今週の注目トピック
Taisho Nishiiより
今週のTech編には、まずEY、ConsenSys、Microsoftが発表したBaseline Protocolについて取り上げています。続いて、EthereumのメインネットにローンチされたpTokensやWeb3 Foundationの助成金支給プロジェクトに採択されたInterlayについての技術的解説をしています。最後には、実物資産にサポートされるデジタルアセットマーケット「DeFi Money Market (DMM)」をBaseline Protocolとも対比する形で紹介しています。List編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●EY、ConsenSys、MicrosoftがEthereum向けのオープンソースプロジェクトであるBaseline Protocolを発表
EYとConsenSysがMicrosoftと協働し、Baseline Protocolというオープンソースプロジェクトを発表した。これは、Ethereumのメインネット経由で社内システムにアクセスし、基幹業務をセキュア、プライベート、低コストに遂行するため、暗号化技術、メッセージング技術、ブロックチェーン技術を組み合わせたもの。これにより、チェーン上に機微情報を乗せることなく、企業間での複雑かつ機密性の高い情報のやりとりが可能になる。
ConsenSysのweb3studioのヘッドを務めるJohn Wolpertによれば、Baseline Protocolは、ミドルウェアのように機能するという。Ethereumを情報リポジトリではなく、一種のミドルウェアとして用い、重要なデータが格納されているなど、各企業がこれまで用いてきたシステムを修正することなく、ERPのような基幹情報システムやCRMなどの異種システム間の連携や企業間での情報共有を可能にする。
Unibrightの解説によれば、技術的には、Baseline Protocolはマイクロサービスアーキテクチャが用いられており、その構成要素は、Baseline API、待ち行列方式、セキュアなメッセージサービス、ゼロ知識証明である。
Baseline protocolは、企業の資産情報等を未承認の主体に開示することなく、既存のシステムに安全に情報を保存するという方法で、トークン化や分散型金融をサポートする。ユースケースとしては、以下のトピックでも触れるが、注文書や売掛金をトークン化してDeFiプラットフォームに組み込み、注文書の検証プロセスをシンプル化することや、また、売掛債権を使って自動的に短期貸付を行うファクタリングなどが挙げられており、資金の調達~支払いプロセスの見直しが考えられるという。
このプロジェクトは、Ethereum FoundationとEnterprise Ethereum Allianceが出資するオープンソースコミュニティであるOasisが運営するEthereum-Oasis projectにより管理されるが、すでに、AMD, Splunk, MakerDAO, Duke University, ChainLink, Unibrightなど計12社も参画を表明している。コードは今月の早い段階でテストをし、月末には公表される予定。
Baseline Projectが、ゼロ知識証明技術の開発をしてきたEYや、ビットコイン上でのDIDツールをローンチしたMicrosoftという、パブリックチェーンにおけるソフトウェア・ソリューション提供の点でアクティブに活動している企業により実施されていることは注目に値する。
直近の事例を見ても、時間・コストのかかる照合作業の排除は、プライベートチェーンやコンソーシアムチェーンを用いているケースが多いが、これらには、利害関係の相入れない主体同士がコンソーシアムに参画するのか、単一企業が複数のコンソーシアムに参画するのか、など課題がある。この点において、中長期的には可用性の高いと言われるパブリックチェーンの活用が加速していくのか、引き続き目が離せない。
●クロスチェーンで流動性を促すpTokensがEthereumメインネットにローンチ
Provable(旧Oraclize)は異なるブロックチェーン間でDeFiのためのトークン流動性を供給するpTokensをEthereumのメインネットにローンチした。(Homepage)
様々なブロックチェーンに適用可能な汎用的なクロスチェーンソリューションを提供する予定で、今回のローンチでは特にビットコインをEthereum上のトークンとして利用可能なpBTCがサポートされた。その他、EOS、LTCのConversionもテストネットでサポートされている。
仕組みとして特徴的なのは、TEE(Trusted Execution Environment)をクロスチェーンのブリッジ部分で活用しようとしている点だ。流動元のブロックチェーンのブロックヘッダ検証やトランザクションの署名生成を複数のTEEサーバーで協力して行う。署名生成では複数のTEEがシャミア秘密分散などを活用し、その署名をイーサリアムで検証する。
このTEEが意図している正しいプログラムを実行しているかどうかはユーザーがTEEのRemote Attestationという機能で検証可能だ。つまり、特定のオープンソースのコードが動作していることをハードウェアに依拠した検証で実現する。
なお、今回メインネットにローンチされた実装がすでに上記のTEEベースプロトコルを用いているかは定かではない。(テクニカルホワイトペーパー)
●W3F Grantプロジェクト紹介: Trustless BTC-Polkadot Bridge(Interlay)
InterlayがWeb3 Foundationの助成金支給プロジェクトに採択されたことを発表した。InterlayはImperial College Londonの研究者などによって構成されたチームである。今回はビットコインを後ろ盾としたPolkadot上のアセットの研究、BTC-Parachainが助成金の対象となりました。
BTC-ParachainはXCLAIMとBTC-Relayの二つのコンポーネントから構成されています。
