LayerX Newsletter for Tech (2019/06/17–06/23)
Issue #12

今週の注目トピック
Facebookの発表したLibraを支えるブロックチェーンに関する技術トピックを整理した他、Ethereum2.0のフェーズ0関連の現状トピックをまとめました。さらに、週末にクロアチアで開催されたZcashのカンファレンストピックも概観しますので、お役立てください
Section1: PickUp
●Facebook、Libra構想を支えるLibraブロックチェーンのホワイトペーパー発表
Libraはブロックチェーンに求める要件として、「数十億アカウントに対応可能なスケーラビリティを備えること」「資金のセキュリティを確保できること」および「エコシステムのガバナンスや将来のイノベーションに柔軟に対応できる柔軟性を備えること」という3つを掲げている。その特徴を、「スマートコントラクト」「コンセンサス」「データ構造」「アイデンティティ」の4つの視点から整理する。
1つ目はスマートコントラクトについて。Libraブロックチェーンは、低ボラティリティ暗号通貨をサポートすべく設計された分散型のプログラマブルデータベースという側面を持つ。デジタルアセットLibraをプログラブルに金融取引として取り扱うため、プログラミング言語「Move」を用いたスマートコントラクトを実装可能。Moveは、Libraブロックチェーン上でカスタムトランザクションとスマートコントラクトの実装するための実行可能バイトコード言語。安全性と表現性に優れており、Moveを用いて、Libraアセットやトランザクション処理やバリデーター管理などLibraプロトコルを実装している。
2つ目の特徴はコンセンサスについて。資産保全の信頼性を高めることを念頭においたブロックチェーン技術として、コンセンサスアルゴリズムはBFTコンセンサスアプローチを採用した「LibraBFTコンセンサスプロトコル」を提唱。LibraBFTは、「部分同期モデルむけBFTレプリケーションプロトコル」として2018年3月に提案された「HotStuffプロトコル」をベースとしている。ガバナンスメカニズムは、初期段階においては既存機関の評判や安定性に基づきコンソーシアムチェーンとして構築するが、時を経て完全なオープンシステムへと移行することを検討している。
3つ目の特徴はデータ構造。ブロックチェーンデータの構造は、トランザクション履歴とステートを記録するアカウントモデルを採用。公開鍵により認証されるユーザアカウントによって保有され、バリデーターがトランザクションを処理して、ステートについてコンセンサスをとる流れとしている。
4つ目の特徴であるアイデンティティについて、ユーザは、現実世界のアイデンティティにリンクしない複数のアカウントを持つことが可能。本人確認はLibraアセットの販売で関与する取引所などのプレイヤーを通じて確保される
Libraの目指すビジョンに照らして現実的な技術選定が行われている中で、開発視点でみれば、個別の技術要素そのものよりも、「プログラマブルなデジタルアセット」のためのプラットフォームを打ち出されたことが最大のポイントだと言える。既に開発者むけサイトも開設され、そこでは「テストネットむけ送金トランザクションのプロトタイプ実験方法」などが示されている。特定プレイヤーではなくコードをトラストする「プログラマブルなデジタルアセットプラットフォーム」が新たに拓かれようとしていることに着目するとともに、今後ここから開発者の創造性がかきたてられ新たなサービスが生まれていくことに期待したい。
●Ethereum 2.0、フェーズ0ローンチに向けた日程固まる
Ethereumの抱えるスケーリングなどの課題に対処すべく、PoWからPoSへと移行をはかるEthereum2.0にむけた実装が進んでいる。Ethereum 2.0は3つのフェーズ(フェーズ0: BeaconChain実装、フェーズ1: データのshard化、フェーズ2: State実行)から構成される。
このほど、フェーズ0(BeaconChain実装)のローンチ日程が提示され、マイルストーンにむけて具体的な歩みが刻まれることになる。そこで、フェーズ0を巡る現在の開発トピックについて全体像を俯瞰する。
BeaconChainは、Ethereum 2.0システム全体をコーディネーションする層に位置付けられており、その実装を行うフェーズ0の仕様が6月末に凍結される予定である。Ethereum2.0の構想が昨年夏に発表されて以来この1年間で、計8個のクライアント実装が進んでいる。BeaconChain稼働後は、BeaconChainのStateについてクライアント間で互いに合意すべくやりとりする必要があるため、フェーズ0の仕様凍結が近ずく中、クライアント実装同士の相互運用性へと注目が移りつつある。
ネットワークについては、「libp2p」をEthereum 2.0のP2Pコミュニケーションプロトコルにするのがゴールとなっている。そのステップを簡素化すべく、クライアントはよりシンプルな「Hobbitsプロトコル」を実装中。加えてトランザクションのファイナリティを高速化すべく「プラクティカルなマルチシグ集約」も提案されており、バリデータからのattestation収集スピードを大きなコミュニティサイズ下で大幅に向上することが期待されている。
プロトコルの形式的検証も進んでおり、Runtime Verification社がデポジットコントラクトの監査レポートを作成した。現行のEthereum 1.0チェーン上へのデポジットコントラクトを実装する上での一歩となることに加えて、同社はさらにBeaconChainについて形式的検証を可能すべく「形式的実行可能な仕様」の作成を進めているとのこと。
