LayerX Newsletter for Biz (2019/07/08–07/14)

Issue #15

今週の注目トピック

Eisuke Tamotoより

今週の注目ニュースとして、ビットポイントジャパンの暗号資産流出、Libraに関する米国の動き、シンガポールにおけるPSプロジェクトが並んでいます。特にLibra発表以降、各国の政府や中央銀行などの動きが活発化しており、既存金融や規制と新たな通貨との関係性における論点を明るみにしており、今後も目が離せなさそうです。

プログラマブル証券の呼称について(再掲)
LayerXは社内において従来「証券トークン(Security Token (略称ST))」と呼んでいたものを「プログラマブル証券」(Programmable Security(略称PS))と定めました。それに伴いLayerXニュースレター内の証券トークンの呼び方もPSに変更いたします。
変更した理由は、「(デジタル化も含めた)ブロックチェーン×証券」で実現できる効果はプログラムの特長によって生まれるものであり、それを反映させたネーミングした方がその意味合いがより認知される、と考えたためです。我々は実現できる効果として以下の二つが主に存在すると考えています。

  • 1:法規制のプログラム化+デジタル化→法準拠の確度向上+管理コスト低減

  • 2:スマートコントラクトによる自動執行→執行にかかる費用&時間コスト削減+複数主体の参加実現

Section1: PickUp

●Libra、トランプ大統領・FRB議長・Winklevoss兄弟を動かす

  • Facebookの発表したLibra構想を巡っては、日銀・IMF・BIS、Libraの動向などを踏まえて中銀発行デジタル通貨に言及するなど、国際金融市場がその動向に注目している。そうした中、米国の政治・金融・財界の要人が揃ってLibraに対するリアクションを表明した。

  • 米FRBのパウエル議長は、Libra立ち上げの実現可能性について疑念を表明。上院銀行委員会において、「消費者の金融アクセス改善といった形で、一般の人々が利益を享受できる可能性が提示されている」と評価するとともに、「Facebookの計画を進めるにあたり、プライバシーやマネロン、消費者保護、金融安定など多くの点で深刻な懸念がある」と述べたもの。今後計画を進めるにあたり、そうした懸念に対して対処が必要であるとの見解を示した。

  • こうしたパウエル議長の「中立的な見方」に対して、真っ向から「否定的な見方」を示してみせたのが、トランプ大統領である。Twitterの発言の中で、まず暗号通貨全般について「私はBitcoinおよびその他の暗号通貨が好きではない。これらはお金ではなく、価値の変動が大きい。規制下にない暗号資産は麻薬取引などの違法行為を促進する可能性がある」と触れた上で、Libra構想についても言及した。具体的には「Libraにも、永続性・信頼性がない。Facebookが銀行をやりたいならば、他の銀行同様に、銀行設立手続きを行い銀行規制に従うべき」と暗号通貨もLibraも否定してみせた。数年前までは想像もされなかったことだが、暗号通貨について米国の政治・金融のトップが意見を表明していることに、感銘するほかない。

  • このように政治・金融の世界にインパクトをもたらすLibraだが、ここにきてもう一つ興味深いドラマがあった。ウィンクルボス兄弟が、Libraプロジェクトのコンソーシアムへの参画可能性を示唆したのだ。よく知られているように、ウィンクルボス兄弟は、Facebookのアイデアを巡りザッカーバーグ CEOと一時期敵対関係にあったとされる。ウィンクルボス兄弟は、いまやGeminiという暗号通貨交換業の創設者でもあり、Gemini自体もまたGemini Dollar(GUSD)というステーブルコインを発行しており暗号通貨業界の重要人物であるが、Libraは以前からGeminiと接触していたようである。ウィンクルボス自身のコメントとしても、「このプロジェクトを真剣に検討しており、興奮している」としたほか、Facebook以外のIT企業による同様の取組可能性が今後想定されるとの意見を示しており、今後の去就に多くの視線を集めると思われる。

  • Facebookの投じたLibraという一石が、各国中央銀行・金融機関だけでなく、グローバルに影響力をもつ米国の政治・金融トップを暗号通貨の文脈へと巻き込むトピックになったことに加えて、Facebookの誕生を巡って起きたドラマの再燃としてかつて敵対視したプレイヤーがコンソーシアムへの参加を示唆するなど新たなドラマを生んでいる。7/17には、米国上院・下院で相次いで公聴会が開催予定であり、おそらく相当の逆風に晒されることと思われるが、どういった議論が交わされるか注目したい。

●ビットポイントジャパン、約30億円相当の仮想通貨が不正流出と発表

  • ビットポイントジャパンの運営する仮想通貨交換所において、約30億円相当の仮想通貨の不正流出が判明したとの発表がされた。7/11の夜に、同社の仮想通貨取引システムにおいて、仮想通貨(リップル)の送金エラーが検出され、社内調査の結果、同社の管理するホットウォレットに保管された仮想通貨の不正流出が判明(リップル以外の仮想通貨についても不正流出を確認)したとのこと。

  • 7/12の午前には、仮想通貨取引・送受金などのサービスを全面停止した上で、原因究明・流出額特定・被害最小化などの対策を行なっている。発表によれば、仮想通貨取引を円滑に行うことを目的に、一部仮想通貨をホットウォレットで管理しており、今回の不正流出はこのホットウォレットで発生し、コールドウォレットで管理している仮想通貨や法定通貨では流出は確認されていないとのこと。ホットウォレットで管理している仮想通貨としては、ビットコイン・ビットコインキャッシュ・イーサリアム・ライトコイン・リップルの5つとされる。

