今週の注目トピック
Eisuke Tamoto(@coin_ettomato)より
今週のBiz編には米中の話題がpickされました。最初の記事では中国各地で進む実用化事例のまとめが記されているほか、後の二つの記事ではアメリカの金融領域におけるブロックチェーン活用のニュースが並んでいます。あまりニュースが多くなかったアメリカですが、連邦準備銀行がCBDCについて言及するなどここ最近積極的な動きを見せています。
下記のList編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●コロナウイルス流行下の中国で進むデジタル化とブロックチェーン利活用
北京市当局は、中小企業むけファイナンス利便性向上へ向けた施策として、政府および国有企業の調達に参加する中小企業むけファイナンスを提供すべく、ブロックチェーンベースのサプライチェーン債権債務プラットフォームを構築することを表明した。このように北京当局が、ブロックチェーンベースの債権債務プラットフォームの構築を提案する背景には、コロナウイルス流行下で、多くの中小企業は、仕事の再開が遅れているため、ファイナンスの手当が緊急に必要となっていることがある模様。
オフラインでの社会活動が制限される中、従来の金融ビジネスプロセスでは、効率と有効性を保証するのは困難となっている。そのため、オンラインで信用保証・身元確認・データの信頼性とトレーサビリティの問題を解決することが求められており、そのソリューションとしてブロックチェーンに白羽の矢が立った経緯がある。ブロックチェーンには、こうした情勢下で中小企業へ迅速にファイナンスをオンラインで提供するにあたり、複数参加者が関わる金融サービスにおいて、信頼でき・追跡可能で・耐タンパ性のあるデータ台帳システムとしての重要な役割が期待されている。既に債権債務プラットフォームは2/7付でローンチし、3つの金融機関が参加を表明しているとのこと。
加えて、Alipayは、ブロックチェーンベースの防疫材料情報プラットフォームをローンチした。資材の管理・配分にあたり、複数参加者間をまたぐプロセス全体で透明かつ効率的な情報管理が必要だが、倉庫・配送・需給確認といったエンティティ間の統合・コラボレーションができていない。そこで、ブロックチェーンを通じた信頼メカニズムには、材料の需給・輸送に関する情報管理において、信頼できる台帳として期待されている。これ以外にも、ブロックチェーンベースの寄付プラットフォームが複数立ち上がっており、慈善団体における情報の記録管理・トラッキングを通じた透明性の確保や、デジタル資格証明と暗号鍵組み合わせたアイデンティティ検証などを用いて、社会的なトラストシステムとして機能している模様だ。
また、ウイルス拡散防止にむけた「会わない」試みにおけるブロックチェーンの利用はすでに始まっており、深センの電子請求書はその一例。
2018年8月に発行され、7,600以上の企業が利用し、請求額は70億元を超える。タイムスタンプ付きの電子請求書により、信頼性が保証されるだけでなく、紙の請求書の使用を避けることによって、ウイルスの拡散防止にも寄与する。同様に北京市では、2/8付で不動産情報登録プラットフォームをブロックチェーンベースに刷新した。検証にあたり納税証明書の提出不要とし、オンラインプラットフォームを通じて登記・納税情報を登録した上で、承認されると登録証明を自動生成する仕組みになっている。
今回のウイルス流行を通じて、金融・生活・サプライチェーン・行政といった各分野において、図らずも「デジタル化の威力」を実感することとなっている。電子請求書・債権債務管理、ロジスティックストレーサビリティ・アイデンティティなどの分野において、デジタル化のコア技術としてのブロックチェーン利用が進展している。昨年から続く商用化の事例をみていると、中国では「ブロックチェーンでなければ実現できないのか」という問いかけを必要とするブームの局面は既に乗り越え、クラウド同様に「ブロックチェーンで実装する方が効率的」という局面にある。今後こうした動きはさらに加速すると考えるのが自然であり、日本においてもこうした考え方の転換を必要とするタイミングにあることを痛切に実感させられる。
●ConsenSysが米国ブローカーディーラー企業を買収へ
ConsenSysが米国債券市場へのさらなる進出を目的として米国ブローカーディーラー企業Heritage Financial Systemsを買収したと発表した。ちなみに、ブローカーディーラーとは日本の金融商品取扱業社(証券会社)と似た立ち位置で彼らが有するBDライセンスを保持していないと投資家に対して金融商品を勧誘することができない。
今回の買収を通じて、ConsenSysが独自で開発を進めるCodify上での証券発行をより加速させていく考えだ。その中でまず対象商品として最初に米国地方債の発行・期中管理に着手する。米国では19世紀以降地方債が積極的に発行されており、2018年Q3の時点で4兆ドルの発行額を記録している。ConsenSysはこの大きいマーケットにブロックチェーン・分散台帳技術(DLT)を活用していく。
今回この分野に着手することになった背景には、マーケットの大きさも存在する一方で既存の地方債の発行・期中管理にDLTで解決しうる課題が存在していたことがある。既存の地方債は中央管理になっているため、データの不整合等を通じて利払い遅延などが頻繁に発生していた。今回はこうした時間的コスト、それに伴う金銭的コストの解消を目指す。
また、既存の地方債の発行単位額が大きい、という課題にも今回取り組む模様だ。既存の地方債のほとんどは券面が$5,000$以上のものとなっており、既存投資家や富裕層以外の人たちの手に渡ることはほとんどなかった。背景には小口化をさせると管理コストが上がりすぎてしまっていた、と言うことがある。デンバー市が一度小口地方債を発行した際にはその後の管理コストが2.5~7.8倍程度に膨れ上がっていたという分析もだされていた、と報じられている。 これらコストが分散台帳技術により削減され、地方債の小口化が実現・流動性向上に繋がるのでは、とConsenSysの担当者は説明をしている。
