今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のbiz編には、各国で進むサプライチェーンのデジタル化に関する解説やイタリアの銀行でブロックチェーンを活用して進められている銀行業務に関するデジタル化についての記事が並んだ他、中国・韓国でブロックチェーンとAIを活用した消費者向けサービスの実用化が進んでいる記事が解説されています。企業内での活用・消費者レイヤーでの活用がそれぞれ進んでいます。
Section1: PickUp
●COVID-19下で進展するサプライチェーンのデジタル化
米ベンチャーキャピタルa16zが「IT’S TIME TO BUILD」と呼びかける記事が話題になった。必要なモノ・カネが必要な対象へ届かない等、今日我々が置かれた状況は、金融・製造・医療・教育・公共など各分野において、これまでに「仕組みや態勢を構築しないこと」を選択してきた結果だと指摘し、この最大の問題に際し何を為すべきか、と問いかけている。COVID-19下(withコロナ・afterコロナ)の社会において、サプライチェーンはどのような姿が求められるだろうか。
サプライチェーンにおける物資の不足やボトルネックの発生は、メーカーが医療器具やマスクなどの発注に応えることができなくなる事態に直結し、感染拡大を長引かせることにすらなりかねない。サプライチェーンの根幹部分で何が起きているかを正確に知ることを通じて、状況のさらなる悪化を防ぐことが必要だ。
食品大手のDoleは、IBMのFood Trustを2025年までに全ての部門へ導入する旨をCSRレポートの中で発表した。このように、ブロックチェーンによるサプライチェーンの可視性を用いて、品質コントロール・生産性ベンチマークモニタリングが可能となる。ブロックチェーンの記録をサプライチェーンにおける監査証跡として活用することによって、医療機器に用いられる部品や、医薬品の原材料などに関するの来歴などを検証することができる。
サプライチェーンにおける原材料・製品の移動だけでなく、最前線で戦うエッセンシャルワーカーの移動や、医療品や食料品を運搬する新しい移動も必要となる。例えば、COVID-19下の医療スタッフ・患者へ物資を届けるロボティックデリバリー車両「Nuro」のようなモビリティサービスも登場している。
こうした中、ソニーは、複数の交通機関を統合した次世代移動サービスであるMaaS(Mobility as a Service)向けにブロックチェーンを活用した共通データベース基盤を開発した。すでにオランダ・インフラ水管理省によるMaaSむけブロックチェーン応用プログラムに参加し、モビリティプロバイダーとMaaS事業者の中で、匿名化された移動履歴と収益配分の記録・共有を実現している。正確で改ざんできない形で移動ログを蓄積したデジタルデータの台帳を通じて、移動記録の分析を行い、移動効率化への貢献や将来のスマートシティ構想にむけた企画・意思決定に寄与するものだ。
出所:https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/202004/20-030/document.pdf
今後、デジタルな形でデータを透明性・監査性を備えた形で共有し、経営判断や事業運営上の意思決定に活用することが、サプライチェーンだけでなく様々な場面で当たり前となっていくだろう。LayerXとしても、そうした「新たな当たり前」の実現にむけて微力ながら貢献していく所存だ。
●イタリア銀行協会が進める銀行間のリコンサイル業務のデジタル化について
イタリアの銀行協会で行われているブロックチェーンを用いたリコンサイル業務のデジタル化のレポートがR3社より公開されたため、紹介したい。イタリア銀行協会傘下の研究コンソーシアムであるABI Labでは、122の銀行、および70のIT企業が参画しており、2017年よりエンタープライズDLT基盤のCordaを用いて、イタリア国内の銀行間で行われるリコンサイル業務を共有台帳上で展開し、効率化を図るプロジェクト「Spunta(イタリア語でリコンサイル、確認の意)」を展開している。
こちらのプロジェクトについて、銀行以外の技術プロバイダとして、Cordaを提供するR3社に加え、ヨーロッパで中央銀行や公共機関向けに技術インフラを提供しているSIA社と、イタリアのNTTデータが参加している。Spuntaは、2019年まで実証実験フェーズにあったが、2020年以降、イタリア国内で実際の本番運用が開始される見込みとなっている。
Spuntaの最新フェーズには、銀行関係者150名と開発者80名が参加し,17の銀行と、それぞれの取引先の計32の銀行との間でのリコンサイル業務が実際にDLT上で展開された。
従前、銀行のnostro/vostro口座に誰がいくら持っているかについて互いに確認するリコンサイル業務については、月次で電話を用いて行われていたが、今回銀行らにSpunta DLTの基盤が提供されたことで、ダッシュボード上に可視化され、日次で確認することができるようになった。また、これらが自動で行われるロバストな共有台帳基盤ができたこと、そしてアプリケーションとしてコミュニケーションチャネルを備えていることから、リコンサイル業務の負担が大幅に軽減されたと評価されている。
プロジェクトは2020年5月と10月にそれぞれ次フェーズに進むとされている。引き続き銀行のデジタル化に関する動向を注視していきたい。
●中国・韓国でブロックチェーとAIとを掛け合わせた実用化に向けた動きが進む
ブロックチェーンをAIなどの他技術と掛け合わせることで実運用まで行っていこうとする動きが中国・韓国で進んでいることを表すニュースが先週は相次いだので紹介したい。
まずは中国の動きである。平安保険がブロックチェーンとAI技術とを掛け合わせた消費者金融事業を行うための新会社を設立した。平安保険が掲げる「テクノロジーX金融」戦略を消費者金融の分野でも押し進める機関として、同社グループが開発を進める、blockchain, AI, Cloud Computingの技術を結集させる模様だ。
その姿勢は、出資額や出資者からも垣間見える。出資金合計は50億中国元(約7億ドル)という額になっている。出資者は平安保険が筆頭出資者として30%を出資している他、平安保険とともにP2Pレンディング事業を進めているLufaxホールディングから二社が合計で42%を出資、平安保険の法人向け事業を行う平安普惠に出資を行っている融熠株式会社が38%の出資と、関連会社が合同で出資している。
