今週の注目トピック
Satoshi Miyazakiより
今週は、先週にかけて行われたEthereumの年次大会であるDevcon Vにて話題になった主要トピックを振り返りつつ、ChainlinkとIntelによって発表されたTEEと分散オラクルを使ったTrusted Computation Frameworkの取り組みについて、また世界中で多くの利用者を抱えるメジャーなビットコインウォレットクライアントである、ElectrumのLightning Network機能対応について、取り上げています。ぜひ、List編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●大阪で開催されたDevcon Vの主要トピックを振り返る
EthereumのDeveloper向けカンファレンスDevconが、11/8–11/11の日程で開催された。国内からも、ALISのMasahiro氏&Sota氏やCryptoeconomics LabのYuriko氏、Obi氏をはじめ、LayerXからはOsuke・Ryuya Nakamuraなど多くのエンジニア・リサーチャーが登壇した。会場内の多くのホールや部屋で同時平行で多くのトピックについて発表・議論が繰り広げられた中、ここでは幾つかの主要トピックについて紹介したい(大ホールで行われた内容についてはこちらで動画参照可能)。
和太鼓によるセレモニーで口火を切った後、UNICEFによるクリプトファンド創設とEthereum Foundationによる基金が、Aya Miyaguchiより発表された。このファンドは世界中の子供や若者をサポートするオープンソース技術を支援する目的で設立されるものだが、国連機関による仮想通貨ファンドの設立は初めて。仮想通貨で受けた寄付を保管し、その仮想通貨をメキシコのprescrypto・チュニジアのutopixar・アルゼンチンのatix labsへの支援として提供する仕組みとのこと。
注目を集めた話題の一つが、「OpenLibra」。これは、Facebookに依存しないものをLibraのハードフォークで立ち上げるというもの。Libraはインターネットのデファクト通貨として、トラスト最小限で金融の自動化を可能にする反面、Libra Associationの敷居は高く、Facebook依存が高く大きすぎて潰せなくなる懸念もあることから、Libraから排除されたプレイヤーで集まり、OpenLibraというフォークを作ることにしたとのこと。MoveのVMを暫定的にABCI/Tendermintを用いて作りなおし、MoveMintを開発している。
Emin Gun Sirerからは、マイニングベースでなくサンプリングベースのAvalancheを、Ethereumに適用する「Atheneum」テストネットが提案された。これは、AVAネットワーク上にEthereumをスプーンするもので、全残高を保持するとともに、SolidlyやMetamaskなどコミュニティツールも保持する。Avalancheは、Gossipプロトコルに由来し、決定に際して多数派の選択をなりすましを防ぎながら全員に伝染させるPoSプロトコルである。Snowflake(雪粒)からSnowball(雪だるま)そしてAvalanche(雪崩)プロトコルへというステップを踏む為、Avalancheという名称が冠された。高スループット(秒間3000decision)と高速ファイナリティ(90ミリ秒)およびスケーラビリティ(数千-数百万ノード)の3つが特徴。(自らもDevconに登壇し「UnitベースのProof of Unit」を提唱した、そらすえ氏による補足はこちら)
Enterprise Ethereum Allianceは、企業メンバーの参加を動機づける報酬トークンシステムをMicrosoftおよびIntelと共同で創設すると発表した。これは、「Trusted Reward Token」と呼ばれ、reward token・reputation token・penalty tokenの3つで構成される共通フレームワーク。Token Taxonomy Initiativeの一部として活動される。
4日間行われたDevconは、盆踊り(函館イカ踊り)のセレモニーで活況のうちに閉幕した。4000人を超える来場者を迎えた国際カンファレンスの準備・開催にあたり、尽力されたオーガナイザー等の皆さんに感謝したい。
●TEEと分散オラクルを用いてTrusted Computingを行うTrusted Computation Framework(TCF)がIntel・Chainlinkより発表
ブロックチェーン上のスマートコントラクトを用いて行うことによって、マルチステークホルダーによるトランザクション契約の執行を、共有の計算プラットフォーム上でコントラクトを確実に実行・セツルメントした上で、実行結果を改ざん困難な形で格納できる。実行・検証に際して取引相手を信頼する代わりに、IoTや市場などデータ・ドリブンでマルチステークホルダーの関わるビジネスプロセスを自動化できる。
コンソーシアムを組成した企業群が、パブリックチェーンを用いてコラボレーションする上では、コントラクトのロジック・プロセスは共有する一方で、IoTやGPSなどのトリガーデータおよびオフチェーン計算過程は競合から秘匿できることが望ましい。
