今週の注目トピック
Eisuke Tamotoより
今週のBiz編pickには送金決済に関連するニュースが二つ、中央機関のデータ共有にブロックチェーンが採用されたニュースの計三つが並びました。記事下記のList編とともに今週もお楽しみいただければ幸いです。
LayerX newsletterを発刊して約1年が経ちました。購読者の方々の数も右肩上がりで先日600名を突破しました。多くの方にご覧いただきありがとうございます。今後とも皆様のキャッチアップに貢献できる記事を執筆してまいります。
Section1: PickUp
●ネオバンクSimpleの共同創業者が新たに立ち上げたEthereumベースの銀行APIインフラSila
ACH(日本の全銀システムに相当する米国の小口送金決済システム)を置き換えることを図りプログラマブルなペイメント・銀行APIインフラを提供することを目指す「Sila」が、$7.7Mを資金調達したことが報じられた。
Silaのホームページによると、ユーザーはアプリを通じて新規口座開設を米国KYC基準ベースで可能な他、アプリを米国・カナダ9600の金融機関の銀行口座と接続した上で、個人・法人間のデジタルウォレット間送金することができる。
加えて、ACHベースおよびERC20ベースStablecoinを用いたトランザクションをEthereumスマートコントラクトを用いてプログラマブルに設定して自動執行することが可能な点が特徴だ。米ドルにペグしたプログラマブルなERC20 Stablecoin(SilaToken)を発行し、トランザクションは全てトークンベースに行われるとのこと。
実際、Silaのトランザクションはこちらで確認でき、パブリックブロックチェーン上で稼働していることが実感できる。
SILAのトランザクションをEtherscanで確認できる
また、開発者むけSDKもオープンしている。
開発者むけ情報開示も充実している
創業者は、銀行窓口での体験をもとに「むかつかない銀行サービス」を目指して、2009年にネオバンクSimpleを立ち上げた。その後Simpleが2014年にスペインBBVA銀に$117Mで売却された後も、SimpleのシステムのBBVAへのインテグレーションや、APIプロダクト(BBVA Open Platform)の構築に携わってきた。
COVID-19後の世界で急速にオンラインバンキングへのシフトが進むと見られる中、今回取り組むSilaは、ERC20トークンやスマートコントラクトを用いた金融アプリケーションをスピーディにデプロイすることが可能な点が特徴だ。銀行APIを巡っては、API経由で米国の銀行口座情報から取引・ID・認証・残高・保有資産などの情報へアクセス可能とする「Plaid」がVisaによって53億ドルで買収された他、GMOあおぞらネット銀行が、国内銀行初となる本格的な銀行API実験環境「sunabar」を無償開放するなど、動きが活発化している。
銀行APIを使って、新規サービス開発における資金決済などと連動した取り組みを行うなどが可能となる。パブリックブロックチェーンの世界で、これに該当する動きが「DeFi」と呼ばれる、金融機能をレゴブロックのように組み合わせて新規サービスを提供するものだ。スマートコントラクトを用いてビジネスロジックを後からアドオンできるのは、ブロックチェーンの重要な特性の一つである。
今後、銀行APIやDeFiのように、ベースとなるシステムの上で、様々なアプリケーションが開発できる環境が整っていくことを通じて、利便性の高いサービス、効率性に富んだサービスが生まれてくることが期待され、今後の動静に注目したい。
●ブラジル中銀がQuorumを利用し、金融当局間での情報共有台帳を構築
ブラジル中銀が開発を進めていた金融当局間での共有台帳プロジェクトPIERが4月上旬にプロダクトリリースされた。PIERは、ブラジル中銀、ブラジル証券監督庁(CVM)、保険監督庁(SUSEP)、年金監督庁(PRIVEC)間で情報が共有される情報共有台帳プロジェクト。従来は紙で行われていた当局間のデータ管理のデジタル化を目指す。
データ管理のデジタル化を行うことで、罰則処理の迅速化、監督金融機関の取引や営業状況といった情報の当局間連携の迅速化を目指す。デジタル化に加えてブロックチェーンを採用することで、情報を水平的に共有できるようになり、情報のサイロ化が防止ができる。これがさらに当局間での業務プロセスの迅速化に繋がるとされている。担当者の発言では、当局間での情報連携には過去数日かかっていたところ、PIER上では即時の完結が可能になるとされている。
2017年よりブラジル中銀はブロックチェーンを活用した情報共有プラットフォーム開発を進めていた。最初のPoCではCorda, HLF, Ethererum, Quorumが比較検討されていたが最終的にプロダクトとしてはQuorumが採用された。また、クラウドプラットフォームとしてMicrosoftが提供するAzure blockchain serviceも活用していると報じられている。
