今週の注目トピック
Tomoaki Kitaokaより
今週はまずEthereum 2.0のPhase 0ローンチに向けての開発ステータスを解説します。年内のローンチに向けていくつか課題が浮き彫りになる中、8月に稼働を開始したMedallaに続く2つ目のテストネットである「Spadina」の発表が行われました。「Spadina」では、ジェネシスブロックの生成やデポジット機能など特にリスクの高い部分を中心にテストが行われる予定です。また、今週は秘匿スマートコントラクト領域においても大きな進展があり、TEEを用いてブロックチェーンの状態遷移の秘匿化を目指すSecret Networkが、メインネットをアップグレードし、秘匿スマートコントラクトをサポートすることを発表しました。パブリックチェーンにおいて、TEEによる状態遷移の秘匿化実装が本番環境へローンチされるのは初めてであり注目が集まります。
Section1: PickUp
●Ethereum 2.0 Phase 0ローンチに向けての開発ステータス
本年11月にEthereum 2.0 Phase 0のローンチが予定されている。Phase 0ではシャーディングは無く、Proof-of-Stakeのビーコンチェーンが導入される。Eth2開発チームは、Phase 0のローンチに向けてプロジェクトボードを公開し、開発の進捗が確認できる。
Eth2クライアントPrysmを開発しているPrysmatic Labsも、Phase 0のローンチに向け、要となる取り組みを7つ挙げている。
2度目のセキュリティ監査
Ethereum 2.0 API標準の実装
CLIによる自発的なイグジット
包括的なWeb UI
ファジングによるバグ潰し
スラッシャーの改善
2度目のセキュリティ監査はTrail of Bitsが行う。1度目のセキュリティ監査は、Quantstampにより7月に完了しているが、今回さらに監査を受けることで、より安全性を確保する。特にスラッシャー、スラッシング保護、仕様のコアな部分への攻撃ベクトルに焦点を当てている。
Ethereum 2.0 APIは、Eth2クライアントのためのREST APIである。複数の言語で記述されたクライアント間で、APIの仕様を統一することでインターオペラビリティを確保する。Eth1のAPIは、GethとParityの間で大きな溝があり、多くの開発者にとって悩みの種であった。
これら取り組みのうち、機能的な実装は10月中旬に終わり、それ以降はセキュリティとUXの改善に取り組む予定である。先月、Prsymのバグに起因するMedallaテストネットのダウンにより、いくつか課題が浮き彫りになった(Newsletter #72参照)が、順調に進めば、11月のローンチはまだ可能であるという。(文責・岡南)
●Secret Networkが秘匿スマートコントラクトをサポートするメインネットアップグレードへ
Secret NetworkはTEEを用いて状態遷移の秘匿化を目指すブロックチェーンであり、9月15日に初めてのSecret Contractsを導入するためにメインネットがアップグレードする。Secret Contractsとは本来ブロックチェーン上で誰でも閲覧することができるスマートコントラクトの状態データに対し、TEEを用いて秘匿計算することでプライバシー性を高めたスマートコントラクトを実現するものだ。
TEEのセキュア環境ではwasmバイナリが実行されており、このスマートコントラクトエンジン実装はCosmWasmのモジュールをベースにしている。CosmWasmはWASIランタイム(ポータブルなセキュリティサンドボックス)にWasmerを用いているが、JITコンパイラはTEEのセキュア環境のリソース制限に適していない。そこで、Secret Networkのチームはインタプリタ実装のWasmiへの統合変更を行った。(参考:replacing the wasmer runtime with a wasmi runtime running inside an SGX enclave)
出典:https://blog.scrt.network/secretwasm-decentralized-private-computation/
パブリックチェーンにおいて、TEEによる状態遷移の秘匿化実装が初めて本番環境へローンチされることになるのでセキュリティ等含め実稼働の動向を注視していきたい。(文:須藤)
●Ethereum 2.0に向けた2つ目のテストネットである「Spadina」を発表
Ethereum Foundationは9/14、Spadinaというテストネットを稼働することを発表した。
Spadinaテストネットは8月稼働を開始したMedallaネットワークと同様のメインネットの構成要素を持つテストネットワークであり、Medallaと並行して稼働するという。
