今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のbiz編pickには、トレードファイナンス領域や、フランスで進むデジタルマネー・プログラマブルセキュリティ領域といった金融分野におけるブロックチェーン実装の最前線の解説をお届けする他、DXにおいて求められるマネジメント・データ利用方法についての解説記事が並んでおります。どの記事も厚い分量ではありますが、ご覧いただければ幸いです。
Section1: PickUp
●DXに求められるチェンジマネジメントとデータドリブン
LayerXでは、「すべての経済活動を、デジタル化する。」をミッションに掲げて、紙・ハンコ・FAXの無い業務の実現にむけて邁進している。
たとえば、従来、紙の領収書だと、支払→領収書受領→署名・撮影→タイムスタンプ→経費精算であったが、デジタル明細だと、支払→デジタル明細受領→経費精算のように、フローの短縮ができる。しかし現状において、業務の入口である申請が紙ベースでまわっている場合、システムへの入力作業(あるいは他の紙への転記作業)が発生し、手間だけでなくミス発生のリスクの温床にもなる。実際、多くの企業において、書類の「バケツリレー」や「伝言ゲーム」がメールや電話などアナログな方法で、かつ多対多の事業者・担当者間で同時平行で行われている。
企業内に限らず、サプライチェーンにおいても、企業の枠をこえて事実を把握することが理想であり、部門や会社をこえて一元化できるとミスも減りコストも下がるとされる。だが、部門・会社間でシステムが異なると、途端にデータの相互利用が難しくなる。一気通貫の仕組みを喧伝する迄は容易だが、その導入には「既存システムとどう連携するか」「業務のやり方をどう変えるか」など各種工夫が必要だ。
仮に、トップダウンで進める場合にも、経営者にデジタルの価値を説くだけでは訴求が難しい。その場合「会社を成長させるためには/人財を育てるためにはこういう仕組みが必要だ」といった文脈で説明することも有効といわれる。
また、変革には「チェンジモンスター」といわれる抵抗勢力が顕在的・潜在的に出現することが避けられない。そのため変革を推進する上では「チェンジカーブ」ごとの対処方法を工夫するといった「戦略」面や、「自分ごととして主体的に手足を動かす意志ある組織とタッグを組む」など「泥臭さ」の両面アプローチが一案だ。
くわえて、「データ」というファクトベースによる推進も工夫の一つである。たとえば自治体においても、“「紙1枚」「ホッチキス留めにかかる時間」に至るまでコスト削減効果を細かく算出”するといった工夫や、“ コミュニケーション基盤のログデータを基に「職員一人ひとりがどの仕事に何時間費やしたか」をデータベース化して、業務の生産性をKPI化しよう”といった取組みもみられ参考になる。
更にはワークマンのように、「突出したデータサイエンティストは不要。全社員にデータ分析力が必須」を掲げ、現場主導でリアル店舗A/Bテストを行う企業もある。
このように、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を進めていく上では、チェンジマネジメントやデータドリブンの観点が重要であり、LayerXではこうした観点もふくめて実践に取り組んでいる。
●船荷証券のデジタル化に向けて、DCSAが業界標準策定に向けた動きへ
DCSA(Digital Container Shipping Association)が、デジタル化された船荷証券の標準化に向けて動き出した。DCSAは、A.P.Moller Maersk、Hapag-Lloyd、MSC、Ocean Network Express(ONE)の4大コンテナ事業者からなる業界中立的な非営利団体で、コンテナや貨物の輸送に必要な手続きについてデジタル化する際の標準について、規制やインターオペラビリティ、サイバーセキュリティについて考慮しながら定めることを目的としている。
船荷証券は、輸送後に貨物と引き換えることができる有価証券であり、現状その取引には紙が用いられている。DCSAによると、電子化された船荷証券(eBL、electronic bill of lading)を用いると紙のコストの1/3で取引が可能になると見積もられている。今日からデジタル取引の標準策定を進め、2030年に業界全体で50%の事業者がeBLへの対応が完了していると仮定すると、業界全体で年間$40億ドルものコスト削減効果が実現される見通しになっている。
特に今日では、COVID-19のパンデミックの影響で、紙の船荷証券が物理的に移送不可能になり、物流の停滞が起こるリスクについて顕在化してきたこともあり、取引のデジタル化は喫緊の課題となっている。
一方で、各国で有価証券の電子化に関する法整備の状況が異なることも考えられるため、世界全体への普及には時間を要するとみられる。
同領域では、TradeLensなどの先行事例も存在しており、このeBLの基盤にDLT(分散型台帳技術)が採用される可能性があることについても、示唆されている。今後も貿易領域のデジタル化の動向について注視していきたい。
●ソシエテジェネラルがフランス中央銀行が発行するデジタルユーロを利用した債券発行に成功
フランスの大手投資銀行のソシエテジェネラル社が子会社を通じて、CBDCであるデジタルユーロを利用した、担保付き社債の発行をPublic Etherum上で行ったと発表した。発行された社債の合計評価額は約4000万ユーロと報じられている。
昨年春ごろにソシエテジェネラル社は、自社グループ内で1億ユーロに相当する担保付き社債の発行を実証実験としてEtherum上で実行したが、今回はその次の段階の実証実験と位置付けることができる。前回の実証との違いは「Digital Euro」の利用である。昨年の実証では証券部分の発行にのみブロックチェーンを利用したが、今回は資金決済の部分でもブロックチェーンを利用したプログラマブルマネーを活用させ、資金と証券とのDvP決済を実現させた点が今回の実証の大きな注目点となる。
