今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
韓国・カナダ・日本で相次いで登場している、デジタルアイデンティティに紐づく各種資格証明情報をウォレットに格納して利活用する取組、そしてIoTに紐づくデジタルアイデンティティに関するペーパーを紹介しています。
また、米大統領選の最中にある米国ユタ州で稼働した、ブロックチェーンベースの投票システムについて紹介しています。
List編とあわせてご覧ください。
Section1: PickUp
●デジタルアイデンティティに紐づく各種資格証明情報をウォレットに格納して利活用する取組が、韓国・カナダ・日本で相次いで登場
デジタルアイデンティティに紐づく資格証明(第三者発行機関によって発行された運転免許証・学生証など)をスマホにウォレットとして格納した上で、必要なシーンに応じて提出する取組が、韓国・カナダ・そして日本で相次いで発表された。利用者にとってポータブルで利便性が高いだけでなく、提出をうけた先も、発行元に問い合わせることなく、自動的にその正当性を検証できるメリットがある。
まず韓国の取組から見てみる。SK Telecomが、政府公認のデジタルウォレットをローンチした。これは、住民登録カードや健康保険証などブロックチェーンベースの証明書を格納・管理するものだ。非対面社会への対応として位置付けられ、従来は紙文書で発行され、手作業で検証されていた住民登録票謄本・健康保険資格得失書・出入国事実証明などを、スマホのウォレットとして提出、自動検証が可能な仕組みである。当初は13種類の証明情報からスタートし、年末には税務関連ふくめ100種類に対応予定としている。
次にカナダの取組を紹介する。Ontario州が、行政サービスのオンラインアクセスプロジェクトの一環でデジタルウォレットを準備している旨が発表された。同州が進める「Ontario Onwards」の一環として、保険証や運転免許証・出生証明などのデジタルアイデンティティドキュメントをウォレットに格納した上で、他サービス利用に際して身元識別資格証明を求められた際に、プライバシーを損なう事なしに必要な情報を証明することに利用できるものだ。お互いが対面でなくどこにいても提示・検証可能であり、またアイデンティティを巡る不正防止や氏名・生年月日・住所など個人データ保護を実現できる点をメリットとして挙げている。なお2021年のローンチ予定だが、ブロックチェーンベースかは不明としている。
さらに今週、日本でも、慶應大がデジタル学生証の実証実験を発表した。「属性の検証が効率的かつ正確に行うことができるアイデンティティシステムの構築と利活用」に主眼をおいており、標準化団体「W3C」が策定している国際規格「Verifiable Credential」を実装し、バックエンドにはMicrosoft IONを採用するものとのこと。実験にはCTCの他、JCB、Japan Digital Design、BlockBaseが参加する。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000454.000011361.html
デジタルアイデンティティを巡って、保険証や運転免許証・学生証などの各種の資格証明書をスマホなどのウォレットを通じて格納・開示できるようになれば、非対面での取引のみならず、スマートシティなど新たな社会にむけた利活用シーンが拓ける可能性があり、今後の動向に注目したい。(文責・畑島)
●IoTデバイスを起点としたデータ連携が進む中で重要性を増す「IoTデバイスの識別・コントロール」
独中銀Bundesbankはスピーチ「デジタル通貨とグローバル通貨」の中で、IoTベースのペイメントについて「将来マシンやデバイスが自動的・自律的にやりとりを行うようになる。デジタルユーロは(中略)デバイス間でリアルタイムにやりとりされ、イノベーティブなユースケースをサポートする手段となろう」と述べた。
IoTを用いると、位置・温度・衝撃などの情報をイベントとして、各種システムに連携することが可能だ。これら情報をブロックチェーンへ連携することによって、商品輸送に伴う入金など、サプライチェーンなどへの適用が期待できる。具体的には、位置情報をもとに商品の発着を検知したり、衝撃・温度・湿度が一定レンジを越えたことを検知することによって、保険金請求などのワークフロー執行が可能だ。こうしたブロックチェーンに対してトリガーとなる外部情報は「オラクル」と呼ばれ、ペイメント自動執行などのユースケースに際して有効となる。
このように、今日IoTデバイスは、ますますビジネスへの影響度合いを高めているが、利用者視点に立つと、どれだけデバイスをコントロールできているかと心許ない。或るモノを他のモノと識別して、それらに対してどのような行為を可能と認めるかを決める上で普遍的なアイデンティティや権限付与の仕組みが無いため、IoTエコシステムの開発の妨げともなっている。