今回のBD買収によりConsenSysの米国におけるProgrammable Securities分野での開発、事業推進はさらに加速していくものと考えられる。ConsenSysは多様な分野で活躍を行なっているが、今後金融・証券領域でどういった実績を残していくのか目が離せない。
● AxoniのDLTプラットフォーム上にて、CitiとGoldman Sachs間のエクイティ・スワップに成功
2020年2月6日、分散型台帳技術(DLT)を用いたプラットフォーム開発を行うAxoni社と、エクイティ・スワップマーケットに参加するセルサイド・バイサイド合わせて15の企業の参加するワーキンググループらが、分散型台帳ネットワーク上でエクイティスワップを実行することに成功したことを発表した。今回、同プラットフォーム上で初となる取引は、CitiとGoldman Sachsの間で実行されたことも合わせて発表された。
今日のエクイティスワップでは、取引に関わる各社それぞれで取引台帳の作成と管理が行われており、取引を重ねるごとに、当事者間で不整合が発生する可能性がある。ISDAのレポートによると、これらの取引の不整合全体のうち70%に関しては、リコンサイルに最低1時間以上を要しており、さらに全体のうち15%に関してはリコンサイルに1日以上もの時間を要していることが報告されており、当事者はリスクに晒されている上に、多大なる機会損失を被り続けている現状がある。
今回、Axoniは「AxCore」と呼ばれる独自のコンソーシアム型のDLTプラットフォームをワーキンググループに展開し、取引に参加する当事者間で最新の状況をリアルタイムで共有する基盤を築いた。一部では、Citiのオフィス内部にAxCoreのノードが物理的に設置されたとの報道もされている。Axoniのプレスリリースでは、ISDA(国際スワップ・デリバティブ協会)のCDM(Common Domain Model)と呼ばれる、デリバティブのライフサイクルの流れに関する標準化モデルへの対応について、ISDAと進めていることについても触れられており、今後もDLT上での取引の標準化について、取り組みが進められていくことに期待される。
Axoniは、今回取引に参加したCitiやGoldman Sachsだけでなく、HSBCやJ.P.Morganなど、多数の大手金融機関から出資を受けている。2018年11月にIBM、R3、DTCCらを始めとするコンソーシアムのメンバーらと、クレジットデリバティブの取引情報を管理するDLTプラットフォームのテスト版の開発を行ったことを発表するなど、既存金融領域において活発な取り組みを見せており、今後も同社の動向に注目していきたい。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●米SECコミッショナーHester Peirce氏、トークン販売行うスタートアップに3年間の「safe harbor」期間を求める提案
●スイス規制当局FINMA、マネロンリスク対応で暗号通貨の匿名購入可能額を5000スイスフランから1000スイスフランへ引き下げ
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●米連邦準備制度理事会FRB理事、ペイメントシンポジウムで「ペイメントと通貨の未来について講演。米国としても中銀デジタル通貨の研究を進めていることを表明
●日銀など6中銀とBIS、「異なる通貨を中銀間で決済できるように開発段階から仕様を合わせるなど、発行に向けた課題を探る」局面へ
●自民議連、デジタル通貨に関する提言を提出。中国の取組への対抗から米国との連携を強調との見方
●Bakkt、暗号通貨アプリ提供へむけてポイントサービス企業買収へ
●Geminiによる、オンラインシステム上で法定通貨をStablecoinなどデジタルアセットとスワップする特許
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●Etherisc、Chainlinkの分散オラクルネットワークを通じたフライトデータ提供と組み合わせ、フライト保険について、Rinkebyテストネット上で実験
●賞金付き共同プール口座サービスのPoolTogether、100万DAIに到達
4. Programable Security : プログラマブル証券関連
●Citi、分散台帳用いたFXポストトレードプラットフォームのゴーライブ計画を発表
●Sony Financial傘下のVCがSecuritizeへ出資
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●三井住友信託銀行、相続手続きにブロックチェーンを用いる実証実験を開始
●住友生命、給付金の自動請求へ向けたブロックチェーン活用の実証実験を開始
●三菱UFJニコス、ブロックチェーンとAkamai Technologiesの技術を活用した決済基盤「GO-NET」を発表
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●オーストラリア政府、ブロックチェーンロードマップを発表。ユースケースとしてワインサプライチェーン、資格証明、KYCを掲げる
●IBM、ブロックチェーン用いたコントラクター業者管理ソリューションを開発。タイムシートシートや注文書・契約関連データをトラッキングし、タイムシートのリコンサイルを削減
●米国空軍、Flureeとブロックチェーンベースのコミュニケーションシステム開発へ
●国際航空情報通信機構SITA、航空機部品トラッキングへ向けたアライアンス立ち上げ
●製薬業DSCSA規制むけトラッキングでMerck・Walmartなどがコンソーシアム組成
●JASRAC、音楽の創作者情報などをブロックチェーンに記録する実証実験
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●Clear。通信会社間のクロスボーダーペイメントに係る商的契約をスマートコントラクトとしてデジタル化
●stablecoin services、dai/chaiのガスレス送金・スワップサービス
8. Articles : 論考
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