今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
国際決済銀行(BIS)・スイス証取(SIX/SDX)・スイス国立銀行(SNB)によるホールセールCBDC「Project Helvetia」レポートの概要、そしてSBIグループがSDXとの合弁設立を発表したデジタル証券取引所構想について紹介します。
あわせて、先日のウェビナー「ビジネス利用においてブロックチェーンと既存技術の違いはどこにあるのか」について概要を紹介します。
リスト編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●国際決済銀行(BIS)・スイス証取(SIX)・スイス国立銀行(SNB)によるホールセールCBDC「Project Helvetia」の概要
BIS Innovation Hub スイスセンター、スイス国立銀行(SNB)およびスイス証取SIXグループが協働で取り組んだホールセール中銀デジタル通貨Project Helvetiaより完了レポートを発表されたため、その概要を紹介する。このプロジェクトの眼目は、Tokenised assetsを中銀マネーでセトルメントすることだ。この背景として、スイス証取のデジタル取引所(SDX)のローンチも間近に迫っていることがある。
中銀マネーを用いてTokenised assetsのセトルメントを行う上では2つのオプションがあり、それぞれ実証実験(PoC)が行われた。第1のPoCは、新規でホールセール中銀デジタル通貨 (w-CBDC) をSDXプラットフォーム上で発行した上でTokenised assetsのセトルメントに使うものだ。これに対して第2のPoCは、SDXの証券セトルメントプラットフォームを既存の中銀決済システム(SICシステム)にリンクすることによって(RTGS link)、Tokenised assetsのセトルメントを行うものだ。
実験は、Swiss RTGS system (SIC)のテスト環境およびSDXのシステムにおいて実施され「w-CBDC発行」「RTGS link」各々のメリット・デメリットが分かった。
「w-CBDC発行」の場合、スマートコントラクトを用いたビジネスロジックの実装が容易であり、SDXの分散台帳プラットフォームの機能を発揮できる。また、DLTプラットフォーム上のノータリーノードによってオーダーと同時にブロックされるため、アトミックなセトルメントをタイムラグ無しに可能となる(参考:DLTはCordaを採用しており、Tokenised assetsのセトルメントとw-CBDCのセトルメントを、1トランザクションでアトミック(タイムラグ無し)に実行可能)。ただし、w-CBDC発行は中銀のプロセスやオペレーションに大きな変更を必要とする他、金融政策上で重要な問題を提起する。例えば、w-CBDC と RTGS 残高について異なるマネーマーケットが出現しセグメンテーションが問題となる可能性がある。また、参加者は中銀マネー残高を 2つのシステムで管理する必要があるため、流動性管理の複雑化が想定される。加えてペイメントトラフィックを分散させることで規模の経済性が低下し、全体的なコストを押し上げる可能性がある。
これに対して、DLTプラットフォーム(SDX)をRTGSシステムにリンクする「RTGS link」の場合(=PoC2のケース)は、中銀のオペレーションや政策の観点に照らし実現が比較的容易とされるが、一方で、DLTプラットフォームのポテンシャルが限定されてしまう(例:RTGSシステムが、アトミックなマルチラテラルセトルメントを認めていない)。
こうしたトレードオフを踏まえ、次のステップは、w-CBDC発行の実際的な複雑さや政策への影響についてのより深い理解を求めるべく、一層現実的なシナリオを想定して調査検討を行うという。2021年には、台帳ベースの証券というコンセプトを導入する新たな法的規定がスイスで発効予定であり、w-CBDCは台帳ベースの証券として構成の上、発行できる可能性があることから、今後の動向に注目したい。(文責・畑島)
●進む「デジタル証券取引所」構想。SBI系がシンガポールで合弁会社の設立を発表
12月8日、SBIデジタルアセットホールディングスは、スイスの証券取引所を運営するSIXグループの子会社で、デジタル資産の取引サービスを提供するSIX Digital Exchangeと、シンガポールを拠点とする機関投資家向けのデジタル資産の発行・取引・保管サービスを提供する合弁会社の設立について合意したと発表した。
SBIグループは従来の暗号資産分野に加え、デジタルアセット関連サービスを注力分野の一つとして位置付けている。9月2日にはSBIホールディングスの北尾吉孝社長が大阪・神戸地区を国際金融都市にするための足がかりとしてデジタル証券取引所を開設すると公言した。
デジタルな証券や権利を取り扱う動きはSBI系に限らない。野村ホールディングスは北海道産のアスパラガスで作ったスープの商品開発参加権をデジタル化して販売している。また不動産ファンド運営のケネディクスはREITよりも流動性が高く、小口の投資をしやすい商品を作るためにデジタル証券発行の実証実験を実施済だ。
海外に目を向けるとより積極的な動きが見える。タイ証券取引所では2019年3月の時点で、2021年までの戦略計画の中でデジタル証券取引所の開設を公表している。香港証券取引所は2021年に資産取引後のワークフローを標準化し、透明・安全・信頼のもと市場参加者の効率を最大化するブロックチェーンベースの証券決済プラットフォームを試験導入する。
