今週の注目トピック
Satoshi Miyazakiより
今週のNewsletter Tech編では、中国のテンセントにおける、ブロックチェーンを活用したインボイス(請求書)の標準化に関する動きや、サプライチェーンの標準化団体であるGS1におけるデジタルアイデンティティを巡る動き、ERC20ベースのSmartBondを発行できるMapleプロジェクトについて紹介しています。List編と合わせて、ご覧ください。
Section1: PickUp
●テンセント、ブロックチェーンベースのインボイス標準化をリード
ITU(国際電気通信連合)において通信分野の標準策定を行うITU-T(電気通信標準化部門)において、電子インボイス標準に関する国際会合が行われ、インボイスの国際標準化について取り扱われた。
この国際会合の中で、テンセントの「DLTベースのインボイスの汎用フレームワーク」プロジェクトが中国の税務当局承認のもとに承認、および他国(英国・スイス・スウェーデン・ブラジルなど)によるサポートを受けて行われた。ITU-Tの会合の参加者は、「ブロックチェーンベースのインボイスが将来のデジタル経済において重要な基盤になること」および「標準の策定が重要であること」について同意した模様。テンセントは、中国情報通信研究院および深セン税務当局と共同でこのプロジェクトを推進している。
テンセントはブロックチェーン利活用において積極的な活動をみせている。最近も、傘下のWeBankがブロックチェーンベースの自動車データベースを発表したばかりであり、これは自動車保険における正確な監査証跡として利用すべく業界横断でデータ共有するものだ。
ブロックチェーンのインボイスへの応用例としては、深セン市からも、ブロックチェーンベースのtax invoice(課税額が分かる正式なインボイス)を昨年のローンチ以来1000万件にのぼることが発表されている。
インボイスは、Tencentのサポートのもと発行されたものであり、プロセス自動化や不正件数低減に寄与しているという。また、IKEA Icelandは、ブロックチェーン上のインボイスとe-moneyを組み合わせることによって、支払いが自動化され予測可能なものになり、リスクやヒューマンエラーが減らせる、と発表している(10/9発行のNewsletter)。
この他、BakerHostetlerとClauseからは、燃油サーチャージ分野において、燃油価格データに基づくサーチャージ計算およびペイメントシステムを連動させ、インボイス生成につなげるケーススタディが発表されている(8/20発行のNewsletter)。
Lightningインボイスをはじめとして、暗号資産のプログラマブルなペイメント執行に端を発するブロックチェーン技術は、元来インボイスの親和性は高いことから、応用例の蓄積を経ながら標準化の検討が進むことを通じて、普及につながることが期待される。応用・技術の両面から今後の動向に注目したい。
●サプライチェーン標準化団体GS1のブロックチェーンを巡る動き
GS1(Global Standard one: 本部はベルギー/米国)は、複数国を跨ぐサプライチェーンの国際規格を定める組織であり、110か国以上が加盟している。GTINなどコード体系やバーコードのGS1 Standardを定めており、それらはサプライチェーンの国際標準としてデータ一貫性や国際運搬の識別・検証に使われている。
GS1はこのほど、タイヤのライフサイクルトラッキングにおいて、SAP社との協業を発表した。これは、RFIDタグとブロックチェーンを用いて、過使用のタイヤを特定し修理を承認するものだ。個々のタイヤをRFIDタグで識別した上で、タイヤの補修履歴をブロックチェーンに記録することによって、個々のタイヤの履歴に関する信頼できる情報を業者に提供する仕組みとなっている。
GS1は「トレーサビリティへのブロックチェーン活用」についてレポートを発行している他(GS1マレーシアは医薬品分野のトレーサビリティを AEON AsiaおよびChaintopeと実施している)、「エコシステム間のブロックチェーン相互運用性」についてレポートを発行するなど、ブロックチェーン分野に積極的な関与をみせていることから、技術標準策定の動向として、GS1の主な取り組みを俯瞰したい。
GS1の取り組みにおいて、技術面からも注目されるのが、サプライチェーンにおける法人のデジタルアイデンティティである。米国GS1では、ブロックチェーンベースのアイデンティティ証明を通じて、紙ベースの非効率・不正確なプロセスに起因した、サプライチェーン上のデータ共有やコラボレーションの改善に取組んでいる。
想定するユースケースとしては、法人組織のアイデンティティ証明・審査に向けたグローバル標準を目指すものだ。具体的には、個人ではなく法人組織のアイデンティティについて、審査に再利用可能な形で、法人組織のCredentials(資格証明)を発行管理し、法人アイデンティティを証明・検証する。
先月には、サプライチェーン向けデジタルアイデンティティでDigital Bazaar との協業を発表している。Digital Bazaarは、分散アイデンティティプラットフォームSovrinのStewardであり、GS1と共同で、ブロックチェーンアイデンティティの実験を、デジタルリテールコマースのサプライチェーン上で実施している。これは、リテールサプライチェーンにおける法人むけIDと、物理的なプロダクトのリコンサイルを行うものだ。法人組織に加えて、そのプロダクトがデジタル/物理的に当該アイデンティティのもとに存在することをリコンサイルすることによって、そのプロダクトの真正性をより信頼できるものにできるとしている。