ソシエテジェネラル社による今回の実証実験は、3月にフランス中央銀行が発表したホールセール決済向けCBDC実証プロジェクトを活用したものとなる。この実証プロジェクトではフランス中央銀行が、10の金融機関を募り実証を行っていくことを発表していた。(こちらの詳細はLayerX newsletter第52号をご覧ください)ソシエテジェネラル社はその一社として採用され、第一号のDigital Euro実証実験を行った形となる。当初は7月に実証を行うとフランス中央銀行は発表していたが、数ヶ月前倒しで実証が行われたこととなる。また、同中央銀行は今後数週間で他の参画機関を通じて新たな実証実験を行う、とも発表しておりスピード感のある開発進捗が窺われる。
ただ、デジタルユーロについては公開されていない情報が多く、詳細な分析がまだできない状況のため今後発表されるレポートが待たれる。特に、パブリックチェーンを利用してプログラマブルマネーを発行している点に注目したい。プログラマブルマネーを発行する場合、匿名性等多数の要件が求められており、その要件を満たすことがパブリックチェーンでも可能なのかが難しい論点となっている。今回フランス中央銀行が行う実証実験はこの論点に対する一つの解を与えるかもしれない。
また、法的な実用性についても未だ不透明な状況だ。ユーロ圏内において、フランス中央銀行が独自にCBDCを発行できるかが不透明なためだ。紙幣の発行権はユーロ中央銀行にあるためだ。一方、鋳貨の発行権は各国中央銀行にある。ユーロ中央銀行の担当者は「CBDCが紙幣・補助鋳貨どちらに当たるか不明確であり、法的に各国中央銀行がCBDCを発行できるか、未だ断定はできない」という発言をしている。技術面・実務面ともに今後フランス中央銀行・ソシエテジェネラル社の動きから目が離せない。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●中国人民政治諮問会議メンバー、日本円・韓国ウォン・香港ドルおよび中国人民元のバスケットによるバックに基づく域内クロスボーダーStablecoinを提案
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●Shopify、暗号通貨ペイメントプロセッサーCoinPaymentsと提携
●SquareのCashアプリ、Bitcoinの日次・週次・隔週といった間隔をおいた自動購入スケジュールを可能にする「Auto Invest」機能
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●Uniswap、ノンカストディアル自動流動性プロトコルのv2をローンチ
●DeFiへのワンタップアクセスが可能なArgent V1がローンチ
4. Programmable Security : プログラマブル証券関連
●米DTCCのデジタルアセットのセツルメントおよびトークン化に関するPoCレポートの概要
●米DTCCの新たなトークン証券プロジェクト、Project Whitneyのケーススタディ資料
●Overstock、ブロックチェーンベースのデジタル配当を支払い
●NASDAQ、ブロックチェーン通じた証券発行などデジタルアセット強化へ向けて、R3との提携を発表
●TokenSoftがethereumを利用して自社の株式持分を発行
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●Ant Blockchain、中小企業むけブロックチェーン契約サービスを開始
●WeBank、シンガポールでFISCO BCOSブロックチェーンプラットフォームを大学コミュニティへ提供
●MarcoPoloが、Azure Marketplace通じて利用可能に
●Mastercard、MicrosoftやAccentureによるデジタルアイデンティティグループID2020アライアンスへの参加を表明
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●米ユタ郡、デジタル婚姻証明をEthereumメインネットハッシュ付きで提供
●米共和党大会、アリゾナ州ではリモート開催に加えてブロックチェーン投票システムを利用
●GLEIFが取組むデジタルアイデンティティと検証可能資格証明。よりトラステッドなビジネス関係を構築する基盤に
●米国国防総省によるブロックチェーンの潜在的利用可能性に関するレポートが、Amazon・IBM・ConsenSys等の共著により発行。多要素認証への応用や、パーツの認定など
●IBM、トレードファイナンスプラットフォームwe.tradeへ出資
●WEF世界経済フォーラムのブロックチェーン権利章典に、DeloitteやConsenSys等が署名
●航空業界のITを司るSITAの語る「これからの旅客業界の新たな当たり前」
●中国JD.comも、電子契約向けのエンタープライズサービスを開始
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●「gazelle(旧Plasma Chamber)」α版を提供開始
●Handshakeを用いて任意のURLをカスタムリンクへ短縮できるWebshake
8. Articles : 論考
●COVID-19禍の下でのブロックチェーン投票に関するレポート記事
●中国の銀行業界50行のブロックチェーンアプリケーションレポート
●SMEむけサプライチェーンファイナンスへのブロックチェーン適用についてのレポート
9. Future Events : 注目イベント
●Singapore Blockchain Week Virtual Summit(7/21-7/23)
●Money20/20 Asia(8/25-8/27)
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