今週の注目トピック
Takahiro Hatajimaより
Lightning Networkにおける資金盗難の試みに対する懲罰的な機能であるJustice Transactionの発動状況についてレポートの概略を紹介します。また、Ethereumのスケーラビリティ改善にむけた短期的なオプションとして、Vitalikから「BitcoinCashを使ってはどうか」という提案がなされました。併せて、韓国SamsungグループなどによるSelf Sovereign Identitity(SSI) の取組が本格化しているので、その概要を紹介しています。
Section1: PickUp
●BitMEX、Lightningの盗難防止機能Justice Transactionについてレポート
LightningNetworkはオフチェーン上で張られたPaymentChannelを用いた送金を第三者を介して行うことによってトランザクションのスケーラビリティを向上するもの。その中で悪意ある第三者が資金を盗難しようと試みた場合に、関連する全ての仮想通貨を失う懲罰的な機能が備わっており、これを「Justice Transaction」と呼んでいる。
このほど、BitMEX Researchから発表されたレポートによれば、2017年末のローンチ以来、241件のJustice Transactionが検知されており、その盗難防止機能を通じて同数の窃盗に対し計2.2BTCのBitcoinが回収されたことが明らかになった。
このうち60件超が2018年10月に集中したほか、2019年2月から4月までの期間にも多く発生したことなどがデータで示されている。1ml.comのLightning Network統計によれば、計940BTCがネットワーク上で取引されているため、そのうちJustice Transaction該当分は0.7%に過ぎないことがわかる。
暗号通貨の流通をめぐっては、不正流出被害の撲滅が重要な課題。Justice Transactionによる懲罰的な盗難防止機能をはじめとした仕組みが有効に機能することによって、安心・安全な形で暗号通貨が普及していくことを期待したい。
●Vitalik、Ethereumスケーリング短期解決策としてBitcoinCashブロックチェーン利用を提案
Ethereumでは現在のトランザクション処理能力が秒間十数件に留まるなどのスケーラビリティ問題などに対処すべく、PoWからPoSへの移行をはかるEthereum2.0の開発を進めている。Ethereum2.0の開発スピードが懸念される中、Ethereumのスケーラビリティ問題に対する短期的な解決策として、Vitalikから、Bitcoin Cashのブロックチェーンを利用する提案が提起された。
BitcoinCashの利点として、データ処理能力が秒間53KBと優れる他、安価な手数料や、BTC Relayを用いてブロックをEtheteumで処理できる点などが挙げられている。Bitcoin Cashはブロックタイムが長い(10分)という欠点があるが、AvalancheのPre Consensus技術用いたZero Confirmationペイメントなどコミュニティが積極的。この他に、ブロックタイムのより速い(14秒)Ethereum Classicという案もあるが、スケーラビリティがBitcoin Cashに劣る(秒間8KB)。
こうした提案に対して、複雑性が高まり、スケーラビリティ問題解決を遅らせるだけではないかといった懸念の意見も多くある。Ethereum2.0を巡っては、このほどフェーズ0の仕様確定がなされたほか、フェーズ1についてもこの秋に仕様確定が見込まれている。Ethereumにとって、短期的目線・長期的目線で様々な取組が推進される中、スケーラビリティ改善実現が安全に実施されることを期待したい。
●韓国大手企業7社がコンソーシアムによる「セルフソブリンIDシステム」
アイデンティティ情報のモバイル認証を展開すべく、サムスン電子など韓国大手企業7社によるコンソーシアム結成が発表された。このコンソーシアムは、2020年を目標にブロックチェーンベースのセルフソブリンIDシステムをローンチすることを目指すとしている。参加企業としては、サムスン電子の他、通信業界(SK Telecom・KT・LG Uplus)、金融(KEBハナ銀行・ウリィ銀行)、IT(Koscom)と、通信系・金融系の名前が挙がっている。各社の役割として、サムスン電子は安全なデータ管理の提供(多くの携帯端末に内蔵されるSamsung Knoxを使用予定)、通信業界はモバイルサービスの安定提供、金融業界は証明サービス提供を担うとされる。
ユースケースとしては、ユーザーが保存した個人情報(銀行口座・住民番号)を自由に使用できるサービスを目指している。これによって、ネット取引などにおけるアイデンティティ証明に仲介を必要とせず、ユーザーが自身のアイデンティティ情報を自身のスマホなど携帯端末上で安全に管理することができるようになる。まず第一段階の適用として、大学卒業証書の発行・配布を予定。これによって学生側の情報開示や企業側の証明の確認を効率的に行うことができるといった便益を提供する。SK Telecom・KT・LG Uplusといった通信企業の採用時にこれを活用することによって、早期普及を促すといったシナリオが想定されている。また、その先のさらなる広がりとして、医療機関・保険会社・レジャー施設・リゾートなどとの提携を通じた参加企業増加を目指すとのこと。
セルフソブリンID(SSI)は、ユーザーが自身のデータを分散アイデンティティを用いてコントロールするもの。ブロックチェーンの果たす役割は実装によって異なるが、例えばSovrinのようなケースでは、資格証明発行機関の公的アイデンティティをブロックチェーンで管理にするにあたり、個人情報が格納されることはない。データを暗号化して保持し、ユーザーがアクセス許可を与えた場合にリリースしてデータへアクセスできるような形で、ユーザーが自身のデータを直接コントロールすることによってハッキングなどのリスクを低減する。
今回コンソーシアムに名前を連ねるSK Telecomは、すでにドイツTelecomとの間で別途ブロックチェーンベースのデジタルアイデンティティプロジェクトを発表済。そこではユーザーが自身の情報をスマホ上で管理し、認証・アクセスコントロール・契約などを実行できるようにしている。
本取組は韓国の銀行が参加するデジタルアイデンティティであるが、オランダRabobankからも、ブロックチェーンベースのアイデンティティ(セルフソブリンアイデンティティ:SSI)に関するレポートが発表されている。「SSI-as-a-Service」を志向した実験中であり、そのユースケースとしてKYC(検証可能データ)、モーゲージ(申込資料検証時間短縮)、HR(資格認定・卒業証書)であるとされる。
また、カナダでは、旅行者自身によるデジタルアイデンティティ管理プラットフォームKnown Traveller Digital Identity(KTDI)が発表されている。これは世界経済フォーラム、カナダ・オランダ政府による取組であり、パスポートのチップに格納されているアイデンティティデータをデジタルウォレット上に安全に格納するものとされる。
このように、アイデンティティ情報をユーザーが管理して適時適切なタイミングでサービス利用に活用するデジタルアイデンティティの実用化が、いよいよ大手企業を交えて間近なものになってきた。本取組の場合、まず大学の卒業証書の発行・配布を通じたユースケースからスタートして学生や求人企業に効率化メリットを提供した上で、プレイヤーを増やしていくという現実的なシナリオが描かれており、早期普及を見込んでる。今後は金融機関(銀行・保険会社)や医療機関のほか、各種サービス施設も交えるなど、さらなるユースケースの拡充が期待される。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Bitcoin(「BTCPayServer.Lightningに最新バージョンPtarmigan/v1.0.0.3 がリリース」など)
2. Ethereum(「Ethereum 2.0 フェーズ1、今秋にも仕様確定へ」など)
3. Bitcoin/Ethereum以外(「Polkadot、実験むけネットワークKusamaを発表」など)
4. 統計・リスト
5. 論考(「ビットコイナー反省会でビットバンクCBOジョナサン氏がセキュリティ対策を語る」など)
6. 注目イベント
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