今週の注目トピック
Satoshi Miyazaki(@satoshi_notnkmt)より
今週のニュースレターTech編では、Nayutaが発表した最新のLightningウォレットや、中国のBSN(Blockchain-based Service Network)に、FISCO BCOSが選定されたニュースについて、また、Atomic Multi-path Paymentの実証に関するニュースについて、ご紹介しています。後半に続くList編と合わせて、ご覧ください。
Section1: PickUp
●Nayuta、「Bitcoinフルノード/SPV」 ハイブリッドモードを搭載したLightningウォレットを発表
Nayutaは、BOLTプロトコル準拠のLightning NetworkクライアントPtarmiganをリリースしたことで知られる。今年6月にはPtarmiganを使用したLightning Network決済を、福岡市のスタートアップ支援施設Fukuoka Growth Next内 awabar fukuokaで行なっている。今回Nayuta Walletはハイブリッドモードを搭載した初のLightningウォレットを示すとともに、そのソースコード・インストールキットをGithubにて公開したので、その概要を紹介する。
Bitcoinフルノードについて、今回のリード開発者であるChristian Moss曰く「フルノードを使わない場合は、ウォレット会社のノードあるいはマイナーなど誰かを一程度トラストすることになる」「フルノードを使うことは、Bitcoinを受け取ったかどうかを知る上で唯一の方法」と述べている。このような背景から、実行しやすいフルノードを作ることは、長い間、多くのBitcoin開発者にとって目標だった。
従来、BitcoinやLightningノード実行には高性能のCPU・大量のストレージを備えるハードウェアおよび広い帯域幅をもつネットワーク接続が必要だったが、今日ではBitcoinフルノードを、十分なストレージ容量を備えるAndroidスマホ上で実行可能とするアイデアが出てきている。例えば、HTCのExodus1sは、これを採用した第一号プロダクトであり、今後より多くのメーカーがこのトレンドに続く可能性もある。
今回Nayutaは、フルノードをウォレットに付加した最初の開発者として、ABCoreプロジェクトのフォークを利用し、Andoroidデバイス上でフルノードを実行しやすくしている。これにより、AndroidにNayuta Walletアプリを導入するだけで、利用可能なストレージ容量に応じてフルバリデートノードが自動的に剪定され、フルノードを使い始めることが可能となった。Moss曰く、「将来的にスマホがよりパワフルになれば、フルノードを実行することは軽量クライアントウォレットを実行するのと同じようなUXになりえる」とのこと。
一方、「コントロール性・主権性」と「利便性・簡易性」のバランスで、 フルノードとSPVモードを切り替えることが可能となっている。「利便性や簡易性」を優先する一般的なユーザーは、SPVウォレットとして使用することができ、ユーザーが「コントロール性・主権性」を望んだ際には、フルノードを使うようウォレットを切り替えることができる。
さらにユニークなのは、上記の「フルノード/SPV」のハイブリッドを可能としている点。これはウォレットが自動的に2つのモードを使い分けるもの。このモードでは、 ユーザーが外出している時(あるいはバッテリー寿命が限られる時)は簡易性・利便性のためにSPVモードでウォレットを使用し、フルノードはブロックを検証するようそのバックグラウンドで定期的に動くようになっている。
栗元CEO曰く、「Bitcoinの世界において、完全にバリデートするノードのみが、自己統治のためのソリューションになりえる。一方、SPVノードはストレージサイズやインターネット接続帯域や電力消費の面で優れる。このトレードオフの問題に対して、新たな良いソリューションがあるかもしれないと考えており、Nayutaモバイルウォレットのハイブリッドモードはそうしたソリューションの一つになりえる」とのこと。
今回の発表は、世界のフルノード採用の動きを後押しするものになりえる。CEOのブログ中でも、「標準プロトコルでオープンソースで開発して、その中で技術の可能性を広げるオリジナリティを示すプロダクトを出す」こと、並びに「グローバルで競っている当たり前のことをやろうとすると、技術的に一番難しいのはプロダクトを出せる実装力」が必要であることを示しており、Ptarmiganから続く今回の発表は、そうした技術力を示した形となる。PtarmiganおよびNayuta Walletの今後の展開に期待したい。
●中国Blockchain-Based Service Network(BSN)、アライアンスチェーンとしてTencent傘下WeBankなどが参画して開発したFISCO BCOSを選定
このほど中国 Blockchain Service Network(BSN)がパートナー会議を開催し、この中でプラットフォームの基盤となる2つの主要なアライアンスチェーンの1つとして、FISCO BCOSを選択することを採択した。また、BSNのパートナー12機関の一つとしてWeBankがBSN開発者へFISCO BCOS技術サポートを提供することとなったとされ、FISCO BCOSの概要について俯瞰する。
近年、中国はブロックチェーン研究の先駆者として、多くの顕著な成果をあげているが、その一方、ブロックチェーンを適用する過程ではプラットフォームの不均一などの課題が生じている。そうした課題を受けて、国立情報センターによって計画されたのがBSNである。国立情報センターと中国銀聯(China UnionPay)が共催のもと、インターネットの概念に基づき、公共ネットワーク・地域・機関間のブロックチェーンサービスの基盤構築を目指すもの。現在までに香港・シンガポールを含む25都市でのネットワーク展開が完了しており、2020年には200都市でノード展開を完了する予定とされる。BSNメンバー(14機関)としては、WeBankの他、Huobi China、国立情報センターに加えて、国営テック企業である中国銀聯、中国移動通信(China Mobile)、中国電信(China Telecom)が含まれる。
