今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
新経済連盟と内閣官房IT総合戦略室が開催した「ブロックチェーン官民推進会合」でも言及された分散型アイデンティティの動向について紹介しています。
あわせて、欧州で発表された「デジタルファイナンスパッケージ」や「欧州アセットマネジメント業界むけ規制データ収集ソリューション」を紹介します。
Section1: PickUp
●官民の組織横断データ連携において注目が集まる分散型アイデンティティ
新経済連盟と内閣官房IT総合戦略室が、「ブロックチェーン官民推進会合」を開催した。LayerX CEO福島も構成員として参加する全5回の開催のうち、DID(分散型アイデンティティ)が第2回および第3回の討論テーマとして予定されているなど、公の場においても「分散型ID」が重要なテーマとなっていることがわかる。
「ブロックチェーン官民推進会合」参考資料によれば、「分散型ID」は、分散システムによりIDが発行され、非中央集権型で個人によるID管理を行うものとして示されている。IDをもとにパーソナルデータのアクセスをコントロールを行い、当該IDにトラストアンカー(マイナンバーカード(公的個人認証)、法人ID、登記など)を紐付けることで、各種API接続やKYCに利用するものだ。
出所:https://jane.or.jp/app/wp-content/uploads/2020/09/2c88d204dd563c1560479a3c62275d46.pdf
分散型IDは民間主導でも利活用が期待されており、独Daimlerが、このほど3本のデジタルアイデンティティプロジェクトを発表している。その着眼理由は、企業の抱えるデータサイロに対して、分散アイデンティティを用いることによって、それぞれに個別登録する必要なしにシームレスな顧客体験を提供できるというものだ。
例えば20社からのサービスをバンドルし、あたかも1社がそれを提供しているかのように顧客へ提供できるため、顧客は一度識別されると、エコシステム全体を横断しこのアイデンティティを利用してトランザクションに署名できるようになる。その応用対象は、車両・企業・顧客と幅広く考えられる。
1本目のプロジェクトは、RIDDLE&CODEとの提携による、ハードウェア車両ウォレット開発だ。チップを用いることは車両のアイデンティティを確立する上で最もセキュアな方法であり、特に定常的に外部世界とやりとりすることが必要となる未来の車両において有望とされる。
2本目のプロジェクトは、Spherity社との提携による、企業むけウォレット提供だ。Hyperldeger IndyのDIDプロトコルおよびQuorumブロックチェーンを活用して、アイデンティティや資格証明を証明し、自動的な方法で同意事項に署名を行う。
3つ目のプロジェクトはOntologyブロックチェーンを用いた、モビリティプラットフォームMoveXの開発だ。分散アイデンティティフレームワークONT IDを用いて、顧客が複数のモビリティサービスを経験できるようにしながら、同時にユーザーのプライバシーを保護するものだ。ユーザーによるローミングやバンドリングやシェアリングを可能にするほか、プロバイダー横断でサービスを統合する。例えば、レンタカーにおいて、ユーザーが好みの社内設定を登録しておき、どこでもそれを利用できるし、デバイスとも組み合わせて、自分のプロフィールに紐づく旅行プランなどを友人とシェアしたりと、モビリティとソーシャルネットワーキングを組み合わせることに繋がる。
複数企業横断のデータ連携においてブロックチェーンが有効であるのと同様に、シームレスなユーザー体験の提供において分散型IDの提供が、様々な分野で登場することが見込まれることから、今後の動向に注目したい。(文責・畑島)
●欧州アセットマネジメント業界むけ規制データ収集ソリューションにFidelityやドイツ銀行が参加表明
欧州では、金融商品の販売にあたり、販売前および販売後のディスクロージャーコストにかかるデータを含めること等が必要となっている。このMiFID II(第2次金融商品市場指令)対応にあたり、各社は標準化されたEMT(欧州MiFIDテンプレート)を通して欧州横断でMiFID II データを補足・共有・送信している。
現状EMTを用いて効率化を図っているが、尚も高コスト・非効率性の他、データの正確性・リアルタイム性・信頼性に関する課題を抱えており、しばしばコストのディスクロージャーに際して必要な全データを他社から取得するために苦労している。
データ品質が悪い:最新のEMTデータセットであるかどうか確かでない
可視性の不足:誤った情報をチェックする方法がない
非効率な流通プロセス:コストがかかる、遅い、ヒューマンエラー
監査性・トレーサビリティの不足:監査・追跡性が低いため規制遵守が困難、トラブル解決が複雑
コンプライアンスリスク:上記による法令遵守ができないリスク
出典:https://www.tisa.uk.com/turn/
上記の課題を踏まえ、TISA(タイザ:The Investing and Saving Alliance)では、規制データに関するコストやリスクの課題を解決する方策について2018年から検討を重ね、EMT規制データ収集むけアセットマネジメント業界ブロックチェーンソリューション「TISA Universal Reporting Network (TURN) 」の開発が進んでいる。
