェーズに来ている、と担当者から説明がされているように開発は一定程度進んでいるものと推測することができる。
Alliantz社がブロックチェーン分野に参入することは今回が初めてでではなく、約2年前からインドの子会社法人で飛行機遅延保険の払い戻しプロセスをブロックチェーンを利用して迅速化させる取り組みも行なっている。保険分野でのブロックチェーン応用に向けて積極的に取り組んでいるのが窺われる。
企業によるステーブルコイン開発に向けた動きは、LibraやJPM coin等活発化している。先週にはスーパーマーケット事業大手のWalmart社が独自の決済用ステーブルコインを開発すると発表している。USDにペッグさせ、Walmart社が指定する小売店や個人が決済のために利用できるようにすることを目的としている模様である。銀行口座を持てないようなユーザにもアプローチすることでさらなるスーパー事業への需要拡大につなげる模様である。
このように、同じステーブルコインでも特性が多様化して来ている。LibraやWalmart社などは「銀行口座を持てない人への資産」、Alliantz社やJPM Coinなどは「特定業務の効率化」、TetherやDAIなどは「個人間決済」を目的としたステーブルコイン、と分類することも可能であろう。このように今後ステーブルコインのニュースを追う際は、分類した上で理解をしていくことが重要になっていくと考えられる。
●私募債プラットフォームCadence、PollenVCと短期私募債を発行し、投資家の募集開始へ
ブロックチェーンを活用した私募債プラットフォームのCadenceが、Pollen VCと新たに短期私募債を発行し、8月9日より、適格投資家向けに募集を開始することを発表した。
Cadenceは、オルタナティブ投資の拡大をビジョンに掲げる、米国ニューヨークに拠点を置く企業である。Cadenceは、オリジネータとなる企業を募集し、共同で私募債を発行したのち、プラットフォーム上に登録済みの適格投資家向けに募集を行うことで、企業の資金調達をサポートする。ここで発行された社債は、同時にERC20トークンとしても発行されるため、投資家はブロックチェーン上で匿名性を保ったまま、現在の保有者と保有割合を確認できる。
Cadence上で発行された社債は、6月4日より、OpenFIGIに登録され、Bloomberg Terminal上で検索・閲覧できるようになったことで話題を呼んだ。Bloomberg Terminalは、機関投資家を中心として、世界中の投資家に利用されている、市場情報を閲覧するためのソフトウェアである。
Pollen VCは、米国サンフランシスコと、英国ロンドンを拠点に、モバイルアプリ開発者向けに融資を行うプラットフォームを提供する企業である。Pollen VC上で融資を受ける条件として、AppStoreもしくはGooglePlayStore上にアプリが展開されていること、月間$200万ドル以上の売り上げがあること、銀行の法人口座にて、直近3ヶ月以内に活動履歴が残っていること、の3点があるとされている。今回発行されるのは満期1ヶ月の短期私募債であり、年複利8.50%(月利0.682%)となっている。
Cadenceプラットフォームは現在、プライベートβ期間中である。年利10%前後、満期1年未満の短期私募債の発行を中心に行っている。7月10日には、Coinbase Ventures、Argo Venturesを始めとするベンチャーキャピタル4社より、計$200万ドルを調達し、プレシードでの調達をクローズしたことを発表している。
Pollen VCより以前には、eコマース店舗運営者向けにローンを提供しているSellersFundingとReg D 506(b)で私募債を発行し、資金調達を行っている。今後はPollen VC以外のオリジネータとも私募債の発行を行う他、格付機関との連携も活動の視野に入っていると見られる。
●中国の平安保険、保険・デリバティブ・資産担保証券など契約管理プロセス自動化
中国の生損保2位の平安グループが、傘下のFinTech企業OneConnectより、ALFAスマートコントラクトクラウドを発表している。業務プロセス全体の契約テンプレートを登録し、自動的にコントラクトデータを契約パーティのノード間で同期する仕組み。また、内外のデータに基づいてアセットや組織のステータスが変わるとリスクアラートを起動することによりリスク検知・コンプライアンス対応を行う仕組みを備える。加えて、ゼロ知識証明を組み合わせることによって、プライバシーを確保した形でアセットの登録・トラッキングができるようになっている。
平安保険はこうした法的拘束力ある契約にスマートコントラクトを活用するプラットフォームを使って、保険・デリバティブ・資産担保証券など、契約サイクル全体におけるプロセス管理(標準化・契約自動化)を志向している。ALFAスマートコントラクトソリューションの中核は、平安グループの契約アーカイブを活用した標準契約テンプレートである。社内の契約標準化に加え、金融機関間の契約標準化を促進すべく、プラットフォームが契約条件を自動識別した上で、準標準契約を生成する。このようにブロックチェーンに登録されたテンプレートをもとに編集してコントラクトを生成し、コントラクト実行結果をロギングする仕組みであり、例えば資産担保証券の契約とりまとめに通常2–3週かかるところを30分に短縮するなどの成果が出ている。