次にFISCO BCOSについて見てみる。FISCOは、Financial Blockchain Shenzhen Consortium(金融ブロックチェーン深圳コンソーシアム)であり、BCOSはWeBank、Tencent Cloud、Shenzhen Securities Communicationから成るタスクフォースチームが開発し、2018年11月の「Singapore FinTech Festival」で発表された。ユースケースとして、銀行・サプライヤー・アンカー企業の金融サプライチェーンや、デジタルエスクロー、ロイヤリティポイントのコンソーシアムを志向している。上述のとおり、TencentはFISCO BCOSの中心メンバーとして参加しており、Tencent Blockchain as a Service(TBaaS:ホワイトペーパー)はHyperledger FabricとBCOSの2つの台帳をサポートしている。また、2014年に創業された中小企業・個人むけデジタル銀行であるWeBankにも、最大株主(30%)として出資している。
FISCO BCOSの特徴の一つが、中国当局向けに「監視」ノードを実装している点だ。このノードを通し、中国の規制当局や監査担当者はリアルタイムにデータを監視・アクセスが可能になるという。
FISCO BCOSは、Ethereumをベースとしたコンソーシアムチェーンであり、EVMを使用してスマートコントラクトを実行する他、スマートコントラクトの言語もSolidityなどEthereumと共通点が多い。Ethereumに対する相違点は、主にパフォーマンスとセキュリティに焦点が当てられている。まずEtherを削除している他に、コンセンサスメカニズムをPBFT / RAFTに変更した上で、並列計算を導入してパフォーマンス向上をはかっている。また、金融機関間の直接通知を行うためAMOP(Advanced Messenger On-chain Protocol)と呼ばれるP2P専用通信プロトコルを採用している。さらに、セキュリティ強化の観点から、グループ署名およびリング署名の検証機能を実装している。
なお、BSNを支えるブロックチェーンFISCO BCOSがEthereumベースという点は、中国国内で「海外のブロックチェーン技術への依存」として問題視する向きもある。今後は中国独自技術の開発が進む可能性があり、動向に注目したい。
● Lightning Network上での大口決済を可能にするAtomic Multi-party Paymentの実証が完了か
2019年12月12日、Lightning Network(LN)関連の技術開発で知られるBlock Stream社のCSOであるSamson Mow氏が、Multi-path paymentにおけるインターオペラビリティ技術のテストが完了した、とメディアに語った。
現在のLightning Networkにおける取引金額の最大値は、チャネルをリレーするノードが保有するBitcoinの金額に依存する。自身と同量かそれ以上の金額をチャネルにデポジットしているノードが見つからなければ、決済が実現しないため、高額な決済を実現することは確率的に困難となっていた。
一方で、今回話題になったAMP(Atomic Multi-path Payments)では、LN上でBTCの大口決済を行う際に、複数の少額決済に分割し、経由可能なチャネルを通ることで、大口決済を実現する仕組みとなっている。このとき、一部だけが着金し、残りが着金しない事態を防ぐため、総金額の全額が着金しなかった場合は、全額が元に戻るアトミックな取引となっていることがポイントである。
なお、今回実証が完了したと語られているものの、実際に同技術が実装される時期については、引き続き未定となっている。LNは、BreezによるLightning rod(ニュースレター#32で紹介)の登場など、新しい技術が相次いで登場する領域となっており、今後もその動向について、注目していきたい。
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●Square Crypto、ZmnSCPxj氏への資金提供
●Analysis of insertion in Bech32 strings
●OP_CHECKTEMPLATEVERIFY(OP_SECURETHEBAGを改良)のウェブサイトが開設された
2. Ethereum
●EEA、トークンエコノミーへChamber of Digital Commerceと提携
●EF-Supported Teams: Research & Development Update
●Ethereum biweekly: Ecosystem and projects’ updates, opinion and research articles
●The Current State of Smart Contract Upgradeability
●ZkRollupを用いた場合のスループットについて、Istanbulアップデート前後の対比
3. Bitcoin/Ethereum以外
●Enigma、EEAのTrusted Compute Specification実装を通じて、エンタープライズチェーンとパブリックチェーンを連携
4. 統計・リスト
●a16zのCrypto Startup School のインストラクター陣リスト発表
起業家・開発者・投資家が並ぶ。2/21–4/3の7週間プログラム
申込は12/15まで
5. 論考
●Multicoin CapitalのWeb3 Stackマップ2019版
スマートコントラクトチェーン文脈としてEthereum以外にEOS,Tezos,COSMOS,Polkadot ,Dfinityなどが増えたことを挙げ、AragonがCOSMOS SDKも開発オプションに加えたことを例示している
また、オンチェーンプロトコルとオフチェーンサービス間のミドルウェアにも注目し、クロスチェーン文脈にLoomやtBTCを例示している
スタックチャート上も、DeFi文脈でのカテゴライズが鮮明に
●2019年の エンタープライズ・ブロックチェーンを振り返る ~ビジネス編/技術編~
●Blockchain Capitalの2019レビューレポート
●Token-Curated Registry with Citation Graph
6. 注目イベント
●Financial Cryptography 2020(2/10–2/14 at Kota Kinabalu, Sabah, Malaysia)
●Workshop on Coordination of Decentralized Finance(2/14 at Kota Kinabalu, Sabah, Malaysia)
●Stanford Blockchain Conference (2/19–2/21 at Stanford)
●EthCC(3/3–3/5 at Paris)
●Hyperledger グローバルフォーラム(3/3–3/6 at Phoenix, Arizona)
●EDCON(4/3–4/7 at Vienna, Austria)
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