TURNは、マーケットのコンプライアンスを高め、規制データに関する対応コストを低減し、投資家むけにより良いサービスを提供することを図るものだ。主要な規制情報要件をマーケットに提供する包括的プラットフォームであり、TISAの紹介動画によれば、全マーケット参加者むけに証券データ(ファンドや組成プロダクト)に関するSingle Source of Truth(信頼できる唯一の情報源)を提供する他、完全なネットワークトレーサビリティ・監査性を提供すること等が特徴となっている。
出典:https://www.tisa.uk.com/turn/
導入効果として、規制遵守にかかる証券データや分析コストを初年度から最大90%削減できるという。2020年4月にパートナーとしてAtos社を選定しており、2020年4Qにローンチ予定とされる。
欧州ではデジタル通貨の規制案や、ブロックチェーン法案などの法規制整備が進んでいるが、金融機関をはじめとした事業会社におけるブロックチェーン利活用も商用化へと進んでおり、今後の動向に注目したい。(文責・畑島)
●欧州委員会がデジタル通貨に関する規制案やサンドボックス制度を含むデジタルファイナンスパッケージを発表
欧州委員会は2020年9月24日、EUの金融セクター向けに、デジタルファイナンス戦略と暗号資産およびデジタルレジリエンスに関する立法案を含む、「デジタルファイナンスパッケージ」を発表した。
本発表は2018年のFinTechアクションプランに従い実行された内容と、欧州議会、欧州監督当局(ESA)、その他の専門家らの策定内容に基づいている。具体的にはデジタルファイナンス戦略、小売決済システム戦略、暗号資産に関するEU規制フレームワークの立法案、およびデジタル運用の回復力に関するEU規制フレームワークの提案の4つで構成されている。
特に注目すべきは3つ目、欧州委員会において初めて発表されたデジタル通貨に関する包括的な規制案と、併せて提案された分散型台帳技術(DLT)の活用に関するサンドボックス制度の新設である。
「Regulation on Markets in Crypto Assets (MiCA)」と呼ばれる全168ページに及ぶ規制案は以下4つの目的を持つ。
1. 暗号資産を明確に定義する法的枠組みの整備
2. DLTの幅広い活用を促進するためのイノベーションのサポート
3. 暗号資産に係る消費者と投資家の保護
4.ステーブルコインから生じる可能性のある金融政策に対する潜在的なリスクへの対処
特にステーブルコインについてはメイントピックとして大変多く言及されており、発行プロバイダーに関する規制、情報公開の要件、管轄当局による承認手順、報告・ガバナンス、EBAがその重要性を判断する基準としての時価総額・トランザクション数と値・準備金のサイズなど詳細までが規定されている。
発行体からすると、拠点をEU内に置く必要があり、また事前承認が必要で、欧州銀行監督機構(EBA)から直接監督される可能性があり、違反時には制裁金が発生するなど大きな規制となる。特にEBAの権限の強さが目立ち、フェイスブックが検討するリブラへの牽制を感じる。
ステーブルコイン以外の暗号資産についても、インサイダー取引や相場操縦の禁止、EBAの権限と能力、罰金、規則の適用時期など相当に具体的な法の成立と運用を見越した包括的な規制案となっている。
また、提案されたのは規制ばかりではない。金融サービス、特に証券決済と証券譲渡におけるDLT活用の実際のユースケースを生み出すためのサンドボックス制度の新設も併せて言及されている。これについてはサンドボックス運用の後、遅くとも5年後に欧州証券市場監督局(ESMA)より委員会に報告書を提出し、より具体的なDLT活用に向けて検討することが記述されている。
ここまで包括的かつ具体的な規制案が出たことで、検討中のデジタルユーロやステーブルコインの発行に一定の方向性が示されたものと解釈でき、グローバルな規制の土台にもなる可能性がある。
これを受け日米中なども一層の対応を求められるだろう。具体的な規制案の成立時期は未定だが、近い未来と思い楽しみにしている。(文責・梶原)
Section2: ListUp
1. 中銀デジタル通貨
●スイス国立銀行は、David Chaum氏・Christian Grothoff氏との共著で、ブロックチェーンを使わないリテールCBDCを提案するリサーチペーパーに取組中とのこと
2. 暗号資産/デジタル通貨関連サービス
●BitFlyer Europe、PayPalを介して暗号通貨のデポジット・引き出し可能に
3. スマートな社会・産業
●Porsche、サプライヤーのCO2排出量トラッキングソリューション「CarbonBlock」
●事例から見る「物流×ブロックチェーン」 FedExやニトリから見たこれからの物流業界
4. デジタル化へむけた政策議論
●行政デジタル化 青写真と今後の論点|楠 正憲(国際大学GLOCOM 客員研究員)
5. デジタル金融関連
●香港HKMAおよびタイ中銀によるクロスボーダーペイメントプロジェクト Project Inthanon-LionRockのフェーズ2、ConsenSysとPwCが参加
6. 規制動向
●米SEC、ATSおよびデジタルアセットに関するノーアクションレター発表
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