今週の注目トピック
Masanori Ondaより
今週はWASIベースのTEEランタイムEnarx、Avalancheのメインネットローンチ、10月中旬にメインネットローンチが予定されているFilecoinをピックアップしました。続々と実施されるメインネットローンチと、コンテナセキュリティの文脈でも注目のトピックであるTEEランタイムについて解説しています。ぜひご一読ください。
Section1: PickUp
● DevConf US 2020でWASIをベースにしたTEEランタイムの開発を進めるEnarxがピッチ
TEE (Trusted Execution Environment) の活用ケースとして、ブロックチェーンの秘匿化やコンテナセキュリティ延長線上であげられることが多い。Enarxは後者に位置づけることができ、Red Hatが開発するTEEランタイムである。
同様のランタイムとして、TEE内部においてwasm実行単位をチャネルで接続し効率的な実行環境を目指すGoogleのOakやLibrary OSのアプローチを取ることで通常のプログラムをTEE上で動作させることを目指すAnt GroupのOcclumなどがある。これらのTEEランタイムと比較してEnarxが特徴的なのは様々な種類のTEE上で動作可能なランタイムをすでに実装していることであり、実際にIntel SGXとAMD SEVに対応している。
(引用:Enarx In-Depth Presentation Slides)
このインターオペラブルなTEEランタイムのベースになっているのがWASIである。WASIはWeb Assemblyのバイナリフォーマットをブラウザ外で動作させることを目的としたAPIであり、OS非依存のバイナリを実行可能であることや実行するプログラムに対して従来のユーザーやグループに対する権限設定ではなくケイパビリティベースのセキュリティレイヤをランタイムに組み込んでいることが特徴的である。
WASI自体もDocker Inc. Founderが肯定的な発言したり、k8s nodeでkubeletを介しOCI準拠のコンテナランタイムを実行するのではなく、WASIを動作させるkrustletをMicrosoftがリリースしたりと大きな注目を集めている。というのも、まだ機能制限が多い(特にnetworking周り)デメリットがあるもののWASIはコンテナと比較しより軽量に動作したり、前述したようなセキュリティサンドボックスであるメリットがあるからだ。
TEEのEnclave内でWASIを動作させることは、このようなCNCFのエコシステムを将来的に活用可能であることに加え、ランタイムで抽象化しプラットフォーム非依存でプログラムを実行できることに大きなメリットがある。これにより、EnarxではIntel SGXでもAMD SEVでもアプリケーションはWASIで動作させることで相互互換性を実現している。
コンテナセキュリティではゲストカーネルやmicroVMなどのアプローチが比較的注目を集めている一方で、様々なクラウドでTEE基盤の整備やTEEランタイム開発が着実に進められている。マルチテナントで特に機密性の高いアプリケーションを実行するようなより高い分離レベル環境下での実応用が期待される。(文責:Osuke)
●Avalancheのメインネットがローンチ
分散型アプリケーションプラットフォームAvalancheのメインネットがローンチした。Avalancheコンセンサスプロトコルにより、4,500TPSを実現し、1秒未満のファイナリティが可能と謳っている。
Avalancheはパブリックチェーンであるが、企業や機関は『サブネット』と呼ばれる機能を使用し、独立したパーミッション型ブロックチェーンの作成ができる。サブネットの実体は独自のバリデータ集合のことであり、サブネットによってそのブロックチェーンが検証される。サブネットごとにインセンティブメカニズムをカスタム可能。サブネットに新しくバリデータを追加するにはサブネットに属するバリデータによる閾値署名が必要である。
スマートコントラクトの実行環境にはEthereum Virtual Machine (EVM)を使用している。そのため、Ethereumで使われているツール(例: Metamask, Remix)を流用し、Ethereum上で動いているDeFiやNFTなどの既存の分散型アプリケーションを容易に移植できる。
Avalancheにはプライマリネットワークと呼ばれるバリデータが必ず属さなければいけないネットワークが存在する。プライマリネットワークは、Platform Chain (P)、Exchange Chain (X)、Contracts Chain (C)の3つのチェーンで構成され、Pチェーンはバリデータをコーディネートするためのチェーン、Xチェーンはアセットの作成・交換・送金するためのチェーン、Cチェーンはその名の通りコントラクトを実行するためのチェーン。また、Avalancheには2種類のコンセンサスプロトコルが存在し、PチェーンとCチェーンにはチェーンに最適化したプロトコルSnowmanを使用し、XチェーンにはDAGに最適化したAvalancheを使用しているとのこと。