  • 7/14に同社から発表された第二報にて、「流出額は約30.2億円(顧客預かり分:約20.6億、同社保有分:約9.6億円)と判明したこと」および「顧客預り仮想通貨の全種類・全量につき、流出分相当の仮想通貨を調達するなどして保有済であること」などが発表された。

  • 同社は2018年6月に関東財務局から業務改善命令を受け、管理体制の強化・改善を図っており、今年6/28に処分解除された。そうした金融当局による指導を踏まえてもなお、ホットウォレットからの不正流出防止は難しいと見える。また、業務改善命令解除の妥当性や、ホットウォレット管理方法の妥当性、ウォレット以外をふくめた管理の妥当性などが、今後検証されることになると推測される。これまでに国内で発生した複数の大規模不正流出事案について、個別事業者任せにするのでなく、業界全体で情報共有するなども含めて対処が行われることも必要との見方もある。

  • 今回の不正流出を受けて、全力で原因究明・対策検討にあたっている関係者各位の存在があることを念頭においた上で、今後国内の仮想通貨交換業界には新規登録・新規アセット取扱開始の遅れや、規制の強化などのインパクトが想定される中、昨年秋にVCGTFから発表された「仮想通貨交換所のセキュリティ対策についての考え方」の有効性検証も含め、再発防止にむけた本格検証が待たれる。

シンガポール証券取引所がサポートするPSプラットフォーム1Xのサービスがローンチへ

  • 今月10日、シンガポール証券取引所支援のPS取引所プラットフォーム1Xが正式にサービスをローンチさせた。1号案件はシンガポールのファンドAggregate Asset managementの持分7%分をPS化させたもの。トークン自体は、5月に同ファンドが調達をした際に発行されており、今回はそのセカンダリ売買を1X上でできる形になっている。シンガポールだけでなく他国の適格投資家も投資に参加することができる。

  • 1XはEthereum上にPSを発行させるプラットフォームであり、技術開発のパートナーとしてConsenSysが携わっている。modified ERC20 TokenというプロトコルのトークンをPSとして発行する仕組みを取っている。このプラットフォームで発行されるトークンは、Ethereum上でトランザクション情報がみれるというpublic chainの特徴を維持しつつも、譲渡制限などのリーガル対応や複数プレイヤーのインターオペラビリティにも対応したプロトコルとなっている。

  • リーガルの点だと、このプロトコルはカストディアンによる譲渡に対応している点が注目である。シンガポールではカストディアン(信託)による分別管理が証券に要求されており、投資家が直接証券を保持するという形は取りにくい環境となっている。そこでこのプロトコルは、あくまで秘密鍵はthird party(今回でいうと、カストディアン)に保持させた形で譲渡制限などのリーガル要求を満たすトレード、発行を実現できるようにしている。こうすることで既存の規制に対応したPSエコシステムが実現できるようにしているのである。

  • さらに、今回のプロジェクトで注目されるのはカストディアンとして既にシンガポール政府からカストディアンライセンスを獲得しているEquiom Trustを採用している点である。PS分野では、Coinbase custodyなど暗号資産のカストディサービスを採用している例が多いが、今回は既存信託銀行を巻き込んでいるのである。暗号資産用カストディサービスではライセンスの壁が存在するが、既存信託銀行を利用すればリーガルに則った形でのPSエコシステム実現が可能になるため、既存信託銀行を巻き込むという影響は大きいと思われる。1Xは今後も複数の信託銀行(カストディ)を巻き込んでいくと発言しており、注目である。

  • 技術的なものはもちろん、法的、ビジネス的な要素の比重が大きいPS分野において、後者二つの部分において提携などを通じて対処してクリアした1Xのサービスは、現在ローンチしているPS系のサービスの中でも完成度が高いものといえよう。また、提携の観点で見ると世界的に証券取引所とPSプレイヤーとの提携も進み始めている。EUのいくつかの取引所を管轄するEuronextがTokenyへの投資を先週発表したほか、ジブラルタル証券取引所は債券のPS化に向けてBitbondとの提携を目指すと発表されるなど、具体的な動きがいくつか出始めている。

Section2: ListUp

(リンクはこちら

1. Regulation : 規制動向(「財務省、金融庁や日銀とLibra連絡会設置」など)

2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用(「Coinbase、Aonと提携してハッキング補償などに対応する自社専属保険会社立ち上げを検討」など)

3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど(「MetaMask、Android および iOSで稼働するモバイル版を7/22リリース予定」など)

4. Programable Security : プログラマブル証券関連(「元R3ディレクターがCordaベースのファンドマネジメント用チェーンを開発へ」など)

5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース(「中国人民銀行、トレードファイナンスプラットフォームを通じて約4700億円規模の外国為替処理」など)

6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース(「シンガポール中華商工会議所、電子貿易取引事業者Global eTrade Servicesと共同で輸入商品の原産地証明発行」など)

7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション(「Anchorage、Visaなどが出資するカストディアンサービス」など)

8. Articles : 論考(「LibraとBitcoinの違い(CoinCenterまとめ)」など)

9. Future Events : 注目イベント

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