今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
このほど開催されたG7においてLibraを念頭においたStablecoinに関する見解が発表されました。中銀における取組として、日本銀行と欧州中央銀行によるクロスボーダー決済に関する調査報告の内容を紹介します。
また、日本の金融機関による取組として、野村が発表した有価証券取引にむけた取組も注目です。
プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。
1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減
2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現
Section1: PickUp
●G7、Stablecoinに関するアップデート見解を発表
G7から、LibraをはじめとするStablecoinに対して、課題と見解が示された。「グローバルなリテール決済に利用可能」で「より速くより安価な送金を可能」とするほか「決済分野での競争を促すことによってコストを引き下げ、 金融包摂を後押し」する可能性があると一定の評価をみせている。「規制上ないしシステミックな懸念とともに、政策上の課題を引き起こす」とした上で、Stablecoinの運用者に対して「金融システムの安定や消費者保護を脅かすことのないよう、AML/CFTをはじめとする最高水準の金融規制を満たす必要がある」とした。その中で決済・市場インフラ委員会(CPMI)議長がリードするG7 ステーブルコイン作業部会からも、「金融機関やIT企業によるStablecoinが今後広く普及する可能性がある」ものの、「誕生し手間もないため実利用やグローバル決済規模での検証が十分でない」ことが示された。
Stablecoinの取組が考慮すべき事項として、4点を挙げている。
①最高水準の規制を満たし、当局の監督のもと、社会的信認を得ること
②全ての関連法域において確かな法的基盤を示した上で、十分な保護・保証を確保すること
③ガバナンス・リスク管理のフレームとして、オペレーションの頑健性・サイバー攻撃への弾力性を確保すること
④裏付け資産管理を安全・慎重・透明性をもって行うこと明示こそされていないが、Facebookから提案されているLibraを念頭に置いたメッセージとして受け取ることができる。Stablecoinのプラス面とマイナス面を冷静に分析している点には注目したい。考慮すべき事項として掲げた事項はいずれも厳しいものであるが、Libraのような取組に対して門戸を閉ざすものではないと考えられる。LibraをはじめとするStablecoinがこのような懸念点に対してソリューションを示していくことによって、デジタル決済や金融包摂をはじめとする利活用が拓けるものと期待したい。
●日銀、欧州中央銀行との共同調査Project Stella(第3フェーズ)報告書仮訳発表
クロスボーダー決済は異なる通貨圏をまたぎ、様々な主体が関与するのが特徴であり、複数の台帳を経由する中で、送金の同期を安全に行うことが課題となっている。日銀と欧州中央銀行の共同調査では、これまで「資金決済システム」「DVP決済」を対象として行ってきた。今回第3フェーズでは、クロスボーダー決済の安全性の問題を解決しうるかを検証したもの。
複数の異なる資産のアトミックな受け渡しを実現する技術として、①暗号学的ハッシュ関数と、②タイムアウト(Timelock)機能とで構成されるHTLC(Hashed Timelock Contracts)を利用。HTLCを用いることによって、支払に関して事前に決定された条件(受取人がタイムアウト前に台帳に秘密の情報を提示すること)が充足されるまで、送金資金は信用リスクから隔離した状態で固定することができる。今回の実験では、送金資金を信用リスクから隔離した状態で固定しながら、一連の各ブロックの支払を同期化することにより、クロスボーダー支払の安全性を確保できることを確認できたとのこと。
HTLCの具体的な流れを、取引当事者AとBがHTLC を用いて複数台帳方式で資産の受渡を行う場合を想定して概観すると以下のとおり。
①銀行Aと銀行Bはまず、銀行A が生成した乱数(シークレット)のハッシュ値を用いて、受渡対象となる資産をそれぞれロック
②双方の資産がロックされた後、銀行A はシークレットを用いて受取予定の資産(例:資金)を受け取り、それと同時に銀行Bにシークレットが開示
③銀行Bは当該シークレットを用いて受取予定の資産(例:証券)を受け取る
④タイムアウト機能によって、事前に定めた時間内に必要な処理が完了しなかった場合に、ロックされた証券および資金を元の所有者に返還追加の検討事項として、各支払について、他の支払が全て行われない限り実行されない場合に実現できるようにすること、などが挙げられている。同様にHTLCを用いた中銀の取組としては、カナダのProject Jasper(Corda上に構築)を、シンガポール中央銀行のProject Ubin(Quorum上に構築)と接続し、仲介者を設けない決済を行う取組が発表されている。今後、他の中銀・商銀と連携を通じて、さらなる課題解決、金融インフラの将来像描出が進展することを期待したい。
