今週の注目トピック
Takahiro Hatajima(@th_sat)より
B2BバリューチェーンにおけるブロックチェーンとIoTを用いた企業横断DX動向、そして国内製薬業界におけるブロックチェーンの動向について紹介しています。
あわせて、タイ中銀が商用ローンチしたブロックチェーンベースの債券発行プラットフォームについて解説しています。
List編とあわせて、ご覧ください。
Section1: PickUp
●B2BバリューチェーンにおけるブロックチェーンとIoTを用いた企業横断DX動向紹介
LayerXでは、DXのレベルを4段階で定義している(ツールのデジタル化→業務のデジタル化→業務の高度化→コラボレーション)。
このうちブロックチェーンの有効性が大きく発揮されるのが、企業間での受発注共有・トレーサビリティなどコラボレーションの段階だ。昨今、Gartner社のハイプサイクルにも見るとおり、IoTとブロックチェーン技術の成熟が進んできたことを受けて、複数企業をまたぐバリューチェーンにおけるデジタル化への活用事例が国内外で相次いでいる。
三井物産流通ホールディングス(小売・外食事業者向け食品・日用品雑貨の中間流通機能を担う事業会社4社を総合的に管理するため設立)では、ブロックチェーンおよびIoT技術等の活用によるサプライチェーンDXの実証実験を推進している。RFIDなどのIoTの情報と組み合わせた情報プラットフォーム「サプライチェーン情報基盤」を構築するほか、この基盤と、複数の企業間の請求データをデジタル化・一覧化可能な「コネクティッドバリューチェーンを実現する基盤」との連携を目指すとしている。
出典:https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2020/0817.html
Walmart Canadaでは、IoTとブロックチェーンを用いたインボイスペイメントソリューションを導入した(=商用化)。これは、運送工程の透明性向上 および リアルタイムデータに基づくインボイス自動生成を行うことで、インボイスの齟齬による支払超過・支払遅延を削減するものだ。
日本通運でも、IoTとブロックチェーンを活用した商流プラットフォーム(契約決済・在庫コントロール・トレーサビリティ等)の構築に取り組んでいる。医薬品産業に向けては、温度管理をはじめとした物流情報を End-to-End につなぐ、IoTデバイスとブロックチェーンを活用したデジタルプラットフォームを構築中である他、物流情報に加えて受発注・決済・所有権移転といった流通上の証跡管理を一元化できるプラットフォームの構築も計画している。
出典:https://www.lnews.jp/2020/08/m0831305.html
なお、B2B取引においては、事業上の機密情報の扱いに注意が必要だ。北米コカコーラ(CONA:Coke One North America)では、機密データを格納することなくブロックチェーン上で情報の同期を行うことで、サプライヤーに十分な在庫があるかどうか・注文とあっているかの効率化を図っている。同様の問題意識の下、LayerXでも、プライバシー保護技術としてAnonifyの研究開発を推進している。
冒頭で挙げたとおり、複数企業を横断するバリューチェーンにおける情報同期やビジネスロジック自動化は従来のデジタル化でカバーできなかった領域であり、ここにブロックチェーン活用の妙味がある。社内デジタル化の先にある世界として、先進事例の動向に注目したい。(文責・畑島)
●タイ中銀、ブロックチェーンベースの債券発行プラットフォームをローンチ
タイ中銀の「DLT Scripless Bond Project」が、オペレーション効率の改善、コストの低減を目的としてブロックチェーン技術を適用し、安全で効率的なGovernment Bondインフラを構築した。PoCに止まらない商用化事例として紹介したい。
Public Debt Management Office、Thailand Securities Depository Co., Ltd(証券集中保管機関)、Thai Bond Market Associationといった機関が参加した他、販売エージェント銀行として、Bangkok Bank、Krungthai Bank、Kasikorn BankおよびSiam Commercial Bankが参加し、500億バーツ相当が1週間で売却完了した。
デモ動画によれば、従来、Government Savings bondのトランザクションにおいて、個人割り当ての最大額まで購入したい投資家は、全ての販売エージェント銀行をコンタクトまたは訪問することが必要だった。複数の販売エージェント銀行にキャッシュ口座と債券口座を開設してファンドを置いておく必要があり、債券を受け取るには、15日ものあいだ待つことが必要であった。
それに対して、DLT Scripless Bondのデモ動画によれば、DLT Bond Platformは、将来のタイのインフラとなる債券プラットフォームを確立することを目指し、Single Source of Truthの原則を適用することによって、検証済情報を分散台帳に格納することにより複雑性を低減し、全てのステークホルダーにオペレーション効率改善をもたらす。
