今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のbiz編解説にはスマートシティ実現に向けたニュースまとめと解説が行われたほか、ブロックチェーンを利用した担保付き証券発行に関するニュースが二つ並びました。また、List編には日米中銀デジタルマネーに関するニュースも並んでいるなどPickから漏れたニュースにも注目ニュースが並んでおります。Listも合わせてご覧ください
Section1: PickUp
●企業間連携やスマートシティの実現にむけた取り組みが進展
日立製作所やKDDI、電通、積水ハウスなどの国内18社が参画のもとに、業界の垣根を越えて企業間のデータ連携を推進する「NEXCHAIN(企業間情報連携推進コンソーシアム)」が発表された。異業種データの相互補完やサービス連携で、経済の発展と社会課題の解決を目指すという。
こうした企業間のデータ連携に加え、かつて取得が難しかった動的データを融合させることを通じて、「無人化・自動化」「効率化・迅速化」を図り、都市が抱える複合的な課題を解決する取組は「スマートシティ」と呼ばれ、我が国でも内閣府や総務省・経産省・国交省などにより推進されている。海外では、トロント、ニューヨーク、バルセロナ、中国杭州などの取組が代表的だ。
スマートシティは、モビリティ・サプライチェーン・ヘルスケア・エネルギーなど多くの領域にわたる生活全般を広くカバーするため、関係するステークホルダーも多岐にわたるのが特徴である。そうした様々なデータを分野横断的に収集・整理し提供する「データ連携基盤」は、スマートシティにおける認証・データマネジメントなどを司るインフラが「都市OS」とも呼ばれ、インフラの中核を担う。
例えば、それぞれのプレイヤーの抱える台帳がサイロ化して整合性がとれていない中で、台帳データを活用するためのアクセスコントロールなどの仕組みが必要になる。また、自由なデータ流通を促進する上では、プライバシー面で利用者の信頼を確保しながら、真正性確認や来歴確認ができることも要件となる。さらに、トランザクションの有効性を担保する基盤として、なりすましや改ざんを防止する「トラストサービス」(タイムスタンプ、eシール、リモート署名など)が重要になってくる。
これまで企業はSoR(System of Record)に投資し、大規模かつ複雑なシステムを構築してきた。これからは、このSoRをシームレスに統合できるプラットフォーム(System of Systems)の重要性が高まってくるだろう。それはひいては、紙の保存コスト削減に加え、契約に係る業務効率化や、請求・支払業務の一括処理等の実現につながって、社会や企業の成長にも寄与するものになるはずだ。
引き続き、こうした企業間連携・社会インフラのデジタル化に注目していきたい。(文責・畑島)
●大手資産運用会社のVanguard、デジタル資産裏付証券の発行のパイロットテストの第一フェーズを完了
2020年6月11日、大手資産運用会社のVanguardが、ブロックチェーンを用いたデジタルABS(資産裏付証券)発行のパイロットテストを完了したと発表した。米国で大口のABS発行を行っているBNY Mellon、Citi、State Streetらと共に、DLT上でABSの決済ライフサイクルを再現することにも成功したことを明らかにしている。
Vanguardは今回の取り組みの目的について、発行プロセスのデジタル化による、取引のスピードと透明性を向上、コストとリスクの削減を実現することと述べている。上記の実現により、資本市場におけるビジネスの効率化による、顧客への利益還元が見込める。また、Vanguardのプレスリリース内では、オープンな基盤上のスマートコントラクトが市場関係者の間で活用されることにより、情報のフローや価格発見、セカンダリ市場の流動性の改善、コーポレートアクションが自動化されていく世界についても触れられている。
技術パートナーしても参加しているSymbiont社のブロックチェーンが基盤に採用されている(Symbiont社については、ニュースレター#51でも取り上げている)。同社は2016年時点で、現在IHS Markit社に買収されているIpreo社と、合同でブロックチェーンを活用したシンジケートローンの効率的な組成に向けた実証を行ったことでも知られており、金融領域における豊富な取り組み実績が特徴となっている。近しい領域に取り組んでいる基盤の事例としては、HELOCローンの組成から、それを裏付とした証券化までの一連の流れをオンチェーンで実行できるFigure社の独自ブロックチェーンも例に挙げられる。
Vanguardは、2017年12月にも、Symbiont社とCRSP(Center of Research in Security Prices)と合同で、インデックスデータの共有をDLT上で自動化し、日次のマニュアルの共有業務をなくす実証実験を行っており、デジタル化によるさらなる投資家への価値還元を目指す姿勢が伺える。DLTを用いた金融業務の自動化・効率化の動向について、引き続き注目していきたい。 (文責・宮崎)
●中国浙商銀行が担保付きCPを発行
ブロックチェーンを利用した担保付きコマーシャルペーパーが浙商銀行より発行された。同銀行が独自で開発を進めているトレードファイナンスに応用することを目的としたZheshang Chainと呼ばれるチェーンを利用。同チェーン上に記録されている売掛債権を担保としてコマーシャルペーパーを発行する。
