LayerX Newsletter for Tech (2019/08/05–08/11)
Issue #19

今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
Blockstream社がマイニングに参入しFidelity子会社などむけにサービス提供するほか、Bitcoin盗難発生時に資金回収を可能とするVaultの仕組みが新たに提案されています。その他、tZEROよりパブリックチェーン上にトレーディングデータを記録する方法について特許が出されている件について紹介します。
Section1: PickUp
●Blockstreamがマイニング参入、初期顧客に米大手金融機関Fidelity子会社やReid Hoffman氏
Blockstream社は、Liquidサイドチェーンの他、Greenウォレット、衛星からBitcoinトランザクション伝播するBlockstream Satelliteなどを展開している。
このほど、クラウドマイニングとマイニングプールという2つのサービスの提供開始を発表した。当初は大手企業や機関投資家むけとし、将来的には中小企業・個人むけに展開予定とのこと。初期顧客として、 Fidelity Center for Applied Technologyのほか、LinkedIn共同創業者Reid Hoffman氏を予定。マイニング事業向けに水力発電など300MW以上の電力を確保しており、カナダQuebecおよびジョージアAdelにデータセンターを構える。ハッシュレートは6exahashと、Bitcoinの日次ハッシュレート(の7%に相当する見込み。Blockstream Mining Control Panelを介して、リモートでマイニング設備の状況をリアルタイム分析し、デバイスオペレーションをコントロール可能。
この中で特徴的なのは、マイニング集中化対策プロトコルとして「BetterHash」を利用している点。BetterHashは、BitcoinコアデベロッッパーMatt Corallo氏が開発したマイニングプロトコルであり、「どのトランザクションを新しいブロックに含めるか」をマイニングプール運営者ではなく個々のマイナーが選択できる点がポイント(通常、ユーザーはマイニングプール運営者が決定したブロック・テンプレートを使用。BetterHashでは、ユーザーに独自のブロック・テンプレートを使用するオプションを提供)。この場合、マイニングプール運営者は、どのトランザクションを新規ブロックに含めるかを一元的に決定できなくなることによって、ビットコインネットワークがより分散され、トランザクション検閲や51%攻撃といった共謀を難しくすることを見込んでいる。こうしたトランザクションセットの選択オプションをユーザに付与するというアイデアは、Stratum V2にも継承されている。
これまでBitcoinマイニングは、自身で設備購入するか、未成熟なプレイヤーに委ねる他なく、参入障壁が高いことが課題であった。そこで今回、Blockstreamは、顧客がモニタリング・コントロール可能で透明なエンタープライズサービスを提供している。これによって、BitcoinホルダーやBitcoinに関わる事業者がマイニングに参加し、Bitcoinネットワークの分散セキュリティ維持に貢献できるにようになることが期待されるとしている。
今回ビジネス面で象徴的なのは、金融大手のFidelityが、子会社を通じてビットコインマイニングプールに参入したこと。Fidelityは2018年に「Fidelity Digital Asset Services」設立済であり、今回技術子会社である「Fidelity Labs」を通じて、ビットコインマイニング・プールにクライアントとして参加したことは、今後の大手金融機関とビットコインの距離感を占う上で、今後の趨勢に注目したい。
●Bitcoin盗難発生時にコイン回収を可能とするVaultの仕組みが新たに提案される
暗号通貨の管理において、「秘密鍵の管理」は個人ユーザーだけでなく大規模カストディアンにとっても重要な課題であり、多くの交換業者がアセット流出の被害に遭う原因の一つになっている。こうした背景のもと、Bitcoinのスマートコントラクトセットアップを通じて、盗難時にユーザーがコインを回収できる仕組み(Vault)を通じて、盗難発生時の損失を最小限に留めようという提案が行われている。
Vaultで用いられる鍵は「Vault Key」と「Recovery Key」の二種類。前者のVault Keyは、通常の秘密鍵と同様にアセットの利用に用いられる。後者のRecovery Keyは、所定期間内の送金トランザクションを回収するのに用いられ、もし前者を盗難されても後者が手元にあれば、盗難者がコイン移動試みても、特別なアドレスへ回収することができる。
そのため、盗難者が秘密鍵を奪うことを通じて資金盗難をはかろうとするインセンティブを低減できる可能性がある。今回Bryan Bishopによって提案されたのは、3つのトランザクション(Vault トランザクション・Delayed-Spendトランザクション・Re-Vaultingトランザクション)を用いてセットアップを行うもの。
(1) Vault トランザクションはコインをロックアップするもの。
(2) Delayed-Spendトランザクションは一日経過後に初めてロック解除できるようにするもの。
(3) Re-Vaultingトランザクションはバックアップアドレスや新規Vaultにコインを送るものである。以下にセットアップの手順を概観する。セットアップステップ1では、最初に三つのトランザクションを生成し、ブロードキャストせずにおく。ロックアップし秘密鍵でロック解除するものとしてVault トランザクションを用意する。この秘密鍵を使って、二つ目のトランザクションDelayed-Spendトランザクションの生成・署名を行う(一日経過後に初めて、Vault生成者が管理する通常の秘密鍵を使ってコインを使用できるほか、もう一つの秘密鍵を用いて即時に使用できる)。このもう一つの秘密鍵を使って、三つ目のトランザクションRe-Vaulting トランザクションの生成・署名を行う。
