今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
蘇州で行われたデジタル人民元の大規模パイロット、シンガポールDBS銀行によるDBS Digital Exchange開設について紹介しています。あわせて、Stripeが発表した埋め込み型金融機能「Stripe Treasury」について紹介しています。
FINOLAB RESEARCH設立記念イベントで、LayerX Newsletterについて紹介させて頂きました!(動画がこちら)
Section1: PickUp
●中国のデジタル人民元、蘇州で大規模パイロット試験実施
蘇州において、デジタル人民元パイロットが開始された。今回の取組は、デジタル人民元パイロットワークと「ダブル12蘇州ショッピングフェスティバル」活動を組み合わせたものであり、先の深圳でのパイロット同様の抽選によって、合計2000万元の資金が、デジタルRMB消費の赤い封筒(レッドエンベロープ)の形で抽選で個人宛に分配される(対象者は10万人 x 一口200元)。
市内の約10,000の指定マーチャントでのオフライン利用をサポートすることに加え、指定EC企業によるオンライン利用もサポートする、ハイブリッドな実験となっている。加えて、ショッピングフェスティバルというイベントにあわせて、ショッピングモール、スーパーマーケット等をカバーする大規模なことも特徴的だ。
レッドエンベロープの有効期間は、2020年12月11日の20時から2020年12月27日の24時までとなっており、12月11日の朝8時、主催者からテキストメッセージを通じて、当選者へデジタル人民元のレッドエンベロープが発行された。
発効時刻である12月11日の20時直後わずか2秒後には、早速JDドットコムでの注文が成功し、中国国内初のECプラットフォーム上でのデジタル人民元を用いた消費が誕生した。市内では、モールの入口に「デジタル人民元レッドエンベロープ」の標識バナーがいたるところに掲示され、店頭のみに留まった深圳のパイロットより知名度が向上している様子が窺える。現地の銀行スタッフは、このパイロットへの準備として2ヶ月以上にわたり数ラウンド以上のトレーニングを行ったとのことだ。
オフライン決済では、2つのシナリオが用意されている。1つ目は、顧客あるいはマーチャントが相手のQRコードをスキャンするものだ。この場合、スマホなどにハードウェアウォレットが対応している必要はない。
出所:https://www.jinse.com/blockchain/943476.html
2つ目のシナリオは、顧客・マーチャントの双方ともネット接続の無い場合であっても転送取引を完了できる「デュアルオフライン決済」だ。HuaweiMate40等、ハードウェアウォレットをサポートするスマホを用いる。HuaweiMate40は、デジタル人民元むけハードウェアウォレットをサポートする初のスマホであり、電話番号を用いてハードウェアウォレットを開くことができ、インターネットに接続できない地域や地下鉄・飛行機・遠隔地などでオフライントランザクションが可能だ。「デュアルオフライン決済」は1000名のユーザーに対象を限定して提供しており、対象ユーザーは契約に署名した上で、指紋とパスワード検証を通じて利用できる。
今回のデジタル人民元パイロットは、オンライン決済・オフライン決済のハイブリッドおよび大規模という点で特徴的なものであり、これを踏まえた、次なる展開に注目したい。(文責・畑島)
●シンガポールDBS銀行、デジタルアセット取引所(DBS Digital Exchange)を開設
デジタルバンクを掲げ、金融サービスのデジタル化に取り組む急先鋒であるシンガポールDBS銀行が、デジタルアセット取引所(DBS Digital Exchange)を開設することを発表した。DBSによる発表によれば、「フルサービスデジタル取引所」を謳い、証券トークン化やトレードおよびデジタルアセットカストディも提供する。
既に開設されているDBS Digital Exchangeのサイトによると、"Redefining Capital Markets"を掲げ、デジタルアセットはデジタル経済の明日を担う態勢にあるとした上で、機関投資家・適格投資家はトークン化・デジタルアセットトレーディング・カストディの一体ソリューションにアクセス可能になる旨を謳っている。
出典:https://www.dbs.com.sg/corporate/solutions/capital-markets/dbs-digital-exchange
銀行によるデジタルアセット取引所の意義として、「ディール生成における高度な専門性、投資家および流通ネットワーク」、「安心・信頼性あるカストディサービス提供」、「金融犯罪・信用リスク・サイバー攻撃を回避・モニタリングできるリスクコントロールプロセス」、そして「デジタル基盤に支えられたデジタルケイパビリティ」の4つを挙げている。