(引用: https://docs.avax.network/v1.0/en/tutorials/deploy-a-smart-contract/)
今後Avalanche開発チームはネットワークの安定化に注力し、ユーザーエクスペリエンスの向上に努めるという。分散型アプリケーションはEthereumに集中している現状だが、Avalancheの登場によりどのような変化が起きるか注視したい。(文責・岡南)
●Filecoin、10月中旬にメインネットローンチを発表
日本時間9月28日、分散型ストレージネットワークのFilecoinは10月15日にメインネットを立ち上げる予定であることを発表した。
公式ブログによると、メインネットが14万8888ブロックで稼働を始めると発表。早ければ10月15日に開始するという。
Protocol Labs社が開発・運用をしているFilecoinは、HTTPに代わる新たなプロトコルであるIPFS(Inter Planetary File System) を利用してストレージの貸し借りを可能とする分散型ストレージネットワークプラットフォームであり、ユーザーがネットワークの暗号通貨であるファイルコイン(FIL)を使って未使用のストレージを売買できるようにすることを意図している。本来、メインネットは今年3月にローンチする予定だったが、何度も遅れている。
現在Filecoinのテストネット「Space Race」には6大陸34か国の400以上のマイナーが参加しており、Filecoinネットワークのストレージ容量は325ペビバイト(PiB 1ペビバイト=1024テラバイト)を超える。これは9000万本の1080p映画、1,400本のウィキペディアの完全なコピー、または全ての言語で書かれた書物の7倍のデータ量に相当するという。
引用: https://filecoin.io/vintage/images/blog/ignition-stats-dashboard.jpg
今後数週間でFilecoinコミュニティ内のマイナーやクライアント、アプリ開発者などがネットワークに参加することになり、メインネットローンチに備えて各参加者が独自のシステムを準備できるようにするとFilecoinは述べている。
引用: https://filecoin.io/vintage/images/blog/mainnet-launch-process.jpg
また、テストネットの参加者には、ストレージの売買に使用する約350万のファイルコイン(FIL)が配布される。今後の動向に注目していきたい(文責・金)
Section2: ListUp
1. Bitcoin
2. Ethereum
●Optimism(元Plasma Group)、テストネットをローンチ
3. Smart Contract・Oracle
●Secret Network、メインネット上でのSecret Contractゴーライブを受けて、プラグラマブル・プライバシーを活用してフロントランニングなどの課題解決するDeFiプロダクト構築へ
4. DeFi
●6月のCOMPローンチにはじまり、UniswapガバナンストークンUNIローンチに終わった、2020年DeFiの夏についての総括記事
●BitMEXによるDEXの歴史振り返りレポート。CounterpartyからIDEXそしてUniswapまで
●Keep Network、トラストレスなBitcoinブリッジtBTCをローンチ
5. Enterprise Blockchain Infrastructure
●(特になし)
6. Other Chain
7. China Tech
●Ant Group、中小企業むけトレードファイナンスソリューションをローンチ
8. 統計・論考
●【イベントレポート】尾原・福島両氏が考える「ブロックチェーンが社会とビジネスにもたらす変化の意味」
●LayerX CEO福島とリンクトイン村上日本代表が徹底議論「当たり前を疑う力」
●a16zのポッドキャストより。クリプトによってクリエイターはゲートキーパーをバイパスできる
●Cambridge Centre for Alternative Financeによる第3回のクリプトアセットベンチマーキングレポート
9. 注目イベント
●Linaro Virtual Connect 2020(9/23-9/24)
●筑波大学のブロックチェーンセキュリティ研究会(9/25, オンライン開催)
●USENIX PEPR(10/15-10/16)
●IEEE CLOUD(10/20-10/24)
●ACM Advances in Financial Technologies – AFT 2020(10/21-10/23 at New York)
●戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)による「IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティONLINEシンポジウム〜 Withコロナの世界を支えるセキュアなIoTサプライチェーン基盤」(11/6, オンライン開催)
●ACM CSS(11/9-11/13)
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