今週の注目トピック
Taisho Nishiiより
今週のTech編には、DeFiプロジェクトの拡大に伴い生じるリスクの低減に貢献する、分散型保険プロトコルの概要をはじめ、Lightning NetworkやPlasmaの開発者であるJoseph Poon氏が携わるプロジェクトとしてかつて注目を集めたHandshakeの本番環境のローンチ、先週開催されたStanford Blockchain Conferenceでも紹介された、ブロックチェーンのユースケース拡大にあたって重要となる、TLSベースのプライバシー保護オラクルプロトコルを取り上げております。List編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●bZxのフラッシュローン被害に対し、保険金の支払いを決定したMutual Nexusについて
DeFiのレンディングサービスbZxにおいて、bZxのほか、Flash Loans、Synthetix、Uniswap、KyberNetworkというプロトコルを用いた価格操作ハックが発生した(Newsletter #45)。このbZxにおける、フラッシュローン被害に対して、保険金の支払い請求がなされていたところ、 2月20日にEthereum上の分散型保険プロトコルのNexus Mutualが当該請求を受け入れ、保険金の支払いを実施すると発表された。DeFiコミュニティが拡大する中で、保険の重要性が高まっていることから、Nexus Mutualの概要と直近の動きについて解説する。
Nexus Mutualは、NXMトークンの保有者によるコミュニティにおいて、DeFiでのスマートコントラクトのバグ等による損失を補償するためのプロトコル。NXMトークンを持つことでコミュニティのメンバーとなることができ、保険の支払いの決定、保険金のリスク評価、ガバナンスへの参加ができる。このNXMトークンを購入するためにはETHを用い、そのETHが保険金プールコントラクトに供託され、実際にリスクイベントが発生した場合に、このプールから保険金が支払れるという商品設計。このトークンはToken Bonding Curvesを利用しており、需要に応じてトークン供給量をコントロールできるため、希望するタイミングで売買が可能。詳細な価格決定の数式はホワイトペーパーから確認できるが、保険金の供託プールの拡大に応じて、トークン価格が上がるという基本設計。また、需要に応じて、供給量を拡大させることで、先行者の保有割合を希薄化させることができるので、ガバナンスの分散も可能。
Nexus Mutualは、DeFiエコシステムにおける保険の重要性の高まりに応ずる形で、成長を続けている。具体的には、2020年2月時点で、Nexus Mutualは$2.1M以上を保険によりカバーしており、関わるDeFiプロジェクトは12個になっている。ETH換算で2019年8月から330%以上の成長となっている。
出所:https://defirate.com/nexus-mutual-analysis/
今後、保険によるカバー範囲が増加するに従い、より多くの保険料の流入が見込めるが、足元では、2019年8月から、ETH換算のプール金は83%増加している。また、このプール金を一定程度の低リスクのレンディングプラットフォームで活用し、投資収益に転換することも可能。例えば、$3M以上のプール金のうち33%を例えばDSRで運用した場合、Nexus Mutualには1年あたり$75,000の収益が見込め、トークンホルダーに還元できるという。
出所:https://defirate.com/nexus-mutual-analysis/
また、2019年5月のサービスローンチ以来、NXMトークンの実質的な購入手数料であるETHの価格は0.001から0.0015へと50%程度の増加であり、これは他の暗号資産と比較してもかなり低く、このことが潜在的な投資家に取り魅力的に映る可能性がある。
Nexus Mutualのような保険サービスを利用することで、DeFiのユーザーは相対的に低いリスクで、DeFiプロジェクトを利用でき、両者の組み合わせは相性が良い。
Ethereum上での金融アプリケーションが続々と登場するなど、オープンファイナンスの拡大に注目が集まるなか、長期的な成長のインフラとして、Nexus Mutualのような分散型保険プロトコルに注目が集まっている。直近では、compoundというDeFiプロジェクトのみ対応した新たな分散プロトコルであるOpynもローンチされており、メインネットのローンチ数は多くはないが、DeFiの拡大のエコシステムとも捉えられる分散保険プロトコルの拡大に引き続き期待したい。
●DNSのルートサーバーをブロックチェーンに代替するHandshakeが本番環境となるv2.0.0をリリース
HandshakeはDNSのルートサーバーをブロックチェーンに置き換え、トップレベルドメインというデジタル資産をオープンに売買したりオークションしたりするプロジェクトである。DNSとは階層的なグローバルネットワークであり、階層の最上部にルートサーバーがある。これは非営利団体「ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)」によって管理され、.jpや.comなどトップレベルドメインの割り当てが行われる。Lightning NetworkやPlasmaの研究で著名なJoseph Poonが参画していることやA16z Crypto、Polychain Capitalなど著名なファンドが投資していることでも知られている。
HandshakeのブロックチェーンはBitcoinに類似しており、UTXO型でroof-of-Work(PoW)を採用している。ドメイン名はnameと呼ばれ、譲渡やHNSによって売買が可能である。HNSとはブロックチェーンに実装された独自トークンである。light clientのストレージに独自の工夫が施されており、容量の縮小と計算の削減により高いパフォーマンスを実現している。(Urkel Tree)
Name情報
Urkel TreeはBase-2のマークル木として実装されてる。 2種類のノード:内部ノードとリーフ、 そして追記オンリーのファイルで構成される。
