米国の健康・位置情報データ保護法案/エーザイやNTTなどが健康ビッグデータ新組織、JTB・オープントーンがデータに基づく地域事業活動
LayerX PrivacyTech Newsletter (2022/06/08-06/14) #158
今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
米議会で提出された、データブローカーによる位置情報・健康データ販売禁止を目指す法案について紹介します。
併せて、データ利活用最前線として、エーザイやNTTなどが設立した健康ビッグデータの新組織や、JTBとオープントーンが発表したデータに基づく地域事業活動を紹介します。
Section1: PickUp
●米議会、データブローカーによる位置情報・健康データ販売禁止を目指す法案提出
5/13発行のニュースレター(第153号)において、家族計画連盟を訪問した位置情報データの公開をはじめとして、スマホ位置情報をめぐるプライバシー保護が問題になっている旨を紹介した。これは、位置情報データ会社Placer.ai社が、訪問者がおおよそどのような物理的位置に住んでいるのかを示すヒートマップを提示したことが問題になっているというものだった。
今年は米連邦議会中間選挙が行われる選挙イヤーでもあることから、このPlacer.aiの一件は、政治家も動く一大トピックになっており、5/27発行のニュースレター(第155号)では、スマホ位置情報をめぐるプライバシー保護とデータ収集リスクが米国で広く問題になっている件を紹介した。
さらに事態は加速しており、このほど、位置情報の販売禁止を目指す大規模な法案が米議会提出されたことから、その概要を紹介したい。
Elizabeth Warren上院議員と他の民主党議員のグループが、スマホから採取した位置情報の販売を基本的に違法とする法案(Health and Location Data Protection Act:健康・位置情報データ保護法)を提出したとされている。Viceの報道によれば、ポイントは以下のように整理される。
位置情報を 「個人または個人の機器の過去または現在の物理的位置を決定できるデータ」と定義
データブローカーがアメリカ人の位置情報と健康データを売ることを禁止する
その際に例外として、医療データの保護に使われる連邦法であるHIPAAに準拠した活動や、憲法修正第1条の言論活動などを挙げている。
位置情報産業は、さまざまな役割を果たす企業が複雑に絡み合い、幅広いクライアントやユースケースにサービスを提供しているとされる。その用途としては、不動産会社が土地にどれくらいの人の出入りがあるかを調べたり、ヘッジファンドが投資の成果を予測したり、地方自治体が交通問題を解決したりするのに利用されている。
電子フロンティア財団の記事「How the Federal Government Buys Our Cell Phone Location Data」によれば、大量の位置情報データ購入の政府系最大の顧客として、国土安全保障省(DHS)と、その傘下の移民・関税執行局(ICE)、税関・国境警備局(CBP)が挙げられている。例えば、ICEが移民の容疑者を特定するのにこのデータを活用している他、CBPは、メキシコ国境の人気(ひとけ)のない地域のような「通常とは異なる場所での携帯電話の活動」を調べる上でデータを利用しているとされる。
同記事によれば、ある時間・ある場所を起点にして、デバイスの所有者がどこに住み、どこで働き、どこに移動したかを把握できる他、州や国をまたがるような広範囲なクエリを実行したり、得られたデータにフィルタをかけることもできるとしており、「連邦政府によるセンシティブな位置情報の購入を禁止すべき」と主張している。
出典:https://p2ptk.org/privacy/3692
一方で、「キリスト教系の出版社が位置情報を使って、本人の同意なしに同性愛者の神父を摘発したといった形の悪用も問題視されている」旨、Viceの記事では紹介されている。そうした中、この法案は、エンドユーザーの位置情報を安全でない方法でパートナーに提供している位置情報データブローカーや大手テック企業に影響を与えるだろう、との見方が示されている。
このように、位置情報データの公開に端を発した一件は、パーソナルデータの外部提供・活用のあり方について、広く問題提起を行うものとなっていることから、今後の動向を引き続き注視したい。(文責・畑島)
●データ利活用最前線
エーザイやNTTなど15社は16日、健診情報など個人の健康ビッグデータを活用したビジネスの創出を促す新組織を設立すると発表した。
「PHR(パーソナルヘルスレコード)」と呼ばれる個々人の薬剤の投与情報など生涯の健康データを活用し、新たな医療サービスの創出をめざす。
データ活用で“おばあちゃんの原宿”が変わる!? 地元の大学が巣鴨地蔵通り商店街の活性化にチャレンジ
地域活性化への取り組みで肝となるのが“データの活用”である。
主に駅前・店先・店内の人の動きや世間のトレンド、天候などのオープンデータを掛け合わせて分析し、来訪者の多い日や少ない日の要因を探ったり、キャンペーンやタイムセールの効果的な実施方法を企画したりすることで、来店者数の増加や売上の向上に役立てる。
活用する消費者の行動データには、人の流れや来訪者の年代、性別などがあり、駅前や商店街の入り口から店先、店内といったポイントで収集される。
