LayerX Newsletter for Tech (2019/10/14–10/20)
Issue #29

今週の注目トピック
Satoshi Miyazakiより
今週はClauseによる、人手を介さない「スマートSLA」の実現に向けた動きや、機密コンピューティングの研究開発を促進するコンソーシアム「Confidential Computing Consortium」をLinux Foundationが立ち上げたことに関するニュース、OpenLawとトムソン・ロイターが提携し、リーガルドキュメントの自動作成と、スマートコントラクトによる自動執行を組み合わせたPoCを行っていくニュースを取り上げました。ぜひ、List編と合わせて御覧ください。
Section1: PickUp
●スマートリーガルコントラクトをKPIベースのSLAに適用することをClauseが発表
ITサービスの利用に伴い、ベンダーと締結するSLA(Service Level Agreement)は、オペレーションレベル維持やコスト管理にとって有用な手段となっている。膨大なパフォーマンスデータに対して設定されるKPIに基づいて、報酬やペナルティの支払いが履行される。こうしたSLA管理プロセスにおいて、パフォーマンスデータがKPIの閾値に抵触するかどうかの判断および事務オペレーションには、時間集約的な業務を伴うため、社内に専門の管理チームを設置する大手企業も少なくない。
ビジネス環境が激しく変わる中にあって、サービスも速やかにビジネス要件に従うようフィットする必要があることから、SLAの条件となるパラメータ選定や閾値設定も、膨大かつ迅速な対応が必要になってきている。こうしたSLAの履行に際して、スマートコントラクトは、社内システムの出力するデータフィードをもとに、契約に従って所定のアクションのトリガーとするため、自動処理が可能なほか、後から検証・監査も可能な透明性を備える。
こうした「スマートSLA」は、人手を介した目視検証やマッチング作業と比べて、業務効率化に寄与する可能性がある。例えば、デジタルワークフロープラットフォームをSaaSとして提供するServiceNowが出力するパフォーマンスデータを用いて、ベンダーのペナルティを考慮した上で顧客の支払い額を算定した上で、インボイスも生成し、必要に応じて、会計ソフト上のワークフローをキックして支払いを行うことが可能。
Clauseは、燃油サーチャージ事務への適用を発表したほか(8月のNewsletter)、約束手形のテンプレートを発表するなど(8月のNewsletter)、ビジネス適用シーンを広げている。
この他、韓国でブロックチェーンプラットフォームNexledgerを手がけるSamsung SDSが、スマートコントラクトによるビジネスプロセスの自動化を促進すべく、RPAを手がけるPaga社と提携を発表した。メーカーからディーラーまでサプライチェーンのエンドツーエンドでプロセス効率化はかるとのことだ。
前々回のNewsletterで紹介したとおり、IKEAも「スマートインボイス」を用いたケースを発表するしたばかりだが、「スマートインボイス」「スマートSLA」などProgrammable Money(プログラマブルなお金)の適用ケースが続々と登場している。ブロックチェーンが企業にとって重要な意味を持つことの証左が、プログラマブルなお金を操ることによって実現される「お金の自動運転」(LayerX福島のNote記事)によって、経理や貸付や保険の姿が大きく変わる可能性にある。
適用ユースケースの動向とあわせ、Clauseのようなスマートリーガルコントラクトを支えるプラットフォームの動向に注目していきたい。
●Linux Foundation、機密コンピューティング普及加速へ向けConfidential Computing Consortiumを組成
クラウドコンピューティングやエッジコンピューティングの利活用が進む中、計算におけるトラストやセキュリティのレベルを確保すべく、
Linux Foundationが機密コンピューティングのコンソーシアムを立ち上げた。これは、暗号化されたデータをインメモリで処理し、他のシステムへ晒さない方式とすることによって、機微データをセキュアに取り扱うもの。現時点におけるコンソーシアムへのコントリビュータとしては、
コードやデータについての開示・修正を、メモリ内部に保護されたEnclaveを用いてハードウェア層で保護する「Intel SGX」、TEE(Trusted Execution Environment)アプリケーション構築を可能とする開発フレームワーク「Open Enclave SDK」の他、TEEを用いたアプリケーションにハードウェア独立性を提供するプロジェクト「Enarx」
の3つが挙がっている。コンソーシアム参加者の顔ぶれをみてみると、プレミアムメンバーとしては、AlibabaやArm・Google Cloud・Huawei・Intel・Microsoft および Red Hatが参加。この他に一般メンバーとして、BaiduやByteDance・decentriq・Fortanix・Kindite・Oasis Labs・Swisscom・Tencent および VMwareが参加しており、主要なクラウド、半導体メーカーが名を連ねている事がわかる。
また、ブロックチェーン上でプライバシーコンピューティング手がけるOasis Labsも名を連ねており、エンタープライズ向けのプライベートなスマートコントラクト実行やコンピューティングにむけた環境整備が進んでいることが窺える。Oasis Labsは、9月の上海Blockchain Conferenceでも、プライバシー保護スマートコントラクトを通じて、医療・ヘルスケア情報の自動処理や共有促進する取組みを推進すること等を発表している。
Alibaba CloudやIBM・Microsoftは、先週のNewsletterで紹介した「Trusted Compute Framework(TCF)」にも名を連ねている。
Trusted Compute Frameworkは、TEE(Trusted Execution Environment)を用いたTrusted Computingを行うべく、ChainlinkとIntelが中心に発表したもの。トラストとプライバシーを両立しながら、企業の取り扱う重要データ・機微データを安全に取り扱う環境整備に期待したい。
● OpenLawがトムソン・ロイターと提携し、ドキュメント作成ツールでのPoC実施へ
2019年10月21日、トムソン・ロイターとOpenLawが、法的効力を持つドキュメントの作成に関する分野で、ブロックチェーンを活用した実証実験を共同で実施する予定について発表した。
Contract Expressはトムソン・ロイター社の提供するリーガルソリューションのひとつであり、導入企業は自社で契約書のテンプレートを作成し、空欄に応じた質問形式のフォームに回答することで、契約書のドラフトを完成させることができるツールとなっている。MicrosoftのWord形式でドキュメントを作成できるため、プログラミングに関する知識がなくても簡単に書類を作成できることに加え、DocuSignをはじめとする電子署名サービスとの連携も行うことができる。
今回、初期段階のPoCとしては、Contract Expressで法に則った契約書を作成した後、OpenLawを用いて一部契約の内容をEthereum上で実行可能なスマートコントラクトに置き換え、資金移動の実行をはじめとする契約の実行を効率的に実現できるかを検証する。
J.P.Morganを始めとする金融機関によるデジタル通貨を模索する動きが続く中、プログラマブルマネーとコントラクトの連動は、今後の重要な領域となっていくことが考えられる。
以前ご紹介したように、OpenLawでは、「LAO(Liability Autonomous Organization)」のリリースを目指しており、現実社会におけるスマートコントラクトの活用に焦点を当てていることが伺える。今後も同社の動向に注目していきたい。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Bitcoin(「Nayuta、ノンカストディアル型ウォレットNayuta Walletを発表」など)
2. Ethereum(「Chainlink、TEEとの連携を通じて、オンチェーンとオフチェーン繋ぐ汎用メッセージプロトコルを目指す」など)
3. Bitcoin/Ethereum以外(「中国、ホスティングプラットフォームBlockchain Service Network (BSN) をローンチ」など)
4. 統計・リスト(「ブロックチェーン、仮想通貨関連のおすすめ本リスト」など)
5. 論考(「Gartnerのハイプサイクル(ブロックチェーンテクノロジー編)」など)
6. 注目イベント
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