投資家は複数の銀行で口座開設する必要がなく、2日以内に債券を受け取り銀行の残高を更新することができる。この他のステークホルダーも、債券発行者は販売プロセスをDLT Dashboardでリアルタイムにモニタリングできる他、販売エージェントや証券集中保管機関や中銀もプロセシング時間やワークロードを低減できる。
アジア開発銀行は、この取組とProject Inthanon(ホールセールCBDCによるRTGS)をあわせたレポートを発行している。タイではこれに限らず、中銀が中銀デジタル通貨を用いたセメント業者とサプライヤー間のB2Bペイメントのプロトタイプをローンチしたり、デジタル通貨(デジタルバーツ)向けDeFiアプリケーションを検討する等している。その他にも、司法当局がブロックチェーンベースの文書システムを2021年ローンチ予定であったり、デジタルアイデンティティシステムへのリプレイスを検討するなど、国を挙げてブロックチェーン活用にむけた取組が活発だ。デジタル庁の創設を目指す日本にあっても、アジア域内の取組ベンチマークとして、中国・韓国・シンガポールと併せて、今後の動向に注目しておきたい。(文責・畑島)
●国内製薬業界におけるブロックチェーンの動向と事例の紹介
今後ますますデジタル化が進んでいく中で、各医療機関などで医療データをどう取り扱うかが大きな課題となっている。
疾病情報は製薬企業が臨床研究や治験を行う際非常に重要なデータだが、現時点では各団体がそれぞれ独自に管理しているため、統合的かつ横断的に利用できない状態が続いていた。そんな中で、疾病情報を管理・共有するための「医療データプラットフォーム」の構築にブロックチェーン技術を採用したPoCを実施。本プラットフォームの構築に取り組むのは、国内製薬企業や医療機関など合計22機関で構成される「Healthcare Blockchain Collaboration」コンソーシアムである。
疾病情報をブロックチェーンで一元集約する仕組みのなかで、患者や医療機関が情報を登録することで、新薬開発の加速が期待され、参加者全員がメリットを得られる想定のもと2020年2月までPoCを実施し、結果的に次の3点が学びとして得られた。①プライバシーに配慮し、信頼性の高い同意取得の仕組みの構築。②将来的に新たな疾病や検査手法の登場にも耐えられるデータアーキテクチャーの構築。③極めて高い耐改ざん性や可用性の実現。
(a)パーソナルヘルスレコードに関しては、医師の誤診防止のための医療記録と患者の処方箋乱用を目的とした英国のMedicalchain社がパイロット運用しているものが有名である。2019年末より,25万人以上の患者を抱える30の英国の診療所運用中だ。
(b)臨床試験に関しては、臨床試験の各工程にブロックチェーン導入の検討が進められいる。サスメド社が開発する臨床試験結果をブロックチェーンに書き込むことで、入力データと原資料の照合コストが減らせる検証が有名。また、医療データの二次利用を促進するために、CJUG SDTM ブロックチェーン・サブ・チームが様々な同意をリアルタイムで変更可能にする仕組みを検討中である。
(c)医薬品流通の観点では、医薬品サプライチェーンの管理に使用可能な,相互運用性を持つシステムの基礎としてブロックチェーンが活用出来ることを示せた流通管理のパイロット試験がある。
ブロックチェーンは、医療データの管理や、医療データの二次利用周りで効果が見込める可能性が非常に高いので、引き続き追っていきたい。(文責・佐渡)
Section2: ListUp
1. 中銀デジタル通貨
●中国人民銀行副総裁、デジタル人民元について寄稿。デジタル人民元の交換は技術要件満たし指定された幾つかの商銀に限られAlipay等は不可とのこと
●フィンランド中銀、フィンランドで1990年代に中銀発行したAvant Smartcardが世界初のトークン形リテールCBDCだったとし、そこからの教訓をまとめたレポートを発表
2. 暗号資産/デジタル通貨関連サービス
●Kraken、米ワイオミング州が新たな金融機関の地位として定めた特別目的預託機関(SPDI)として承認
3. スマートな社会・産業
●中国人民銀行がデジタル通貨研究所と開発したトレードファイナンスブロックチェーン、広東ベイエリア以外にも拡大。納税申告や貿易監督も含んだものとして、アジア・欧州のプラットフォームとも接続
●中国のスマートシティ.社会課題へのフォーカスと理想像の欠如
4. デジタル化へむけた政策議論
●楠正憲氏「システムのオープン化とバブル崩壊の重複が日本の不幸」
5. デジタル金融関連
●アジア開発銀行、Contourを用いてStandard Chartered銀行との保証トランザクションをパイロット実施
●日本損害保険協会、ブロックチェーン技術を活用した共同保険の契約情報交換に関する検証を実施
6. 規制動向
●FATF、「仮想資産に関するマネロン・テロリスト資金供与の危険指標」と題したレポートを発表。ミキシングやトランザクションパターンなどの視点でケーススタディを整理
●欧州委員会、暗号通貨・証券トークン・Stablecoinをカバーするデジタルアセットの取引に関する包括的規制セットを展開へ
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