今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のbiz編pickには @th_sat によるCOVID-19の世界的拡大の中で利活用されるブロックチェーン技術に関する世界各国のニュースまとめが紹介されています。世界的な危機においてブロックチェーンがどのように役立っていくのか注目されます。
その他、通常通り各国の重要ニュースもpickで解説しておりますので、こちらも合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●世界で進むCOVID-19対応に向けたデジタル化とブロックチェーン利活用
本ニュースレターでは1月に当時流行が進んでいた中国において新型コロナウイルス(以後COVID-19)対策の裏で進むデジタル化とブロックチェーン利活用の動向について2/12付で紹介した(中国におけるブロックチェーン応用シナリオリストはこちら)。その後、COVID-19流行はアジアにとどまらず欧米を含めた世界的な規模となっている。そうした中で、対面・接触を避ける機運が高まっており、デジタル化・スマート化にむけた取組みが世界各国で見られることから、その外観を紹介したい。
UAE(アラブ首長国連邦)では、スマートガバメントの取組みの一環として、制限期間中に役所に出向くことを防ぐ方策が取られている。ブロックチェーンとデジタルIDを用いることによって、政府サービスへのアクセスを完全オンラインで可能とする他、紙のドキュメント受入を止めてデジタルドキュメントへのシフトを進めるものだ。
シンガポールでは、スマホによるP2Pコンタクト管理アプリ「TraceTogether」がGovTechよりローンチされた。これは、位置情報や個人情報は収集・蓄積することなく、bluetoothを通じて匿名IDを交換した上で、感染時にID交換した全員に対して通知が届く仕組みであり、ID管理や秘匿性の観点で注目される。
COVID-19流行は、サプライチェーンにも影響を与えている。その中で、医薬品のようなセンシティブなプロダクト・情報を取り扱う業態は特に影響が大きいが、米Forbes誌は「プロダクト要件」「サプライヤーの信頼性」「業者への支払い」「顧客認証」「輸送トラッキング」といった観点で、ブロックチェーンの利活用インパクトへの期待を示している。
また、こうしたサプライチェーンの分断は、中小企業を中心とした企業ファイナンスにも重大な影響をきたすことが想定される。その中で、国連は、「今回の危機対応にむけたデジタルファイナンス」についてレポートを発表している。その中では、Ant FinancialによるブロックチェーンベースのサプライチェーンファイナンスプラットフォームAnt Double Linkについてピックアップされており、中小企業がスムーズに売掛債権をもとにファイナンスする手立てが講じられていることがわかる。
スマートコントラクトを用いた事前設定ルールの自動執行も、ウイルス流行の環境下でインパクトが注目されている。人間の介在せずに済む「パンデミック耐性」備えたビジネスオペレーションを可能にすることから、ビジネスリスク・システミックリスクの低減に資するという主張が法律事務所からなされていることも興味深い。
米国でも、経済刺激策を大規模に講じる方向で議論が進んでいるが、
そのドラフトの中で、デジタル通貨を用いた「digital dollar wallets」の記載もみられた。その後に取り下げられたものの、米国の経済政策の検討遡上にのぼるようになったことは注目に値する。医療・生命維持は勿論のこと、活動範囲の制約に加えた消費縮退など経済的なダメージは大きなものになることが想定される。一方で、「昨日・今日の当たり前」を見つめ直し、新たに「明日の当たり前」を生み出す契機となる可能性もある。はからずも、世界各国でデジタル化・スマート化を進める機運が高まっている。日本においても、紙・対面・押印など多くのアナログ商慣習が残っているが、「After COVID-19の世界」にむけた取り組み準備をあわせて進めていくことを通じて、回復局面へ移行した際の大きな加速力としていきたい。
●HSBCによる100億ドル規模の資産管理情報をCorda上に載せるプロジェクトが実用化延期へ
昨年秋に、今年3月末を目標に200億ドル規模の私募取引記録のCordaブロックチェーン上への記録移転を目標とするプロジェクトが発表されたが、今回そのタイムスケジュールを延期させると発表された。一年程度, スケジュールを延期させる見込みだ。
既存の私募市場では商品情報が紙で且つ標準化されていない状況で保管されており、投資家が情報を閲覧する際に銀行員への連絡、その後の手作業が発生するなどの時間的コストが発生していることを問題点として発足したのが、HSBCによるこのプロジェクトである。Cordaを利用して商品・財産情報を金融機関と投資家、各関係者同士で持ち合うことで即時のアクセシビリティを高めることを目的としていた。(LayerX Newsletter 35刊でも取り上げて解説をしているので、興味のある方はご覧ください)
今回、スケジュール遅延に至った背景としては実用化に向けてクライアント(投資家サイド)からのプラットフォームへの要求機能が増えたことにあるとされている。当初はデータの共有が目的であったが、クライアントからファンドプロセス全体の管理や、複数の私募資産を担保にした新たな証券商品(Programmable Securities)の発行などの要望が出され、これらを実装するために追加のスケジュールを引いた形になる。
本プロジェクトは、当初の発表より私募市場の「デジタル化」を目的として掲げており、その中でブロックチェーン技術がどのように活用されるのかについて筆者は注目してきたが、今回の発表によりこのプロジェクトにさらなる機能が追加されうることが明らかになった。今後、詳細な成果発表が出るのか、さらに注目度が高まった。
●農産物コモディティプラットフォームのGrainChainが基盤をSymbiont Assemblyに変更