●野村が社債発行におけるブロックチェーン利用へ着手
24日野村ホールディングスと野村総合研究所は、ブロックチェーンで社債発行を行うシステムを2020年夏までに実用化させるとの発表を出した。ブロックチェーンを発行に利用することで、手数料を下げることを目指す模様。そのことにより、1円単位でも発行ができるような社債の小口化を目指し、発行体がより簡易に社債を発行できるようにしていく考え。
先月には両社がブロックチェーン実装を目指した合弁会社設立を発表しているほか、先週にはブロックチェーンを利用したP2P金融やオープンインフラ開発を目指すOmiseに野村ホールディングスが出資を発表するなど、ブロックチェーン実装に向けて野村グループが積極的に動き出していることがわかる。
本プロジェクトの詳細は現在未だ明らかになってはいないが、今後明らかになっていくと考えられる。社債発行には複数のプレイヤーが関わっており、その間のデータ共有に多くの時間的、金銭的コストが現在費やされている。ブロックチェーンの特徴の一つである分散台帳技術により、データの共有化が進み、データ共有にかかるコストが削減されればその効果が大きい。本プロジェクトの続報に要注目である。
また、日本の証券会社でブロックチェーン実装に注目しているのは野村グループだけではない。タイトルリンクの日経記事の中では日本取引所グループによる株式約定のブロックチェーン利用プロジェクトの取り組みも取り上げられている。こちらは大和証券の主導で複数の日経金融機関が参加して行われている。このプロジェクトは機関投資家に係る複雑なオペレーションを分散台帳により簡易化しようとするものである。このプロジェクトは2017年より取り組まれているものである。
このように、日本の多くの金融機関もブロックチェーン実装に向けて取り組んでいる。今後も日本のニュースのキャッチアップも重要であることは想像に難くない。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Regulation : 規制動向(「セントルイス連銀総裁、仮想通貨により米国通貨システムに変化生じている旨の言及」など)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「米大統領選候補、Lightning Network 用いたBitcoinによる政治献金受け入れ」など)
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「0x、Mesh P2Pネットワークのベータ版ローンチ」など)
4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「FluidityがDaiとReal assetを紐付ける新モデルを提唱」など)
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「SWIFT、クロスボーダーペイメントのトライアル実施し13秒でセツルメント」など)
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「関西電力、BUIDLと協働でEVによる電力と環境価値のP2P取引の要素技術の実証実験を完了」など)
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「SHIEDL、仮想通貨交換業者向けAMLツール」など)
8. Articles : 論考(「Libraの法的性質と今後の展望についての検討」など)
9. Future Events : 注目イベント
バックナンバー
#1 (2019/04/01–04/07)
#2 (2019/04/08–04/14)
#3 (2019/04/15–04/21)
#4 (2019/04/22–04/28)
#5(2019/04/28–05/05)
#6(2019/05/06–05/12)
#7(2019/05/13–05/19)
#8(2019/05/20–05/26)
#9(2019/05/27–06/02)
#10(2019/06/03–06/09)
#11(2019/06/10–06/16)
#12(2019/06/17–06/23)
#13(2019/06/24–06/30)
#14(2019/07/01–07/07)
#15(2019/07/08–07/14)
#16(2019/07/15–07/21)
Disclaimers
This newsletter is not financial advice. So do your own research and due diligence.