すでに新会社は消費者向け金融事業者として中国の銀行保険監督委員会から認可を獲得済みであり事業を行える体制を整えている。与信審査・融資・返済管理まで消費者金融に関わる事業を全て一社で完結させる予定だ。他の金融領域においてサービスを提供する平安グループとともに、金融にかかる事業を全て平安グループ内で完結させることが目標とされている。平安グループはOne Connectによるブロックチェーン事業や、深センで行っているスマートタックス事業など様々な先行事例を産んでおりそれらが消費者金融の分野でどのように活かされるのか注目である。
お隣韓国ではLG社の子会社が画像認識AIとblockchainとを連動した自動決済システムを開発して、LG本社で実証実験が行われているというニュースが報じられた。
LGのソフトウェア子会社のLG CNS社が画像認識AIシステムとblockchainとを連動させた自動決済システムを開発し、現在LG本社の食堂において実証を行われている。LG本社は今年初めより顔画像認識に基づいた入退社管理システムを導入しており、その顔画像データとブロックチェーン上の独自通貨情報とを紐づけて今回の実証を実現させている。
今回の開発に使われているチェーンは、LGが2年前より自社で開発しているHyperledger FabricベースのMonachainではないかと想定されている。同社は開発当時からDID(Digital Identity)と紐づけてデジタル決済を実現していく、という話をしており今回はそのパイロット版として位置付けることができるだろう。今回開発された決済システムは、店員と顧客との接触機会削減に期するものでありcovid-19が蔓延する中で接触削減が求められるなか、将来の新たな決済方法として期待されている。
データベースとしてシステムインフラとなるブロックチェーンが、他技術と融合し実用化されていく、という世界観が実際に東アジア各国で進められているのは見逃せない事実であり、この動きはさらに加速していくと思われる。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●日本証券業協会より、暗号資産及びSTOに関する金商法改正に伴う定款の一部改正(案)についてパブリックコメントの募集
●公取委による、フィンテックを活用した金融サービスの向上に向けた競争政策上の課題についての論点整理報告書
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●Coinbase、DeFiのシステミックリスク低減へ向けて、Bitcoin・etherの価格オラクルをローンチ(Coinbaseの価格オラクル「Coinbase Oracle」。APIはCompoundの開発したスマートコントラクトセットOpen Oracle互換)
●中国デジタル人民元、雄安新区スマートシティのマクドナルド・スターバックス・サブウェイ店舗でトライアルする旨の、未確認報道
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●WordPress向けDEXプラグインをDraper Goren Holmがローンチ
●Zerion、DeFiプロトコルのインテグレーションを開発者が容易に行えるようにすべくDeFi SDKを発表
●ConsolFreightとCentrifuge、運送業界のフリートフォワーダーが売掛金用いて運転資本を改善はかるべく DeFi通じた流動性へのロジスティックス変革へDaiをインテグレート
4. Programmable Security : プログラマブル証券関連
●三井物産デジタル・アセットマネジメントがセキュリティ・トークンの実証を開始。LayerX開発のプロダクト活用によりアセットマネジメント領域のDXも実証段階へ
●Securitize、証券トークン向けインスタントアクセスサービスをローンチ。AirSwapとの協働のもと、ユーザーが1クリックで証券トークンの売買ができるもの
●tZERO親会社のOverstock、デジタル配当へのアプローチを発表。持分に応じて1:10で配当を受け取ることができるもの
●OpenFinance Network、全ての証券トークンを5/21付でプラットフォーム上からdelistする旨を発表
●米Blockchain Association、新たに証券トークンワーキンググループを立ち上げ。議員の他、SEC・FINRAほか規制当局とのコミュニケートを計画
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●中国工商銀行、銀行セクターにおけるブロックチェーン応用についてホワイトペーパー発表。金融セクターのペインを分析し、海外トレンドと中国とを比較(ペーパー本編はこちら)
●State Street銀行、デジタルアセット向けシナリオ検証に向けてGemini Trustと提携。カストディサービスにおけるBitcoinやETHのレポートプロセスのトラックのトライアル
●COVID-19のインパクトに向けた中小企業の運転資本問題解決へ向けて、MarcoPoloがホワイトペーパーを発行。その中で、売掛金ファイナンス通じた「SME Early Pay」を発表している
●平安保険、平安Consumer Financeを上海に設立。平安の「ファイナンス+テクノロジー」戦略のもと、グループの持つAI・ブロックチェーン・クラウド技術を導入
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●韓国LG、従業員が顔認識で食品むけ支払いをブロックチェーンベースのコミュニティデジタル通貨で行えるペイメントシステムのトライアル
●Dole、IBMのFood Trustを2025年までに全ての部門へ導入する旨をCSRレポートの中で発表
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●リンクにスマートコントラクトを埋め込むリファラルソリューション2key Network。HTTPリンクをトラッキングや記録・自動報酬といったキャンペーンコントラクトの実行が可能なSmartLinkに
●Applied blockchain、B2Bトランザクション向けゼロ知識証明プラットフォーム構築へ$2.5M調達
●DeFiプラットフォーム上の匿名トランザクションIncognito。サイドチェーンを通じて匿名に。KyberNetwork・0x・Uniswap・Compoundなどをサポート予定
8. Articles : 論考
●日銀やauFH、LayerXが語る決済の未来像、マネーはいつ“プログラム化”されるか
●The Economistによるキャッシュレス社会・デジタル通貨に関する論考
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