担保付きコマーシャルペーパーは中国国内で開発が進められている新しい金融商品である。担保付き証券(ABS)とコマーシャルペーパー(CP)の特徴を掛け合わせた超短期債券のような商品である。今回浙商銀行以外にも中国銀行や中信銀行など5社がそれぞれ独自に担保付きコマーシャルペーパーの発行を実施した。その中で浙商銀行のみがブロックチェーンを利用した発行を行っている。同銀行は数年前よりZheshang Chain開発を進め、二年前には今回同様ブロックチェーン上に記録された売掛金を担保としたローン発行を実現している。
今回の担保付きコマーシャルペーパーの発行で浙商銀行は米国ドル換算で1800万ドル相当の半年償還の証券を発行したと報じられている。従来より中小企業向けファイナンスに注力している同銀行は今後、トレードファイナンス領域における中小企業向けの新たな資金調達手段として今回のスキームを活用して行くことが予想される。
中国の中小企業向けファイナンス・トレードファイナンス領域におけるブロックチェーン活用のニュースは昨年ごろより数々報じられている。中国建設銀行によるトレードファイナンス領域への実用化や、中国銀行による中小企業向け社債の発行など中国大手銀行も続々と参入している。(このニュースはnewsletter #36で解説しています)中国におけるこれら領域へのブロックチェーンの利用はすでに実証から実用化を唱える段階も終わり当たり前に使われる段階へと駒を進めていると言えるかもしれない。(文責・田本)
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●日銀金融研究所ディスカッションペーパー「暗号資産とブロックチェーンの安全性の現状と課題」
●金融庁、「主要国における金融デジタライゼーションに関する施策動向調査」報告書を公表
●『暗号資産カストディアンのセキュリティ対策についての考え方(案)第2版』パブリックコメント開始
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●豪州とニュージーランドのコカコーラ自販機、Bitcoin支払オプションを追加へ
●Fidelity、機関投資家の8割がデジタルアセットへ関心を示しているとするレポートを発表
●欧州リヒテンシュタインのBank Frick、SWIFTに代わりStablecoinのUSDCを用いて決済することで、米ドルのペイメントを高速かつトークンベースで処理可能に
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●スマートリーガルコントラクトClause、銀行データ共有プラットフォームPlaidとのインテグレーションを発表
●MakerDAO、Centrifugeの提案うけトークン化された貿易インボイスや音楽ストリーミングロイヤルティをstablecoinローンの担保として利用可能へ
●ConsenSys、DeFi向けコンプライアンスサービスをローンチ
4. Programmable Security : プログラマブル証券関連
●サウジアラビア中銀、ブロックチェーン通じて銀行への流動性デポジット
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●OneConnectのリテール・SME向けワンストップバンキングソリューション「Digital-Bank-In-A-Box」
●韓国NH農協銀行、デジタルアセットベースの金融サービス開発へ法律事務所とコンソーシアム立ち上げ
●コインチェック、SaaS 型株主総会業務支援事業の検討開始を発表。ブロックチェーンの活用も視野にオンライン上で議決権行使や質問ができる「バーチャル出席型」のサービスを提供予定
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●GS1 USとIBM Food Trust、SAP、Ripe.io、FoodLogiQが食品トレーサビリティの実証実験
●積水ハウス、ブロックチェーンで賃貸入居の煩雑なプロセスをワンストップ化
●ノルウェーの養殖サーモン大手Kvarøy Arctic、Food Trustに参画
●韓国の釜山市、パブリックチェーン用いて市民の情報を検証する識別アプリをローンチ。Coinplug社が規制サンドボックスで開発
●モスクワ市、BitfuryおよびKasperskyとブロックチェーン投票の導入へ
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●オラクルネットワークのBand Protocol、Cosmos SDK上でローンチ
8. Articles : 論考
●次に訪れる新たな前提 〜「世界中のシステムが繋がっていて当たり前」の未来〜
●日本ブロックチェーン協会のウェビナー「日本版CBDCを考える」
9. Future Events : 注目イベント
●Ethereum in the Enterprise 2020(6/30、バーチャル開催)
●杭州BlockchainWeek(7/5-7/6で開催。中国の国家ブロックチェーンアライアンスBSNなどがサポート)
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