2020年3月28日、農産物コモディティ商品を取り扱うブロックチェーンプラットフォームのGrainChainが、基盤として採用するブロックチェーンをSymbiont社の提供するブロックチェーンである「 Assembly」に変更したと発表した。GrainChainは、2019年にローンチされており、米テキサス州とホンジュラス、メキシコを中心に展開されている。
プラットフォーム上には、農家やサプライヤーが参加し、商品のトレーサビリティ管理や支払いまで行えるものとなっている。これまで、基盤としてはHyperLedger Fabricを採用していたものの、さらなるスケーラビリティを求め、Assemblyに移行したと報道されている。
Symbiont社に関する報道について今日目にする機会は少ないものの、同社は2016年時点で、現在IHS Markit社に買収されているIpreo社と、合同でAssemblyを活用したシンジケートローンの効率的な組成に向けた実証を行うジョイントベンチャー「Synaps」社を立ち上げるなど、金融領域におけるブロックチェーンの適用を早期の段階から進めている先進的な企業として注目すべき企業であると筆者は考える。
今回、Assemblyがサプライチェーンファイナンスの領域でも適用可能であることが新たに判明した。同領域で先行する事例は世界でも少なく、CordaベースのMarco Poloや、Ant Financialの双链通などが挙げられる。今後、コンソーシアムチェーンにおけるユースケースに関する競争は激化していくものと思われる。引き続き、注目していきたい。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●中国人民銀行、デジタル人民元の流通に向けた関連法案の準備進める。Alipayもデジタル人民元関連の特許を発表
●証券監督者国際機構IOSCO、既存の規制原則のStablecoinへの適用に関するレポートを発表
●Digital Dollar Foundation、22名の識者をアドバイザーに迎え、今後2ヶ月を目処に基本要素や提供価値などに関するホワイトペーパーを発表する旨を公開
●Giancarlo氏、Digital Dollarは単たる政府によるペイメントシステムなのではなく、連邦準備制度により発行された法定通貨がトークン化されたものであると
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●Coinbase Wallet、CompoundやdYdXなどDeFiアプリとのインテグレーション通じて利子を稼ぐこと可能に。ブラウザ開くこと無く金利を比較して暗号通貨のデポジットできる
●Gemini、デジタルCollectibles(アーティストのレアなデジタルアイテム)の売買向けマーケットプレイスNifty Gatewayをローンチ
●Binance、クリプトデビットカードに参入。マレーシアにて開始。発行元はVISA
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●Web3時代のエンタープライズDeFi銀行を目指す「Multis」
●UniswapやBalancerなどのオートマーケットメイカーと価格オラクルについての分析
4. Programmable Security : プログラマブル証券関連
●豪州ASXのCHESSシステムをブロックチェーンベースのセツルメントシステムでリプレイスするプロジェクト、コロナウイルス禍を理由として遅延を発表
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●インドIT大手Tech Mahindra、シンガポールDBS銀行サポートのもとにインド初のMarco Polo Network利用企業に
●Ant・ 平安・Tencentの設立した衆安保険グループ傘下の仮想銀行「衆安銀行」が香港で正式営業開始
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●WHOがIBM・オラクルと協働し、COVID-19に係るデータの正確性を図るべくブロックチェーンを用いたオープンデータハブの構築へ
●NikeやMacy’s等が参加した、RFIDタグとブロックチェーン用いたリテール分野サプライチェーンのデータ交換
●MOBI、BMWおよびFordの主導によるサプライチェーンWG立ち上げを発表
●Huobi、サプライチェーンファイナンス向けブロックチェーンプラットフォームをローンチ。商品ライフサイクル追跡から契約の署名、請求書の流通、債務の確認、ファイナンスに適用
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●Balancer、ノンカストディアルのポートフォリオマネジメント
●CoinMetrics、機関投資家向けのクリプトのデータ分析を専門とするDBスタートアップ
8. Articles : 論考
●金融サービス仲介業について制定された金融サービス提供法と改正資金決済法の概説と新規ビジネスモデルの可能性(森・濱田松本法律事務所 増島弁護士)
●DeFiのトラストについて、カストディ・ガバナンス・セキュリティ・規制・保険の5軸で分析したMulticoin Capitalのレポート
●COVID-19環境下で求められるデジタルコラボレーションと、そのための証明可能なトラストを実現する対策としてのVerifiable Credentialsテクノロジーについて
●R3による自己統治型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity)解説記事
●ConsenSysが立ち上げたエンタープライズ向けリソースライブラリ。業界別ユースケースなど
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