DBS Digital Exchangeの提供サービスは、「Security Token Offerings」「Digital Payment Token Exchange」そして「Digital Custody」の3本柱だ。証券トークンのオファリングから暗号通貨含むセカンダリートレーディングまでを提供する。大企業および中小企業は証券トークンプラットフォーム上で証券やアセットをデジタル化することによって、効率的に資金調達が可能になる。アセットトークン化を通じた資金調達やデジタルアセットのセカンダリー取引にむけたエコシステムを提供する。また、トレーディングとしては、4つの法定通貨(シンガポールドル・米ドル・香港ドル・日本円)・4つの暗号通貨(BTC・ETH・LTC・XRP)とのペアを提供する。Digital Custodyに関するファクトシートも公開されている。
DBS Digital Exchangeは、デジタル通貨取引所を今週(12月14日週)にも開業した上で、証券化プラットフォームは今後数ヶ月内に開業を予定している。
シンガポールDBS銀のBitcoinはじめ暗号資産に対するスタンスは、詐欺の一種という見方から自ら取引所を営むまでに、この3年間で大きな変容を遂げた。また、同行にとってデジタルアセットへの関与は、これが初めてではなく、トレードファイナンスネットワークContourやTruspleに参加するなどしている。シンガポールではスイスSDXとSBIホールディングスによる合弁設立も発表されたばかりであり、デジタルアセットを用いた新たな金融のムーブメントの立ち上げに期待したい。(文責・畑島)
●Stripeが埋め込み型金融機能「Stripe Treasury」発表
オンライン決済を提供するStripeが、銀行機能を呼び出すことのできるAPIを提供するソリューション「Stripe Treasury」を発表した。Stripe Treasuryは、コンポーネントとしてAPIを提供し、利用企業はこれをマーケットプレイスやプラットフォームに金融サービスを埋め込むことによって、利用客は支払・金利収入・キャッシュフロー管理などが可能となるものだ。
Stripeプラットフォームの顧客がAPIを通じて顧客にバンキング機能を提供できるようにする、いわば「Banking-as-a-Service」と呼ぶことができる。例えば、Stripe Treasuryを使って、ユーザーの口座作成、入金や送金を処理するといったことが可能になる。
こうしたAPIを通じて顧客にバンキング機能を提供する形態は、APIでソフトウェアプラットフォームにバンキング機能を埋め込めるようにするという意味から、「埋め込み型金融(Embedded Finance)」と呼ばれることがある。Stripe Treasuryも、”Embed financial services in your platform”を謳って、Goldman SachsやCiti、Barklaysなど大手銀行とのパートナーシップのもとに構築され、これを使う企業は、規制要件を満たしたコンプライアンスプロセス並びに金融サービスをプログラマブルに利用できる。
Stripe Treasuryの提供機能としては、まず、単一APIで口座開設が可能(オンボーディングからID検証、KYC確認など)となる。次に、資金の格納が可能(預金保険、預金金利収入、口座番号)だ。また、他の口座への移動が可能(国内外送金、同日セトルメント、ファスターペイメント)であり、その他、支払(ワンタイム支払、繰返し支払)、ペイメントカード紐付が可能となっている。
TechCrunchの記事によれば「たとえばShopifyは、Stripe Treasuryを使ってShopify Balance(https://www.shopify.com/balance)を実装する。Shopifyのマーチャントが、お金を置いたり、請求を払ったり、お金を使ったりを自分のShopifyアカウントからしたければ、銀行口座をShopify Balanceに直接開ける。これまでのように自分の銀行口座にアクセスしなくてもよい。それを楽屋裏で可能にするのが、Stripe Treasuryだ。」とのこと。
昨今ニーズの高まりをみせている「効率的でムダのない金融サービスのデジタルソリューション」に対して、「とはいえ柔軟に変化することは容易ではない金融機関」との間にたち、利用企業がシームレスに金融サービスにアクセスできる環境を提供しているものといえる。これは、アプリケーションとハードウェアの間に立つ「OS」のようなものだと表現されることもある。今後、こうした形で金融の「機能化」がますます進むことが考えられ、次世代の金融システムの方向性に注目していきたい。(文責・畑島)
LayerXではエンタープライズ向けブロックチェーン基盤を基本設計、プライバシー、インターオペラビリティーの観点から比較したレポートを執筆し、公開しています。
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Section2: ListUp
1. 中銀デジタル通貨
●中銀デジタル通貨で協議会 政府・日銀、実験成果を共有:日本経済新聞
2. 暗号資産/デジタル通貨関連サービス
3. スマートな社会・産業
●タイ物品税局、増税の代替手段としてブロックチェーンベースに徴税効率化に取組へ(日本語記事)
4. デジタル化へむけた政策議論
●総務省 | サイバーセキュリティタスクフォース(第27回)
5. デジタル金融関連
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