LayerX Newsletter for Biz (2019/10/21–10/27)
Issue #30

今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のBiz編における注目はやはり、米国議会のLibra公聴会と習近平中国国家主席によるブロックチェーン推進宣言です。両項目について早速pick編で解説を加えております。その他、ドイツ証券取引所によるブロックチェーンの実証実験の取り組みや、米国SECの動きなども解説されております。今週号もぜひご覧くださいませ。
プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。
1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減
2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現
Section1: PickUp
●米国議会のLibra公聴会と中国国家主席によるブロックチェーン推進宣言
10月23日、米国議会によるLibraに関する公聴会が、FacebookのMark Zuckerberg CEOを招いて開催された。
Zuckerberg CEOの主張を抜粋すると以下のとおり。米規制当局が認めるまで、世界のどこにおいてもリブラ発行に関与しないと言及し、発行期間の延期も視野に入れた返答を行なった。また、米国で認可されなければ、同社は運営組織であるLibra Associationから脱退する可能性も示したほか、匿名性とAMLの関係についての質問に対して「Calibraはアイデンティティ検証可能なウォレットを開発中」と回答した。
加えて注目されたのは、グローバル規模の地政学的競争についても質疑が及んだ点。「革新無くして金融のグローバルリーダーの継続はあり得ない」と述べ、中国人民銀行が検討中の中銀デジタル通貨にも言及した上で、Libraは米国が金融における世界のリーダーシップを維持しつづけるための国益に資するものだと主張した。
一方、10月24日、中国の習近平国家主席が、共産党の中央委員会政治局の研究会において、ブロックチェーンは産業変革に重要な役目を果たす重要なブレークスルーとして適用推進を表明した。
ブロックチェーンはデジタルファイナンスやIoT、サプライチェーンなどに有用としてしたほか、具体的な領域として「中小企業向け融資」や「銀行のリスク管理、金融セクターの監督」における課題解決をあげている。加えて注目すべきは、今後の方策として、「ブロックチェーン技術の標準化に関する研究を加速することを通じて、国際ルール・基準の策定における発言権を強化する」「ブロックチェーン技術のガイダンス整備などを進める」といった考えを示した点。これを受け、人民日報でブロックチェーンが一面に掲載されたり、トップ大学でブロックチェーン講座開講が開始された他、早々に全人代で暗号法が可決される等、国家規模での取り組みの火蓋がいよいよ切って落とされた感がある。これまで本Newsletterで紹介してきたとおり(アリババクラウド年次大会Apsara Conference、上海Global Blockchain Summit)、中国におけるブロックチェーン活用は、この動きを受けるまでもなく世界的にトップ級の商用化を遂げている中、従来以上のペースで進展が進む可能性があると想像すると、そのインパクトは計り知れないものがある。
中国においては、2015年頃から5年以上にわたって中国人民銀行による中銀デジタル通貨の研究が進められており、Zuckerberg CEOが述べたように、中国による中央銀行デジタル通貨が、新興国におけるグローバルデジタル通貨としてデファクトをとる可能性もゼロではない。Libra公聴会の最中、習近平国家主席がブロックチェーンの活用を明言したことによって、金融のデジタル化の流れにおいて、米中間のコントラストが鮮明になってきた感がある。米中間で通商交渉を巡る対立が深まる中、デジタル金融を巡る戦略には引き続き注視が必要である。
● Commerzbankとドイツ証取がポストレ領域へのDLT活用へ
ドイツの大手銀行Commerzbankとドイツ証券取引所、クリアリングハウスのEurex Clearingらがポストトレード領域におけるDLT(分散型台帳技術)応用に向けた実証実験に成功したと発表した。
今回の実証実験で行われたのは、トークンに表象された債権のセカンダリー譲渡取引である。今回の取引は債権を表象するProgrammable Securitiesだけではなく、決済手段としてProgrammable Moneyが使用され、証券と資金の同時決済(DvP決済)が行われた点が注目される。Eurex Clearingが資金を表すcash tokensをデポジット額に応じて、今回投資家として参画したMEAG社に発行した。同社はProgrammable Securitiesの販売者でカストディも行うCommerzbankに対して購入申請を実施。取引の際に、Programmable MoneyとProgrammable Securitiesが同時スワップされる方法でやりとりされた、と説明されている。
今回の実証実験はCommerzbankとドイツ証券取引所が共同でリーガルスキームを開発し、技術提供をCommerzbankのR&Dチームが実施する形で実施された。今回の実証実験の結果はドイツの行政府にも共有され、今後ドイツ国内でブロックチェーンを利用した証券決済の法的枠組み構築へ応用されていく見込みだ。ドイツ政府は複数Programmbale Securities事業者に対してライセンスを付与したり(Newsletter 22号や、17号のBiz List編で取り上げています)、ブロックチェーン社債発行の認可を行う(BitbondについてはNewsletter 9号で取り上げています)など積極的な動きを見せているだけに、今回の実証実験がどのような影響を政府に与えるのか注目される。