コア開発者のDanny Ryan氏よると、2つ目のテストネット稼働の理由として、チームは現在Medallaでテストを行っている一般開発者を混乱させないことを念願しつつ、また、一般開発者は特定の要素をテストできるようにするためのテストネットの更新版を望んでいるという。
メインネットと同様な構成を持つSpadinaのテストネットは、9月後半に稼働を予定している。ただし、3日間のみ稼働する予定であり、特にリスクの高いデポジットとジェネシスに重点を置いている。Ryan氏は、デポジットとジェネシス周りのテストが順調に終われば本格的に2.0のメインネットとして稼働させることは問題ないと述べている。
コア開発者のRaul Jordan氏はEthereum 2.0の本格的なメインネットローンチは11月の予定であると述べているが、ローンチはすでに何度も延期されており、Ethereum FoundationのリサーチャーであるJustin Drake氏は7月に、2021年1月のローンチは11月の目標よりも可能性が高いように思われると言及した。今後の動向に注目していきたい(文責・金)
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●企業間取引ではない、大統領選むけBetという個人むけ分野での、DLC (Discreet Log Contracts) 利用事例
●BIP-340を実装したSchnorr署名モジュールがsecp256k1にマージ
2. Ethereum
●フィーシステムを予測可能なものとする提案EIP-1559解説記事
●Ethereum FoundationによるEcosystem Support Programグラントリスト
●フレセッツ、HSMを活用した完全オフライン環境でのセキュアなマルチシグ実装に成功
3. Smart Contract・Oracle
●(特になし)
4. DeFi
●Yearn Finance と YFI トークンの解説記事
●yearn.financeはyinsure.financeもリリース
ETHベースのデリバティブプロトコル。stablecoinのiDOLを扱う。デリバティブモデル用いてETHのボラティリティを売買する。Lienは仏語でlinkの意
ETHからオプションとStablecoinをつくる。コールオプション部分がLBT、残るstablecoin部分がiDOL。これら用いてアービトラージ機会から利益を得る
Lien Protocolのstablecoin iDOLはFairSwapのベース通貨であり、iDOLを使ってLBTを購入したりできる
●StableCredit、StablecoinやAMMなどを組み合わせて、新たに分散レンディングプロトコルを作るという話
●金融の進化の歴史をインターネット前から、ポストインターネット時代、CeFi時代、そしてDeFi時代という4段階で整理した記事
●Compound、YFIからSushi Swapまでの物語まとめ
5. Enterprise Blockchain Infrastructure
●TISが発表した、サーバスペックを変化させることによるCordaの性能変化
6. Other Chain
●(特に無し)
7. China Tech
●(特に無し)
8. Digital Identity
●DID Allianceとの協業でまとめられた、Global Architecture for Digital Identity (GADI)。
9. 統計・論考
●Gartner、日本におけるハイプサイクル発表。ブロックチェーンは過度な期待を抜け幻滅期の底を打ち、既にRPAとIoTの中間ほどのステージに移行している
10. 注目イベント
●Fidelityの応用技術センター(FCAT)によるウェビナー「Crypto Privacy Conference」(9/15-9/16, オンライン開催)
●Introducing ConsenSys Quorum (9/16, オンライン開催)
●筑波大学のブロックチェーンセキュリティ研究会(9/25, オンライン開催)
●ACM Advances in Financial Technologies – AFT 2020(10/21-10/23 at New York)
●戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)による「IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティONLINEシンポジウム〜 Withコロナの世界を支えるセキュアなIoTサプライチェーン基盤」(11/6, オンライン開催)
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