今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のBiz編pickでは、政府機関、国際機関によるデジタル通貨への取り組みが並びました。Libraプロジェクト以降急速に動き出した非政府機関発行マネーと政府との関係性については今後長らく議論の的になりそうです。
プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。
1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減
2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現
Section1: PickUp
●米国議会、Libra Associationの公聴会を開催
Libraを巡って、法定通貨や既存金融機関への影響などを想定した「警戒感」が広がる中で、米国議会で公聴会が開催された。公聴会に先立ち、先週のトランプ大統領に続いて、ムニューシン財務長官が「仮想通貨の不法活動への悪用は国家安全保障に関わる問題であり、金融犯罪取締執行ネットワーク(FinCEN)による規制を強化する必要がある」との意見を表明した。その中で、Libraについても、KYC/AMLなどの最高水準の規定を遵守すべきであるとの見方を示した。
また同様に、米議員からは、大手テック企業による仮想通貨発行・運用を禁じる議案が提出された。この議案は「Keep Big Tech Out of Finance Act」と呼ばれ、年間売上250億ドル以上のオンラインマーケットやプラットフォームに従事する企業が「取引や価値保存手段として利用されるデジタル資産を発行・維持・運用すること」を禁止するもの。
公聴会に先立つ声明書では、次のような点について説明がなされた。「1. 米国より先に他国が着手すれば、デジタル通貨のリーダーシップを奪われる懸念がある」「2. Facebookとしては規制上の懸念を解消して承認を受けるまでLibraを提供するつもりはない」「3. Libra Reserveはドル・ポンド・日本円などの通貨バスケットと連動」「4. FacebookはLibra Associationの参加者の一員に過ぎず他参加者と権利は平等」「5. Libra Associationとしてユーザーの個人情報を収集することはない」「6. CalibraはFinCENに登録し、KYC/AML/CFTを確立し、Libra AssociationやFacebookと共有しない」
これを踏まえた、上院公聴会でのトピックは、Libraそのものよりも、Facebookへの信頼や独占・AML/CFT・データ管理態勢・プライバシーに関わる質問が中心であった。Libra側の回答として、Libra Associationの監督はスイス当局(FINMA)が行い、マネーロンダリング対策については米財務省「FinCEN」に登録して、米国や各国の規制にも従い、各国との適切な監督の枠組みが整わない限りサービスを開始しないことなどが言及された。(公聴会の模様はこちら)
その後の下院公聴会では、AMLやリザーブUSDの扱い、Libra Assoctionのメンバー選定といったガバナンス面への質問が中心となった。AMLについては、厳格なKYCシステムに準拠するほか、ブロックチェーン技術を用いており、既存システムよりもお金の流れは見やすくなると主張した。その他「新しいプログラミング言語を採用する事は、サイバーセキュリティ上問題ないのか」「選挙で選ばれていない人々に、通貨のコントロール権を委ねるのか」「Libraがパブリックチェーンになった後に運営が割れたらどうするのか」といった追及がなされた。(公聴会の模様はこちら)
米国議会での公聴会に続いて、G7財務相・中央銀行総裁会議(フランスで開催)でもLibraについて議題となった。国家主権に関わる「通貨発行」に対する懸念があるとの認識から、Libraへの早急な規制対応の必要性認識で一致し、中央銀行による作業部会が今年10月にも最終報告書を提出する予定となっている。
公聴会全体を通してみると、サポートする意見もあったもののの、公聴会の雰囲気は、Facebookに対する不信感やマネーロンダリングや国家安全保障などの問題解決が必要といった空気に満ちたものだった。今後、これら論点を中心に、関係機関との連携・納得を得ていくことが必要。
●IMF、デジタルマネーの台頭で現金・銀行預金など従来型マネーが凌駕される可能性を示唆
Libra発表以降、BIS(国際決済銀行)や日銀が中銀デジタルマネーに言及するなど、世界中の中銀・金融当局が「これからのマネーのあり方」に注目している。このほど、IMFが「デジタルマネーの台頭(The Rise of Digital Money)」と題したレポートを発表。従来型マネーとデジタルマネーとの競争について整理されているので、その要点についてまとめる。
電子マネー・仮想通貨・Stablecoin(法定通貨連動の仮想通貨)の普及につれて、現金・銀行預金といった従来型マネーが取り残される可能性が示唆されている。仮想通貨など電子マネーによる決済を成長させる要因として、利便性・普遍性・相補性・低コストの処理・信頼性に加えて、ネットワーク効果をあげている。ネットワーク効果は、SNSの口コミを通じた伝播による効果であり、これが仮想通貨の普及を後押しする可能性があるとしている。さらにLibraに代表されるようなIT企業・FinTech企業によるデジタル通貨発行が今後も想定される中で、従来型マネーは厳しい競争にさらされ、凌駕される可能性がある。そうした環境進展に伴い、既存の銀行も「淘汰か進化」を迫られると分析している。例えば、決済分野へ進出した企業が保有データの強みを活かして、信用取引・貸付を提供するなど、従来型の銀行のビジネスモデルに影響を与える可能性がある。