Programmable SecuritiesとProgrammable Moneyによる証券と資金の同時決済に向けた動きは今回が初めてではない。先月にはスペインの大手銀行サンタンデール銀行が自社で社債トークンを発行した際に同時に決済用のトークンを発行し、同時決済の実証実験を行ったというニュースが発表されたばかりである。(詳細は、Newsletter 24号の解説をご覧ください)今後、ブロックチェーンやDLTの金融分野への応用に向けて各国の金融機関が同様の領域で実証実験を行っていく可能性もあり、目を離せない分野となっている。
● a16zによる考察:SECのTelegramのトークンセール差止めから見る「Mutability」の概念について
2019年10月12日、SEC(米国証券取引委員会)は、Telegram(TON)が実施を予定していたGramトークンの売出しが証券法に違反するとして、トークンセールを禁止する命令を提示した。なお、こちらの2週間ほど前には、SECに届出を出さずに証券の販売を行なったとして、EOSを提供するBlock.Oneと、Siacoin Tokenを提供するNebulous Inc.に対しても、巨額のペナルティが課されている。これらの動きから見えるSECのスタンスについて、a16zのScott Kupor氏が執筆した記事をご紹介したい。
メインネットローンチ前のトークンを購入することは、Howey Testに照らし合わせると、第三者の努力によって発生する収益に期待するものであると考えられる。この場合、このトークンを購入することは投資契約にあたり、トークンは証券性をもつものと判断される。そのため、このようなトークンを非適格投資家向けに販売することは証券法に違反していると整理できる。しかし、今回行われたGramトークンの販売に関しては、適格投資家に限定して行われていた。10月31日にはGramトークンを配布することが予定されていたものの、SECによって差し止められてしまった形となる。
ここで改めて、Block.oneやNebulus Inc.に対しては、ERC20トークンを販売して開発資金を募ったことに対するペナルティが課された一方で、メインネットローンチ後のEOSトークンや、Siacoinトークンに対するペナルティではなかったという点に、注目したい。すなわち、SECはトークンセールで販売したEOSのERC20トークンと、メインネット上のEOSトークンを別のものと見なしている可能性がある。
こちらに関して、2018年6月に、SECのコーポレート・ファイナンスディレクターを務めていたHinman氏が「Mutability」の概念を提唱している(なお、こちらはSEC代表としての意見ではなく、Hinman氏個人の意見である可能性がある点に注意されたい)。ここでいうMutabilityとはすなわち、「トークンが、とある状況では証券性を有するが、また別のある状況では、証券でないものに変化する」性質のことを指している。
Scott氏は今回の件で改めて、①メインネット移行前のトークンはUtility Tokenとみなされず、SECに登録を行うか、適格投資家向けの私募としない限り、証券性を有するとみなされること、②メインネットローンチ前のトークンが証券性を有するとみなされるのに対し、メインネットローンチ後のトークンにおいては、システムが十分な分散性を有し、他者の努力によって発生する収益への期待がないとみなされる場合、証券性をもたない可能性があること、③そしていずれにせよ、証券法へのコンプライアンスに気を使うことが極めて重要であるとし、今回の動向は、今後暗号資産ネットワークを提供する事業者がSECの考えを推し量る上で、ひとつの指針となるだろうと、締めくくっている。今後もSECの解釈の動向について、注目していきたい。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Regulation : 規制動向(「ステーブルコインに関するG7議長声明(仮訳)」など)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「Libra、バスケット案ではなく各国法定通貨にペッグした複数のステーブルコインを用意する方法も検討」など)
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「カストディプロバイダーAnchorage、Makerトークン向けにオンチェーンガバナンスプラットフォームをローンチ」など)
4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「Lead Real Estate社がSecuritizeを利用して資金調達を実施し東京で不動産事業を開始へ」など)
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「SAPとAccenture、R3と協業でリアルタイム・グロス・セツルメントシステム構築へ」など)
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「ドイツテレコム子会社T-Systems、ブロックチェーンサービスのマーケットプレイスGerman Blockchain Ecosystem (GBE)を発表」など)
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「Unlock、メンバーシップのトークン化」など)
8. Articles : 論考(「逆風リブラ、懸念ぬぐえるか マネックス松本氏に聞く」など)
9. Future Events : 注目イベント
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