今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
貿易ブロックチェーンプラットフォーム「Tradewalz」、住友商事とbitFlyer Blockchainによる不動産賃貸契約プラットフォームと、商用化にむけたトピックを紹介します。あわせて、アジア開発銀行による、太平洋の島々(発展途上国)における中銀デジタル通貨の論考について紹介します。
中銀デジタル通貨を巡っては、「Section2: ListUp」編で個別トピックのリンクを整理していますので、ご覧ください。
Section1: PickUp
●貿易ブロックチェーンプラットフォーム「Tradewalz」を用いた貿易エコシステムが商用サービス開始
NTTデータや三菱商事、東京海上日動火災保険など7社は、年度内に商用サービスを始めるべく、業界横断で貿易書類業務の完全電子化に乗り出すことを発表した。「Tradewalts」は、NTTデータが開発している貿易ブロックチェーンプラットフォームだ。発注書・受取書・信用状などの文書の送信企業が必要事項を入力し、受信企業がその情報を参照する仕組みであり、システム上のデータが改ざんされていないことを担保するため、ブロックチェーン技術を使う。紙ベースの処理が根強く残っていた貿易事務の負担を半減させるという。
貿易業務のデジタル化はそのプレーヤーの多さ、仕組みの複雑さゆえに、従来の技術では実現不可能と言われてきた。貿易書類を単にスキャンやOCRとして保存・授受するのではなく、構造化データとして企業間で共有し、分散台帳に蓄積する。これによりAML対応や特恵関税適用申告に必要な原産地証明書類の処理等の効率化を可能とする。また、ブロックチェーンを利用することによって、改ざん困難な仕組みと記録の不可逆性を持つ貿易書類データをグローバルに共有することが可能だ。このように、ブロックチェーン技術を活用することにより、貿易に関わるプレーヤーの間で一気通貫の情報共有ができる貿易プラットフォームを構築し、貿易文書の電子化にとどまらない新たな価値を提供できる。
2017年にはMUFGと取り組みを開始しているが、MUFGは、先に開催されたSibosにおいて、TradeWalzを用いた取組について発表している。そこでは、かつてMUFGが取り組んだBank Payment Obligation (BPO) に触れ、20行ほどしか参加が集まらず、十分な効果があがらなかったとして、デジタルプラットフォームをスケールさせる上での課題を提起した。カウンターパーティが同一サービスを使うことでネットワーク効果が働くのは、ブロックチェーンや貿易プラットフォームにおいても同様だ。そこで、Tradewalzでは構造化データを用いて情報共有するにあたり、双方がTradewalzを利用している場合にデジタルに処理できるばかりでなく、相手が旧来式のやり方を利用する場合でも、これをプリントアウトして送付することによって利用可能とした。これによって、様々なデジタル化のステップにある企業がエコシステムに参加しやすくなるという。
貿易分野では、Tradelenzといった貿易情報管理コンソーシアムの他、MarcoPoloやContour・Komgoといった貿易金融(トレードファイナンス)プラットフォームといった形でブロックチェーンの商用化が既に進んでいる。今後、日本企業を中心に、利活用が進んでいくことに期待したい。(文責・畑島)
●住友商事とbitFlyer Blockchain、不動産賃貸契約プラットフォームのプレ商用サービスを開始
住友商事とbitFlyer Blockchainは、ブロックチェーン「miyabi」を活用した不動産賃貸契約プラットフォーム「スマート契約」のプレ商用サービスを開始した旨を発表した。両社は2019年7月に、住宅の賃貸契約を電子化した上で物件の内見予約から契約までを行えるプラットフォームの共同開発に向けた業務提携を発表していた。
住宅の賃貸契約においては、貸主、管理会社、仲介会社および借主の間の対面でのコミュニケーションやFAX・郵送による契約締結プロセスなど多大な労力を要している。そこで両者が取り組んだのが、住宅の賃貸契約に関連する業務の一部をブロックチェーンプラットフォーム上で行うことで、安心・安全を担保しながら、契約期間の短縮および事務作業の効率化を目指すというものだ。
借主向けには、物件の申込から不動産賃貸契約をアプリケーション上で行うことで、煩雑な書類手続きや捺印は不要となる。また、電力やガス、通信などの生活インフラに関する契約、引っ越し会社の手配といった転居手続き全般までをワンストップで行うことができる機能を借主に提供する。
出典:https://blockchain.bitflyer.com/pdf/20201028-smartkeiyaku-pre-commercial-launched.pdf
不動産管理・仲介会社向けには、不動産賃貸契約の申込状況などのステータスをリアルタイムで把握することができる管理機能を提供する。その他参加企業向けには、電力やガスなどの各種契約の申込の際に、不動産賃貸契約時に借主本人が承諾した本人確認済の個人情報が連携できる。このとき、個人情報管理では、bitFlyer Blockchain が提供する個人主権型ブロックチェーンIDソリューション「bPassport」を利用する。
ブロックチェーンを活用する意義として、一つは「改ざん耐性」を挙げている。不動産仲介会社が対面で行った借主の本人確認手続きに伴う情報や、不動産賃貸契約に関わる各種契約書がブロックチェーンへ登録されることで、構造的に書き換えが不可能な状態になる。また、複数の企業が同一のデータを参照し、データを書き込むことができるため、企業間でデータの正しさの確認を行う作業が不要となる。