こうした課題に対応すべく、ChainlinkとIntelは、企業が生データをプライベートな形でスマートコントラクトへ利用できるオラクルソリューションを開発した。TEE(Trusted Execution Environment。Intel SGXなどが代表的)によるオフチェーン計算を組み合わせ、エンタープライズ水準のプライバシー・スケーラビリティを実現するソリューションとして発表したのが、「Trusted Computation Framework(TCF)」。
Chainlinkは、ブロックチェーン上のスマートコントラクトへ現実世界のデータをインプット(オラクル)として繋ぐミドルレイヤーとして働く(Chainlinkの概要についてニュースレターIssue #13で紹介した記事はこちら)。このとき、ChainlinkはTEEを用いてオフチェーン計算を行い、計算結果をブロックチェーンへ渡す。高ボリュームのトランザクション処理や、EVMでは捌けない複雑な処理をTEEを用いてオフチェーンで行い、結果のみをオンチェーンに格納するという流れになっている。
このようにChainlinkとTEEを組み合わせることによって、オンチェーンの処理を軽減するとともに、データソースをオンチェーンのスマートコントラクト側が知ることなく処理可能であり、ブロックチェーンに対するセキュリティ層としてTrusted Computation Framework (TCF)を構成する。
このTCFは、EEAで定めたTrusted Computingのスペックを実装したものであり、これを先日発表された「Hyperledger Avalon」としてプロダクト化している。一連のTrusted computingのコンセプトには、スペインの銀行Banco Santanderも参加しており、同行はConsolidated DataをTrusted Computingで行う方法を自社のセキュリティポリシーに組み込むべく、データセキュリティの文脈で着目しているとのこと。
TCFの適用は、保険やサプライチェーンの文脈のユースケースが想定されている。保険請求のトリガーとなるデータフィードを提供しながらも、IoTの詳細な基礎データやその算出ロジックを秘匿した上で、保険請求実行を起動することができる。これにより、自動車運転のメトリクスに関する日次レポートのように、従来以上にデータ計測の頻度を高めることが可能となり、動的な保険料ディスカウントをローコストかつプライバシーを保護したまま処理可能になる。
サプライチェーンの文脈では、計算エンジンがトレードコントラクトを処理する上でIoTやGPSなどのデータやロジックを秘匿することによって、競合からのデータ盗難やフロントランニングを回避できる。
今後、銀行・保険・サプライチェーンをはじめとしたエンタープライズ分野で、スマートコントラクトを活用した業務プロセス変革・新規サービス開発を行う上で、エッジコンピューティングとの融合も想定される。その場合にIoTやGPSが取得した機微情報の取り扱いをセキュアに行うことが不可欠であり、TCFのような技術開発の進展に期待したい。
● Electrum Walletが次にアップデートで、Lightning Network機能に対応予定
2019年10月14日、ビットコインウォレットを提供するElectrum Wallet(現行バージョン: v3.3.8)が、来るv3.3.9のアップデートにて、Lightning Networkでのペイメント機能に対応予定であることが、公式Twitter上で発表された。Electrum Walletは、2011年よりライトクライアントのBitcoinウォレットを提供していることで知られており、コアユーザー向けの豊富な機能を備えているため、世界中から人気を集めている。
Lightning Networkに対応するメジャーなウォレットクライアントは未だ数少ないため、今回のアップデートは多くの人にとって、はじめてLNに触れるきっかけとなる可能性がある。
ツイートによると、現在独自のLNの実装が、Electrumのマスターブランチに上がってることが報告されている。また、こちらはPythonで書かれていることも明らかになっている。
今年6月の時点で、ElectrumのファウンダーであるThomas Voegtlin氏により、LNが実装予定であることは既に明らかにされていた。一方で、6月末に、LNのメジャークライアントで脆弱性が発見され、その全容についての公開が9月末に行われる予定であったこともあり、リリースのスケジュールに何かしらの影響があった可能性がある。
仕様の詳細については、今後のアップデートにより、公式から発表される予定となっているため、引き続き注目していきたい。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Bitcoin(「DTCを用いたP2PのBitcoinトレード」など)
2. Ethereum(「DEXのスケーリングにzkSNARKs用いるオープンソース実装OpenZKP」など)
3. Bitcoin/Ethereum以外(「Verifiable Credentials Use Cases」など)
4. 統計・リスト(「Chaincode Residencyカリキュラム」など)
5. 論考(「Blockchain for Digital Identity: The Decentralized and Self-Sovereign Identity (SSI)」など)
6. 注目イベント
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