ルートサーバーの管理を単一の組織に依存すると、インターネットが検閲とハッキングに対してより脆弱になる可能性がある。例えば政府がDNSを使用して特定のサイトへのアクセスをブロックするということもありうる。また、ブロックチェーン上にドメインというアセットが全部乗っかるので、仲介者(レジストラ)を取り払うことができる。
ブロックチェーン上のドメインを保有する鍵でそのままhttpsすればいいので、DNSのドメイン認証的なものは不要になる。ただし、法人の実在などの認証は今後も必要である。既存のドメイン保有者は申請すればHandshake上でのドメイン所有権ももらえる。
Block情報
Namebase
GUI、ドメインの登録などができるサードパーティサービス
本番環境のローンチ後、既存のDNSを代替するだけのバリューを提供できるか注目が集まる。
● DECO: TLSベースのプライバシー保護オラクルプロトコルについて
毎年開催されているStanford Blockchain Conferenceが今年は2/19~21に3日間かけて行われた。
ここではこの中から「DECO: Liberating Web Data Using Decentralized Oracles for TLS」をピックアップして紹介する。DECOはIC3のコーネル大学が主導するprivacy-preserving oracle protocolだ。プロジェクト公開自体は去年行われ、先週のStanford Blockchain Conferenceでも技術的なプレゼンが行われた。ブロックチェーンの文脈で言う「オラクル」はブロックチェーンネットワーク外部で起因するデータをネットワーク内部へ取り込む主体(群)を指す。DECOは機密性の高いデータを保護しながらオラクルに対して「データ自体がユーザーに改ざんされていないこと」と「確かに特定のwebサーバーから送信されたデータであること」を暗号学的に保証するプロトコルだ。特徴的なのは、後述するようにTLSプロトコル(1.2/1.3)に則って得られた暗号化データをそのまま機密データとして扱える点となる。
一般に、ユーザークライアントはTLS通信によりサーバーAから暗号化したデータを取得することができるが、第三者に対してこのデータが「本当にサーバーAから送られてきたデータで改ざんされていないこと」を証明するすべがない。(サーバーから送られたきたデータに対して勝手に他のデータに書き換えた上で第三者に送信することができてしまう。)
これを実現するためにまず考えられる方法としては(TLSプロトコルの前段を変更し)平文自体にサーバーの署名をつける方法(TLS-N)、あるいはTEE(Trusted Execution Environment)のようにハードウェアレベルでの信頼できる実行環境を提供する方法(Town Crier)などがあげられる。
しかし、今回のDECOではTLSプロトコルの変更やTEEを用いることなしに、ユーザーが第三者に対してTLSを介して得られたデータがある特定のウェブサイトから来たデータであることを証明可能にする。DECOプロトコルで技術的に最も注目すべき部分は、ユーザーとwebサーバーと検証者(オラクル)の三者間で3-party handshakeを導入して鍵を生成していることだ。この3-party handshake後に、ユーザーはwebサーバーから取得したTLSセッションデータに基づいてコミットメントを生成し、検証者へ送ることになる。検証者はコミット後にユーザーにThree-party handshake時に生成された鍵をレスポンスし、ユーザーが証明を生成する。これにより、検証者はそのTLSセッションデータが確かに特定のwebサーバーから送られたデータであることを検証することが可能だ。もちろん、検証者にTLSセッションデータの中身(復号化されたデータ)を見られることはない。一方、Selective openingの性質を用いて部分的に復号化したデータをユーザーから検証者に送ることも可能である。
この3-party handshake後に、サーバーとクライアント間で通常のTLSセッションを行い、クライアントが検証者に証明を送信、検証するまでが一連のworkflowとなる。
引用:https://arxiv.org/pdf/1909.00938.pdf
DECOプロトコル上で構築されるブロックチェーンベースなアプリケーションとしては、DID(Decentralized Identity)やDeFiにおけるオラクルとしての活用やブロックチェーン以外のアプリケーションとして年齢証明やアカウント所有の匿名証明などがあげられる。
ブロックチェーンをより幅広いユースケースに対応させるためにオラクルは重要なプロトコルとなっており、これをすでにある既存の仕組み上に適合した形で進めていく動きには注目したい。
Section2: ListUp
1. Bitcoin
●Stanford Blockchain Conference 2020が2/19–2/21の三日間にわたり開催
2. Ethereum
●今年4/3–4/7にウィーンで予定されていたEDCON2020の中止発表
●Ethereum 2.0フェーズ2概説記事。Execution Environmentsなどについて
●ユニバーサルなSNARKとして新たに登場したPLONKとGroth16のベンチマーク比較。Pedersen Hashesの計算でGroth16対比5倍高速
3. Bitcoin/Ethereum以外
●Cosmosの開発すすめるTendermint Inc、IBC(Inter-Blockchain Protocol)とTendermint Coreに分裂
●ブロックチェーン上のトークンアセット用いたゲーム開発をシンプルにするプラットフォームEnjin、メインネットローンチ
4. 統計・リスト
5. 論考
●2/18にStanfordで開催された「Workshop On Coordination Of Decentralized Finance (CoDeFi)」
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