今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
MUFGとAkamaiの決済ネットワーク「GO-NET」の概要、Walmart Canadaにおける物流デジタル化への取組について紹介しています。
併せて、日本でのDXの難しさと成功させるための鍵について紹介しています。
リスト編と合わせてご覧ください。
Section1: PickUp
●MUFGとAkamaiの決済ネットワーク「GO-NET」、少額決済の高速・低コスト化にフォーカスし12月に本番稼働へ
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と米Akamai Technologiesが共同出資するGlobal Open Network Japanによる新たな決済ネットワーク「GO-NET」が2020年12月に本番稼働予定であることが示された(出典:ZDNet Japan)。
GO-NETは、加盟店や決済センターとクレジットカード会社などのペイメント事業者を結ぶ決済ネットワークであり、キャッシュレスの中でも、クレジットカード会社などの金融機関や決済ネットワーク事業者をターゲットとした少額決済の提供にフォーカスし、将来構想としてIoT分野への拡大も視野に入れているとされる。
少額決済を巡っては、オンライン通信販売やQRコード決済など数百~数千円規模の決済取引が急増している。こうした少額決済は従来インフラによるサービスの担保が非常に難しいため、システムリソースやコストなどあらゆる面において対応での負荷が増していることに加えて、コロナ禍に伴うオンラインの非接触型ビジネスが急拡大で拍車がかかった。
クレジットカード等の決済取引においては、加盟店や決済代行会社等とペイメント事業者との間にネットワークを構築し、当該事業者間の決済データ通信を行うとされる。また、ブロックチェーンの特徴のひとつであるネットワーク内での残高管理機能を活用することで、ペイメント事業者のシステム負荷軽減をサポートし、ペイメント事業者は大規模なシステム投資を行わず、大量の少額決済取引等に備えることができるという。
GO-NETのソリューションは、独自開発したウォレット内包型の高速ブロックチェーンネットワーク(オンラインネイティブでセキュアかつスケーラビリティー、大容量トランザクションに対応し得る新たなインフラ)だ。これにより、①既存ペイメントNWコスト削減、②非接触少額決済拡大を実現できるという。
展開にむけては、まず初手として、自動販売機におけるクレジットカードを使ったタッチ決済からスタートした上で、周辺分野への広がりとして、残高照会やポイント連携などの決済に関連する部分で、金融機関や決済ネットワーク事業者のコスト負担を軽減するという。また、将来への広がりでは、IoT分野に着目し、物流におけるトレーサビリティーやMaaSなどのニーズをとらえ、①大量・高速なマイクロペイメント対応、②膨大なデータのトラッキング・安全な保管などを実現するとのこと。
GO-NETの売りは高速・低コストであり、テスト環境では、秒間10万トランザクションの処理性能(VisaNetは6万5000トランザクション)を実現しており、2020年10月には本番環境で性能を実証する予定とされることに加え、決済ネットワークサービスの料金はCAFISやCARDNETなど既存サービスの半額程度に抑えるとされる。
幅広い領域のビジネスを支える社会インフラとして機能することが見込まれており、今後の動向に注目したい。(文責・畑島)
●IoTとブロックチェーンでインボイス食い違いの削減はかるWalmart Canada
Walmart Canadaが、DLT Labs社と協働で、ブロックチェーンベースの貨物運送・ペイメントネットワークをローンチした。MOBIの動画をもとに概要を紹介したい。
デジタル化を通じて、社内の経理業務にかかるペーパーレス化・ペイメントの自動化を図る取組は多く見られるようになっている。その上で、サプライチェーンのような複数の参加企業の間で、情報をリアルタイムに共有することによってリコンサイル(突合せ)を無くすといった取組においては、ブロックチェーンが有効であり、本取組はその一例といえよう。
サプライチェーンには網の目を為すように多くの参加者が存在し、各社によって多くのデータが管理される。業界を問わず共通の課題は、各社が独自の会計・ロジスティクス・ITシステムでデータ管理を行っているため情報のフラグメンテーション(断片化)が発生し、参加者間の同意が困難・複雑になることだ。
例えばWalmart Canadaでは、運用に際して基本契約締結後に実際に運送を行う中で発生する待ち時間などのイベントに応じて発生する追加料金についてインボイスの70%で想定との食い違い(ディスクレ)が発生しており、そのリコンサイルに6~8週を要し、トランザクションの38%でペイメントエラーによる過払いが発生していたという。双方が自身のデータセットに基づくため、証明も難しく、情報のバリデーションに時間を要した結果オンタイムでペイメントを受け取れないことになる。
取組の狙いは、「これらを、トラストでき改ざん困難な方法によって、参加者間でリアルタイムに共有することができれば、コストを下げ、無駄をなくし、ビジネスプロセスを加速できる」というものである。