こうした進捗をベースとして、このたびBeaconChainのデプロイに向けた2つのターゲット日が設定された。まず最初に、Devcon5期間中に、デポジットコントラクトを現行のEthereum1.0チェーンへデプロイされる。スキャマーが偽のアドレス伝えて資金盗難測ることを防ぐため、オープンセレモニーの形がとられる予定。次に、2020年1月3日に、BeaconChainのGenesisイベントが行われる。その前提条件として「充分なetherがデポジットコントラクトにステークされること」と「プロダクションレディなクライアントやバリデータが揃うこと」の2つが設定されている。
Ethereum2.0を使ったDapp開発を考えた場合、バランスの移転や、スマートコントラクトなどブロックチェーンを活用する上で不可欠な「実行レイヤー」が実装されるのはフェーズ2を待つ必要がある。そのため、フェーズ0は、全体からみれば、まだコントラクトを動かしたり送金したりすることもできない不完全なものに過ぎないとも言える。とはいえ、EthereumがPoSへの移行という大きな変容を遂げる中で、大きな節目となることから、安定的に移行が進むことを期待したい。
●Zcash、スケーリングへむけてSharding導入計画発表
6/22–6/24の日程で、クロアチアでZcash FoundationによるカンファレンスZcon1が開催された。Zcashプロトコルに関するトピックだけでなく、他通貨含めたプライバシー、ガバナンスなど広範なテーマを扱っていたため、主要トピックについて概観する。
まず、ZcashへのSharding導入計画が発表された。秘匿コインとして知られるZcashだが、Moneroなどと異なり、デフォルトではプライベートトランザクションではなく、実際のところ匿名トランザクションは全体の2%に過ぎない。以前はプライベートトランザクションはコストがかさみ遅かったが、改善されつつある。さらに今後Sharding導入によってより多くのシーンで利用できる態勢が整う可能性がある。
また、エンタープライズ分野における秘匿化に関する考察も発表された。プライバシーはエンタープライズ利用において重要視されるトピックでありながら、現時点では秘匿化は広く普及しているとはいえない。
QEDIT社は、その背景の一つに「理解のギャップ」があると指摘した。例えば、ハッシュは通常「データを匿名化するパーツ」として使われる一方、ゼロ知識証明においては「データ自体を明かすことなくコミットするため」に使われるという差異がある。こうした点で生じがちな理解ギャップを埋めながらアダプションを進めていくべく、まず開発者むけサンドボックスを提供していくとのこと。さらに、スマートコントラクトに機密性を持たせるべく「ZkVM」について紹介された。zkVMは、機密性を保つスマートコントラクト言語を可能ととすべく、ゼロ知識ベースの仮想マシンをデザインしようとするもの。機密性としてデータセキュリティとデータフローセキュリティの2つで説明している。まず、全データ(アカウント識別子、アセットタイプ、価格などパラメータ)をデフォルトで暗号化するほか、コントラクトロジックをTaprootで保護することによって、データセキュリティを保つ。Taprootは、マークルツリーの原理を応用して、コントラクトロジックを一つの公開鍵に集約するものである。次に「データフローセキュリティ」については、秘匿化されたアセットの流れが正しいことをCloak(Bulletproofのゼロ知識証明システムを用いたConfidential Assetsスキーム)を用いて検証する。なお、ZkVMのトランザクションは、暗号化されたデータやアセットに対して、プログラマブルな制約を含めることができ、プロトコルのカスタマイズ可能となる点も特徴。
トランザクションプライバシーは、暗号通貨のトランザクションまわりで必要性があるだけでなく、エンタープライズ分野における普及にむけても重要なパーツであり、例えばJP MorganもQuorumへZetherのインテグレーションを計画しているなど、注目度が高い。エンタープライズ分野での応用範囲は、業務ロジックだけに留まらず、デジタルアイデンティティにおいても、プライバシー保護と即時認証が可能にすることによって、KYC/AML・顧客経験改善やプライバシー規制遵守などが期待できる。この度のFATFガイドラインなどを通じて、ミキシングサービスやタンブラーなどの利用が制限される中、規制・監査とも整合をとりながら、プライバシーを確保する技術の成熟に期待したい。
Section2: ListUp
(リンクはこちら)
1. Bitcoin(「ノンカストディアルウォレットBreez、iOS向けLightningペイメントアプリのベータ版を発表」など)
2. Ethereum(「Chainlink、Dapps Inc.と協業でリアルタイムデータフィードによるSalesforce販売ワークフロー効率化」など)
3. Bitcoin/Ethereum以外(「IBM、AzureやAWSなどのクラウド環境やオンプレミス環境で稼働するIBM Blockchain Platform Multicloudを発表」など)
4. 統計・リスト(「クリプトマーケットプレイヤーマップ」など)
5. 論考(「Coincheck不正送金事案で検出されたマルウェアについて」など)
6. 注目イベント(「Zcon — Annual Privacy Conference」など)
バックナンバー
#1 (2019/04/01–04/07)
#2 (2019/04/08–04/14)
#3 (2019/04/15–04/21)
#4 (2019/04/22–04/28)
#5(2019/04/28–05/05)
#6(2019/05/06–05/12)
#7(2019/05/13–05/19)
#8(2019/05/20–05/26)
#9(2019/05/27–06/02)
#10(2019/06/03–06/09)
#11(2019/06/10–06/16)
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