商品の並びや売り上げなどのデータとあわせることで、特定商品の棚の前での来店者の滞在時間と陳列商品の売り上げの関係性や、サイネージ広告の掲載コンテンツごとの視聴率と広告表示された商品の売り上げの相関など、横断的な分析もできるようになるという。
データに基づく地域事業活動を推進!観光DXプラットフォームの導入サービスをJTB社と共同で提供開始:株式会社オープントーン
2022年4月より株式会社JTBと株式会社オープントーンは共同で、地域全体でデータに基づいた事業活動を実現するため。宿泊データ分析システムを用いたDXプラットフォームの導入サービスを開始した。
株式会社オープントーン(東京千代田区)は、株式会社JTBと官公庁や自治体、独立行政法人等の電子申請や行政の見える化のための情報提供などDX化に対する取り組みを共同で推進してきた。
観光DXプラットフォームサービスでは、データを収集及び分析を行う「宿泊データ分析システム」を用い、地域全体でのデータ収集のための取り組みの推進、地域での合意形成の支援や参画施設が負担なくデータを集めるための仕組みづくり、集まったデータを活用するためのプラットフォームの導入、プラットフォームから導き出される分析結果や地域でのデータ活用方法など、地域全体でデータに基づく観光地域の経営活動を支援するという。
DearOne、カスタマーデータプラットフォーム「mParticle」と国内初のパートナー契約締結
NTTドコモの子会社であるDearOneは、カスタマーデータプラットフォーム「mParticle」を提供するmParticleと、国内初となるパートナー契約を締結した。
今回のパートナー契約により、DearOneはmParticleの導入から運用に関する以下のサービスの提供が可能となった。
データ収集/イベント設計:アプリ、Web、DWHなどmParticleで収集する行動イベントデータと管理プランの設計・実装支援
ID統合設計:異なるID体系を持つ各チャネルのデータを顧客ベースで統合するロジックの設計と実装支援
外部データ連携:取得したデータを、分析ツール、エンゲージメントツールなどの外部ソリューションに連携させるためのデータフロー設計
国土交通省は2022年5月10日、全国の道路施設の諸元や点検結果などを一覧で表示するシステム「全国道路施設点検データベース(DB)」のうち、位置や完成年度、点検の判定区分などの情報を登録した「基礎DB」を無料で公開した。
基礎DBは道路の損傷状況などを表示する「損傷マップ」に反映された。
これまで損傷マップでは、判定区分のIV(緊急措置段階)とIII(早期措置段階)の道路施設のみを公開していたが、DBの反映でII(予防保全段階)とI(健全)も閲覧できるようになった。
日本データ取引所、コロナ第6波の到来と物価上昇を映す「新型コロナウイルス感染症ファクトシート」の最新版を公開
組織のデータ活用を支援する株式会社日本データ取引所は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による日本社会の変化を年表形式でまとめた「新型コロナウイルス感染症ファクトシート」の最新版を公開した。
これらの資料は、当社が兼松株式会社、Dawex Systems, SAS(仏)と共同運営するデータマーケットプレイス「JDEX」にて、会員限定で公開される。
NTTPC、社員のエンゲージメント向上に脈拍のデータ生かす新サービス
NTTPCコミュニケーションズ(NTTPC)は6月14日、バイタルデータから心身の状態を把握し社員のエンゲージメント向上につなげる「みまもりがじゅ丸 オフィスプラス」の提供を発表した。
同サービスは、リストバンド型バイタルセンサーから計測した脈拍(心拍)の揺らぎに統計処理を加えた「見える化指標」を算出し、同指標を管理画面(ダッシュボード)で管理しながら社員の心身状態を把握できるサービス。
価格(税別)は、リストバンド型バイタルセンサー5個を含んだ「スターターキット」が8万円(キッティング料金込み)のほか、バイタルセンサーで計測したデータを処理するクラウド利用料が1万円となる。
国交省の3D都市モデル「プラトー」の衝撃 メタバースもけん引
2020年12月に国土交通省が発表した「Project PLATEAU」は現実の都市空間を再現した3D都市モデルのオープンデータ化プロジェクトで、都市連動型メタバースとも親和性が高い領域である。
官民でユースケースの創出が進んでおり、さまざまなコンテンツやメタバースと3D都市モデルを組み合わせた試みは、日本が先行しているという。
AppsFlyer、プライバシー保護を重視したデータクリーンルームソリューションを提供
AppsFlyer Japanは、安全でプライバシーを重視した昨今の規制やニーズに対応するデータクリーンルームソリューション「Data Clean Room」を発表した。
Data Clean Roomは、プライバシーを保護しながらエンドユーザー体験を向上させるオープンプラットフォームで、2021年12月に発表された同社の次世代型プラットフォーム「AppsFlyerプライバシークラウド」の柱となるソリューション。
Data Clean Roomを活用することで、デベロッパーは自身が持つファーストパーティデータとCVデータに基づいたインサイトを安全な環境で生成することができる。
