今週の注目トピック
Taisho Nishiiより
今週のtech編には、まず、過去も取りあげていますEY、ConsenSys、Microsoftが発表したBaseline Protocolについて、そのユースケースを紹介。続いて、ブロックチェーンを活用した商取引の効率化や付加価値向上に力を入れているVisaが取得した、法定通貨をブロックチェーン技術をベースにデジタル化するシステムに関する特許について。そして、最後は、AccentureとFujitsuが共同で開発した汎用性のあるBlockchain Integration FrameworkであるHyperledger Cacrtusについて解説しています。日進月歩で進む業界ではありますが、今週も解説とともに動向をお伝えしていきます。
Section1: PickUp
●Baseline Protocolの想定ユースケースについて
過去も取り上げたBaseline Protocol(Newsletter #43)について取り上げる。同プロジェクトは、自社ブログを通して発信を続けており、概要紹介記事においては、提供ツールを通じて実現可能となる「メインネットを共通の参照フレームとして使用した、2台以上のマシンでのデータ保存と、一貫性が検証された状態でビジネスロジックの実行」を造語動詞`baseline`と表現している。これは、将来的にGoogleなどのように社会に浸透することを目指しているものとも受け止めることができる。
今回紹介する記事の意図は、Baseline Protocolを使うべきという主張ではなく、同Protocolを用いることが、どのような価値を発揮し、どのような問題が解決されるかということを考える出発点を提供することであるという。以下いくつかの見極めポイントを紹介していく。
一般に、複数社間において、自動化可能なプロセスの実行と検証という共通目標があり、ERP、CRMなどの社内システムのデータを同期する必要がある際に、Baseline Protocolは力を発揮するとされているが、実世界での価値を決定する文脈要因も重要であるという。主要な考慮すべき文脈としては、①複数社との統合システムの立ち上げに伴う財務的トレードオフ、②セキュリティと規制環境に焦点を当てたデータ共有のセキュリティ上の考慮事項、③将来も含む関係者に特有のワークフロー要件が挙げられている。
本記事においては、これらの文脈に関し、Baseline Protocolを用いることの価値や魅力について掘り下げているが、今回は②について簡単に紹介する。たとえ技術的に暗号化されていたとしても、データをパブリックチェーン上に置くことや、既存のERPなどのシステムを置き換えることについて多くの企業は躊躇する。しかし、Baseline Protocolにおいては、共有されているビジネスプロセスにおいて証明されたものを同Protocolのメインネットに追加するのみであり、ブロックチェーン上で何らかのプロセスを実行するものでも、既存システムから、機密データを持ち出すものでもない。そこにセキュリティの観点からみた美しさがある、と記事内においても表現されている。
記事の終盤においては、調達という分野がBaseline Protocolのユースケースとして適しているとし、直近のCOVID-19の影響下において医療機器の調達をするケースを想定した場合においても、同Protocolの機能・価値がいかに発揮されるかを、上記の①~③の文脈についてフレームワークに当てはめながら解説が行われている。
Baseline Protocolを始めとして、エンタープライズ領域で活用されることを意図したツールが次々と開発されている中、このような自ら開発したツールの使用ケースについて解説する記事は、活用側の視点に立つと大変有用。こういった地道な発信が、ブロックチェーン関連の技術の社会実装に繋がれば、業界全体に裨益するものが大きいだろう。
●VisaがCBDCに関する特許を申請
法定通貨をブロックチェーン技術をベースにデジタル化するシステムに関するVisaの特許が5月14日に公開された。
デジタルアセットを所有するユーザーはトランザクションに署名するための秘密鍵をセキュアなデバイスで保持し送金などのための署名トランザクションを中央組織が管理するValidating Entitiesに送り、検証された後にブロックチェーンに記録される。
ユーザーが保持する物理的な現金をデジタル化するためには、Redeeming Entityに送金し、中央銀行などの組織が同等の価値をもつデジタル通貨を発行し、ブロックチェーンに記録する。この際、物理的な現金のシリアルナンバーもデジタル通貨に引き継がれる。
(引用:United States Patent Application Publication)
利用する具体的なブロックチェーンに関して明確には言及していないが、特許の中ではEthereumやHyperledger Fabricを例に出して説明している。
Visaは以前もクロスボーダーB2B決済や複数者間での機密データの統合をし計算するためにブロックチェーンを活用したりと商取引の効率化や付加価値向上を進めており、引き続き発展に注目していきたい。
●Hyperledger Cactusが新たなHyperledgerプロジェクトとして採択