不動産業界では、この他に積水ハウスも、企業間情報連携推進コンソーシアム「NEXCHAIN」のブロックチェーン技術を活用し、賃貸入居時に発生する手続きのワンストップ化に取り組んでおり、こうした形でブロックチェーンをバックエンドに利用したサービスの商用化事例が増えていくことが期待される。(文責・畑島)
●アジア開発銀行による、太平洋の島々(発展途上国)における中銀デジタル通貨の論考
発展途上国やそして小さな島々に中央銀行のデジタル通貨を導入する背景と利点、そして普及するために解決すべき課題について考えてみる。
まずデジタル通貨を導入する背景として、「金融包摂(きんゆうほうせつ)」が挙げられる。これは、これまで銀行口座などを持っておらず金融サービスへアクセスすることが困難だった人々に、手頃なコストで金融サービスを提供するというものである。デジタル通貨を活用することで金融包摂を可能にし、貧困を根絶する1つの重要な手段となり得る。
現在銀行口座にアクセスできない人は17億人存在し、彼らが金融システムへのアクセスができないゆえに高額の手数料などを請求する代替機関に頼らざるを得なくなり、貧困の悪循環に陥る。
多くの発展途上国では、支払いのために便利なデジタルソリューションを必要としてきたという背景があり、今後デジタル通貨があることで送金の高コストに対応でき、金融機関が提供するサービスに必要不可欠な信用履歴を構築する機会が生まれる。
また、普及するための検討すべき課題もいくつか残っている。1.まずは、現実的にデジタル通貨を普及させるためには、金融教育と組み合わせて、「金融包摂」の解決策を考える必要がある。誰もがアクセスできる金融ツールとアプリケーションを備えたデジタルエコシステムを構築する必要があり、それなしにデジタル通貨のみ存在してもろ利用されずに終わってしまう。2. 小さな島で流通させるために安定的なインターネット環境を構築する必要がある。小売で利用する際の目下課題としてあげられる。3.そして人々が自分のアカウントにアクセスするためのスマートフォン普及が必要である。世界では半分以下の人間しか所有していないため、政府としてはデジタル通貨に注力させる前にスマートフォンの普及率を高める必要がある。
アジア開発銀行のデジタル通貨開発において、CBDCは官民のパートナーシップを通じて供給される可能性が高い。このパートナーシップでは、中央銀行が重要なインフラストラクチャを提供し、民間セクターは顧客サービスという観点で自由に競争することが可能となる。民間セクターは、イノベーションを通じてさらなる開発を支援し、利用者にとって使いやすいサービスを開発出来る。
様々な国でデジタル通貨の研究が進み、将来普及することで、どんな便利な社会になるか非常に楽しみである。(文責・佐渡)
Section2: ListUp
1. 中銀デジタル通貨
●深圳におけるデジタル人民元200元抽選配布パブリックテストの利用光景動画
●カンボジア国立銀行、Hyperledger Irohaベースの新ペイメントシステムをローンチ。中銀デジタル通貨"Bakong"はスマホ用いて個人間送金やペイメントに利用できるもの
●タイ中銀、ConsenSysおよびSiam Cement Groupと協働でリテールCBDCに取組みへ
●スイス国立銀行、BISと協働でリテールCBDCのテストを今年末までに実施を計画。また、香港HKMAやタイ中銀をふくむ他中銀との間でも、クロスボーダー利用のテストを別途計画
●ConsenSys、Societe Generaleのデジタルアセット部門Forgeと協働で仏中銀のCBDCパイロット取組へ。CBDCの発行・管理・DvP・クロスチェーンでの相互運用性に取り組む
●豪州中銀、ホールセールCBDCに向けて大手銀およびConsenSysとプロジェクト立ち上げ
2. 暗号資産/デジタル通貨関連サービス
●KrakenによるAvanti、ワイオミング州で米国2番目のクリプトバンクに。デジタルアセットカストディなどを提供。AvantiのCTOはBryan Bishop
3. スマートな社会・産業
●トヨタシステムズとDeCurret、決済業務の高度化を目指し、デジタル通貨に関する実証実験
●AB InBev、大麦のトラッキングにむけたブロックチェーンプラットフォームのトライアル実施を発表
4. デジタル化へむけた政策議論
●官邸/データ戦略タスクフォース(第一回)。データ戦略の策定、ベース・レジストリ、分野横断ルール、トラストサービスについて
5. デジタル金融関連
●SBI日本少短とコンセンサス・ベイス、ブロックチェーン技術を用いた代理店・募集人管理基盤システムを開発
●HSBC、ニュージーランド・中国間の粉ミルクトレードトランザクションを、ブロックチェーンベースのデジタルクーリエプラットフォームWave用いて初めて商用化
●ドイツ中銀Bundesbank、Ocean Protocolを使った情報共有プラットフォーム。データの主権を維持しながらリアルタイムで統計情報アップデートへのアクセスを可能に
6. 規制動向
●Blockchain & Cryptocurrency Regulation 2021
Disclaimers
This newsletter is not financial advice. So do your own research and due diligence.