これを基に正確な計測を行い、その情報に基づいたアクションを取れるため、顧客のプライバシーを保護しながら投資収益率の改善が期待できる。
また、同ソリューションは各プライバシー規制に対応できるように設計されている。デベロッパーはどのデータを用いるかを管理でき、独自のビジネスロジック、コンプライアンス、データガバナンスの定義や、追加のプライバシー保護技術を活用することもできる。
マイナンバーカードを活用したデジタルIDソリューション「xID」を提供するxID株式会社と、BIPROGY株式会社(旧:日本ユニシス)は、パートナー契約を締結した。
マイナンバーカードと連携したデジタルIDアプリの「xID」と、パーソナルデータ連携基盤である「Dot to Dot」を連携し、官民連携による住民が使いやすく便利なサービス提供に向けて共創を開始する。
LayerX Labsでは、次世代プライバシー保護・セキュリティ技術Anonifyの正式提供に向けトライアルパートナーの募集を開始、合わせて公式ウェブサイトを公開しました。
「Anonify」の公式ウェブサイトはこちら
Section2: ListUp
1. プライバシー・セキュリティとデータ利活用
●英米両政府、プライバシー保護技術の開発と普及を加速させるため、Prize Challengesを共同で実施
●BIG TECH 膨張する権力:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/special/bigtech-gafa/
●グーグルの個人情報「記憶の全て見てる感覚」 記者が12年分を入手
https://www.asahi.com/articles/ASQ694CQYQ5NUHBI01L.html
●Facebook、中絶について調べた人の個人情報を収集か
https://japan.cnet.com/article/35189047/
●病院のウェブサイトがFacebookに医療情報を送信 〜 HIPAA違反の可能性あり
https://www.theverge.com/2022/6/16/23170886/hospital-websites-meta-pixel-tracker-facebook-hipaa
●AI社会へ変革、自律分散型PDS(パーソナルデータストア)実現の衝撃
https://news.yahoo.co.jp/articles/72f3486bf3ffa8a157919eb25d30de1be92fb93c
●“ターゲティング広告”規制など 改正電気通信事業法が成立
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220613/k10013669431000.html
2. 今週のLayerX
●クラウド請求書受領ソフト「バクラク請求書」において、定期支払設定機能を追加したことを発表しました!
家賃などの毎月発生する仕訳・支払作業について、請求書が送られてこない場合でも、自動で作成できるようになりました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000138.000036528.html
●LayerX、公認会計士によるインボイス制度・電子帳簿保存法解説セミナーを開催!
https://www.jiji.com/jc/article?k=000000137.000036528&g=prt
●LayerXが提供する請求書受領ソフト「バクラク請求書」をはじめとしたバクラクシリーズは、6/24(金)・6/30(木)2つのオンラインセミナーを通じて、インボイス制度・電子帳簿保存法の概要に加え、法改正による経理業務への影響や対応方針などを解説します!
https://bakuraku.jp/news/20220616_seminar
●エンジニアtypeさんのキャリアデザインウィークに、LayerX 執行役員 兼 PrivacyTech事業部長の中村が登壇します!
●法人カード事業の1人目のPM & Opsを募集中です
●エンジニアから見たLayerXがどんな会社なのか、その特徴をお伝えしています。
https://tech.layerx.co.jp/entry/2022/06/14/083000
●三井物産デジタル・アセット
マネジメントが「不動産のデジタル証券 〜ALTENRAレジデンス 新宿中落合・経堂・門前仲町〜(譲渡制限付)」の運用を開始しました。
不動産のデジタル証券〜ALTERNAレジデンス 新宿中落合・経堂・門前仲町〜譲渡制限付
https://ir.alterna-x.com/ir003/
●三井物産デジタル・アセットマネジメントが、組成第3号となるデジタル証券公募ファンド『不動産のデジタル証券〜ALTERNAレジデンス 新宿中落合・経堂・門前仲町〜譲渡制限付』の資金調達が完了し、アセットマネジメント業務を開始しました
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000056997.html
●センシティブなデータを機械学習で「生成」することで扱いやすくする、合成データの概要と事例を紹介する記事を公開しました!
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