まず契約締結で同意した内容をベースとした上で、運送時にはIoT・GPSデータで自動的に変動費を計算するとともに、運送中のコースで発生したイベントに関する可視性を提供する。参加者はリアルタイムでイベントを検証でき、検収後、直接ERPシステムに接続しインボイスの支払いが行われる。これによりプロセスにおけるリコンサイルといった摩擦がなくなり、速やかな支払いが可能となる。
出典:YouTube”MOBI Community Innovation Lecture with DLT Labs”
今回、Walmartとキャリア70社の間で、IoT・GPSを元にイベント発生状況ソースをリアルタイムに共有するというプラットフォームを構築することによって、リコンサイルプロセスを不要とするのみならず、透明性・監査性の向上を通じ、スムーズなサプライチェーン・速やかな支払を実現することが示された。
複数企業をまたいだ情報連携・コラボレーションを行うといった、次世代のデジタル化動向に今後も注目したい。(文責・畑島)
●日本でのDXの難しさと成功させるための鍵。そして官民の最新状況
まずは、マッキンゼーのパートナーがまとめた日本のデジタル化の課題や進め方が記載されたレポートを紹介する。日本企業にはDXを阻む壁や日本固有のハンディキャップが存在し、デジタル化は非常に遅れている。特にハンディキャップは次の3点に集約される。①経営陣の年齢と短い在任期間。②社内デジタル化の担い手不足。③外部の人材が活躍しにくい組織文化。
出典:https://www.mckinsey.com/jp/~/media/McKinsey/Locations/Asia/Japan/Our%20Work/Digital/Accelerating_digital_transformation_under_covid19-an_urgent_message_to_leaders_in_Japan.pdf
一方日本企業の置かれた状況を踏まえて、DXを成功に導くためには4つの鍵がある。①経営トップを巻き込んだDXの着火、②事業ドリブンでのインパクトを意識した取り組みの設計、③デジタル組織能力の構築: 持続的な進化に向け、デジタルの組織能力を社内に構築する、④文化の醸成とチェンジマネジメント: DX1年目を絶対に成功させ、 モメンタムを醸成、の4点だ。
より具体的には、経営陣が率先してwhy what howを明確化し、2,3年スパンの投資を踏まえて、小さく成果を出して広げていくことである。例えば、DXの初期段階は生産・調達やバックオフィスなど単独の部門でコストを下げること、バックオフィスや営業担当者の生産性向上にデジタルを活用する。ここで大きな効果を生み出した後は、R&D、生産、マーケ、セールス、サービス等が部門横断で協力しながら、顧客ジャーニー全体の見直しに取り掛かる。小さく成果を出す理由はDXの挑戦は80%程度がは抵抗勢力に潰される。そのため1年目に成事業ドリブンでのインパクトを意識した取り組みの設計が重要である。
次に、上記の内容を踏まえて、官民がデジタル化に向けどのように動いているのかを見てみる。今週は総務省が9/30に取りまとめた「デジタル変革を通じた新しい地域と社会の構築(総務省重点施策2021)重点施策集」の一部を紹介する。
レポートの中では、重点領域には国・地方を通じたデジタル・ガバメントの推進や、情報通信基盤の整備・サイバーセキュリティ・Beyond 5Gなどの内容、地方回帰の支援や地方行財政基盤の確保、防災・減災・国土強靱化の推進、そして持続可能な社会基盤の確保などに関しての内容があり、例えば、各自治体ごとに個別にカスタマイズされているシステムを、標準仕様に沿って開発することで費用を削減し、迅速な普及を目指すことや。在外選挙インターネット投票をできるだけ早期に導入できるよう、検討を進めていくことなどが記述されている。
総務省が旗を振り地方自治体が動くという観点では、1つ目のレポートにある「①トップが明確な方針を示す」方向に沿っており、内閣官房含めデジタル化に力を入れているので、今後官を起点としたデジタル化の流れはますます進みそうだ。(文責・佐渡)
Section2: ListUp
1. 中銀デジタル通貨
●バハマ中銀、Sand Dollarのリリースを10月20日に予定
2. 暗号資産/デジタル通貨関連サービス
●米CFTC、未登録トレードプラットフォームやマネロン違反としてBitMEXを告発
3. スマートな社会・産業
●EYのパブリックブロックチェーンベースの調達管理ソリューション「EY OpsChain Network Procurement」がベータ版発表
4. デジタル化へむけた政策議論
5. デジタル金融関連
●ブロックチェーンで不動産取引を完全にオンライン化、安全かつ簡潔化するPropy
●深圳証取、ブロックチェーンベースの未上場企業むけ取引ソリューションをローンチへ。同期コストの低減ならびにコーポレートエクイティ管理の標準化はかる
●上海証取、当局システムと統合したブロックチェーンパイロット
●豪州中銀、豪州証取ASXに対してブロックチェーンベースのプラットフォーム開発およびCHESSリプレイスを安全かつ遅延なく推進するよう要求
6. 規制動向
●金融庁氷見野長官の日本証券業協会セミナーでの講演「資本市場行政の課題と当面の対応」
●ニュージーランド財務当局、暗号資産事業者に対して顧客およびその保有資産額に関する情報開示を要求
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