一方で、デジタルマネーの普及には、消費者保護・プライバシー・財務健全性・金融政策決定リスクなども想定されるほか、既存のStablecoinは決済手段として便利な可能性はあるものの、額面での買い戻しを保証するなど価値の安定性には疑問が残る。これらを踏まえると、銀行は金利をつけることができるなど、IT企業・FinTech企業にはない有利な点を持つことも考慮し、銀行自身が類似のデジタル金融プロダクトを提供することによって、生き残りを図ることができる可能性があり、銀行は新たな環境に備えた進化を急ぐ必要がある。
決済方法を「中銀マネー(中銀デジタルマネーも含む)」「商銀マネー(銀行預金)」「仮想通貨(Bitcoinなど)」「電子マネー(AliPayなど)」そして「iマネー(通貨に償還する価値が変動)」に分類した。これを踏まえ、IMFが別のソリューションとして提案したのが、政府と民間が連携して発行する官民共同ソリューション「合成CBDC」。中銀が民間企業に中銀の準備金へのアクセスを含む決済サービスを提供し、民間の電子マネー提供者が中銀の準備金を保有できるようにする一方で、民間企業は規制・基準を遵守した上で、その他の機能を提供する責務を負うようにするもの。民間企業のみで完結するよりも、中央銀行を通すことで信頼性と効率性を確保できる一方、民間企業が「イノベーションを起こし、消費者と対話する」ことを可能とすることを特徴として挙げている。
今回のIMFレポートは、テクノロジーが、中央銀行・銀行・民間の電子マネー提供者を含めた金融システムを大きく変えようとしていることを改めて示した。信頼性と効率性に加え、消費者保護・プライバシー・財務健全性・金融政策決定リスクなども勘案しながら、新たな環境に備えた進化を生み出していくことに期待したい。
●VASPのFATF勧告対応にむけて、業者間で情報共有を図る「暗号資産版SWIFT」の開発計画
6月のFATF総会において、日本が財務省・金融が主導する形で提案した「暗号資産版SWIFT」の開発計画が承認されていたことが明らかになった。マネロン対策として、暗号通貨を国内外の交換業者を介して送金する際に、個人情報を迅速にやりとりすることが目的。国内外の業界団体・専門家が連携して開発にあたり、開発状況をFATF設置の監視チームの監督のもとに、数年以内の稼働を目指すとのこと。
FATF総会では、マネーロンダリング対策(AML)・テロ資金供与対策(CFT)として、仮想資産サービス提供業者(VASP)に対して厳格な規制が課されることとなり、暗号資産を国内外の交換業者を介して送金する際に、各交換業者が送金元・送金先の情報(住所・口座番号など)を共有できる態勢整備を義務付けた。同総会において、FATF勧告を踏まえ各国が直ちに国内法として整備することが難しいことから、FATF勧告を実効的なものとするための代案として、日本から提案され、採択されたものとされる。
モデルとなった「SWIFT」は、銀行間の国際送金を支えるネットワークであり、国際送金を標準化されたフォーマットで決済を処理する金融インフラ。ブロックチェーン関連の取組も推進しており、Corda Settlerの統合を発表するなどしている。
FATF規制対応にむけては、SBI出資の企業などがプラットフォーム立ち上げの動きがある一方、FATF総会後に開催されたG20と平行する形でVASP主体で開催されたV20では、中央集権的な形ではなく、非中央集権的な形でKYCのシステム構築が提案されていた。こうした中、どういった形で「暗号資産版SWIFT」が機能するのかは現時点では不明であり、暗号資産の利点との整合や、交換業者間の送金時間・コストとのトレードフなどをどのように解決するかは定かではない。とはいえ、FATF勧告の遵守にむけて新たなシステムが機能することによって、AML/CFTを満たす形で暗号資産がマーケットにおいてはたらく一助になることを期待したい。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Regulation : 規制動向(「英国財務相、Libraを阻止するつもりはない旨を発言」など)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「ビットポイントジャパン、第三報を発表」など)
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「Set Protocolの自動ポートフォリオ管理、新たにTrend Trade Strategyが追加」など)
4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「ブラジル初のブロックチェーンを利用した不動産売買が実現」など)
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「韓国新韓カード、ブロックチェーンクレジットシステムの特許」など)
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「MOBI、車両ID標準(VID)の検討へワーキンググループ立ち上げ」など)
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「Zero Wallet、閾値マルチシグプロトコルによるゼロ知識証明を用いて秘密鍵を安全に管理するウォレット」など)
8. Articles : 論考(「WEF、ブロックチェーン導入利点評価ガイドラインを発表」など)
9. Future Events : 注目イベント
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