GS1とDigital Bazaarは、その他にもTradeLensやSecureKeyと協働で、法人アイデンティティの証明・検証の標準化に取り組んでいる。これは、高リスクトランザクションにおける法人の特定・認証に、W3CのDecentralized IdentifiersおよびVerifiable Credentials標準策定内容を適用し、サプライチェーンや金融業界の効率改善を図るものだ(W3Cの取組については、8/20付および10/1付のNewsletterを参照)。SecureKeyは「Verified.Me」というブロックチェーンベースの個人向けデジタルアイデンティティ検証サービスを、カナダの7つの銀行との協働で開発・展開している。
デジタルアイデンティティを巡っては、KYCなど個人のアイデンティティに紐づける取り組みが多く見られるが(例:カナダ・オランダの空港旅客アイデンティティ、韓国金融決済院のW3C標準準拠DID、英FCAサンドボックスのuPort、中国WeBankのWeIdentity、Mastercardの分散ID研究)、今後商取引のデジタル化が益々進展する中で、その範疇は個人に留まらない。法人に関するアイデンティティの他、自動車業界コンソーシアムMOBIが標準を策定している車両アイデンティティ(VID)なども含め、今後の動向に注目したい。
●Maple: 暗号資産担保の債権を発行するDeFiプロジェクト
2019年10月29日、DeFiレンディングを利用しているユーザーが債権を発行できるプラットフォーム「Maple」のローンチが行われることについて、発表された。プロダクトは現在、MVPの開発が終了してプライベートテストの期間に入っており、2週間後にCompound Protocolとインテグレーションが行われる見通しとなっている。
Mapleにおけるロールとしては、債権を発行して資金を発行する「Supply」サイドと、債権を購入して金利収入を得る「Demand」サイドにの2つに、大きく分かれている。各債権(Maple SmartBond)はERC20トークンで出来ており、Issuerがそれぞれバスケットに入れた暗号資産をベースに発行される。Issuerがバスケット組成時に極端なリスク選好を行わないように、バスケットのうち10~20%は、Issuerがエクイティとして常に保有する仕組みとなっている。
初期プロダクトはCompoundとインテグレートされるため、担保となる暗号資産は、cDAIとなっている。Mapleのスマートコントラクトは、担保となっている暗号資産から発生した利子を回収し、債権を購入した投資家に分配する。そのうち、余った利子分は、Issuerの手元に入る仕組みとなっている。
長期的な方向性としては、SmartBondを更に複数束ねて組成した債権ETFや、複数のDeFiプロトコルとのインテグレーションが検討されている。担保にする暗号資産によっては、様々なリスク商品を組成することが可能になるため、今後どのように活用されていくか、注目していきたい。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Bitcoin(「Bitcoin Optech Schnorr Taproot Workshop」など)
2. Ethereum(「Istanbul、メインネットのアクティベートのターゲット日を12月4日に」など)
3. Bitcoin/Ethereum以外(「Plasm:PolkadotのスケーラブルDAppsプラットフォーム」など)
4. 統計・リスト(「中国におけるブロックチェーンプロジェクト」など)
5. 論考(「ConsenSysによる「Blockchain in the Legal Industry」まとめ」など)
6. 注目イベント
バックナンバー
#1 (2019/04/01–04/07)
#2 (2019/04/08–04/14)
#3 (2019/04/15–04/21)
#4 (2019/04/22–04/28)
#5(2019/04/28–05/05)
#6(2019/05/06–05/12)
#7(2019/05/13–05/19)
#8(2019/05/20–05/26)
#9(2019/05/27–06/02)
#10(2019/06/03–06/09)
#11(2019/06/10–06/16)
#12(2019/06/17–06/23)
#13(2019/06/24–06/30)
#14(2019/07/01–07/07)
#15(2019/07/08–07/14)
#16(2019/07/15–07/21)
#17(2019/07/22–07/28)
#18(2019/07/29–08/04)
#19(2019/08/05–08/11)
#20(2019/08/12–08/18)
#21(2019/08/19–08/25)
#22(2019/08/26–09/01)
#23(2019/09/02–09/08)
#24(2019/09/09–09/15)
#25(2019/09/16–09/22)
#26(2019/09/23–09/29)
#27(2019/09/30–10/06)
#28(2019/10/07–10/13)
#29(2019/10/14–10/20)
#30(2019/10/21–10/27)
Disclaimers
This newsletter is not financial advice. So do your own research and due diligence.