OneConnect社は、上記以外にも、クロスボーダー取引むけホワイトペーパーを発表している。グローバルトレードのデータフローを複数ブロックチェーン用いて表現することによって、信頼性の向上や最適化されたプロセスコラボレーションを実現するほか、統一標準のフレームワークを用いて、ブロックチェーンの相互運用可能性に取り組む点が特徴的。
生損保業界において契約管理は中核をなす重要業務プロセスである。これまでの企業資産である契約をもとに標準契約テンプレートを生成し、それをもとにブロックチェーン上のスマートコントラクトとして実装するという動きは、OpenLawなどに代表されるスマートリーガルコントラクト活用の動きとも合致する。雛形の実装に留まらず、情報の同期やアラートの起動といった業務プロセス短縮における成果や、ゼロ知識証明を用いた秘匿化、複数ブロックチェーン間の相互運用性は、ブロックチェーン活用の商用化にむけて重要となるトピックであり、今後の取り組みに注目したい。
●独ダイムラー、独Commerzbankと協働でブロックチェーン上のデジタルキャッシュでトラック充電・ペイメント。銀行口座で換金可能
ダイムラーがトラックの充電とそれに続くペイメントを自動的に実行すべく、ブロックチェーン上でデジタルキャッシュe-euroを発行しペイメントに利用な仕組みを実装した。
Daimler Truck Walletを介してブロックチェーン上で受け取ったデジタルキャッシュe-euroはCommerzbankへ求めると換金して銀行口座へ戻してくれる仕組み(独当局BaFinの規制上の承認済)になっている。M2Mコミュニケーションを受けて、人間の介在をトリガーとする必要無しにペイメントの決済を行う。Commerzbankのリリース内容にも「現行のペイメントシステムはこの要件を満たすことが出来ないだろう」と考えているとのことが明示されており、既存のペイメントシステムの置換えではない新たなソリューションが示された形。
ダイムラーはTruck Walletと同時にTruck IDのプロトタイプ開発を進めている。Truck IDはトラック自身が他のマシンに対して識別子となりM2Mトランザクションを可能とする狙いがある。
両社の取り組みは、Truck IDとTruck Walletという2つの要素技術を用いて、法的拘束力ある形で車両に自律的なM2Mトランザクションを実行させる試み。Truck Walletで行われたE-Euroペイメントは、Truck IDと紐付けられ受け手へ送金される他、リアルマネーとして銀行で現金換金可能となっている。
先日には、モビリティ分野のコンソーシアムであるMOBIから車両IDに関する技術標準が発表されている。ダイムラー社はMOBIメンバーではないが、独自にTruck IDやTruck Walletに関する取り組みを進めている点が特徴的。また、ペイメントの仕組みをブロックチェーン上のみに留めるのでなく、当局承認を得た上でCommerzbankとデジタルキャッシュを銀行口座で換金可能なものとしている点もユニークであり、M2Mトランザクションやデジタルアイデンティティを巡る商用化へむけた取り組みとして注目したい。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Regulation : 規制動向(「FATF、日本のオンサイト審査を10月28日~11月15日の日程で実施へ」など)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「中国人民銀行、中銀デジタル通貨開発を加速。準備完了との見方も」など)
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「Set Protocol、AUMとして$1m到達」など)
4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「tZEROトークンが発行1年が経過し、no-accreditedでも購入可能に」など)
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「Standard Chartered、トレードファイナンスプラットフォームVoltron用いてタイ-シンガポール間の石油輸送に係る信用状取引」など)
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「IBM、サプライヤーの資格情報(ISO証明・銀行口座・税務証明・保険証書)を共有管理するプラットフォーム”Trust Your Supplier”を発表」など)
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「BUIDL、住宅分野の電子取引システムを共同開発へ」など)
8. Articles : 論考(「IDC、ブロックチェーン関連ソリューション市場規模を2023年に159億ドルと予測」など)
9. Future Events : 注目イベント
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