セットアップステップ2では、Delayed-Spendトランザクション および Re-Vaultingトランザクションの生成・署名に使われた秘密鍵を一緒に消去する。これによって、秘密鍵が盗難に遭うことはないだけでなく、Vaultトランザクション内のコインは、Delayed-Spendトランザクションでしかロック解除できなくなる。また、Delayed-Spendトランザクション内のコインは、一日待って通常の秘密鍵でロック解除するか、Re-Vaultingトランザクションを使ってバックアップアドレスまたは新規Vaultに送るかしかなくなる。
セットアップステップ3では、Vaultトランザクションをブロードキャストする。コインはVaultトランザクション中にあり、Vault生成者は通常の秘密鍵、Delayed-Spendトランザクション および Re-Vaultingトランザクションを保管しておき、Vault生成者がコインを使いたいときは、Delayed-Spendトランザクションをブロードキャストすると、一日待てばホットウォレット内の普通の秘密鍵を使って使用できる。
もし通常の秘密鍵だけが盗難されても、コインはVaultトランザクションにロックアップされているため、Delayed-Spendトランザクションが無ければ取り出すことができない。
また、通常の秘密鍵とDelayed-Spendトランザクションが盗難された場合も、盗難者がDelayed-Spend Transactionをブロードキャストしたあとにコインを使えるまで一日待つ必要がある。そのためWatchtowerを使って監視して検知できれば、Vault生成者がRe-Vaulting Transactionをブロードキャストすることによって、コインをバックアップアドレスや新規Vaultへ退避させることができる。
Vaultは2016年に提案されたものだが、当初案はCovenantsというファンド回収機能を前提とし、アップグレードにフォークが必要であったため、普及しなかった。今回の提案はフォークの必要がないことから、今後実装や検証が進む中で、普及への道筋が拓かれる可能性がある。暗号通貨交換業者を狙った資金流出の事案は後を絶たないが、その対策は秘密鍵管理の人的オペレーションを工夫することなど限定的であり、Vaultのような形で技術的対策をとることができるようになることに期待したい。
●tZERO、マークルハッシュデータの格納・検証するTime Ordered Merkle Epoch (TOME)で特許
2015年に公開されたtZEROは、本年1月にトレーディングシステムがローンチしており、プライベートエクイティトークントレードむけ代替的取引システム(ATS:alternative trading system)を提供している。証券をトークン化したい他社むけに発行プラットフォームになることを目指し、これまでにネイティブエクティトークンであるtZERO Preferred (TZEROP)の他、Overstock社自身の株をBlockchain Voting Series A Preferred Stock(OSTKP)としてプラットフォーム上で利用可能。今月中にTZEROPトークンのロックアップが解除されリテール投資家がアクセス可能になる見込み。
このほど、tZEROはパブリックチェーン上にトレーディングデータを記録する方法について特許を取得した。マッチングエンジンなどの低遅延システムにおける取引などの時系列データについて、任意の間隔でハッシュを生成し、パブリックチェーンへのアンカリングを行う。以前の取引の存在を検証したり、監査可能なトランザクション記録を生成したりすることが可能になるため、パブリックチェーン上にトークンのセツルメントができるようになるといえる。
tZEROは、今年1月に「クリプトインテグレーションプラットフォーム」について別の特許も取得している。これは、クリプト(暗号通貨・デジタルアセット技術)をレガシートレーディングシステムとイングレーションするものであり、暗号通貨交換業者とレガシートレーディングシステムの間のインターフェースを提供するもの。デジタル資産・負債・コモディティ・暗号通貨・トークン・現金を含むトランザクションアイテムが対象として、暗号通貨と従来型アセットという異なる性格のアセットに関するマーケット 情報を統合することによって、各資産の最適な価格を決定ことが可能になる。
今回発表されたTOMEの特許を、こうした特許と組み合わせることによって、パブリックチェーン上のブロックチェーンベースの証券トークンのセツルメントを、レガシートレーディングシステムにリンクできる可能性がある。また、トランザクションデータや、それによるオンチェーンセツルメントデータをパブリックチェーン台帳に記録・アンカリングできるため、例えば、 オフチェーン取引データやEthereum上のセツルメントデータを組み合わせた上でBitcoinブロックチェーンへアンカリングするなどが可能になるかもしれない。
取引の記録を必要とする取引所、ならびに監査目的の規制当局という双方にとって貴重な機能を提供できる可能性があり、市場の透明性向上・規制当局むけ報告の有効性・効率向上にむけた方策として注目したい。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Bitcoin(「Bitcoin Core 0.18.1がリリース」など)
2. Ethereum(「Road to Devcon#2 資料」など)
3. Bitcoin/Ethereum以外(「Beam、Stellerroと協業し、秘匿性を備えた証券トークンを提供へ」など)
4. 統計・リスト(「Lightning Networkのリソースリスト」など)
5. 論考(「デジタルID”Yoti”によるID証明の仕組みと導入事例」など)
6. 注目イベント
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