そうした問題意識のもとSovrin Foundationから、前述の「各種証明書などを利用者主体で提示しアイデンティティを自動検証する」というアイデンティティのあり方(自己主権型アイデンティティ)を、IoTに応用する旨のペーパーが発表された。「マシン対マシン」や「マシン対ヒト」のコミュニケーションにおけるコントロールに際して、1.識別(Identification)→2.認証(Authentication)→3.認可(Authorization)におけるセキュアな手段を提供するものだ。
暗号学的手法を用いて自身のアイデンティティを自動的に検証できるため、GDPRなどプライバシー規制への遵守および第三者監査を可能にする。IoTデバイスをしっかりコントロールし、プライバシーを遵守しながら、自動的・自律的なペイメントを行うなど、新たなビジネスモデル構築への寄与が期待できる。
出典:https://sovrin.org/wp-content/uploads/SSI-in-IoT-whitepaper_Sovrin-design.pdf
今後、様々な局面でIoTの普及が見込まれる。将来デジタル通貨が普及すると、IoTデバイスを介したペイメントの自動・即時執行もできるようになる。そこで重要なのが、IoTデバイスが検知した情報が正しく改ざんされずに連携されることを保証する安全なオラクルの仕組みや、IoTデバイスを安全に識別した上でやりとりするデジタルアイデンティティの仕組みだ。デジタルとフィジカルが融合する新たな社会の実現にむけて、IoTをめぐる動向に引き続き注目したい。(文責・畑島)
●米ユタ州で大統領選の一部にブロックチェーンベースの投票システムが稼働。着々と進む電子投票を追う
11月3日のアメリカ大統領選挙に向けて、ユタ州ユタ郡にてブロックチェーンを活用したインターネット投票システムが稼働した。詳細は明かされていないものの、ユタ州ユタ郡の郡書記官が「ユタ郡は大統領総選挙でブロックチェーン投票が行われた最初の場所であることを光栄に思います」と述べた。
同取り組みでは「Voatz」社のモバイル投票アプリケーションを利用された。Voatzは2019年6月時点で米国民主党と共和党、協会、大学などにおける総計8万票への投票管理と30の選挙において活用された経緯がある。(プロダクトの詳細はテック編にて)
コロナ禍の大統領選挙では郵便投票が大変急増しており、不正の介在余地や集計作業の遅れなどが懸念されている。選挙投票のデジタル化は世界的に待ったなしの領域である。
日本においては総務省が主体となり、デジタル技術を活用した投票システムは長らく検討・研究が進められてきた。2002年に施行された電磁記録投票法にて地方公共団体の一部選挙において、投票所にてタッチパネルなどの電子投票機を用いる投票が解禁された。
2018年にはインターネット投票という言葉が初めて登場し、タブレット端末や個人のスマートフォンを活用した投票も検討され始め、2020年2月には世田谷区にて在外投票の実証実験が実施された。
一方、インターネット投票の実現は容易くない。選挙という性質上、二重投票の防止や投票内容の秘匿化、投開票プロセスが不正されていないことの担保など、求められる認証・セキュリティ・プライバシー保護などの要件が極めて高い。また一部法律の改正も求められる。
これらの課題に対して、マイナンバーカードによる個人認証やデジタル・アイデンティティの活用、ブロックチェーンを基盤とした透明な投開票プロセスの整備、また相反する投票の秘密保護に対するプライバシー保護技術の適用などが解決策となりうる。
今回のユタ州での取り組みをきっかけに世界中でインターネット投票が広まり、日本においても法改正を含め早期に実現していくことを願うものである。(文責・梶原)
Section2: ListUp
1. 中銀デジタル通貨
●バハマでデジタル通貨Sand Dollarがゴーライブ(バハマ中銀によるSand DollarホームページのFAQはこちら)
●コールド/オフラインストレージLedger Vaultが、Societe Generale-Forgeによるフランス中銀CBDCテスト向けセキュリティソリューションとして選定される
2. 暗号資産/デジタル通貨関連サービス
●PayPal、ユーザーが暗号通貨の売買・保持できるサービスを開始
●米国の暗号資産取扱業者(VASP)25社で構成される「米国トラベルルールワーキンググループ」が、FATFトラベルルール遵守にむけた業界横断ソリューションのホワイトペーパーを発表
3. スマートな社会・産業
4. デジタル化へむけた政策議論
●「アイサム(AI/SUM)&トランザム(TRAN/SUM)」における平井デジタル改革相による講演の書き起こし
●経産省/第1回 Society5.0の実現に向けたデジタル市場基盤整備会議
5. デジタル金融関連
6. 規制動向
●米CFTC、顧客から預かった資産の取り扱いについて、クリプト先物取次業者へのガイダンス発表
●米FinCEN、国際送金については情報収集の対象を従来の$3000から$250へ引き下げ少額送金も対象とすることを提案
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