AccentureとFujitsuが共同で開発していたBlockchain Integration FrameworkがHyperledgerプロジェクトとして採択された。採択を機にBlockchain Integration Frameworkは新たにHyperledger Cactusというの名のもとで開発が進められる。ちなみにCactusとはサボテンのこと。
Hyperledger CactusはApache V2のライセンスのオープンのソースのSDK(software development kit)であり、DLT間の接続を実現するプラグインである。対応しているDLTは現在、Hyperledger Besu、Hyperledger Fabric、Corda、Quorumなどに対応している。
実行の手順は以下の3ステップ。
参考:https://github.com/hyperledger/cactus
Step 1: アプリケーションのユーザーがAPIを叩き、Hyperledger Cactusのルーティングインターフェイスを通じて Business Logic Pluginに送られる。
Step 2: Business Logic Pluginは台帳操作のリクエストをHyperledger Cactusのルーティングインターフェイスを通じてLedger Pluginに対して行う。Ledger pluginは接続している台帳に対して台帳操作をリクエストし、台帳への操作が行われる。
Step 3: Ledger Pluginは接続している台帳のトランザクションデータを常に監視しており、もしStep2に関係のあるトランザクションを検知した場合はLedger Pluginはそれを検証し、検証されたトランザクションの内容をHyperledger Cactusのルーティングインターフェイスを通じてBusiness Logic Pluginに送り、記録される。
Hyperledger Cactusの特徴はDLT上のデータをプラットフォームに依存せず、中間者無しで交換するコミュニケーションモデルにある。情報の伝達を担うノードはvalidatorと呼ばれ、基本的には伝達の対象となるブロックチェーンのガバナンスやコンセンサスに参加しているnodeによって構成される。したがって、Hyperledger Cactusによる伝達のレイヤーのセキュリティをLayer1のプロトコルレベルに担保できる。だがそうでない場合もあり、その場合は外部のnodeが行う。後者の場合はLayer1のプロトコルレベルのセキュリティは担保できず、「中間者無しで」ではなくなる。
詳細はLayerX Scrapbox BIF: Blockchain Integration Frameworkを参照。Hyperledger Cactusは様々なDLTに対応した汎用的な設計であり、今回の採択を機に実用段階に向けてどのように開発が進むか注目が集まる。
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●MessariとBitstampによるBitcoin半減期レポート
●Bitcoin半減期にあたり、629999番目のブロックのCoinbaseトランザクションに含められたメッセージ
NYTimes 09/Apr/2020 With $2.3T Injection, Fed's Plan Far Exceeds 2008 Rescue
●lnurl:ライトニングネットワークのUXを改善するプロトコル
●Taprootの署名ダイジェスト生成について、現在のインプットだけでなく全インプットのscriptPubkeyにコミットする変更の提案
●Transcript: Bitcoin privacy (Payjoin/P2EP)
2. Ethereum
3. Bitcoin/Ethereum以外
●R3、ConsenSysからスピンアウトしたKaleidoと提携。Kaleidoプラットフォーム上でCordaを利用可能に
●Corda Enterprise Network Manager 入門
●Web3 Foundationのオープングラントプログラム
4. 統計・リスト
5. 論考
●How DAML smart contracts are digital twins of human relationships
6. 注目イベント
●Eurocrypt 2020(5/11–5/15、オンライン開催開催)
●IEEE S&P: 41st IEEE Symposium on Security and Privacy(5/18–5/20、 San Francisco)
●Blockchain Core Camp Season3(TBD)
●TPMPC 2020: Theory and Practice of Multiparty Computation Workshop 2020:(5/25–5/28、オンライン開催)
●CRYPTOLOGY2020: 7th International Cryptology and Information Security Conference 2020(TBA)
●SECRYPT 2020: 17th International Conference on Security and Cryptography (7/8–7/10, オンライン開催)
●Crypto 2020 (8/16–8/20, 開催未定)
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