XCLAIMはトラストレスかつ効率的なクロチェーン取引を構築するためのフレームワークで中央集権的な機関に依存することなく既存の暗号通貨と1:1でペグされたアセットを他のチェーンに作ることを実現します。今回のBTC-ParachainではXCLAIMを利用してBitcoinを後ろ盾としたPolkaBTCというトークンを発行、償還することや他のParachainに移転することが可能になっています。発行、召還の過程ではvaultと呼ばれる中間者がBTCのロックを担います。vaultは不正を犯した場合は処罰され、罰金が科せられます。
XCLAIMは同じトラストレスなクロスチェーン取引であるHTLCと比較するとコストが低くく、パフォーマンスが非常に高いことが大きな特徴です。HTLCはトランザクションを最低4回実行する必要があり、相手のトランザクションを毎回待つ必要があるためコストと時間が大きなっています。
BTC-Relayはビットコイン上で上のトランザクションで正当性を検証します。BTC-RelayはBitcoinのメインチェーンを追跡しブロックヘッダーを格納します。したがってビットコインのライトクラインとに近いものとなっています。
クロスチェーン取引が注目を集める中、パプリックチェーンにおけるトラストレスなクロスチェーン取引の手法として今後も注目が集まります。
●実物資産にサポートされるブロックチェーンベースのデジタルアセットマーケット「DeFi Money Market (DMM)」が発表
DeFi Money Market (DMM)は、Ethereumデジタルアセットと現実世界アセットのブリッジとして、デジタルアセット保有者が現実世界アセットから利益を稼ぐことが出来る世界を目指すもの。
Chainlinkをオラクルとして用いて、オフチェーンデータを収集し、実物資産とEthereumアセットのブリッジとする。具体的には、DAIやUSDCをデポジットすると、これに対応するmDAIやmUSDCを保持でき、これに対して現実世界のアセットからもたらされる収益を還元する仕組みとなっている(ホワイトペーパー)。
ユースケースとしては、Chainlinkと連携し、ブロックチェーンの外にある現実世界のアセットをオンチェーンで担保にして、暗号通貨ローンをつけるとのこと。最初のアセットクラスとして「自動車ローンのトークン化」を$10m規模で検討している。
前掲のBaseline ProtocolとDeFi Money Market (DMM)の対比をしてみると、前者はセンシティブなデータをオンチェーンに残さず企業間コラボレーションをパブリックEthereum上で可能にするもの。一方、後者はEthereumデジタルアセットと現実世界アセットのブリッジとして、デジタルアセット保有者が現実世界アセットからの収益獲得可能にするのが特徴。
同様に、ユースケースで比較すると、前者(Baseline Protocol)は注文書や売掛金をトークン化してDeFiプラットフォームに組み込み自動的に短期貸付を行うことを志向。一方、後者(DeFi Money Market (DMM))は現実世界のアセット(自動車ローンなど)をオンチェーンで担保に暗号通貨ローンをつけることを志向する。
オラクルやクロスチェーンの技術進展に伴って、DeFiが、金融サービスの世界だけでなくサプライチェーンなどと融合したサービス、暗号通貨だけの世界から現物アセットに関わる企業ユースへと繋がろうとしている点で興味深い。
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●Erlay: bandwidth-efficient transaction relay protocol
●Square Crypto、新たに2つのgrantを発表。今後も秘密鍵管理やウォレットライブラリ、特定地域ニーズ向けウォレットなどに出していくとのこと
●Bitcoin Coreコントリビュートへのオンボーディングリンク集
2. Ethereum
●ProgPoWの意思決定がホットトピックに。ProgPoWに関するCore Dev Meetingが開催。ProgPoWのASIC耐性への脆弱性指摘などあり、次回ハードフォークには盛り込まれないことになった
3. Bitcoin/Ethereum以外
●Digital Asset、セキュリティ・可用性の内部統制を評価するType 2 SOC 2 の試験を完了
●Digital Asset社のDAML、Hyperledger Besu上でも稼働可能に。QLDBとのインテグレーションを先週発表した他、Fabric・Cordaもサポート
●ParityによるSubstrate Builders Program、Plasm Networkの他、Centrifuge、Polymathなどが選出
●Linux Foundation Training、新たに Hyperledger Fabric の開発者認定試験を発表
●Huobi、DeFi向けブロックチェーンHuobi Chainをテストネットローンチ
●NTT Research, Inc.、配下の暗号情報理論研究所が暗号およびブロックチェーンについてUCLAおよびジョージタウン大と提携。UCLAとは5年間の契約で暗号を、ジョージタウンとは3年間契約でブロックチェーンについて、共同研究
●Chaintope、暗号資産管理(発行・流通・償還)システムの特許を取得
4. 統計・リスト
●DeFi Score | DeFiプラットフォームのリスク把握むけに
5. 論考
●次世代のスマートコントラクト・オラクルに向けたトピックの俯瞰
●CompoundやMakerDAOなど主要DeFiプロトコルに使われるオラクル手法をまとめたシート
●R3の整理したエンタープライズブロックチェーンプラットフォームのinteroperabilityが備える5つの構成要素
●ビットコイン論文からさぐる ブロックチェーンのヒント | オブジェクトの広場
6. 注目イベント
●PBWS: Paris Blockchain Week Summit(3/31、Paris)
●TPBC20: Theory and Practice of Blockchains 2020:(4/20–4/22、Barcelona)
●Eurocrypt 2020(5/10–5/14、Zagreb, Croatia)
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