デジタル証券の活用ポイントとしては、発行・取引・保管・流通などの業務を自動化/効率化することが挙げられる。契約などの組成業務から権利移転に伴う資金決済の同時処理、月次の入出金業務などを効率化する。人手がかかっていた業務をプログラムが自動執行するようになり、コストを下げ、証券の流動性を上げる。それによって今まで証券化できなかった小さなアセットを証券化することができるようになる。
構想が進む一方、日本においてはデジタル証券の取扱について法的ハードルが全てクリアされているわけではない。本年5月1日施行の改正金商法にてデジタル証券の発行して資金調達できる法的枠組みが整理されたものの、一部のデジタル証券において、第三者対抗要件具備のために二重譲渡等を予防するには公証役場を利用した確定日付が必要になる。ワークフローの全てをデジタル完結できず実質的に推進できない状況が残っている。
引き続き官民が連携しながら日本においてデジタル証券取引所が実現していくことを願う。(文責・梶原)
●ビジネス利用においてブロックチェーンと既存技術の違いはどこにあるのか
先日開催されたLINE DEV DAYにて、「ただの分散DBと何が違う?最前線エンジニアが語るBlockchainの実用可能性」と題して、日本オラクル中村氏、chaintope安土CTO、そしてLayerXの執行役員中村がパネルディスカッションを行った。「API連携でよいのでは」「集中管理でいいのでは」といった議論の概要を紹介したい。
出典:LayerX
1つ目の論点として、企業間連携において「APIで連携すればいいではないか」という問いがある。安土CTOは「単純なデータストアだけでなくロジックとセットのコンセンサスが動いている意味で違いが出てくる。ブロックチェーンはデータを含めた上で一つの台帳で管理して、予め決まったコントラクトを実行することで合意された状態変更が行われる。一意の状態を皆で共有して持つことができ、そこに合意している点で異なる」と解説している。安土CTOが「ロジックまで含めて共有した実行プラットフォームであるというのが大きく違う」と述べたように、監査性やレプリケーションを壊さずにロジックを追加できる点が特徴といえるだろう。
この点について、LayerX中村も、サービス運営側によるAPI提供は「銀行なら残高照会といったように、皆が共通して必要とするような最小公倍数をとったものになりやすい」とした上で、ブロックチェーンでは「すべての履歴があって、そこにロジックを追加して構わないというキャパシティを提供することによって、各々が処理を追加できる点が特徴だ」と述べている。
2つ目の論点は「強いプレイヤーのもとにデータを集めてまとめておけばいいではないか?」という問いだ。日本オラクル中村氏は、「ネットワーク効果を踏まえてこの中央集権的な誰かが特権的に集めるというアプローチが機能しない場合がある。例えば、業界の代表企業のもとにデータを集めて、それを皆で使いましょうというと、利害関係のある競合企業が載れない場合がある」「国や行政など利害関係のない中立機関がプラットフォームを立てて解決できるのも、公共的な意義がある場合などに限られる」と指摘した。先進事例として取り上げられる証券業界なども、同様の背景があると考えられる。
ディスカッションの締め括りでLayerX中村が「ブロックチェーンを使うことは注目ポイントではない。なぜブロックチェーンを使うのかといった、なぜGo言語を使うのかというのと同じレベルの問いに90%の思考が使われているのが現状だ」と警鐘を鳴らしたとおり、ビジネス検討のシーンでは、電子投票の検討であれば電子投票をめぐるペインについて議論することが本質だ。業界のおかれた背景・過去の取組を踏まえた解決したいペインを捉えた上で、どうにか実現したい事項について掘り下げていけば、(なぜその技術を使うのかといった手段の議論に時間を使うことなく)適切な利用技術が自ずと立ち現れてくるのではなかろうか。(文責・畑島)
LayerXではエンタープライズ向けブロックチェーン基盤を基本設計、プライバシー、インターオペラビリティーの観点から比較したレポートを執筆し、公開しています。
基本編のダウンロードはこちら
Section2: ListUp
1. 中銀デジタル通貨
●中銀デジタル通貨、日本も発行の実現性検討を 自民PTが提言 | ロイター
2. 暗号資産/デジタル通貨関連サービス
●米ペイパルCEO「現金がなくなる時代、暗号資産が買い物手段に」:日経ビジネス電子版
3. スマートな社会・産業
●(特になし)
4. デジタル化へむけた政策議論
●官邸 | 第2回 スーパーシティ/スマートシティにおけるデータ連携等に関する検討会 配布資料
●総務省 | マイナンバーカードの機能のスマートフォン搭載等に関する検討会(第2回)
●金融庁 | 金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」(第4回)議事次第
5. デジタル金融関連
●中国建設銀行のブロックチェーン債発行が撤回された理由について
●UpholdやLedger・Certik等から成るUniversal Protocol Alliance、カーボンフットポイントのオフセットに使うカーボントークンをローンチ
6. 規制動向
●米下院議員、Stablecoin向け法案Stablecoin Tethering and Bank Licensing Enforcement (STABLE) を検討
お問い合わせ・ご相談に向けたコンタクトは、こちらの「LayerX Inc. Contact Form」よりお願いします
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