今後PIERは貿易や国際金融情報などの分野における情報についてもプラットフォームに追加していくとしている。当局間での情報台帳としてブロックチェーン基盤が採用され、プロダクトリリースまでされたという先例は過去ほとんどないだけに、行政業務のデジタル化の先例としてブラジル当局のこの取り組みを今後も注目していきたい。
●IOSCOがグローバル・ステーブルコインに対する規制の適用可能性に関する報告書を公開
昨年6月にFacebookのLibraが発表されて以来、各国で規制に関する議論が続いてきたが、この度、証券監督者国際機構(IOSCO)から「Global Stablecoin Initiatives(グローバル・ステーブルコインの試みについて)」と題された報告書が公開された。
BISのCPMI(決済・市場インフラ委員会)とIOSCOは、金融市場インフラを形成する機関に対する規制の方針として、PFMI(Principles for Financial Market Infrastructures)を策定していることで知られるが、本報告書は、昨今注目を集めている決済手段としてのグローバル・ステーブルコインについて、PFMIが適用可能であるかどうかについて、検証した内容となっている。
本報告書で検証対象とするグローバル・ステーブルコインの前提は、特定企業がパーミッション型のDLT上で発行し、その裏付資産の管理と流動性の提供をリザーブファンドたる複数の金融機関が行い、ウォレットを与えられた一般ユーザーが決済利用可能なものとしていることから、明確にLibraが意識されていることが伺える。こちらに対し、FMIは、資金取引などの金融取引の清算・決済・記録を円滑化する金融市場インフラのことを指していることから、一定程度の決済リスクなどが懸念される場合については、既存の金融インフラ同様、こうしたステーブルコインに対してもPFMIを適用しうる、との考え方を示した。
なお、今回グローバル・ステーブルコインについては3つの類型が示されており、添付部分にて、各類型に対するPFMIの適用可能性があるかについて議論されている。1つは、中央機関がプライベートチェーン上で特定の通貨と価格をペグするパターン、2つ目は、中央ガバナンス機構によって管理される独自単位を持つ通貨でUIが第三者によって提供されうる可能性のあるもの、3つ目は中央機構が存在しうるが、パブリックチェーン上で運営されており責任主体が曖昧な、独自単位を持つ通貨とされており、興味深い類型整理となっている。
また、DvP決済に利用されうるステーブルコイン等は「Hybrid-FMI」として解釈できうるとし、場合によってはPFMIの適用対象になりうることも示唆されていた。規制の動向について、今後も引き続き注視していきたい。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●金融安定理事会FSB、クロスボーダーペイメントの強化へむけたロードマップ構築についてレポート発表
●ドイツ銀、COVID-19パンデミック下において現金がウイルス伝播のリスク要因として、中銀デジタル通貨を加速すると主張
●英標準化組織British Standards Institute、スマートリーガルコントラクトの仕様検討
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●HTCのEXODUSブロックチェーンスマホで、moneroマイニングが可能に
●Bakkt、航空マイレージを暗号資産に交換できるモバイルアプリを今夏ローンチへ
●Fidelity Digital Assets、コロナウイルス禍のもとでのビジネス拡大見据えErisX追加へ
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
●シカゴでDeFiプロジェクトと暗号資産トレード会社のアライアンスが設立
●Compoundデポジットを保護するDeFiユーザー向け保険プロトコルopynの仕組みFAQ
●DeFi Money Market(DMM)エコシステムの図解ページ。ボラティリティ少ない利率、リアル世界で収益生み出すアセットによる裏付け、オンチェーンで透明なデジタルアセットといった特徴について
●MakerDAO、Black ThursdayにおけるVaultの清算損失被害者むけにプロトコルネイティブな補償を検討開始
●Coinlistウォレットを用いて、ワンクリックでBTCをWBTCへラッピングが可能に
4. Programmable Security : プログラマブル証券関連
●米CFTC、リテールコモディティ取引におけるデジタルアセット流通についてガイダンスを発表
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●台湾で11社の保険会社が参加して保険コンソーシアムを設立。保険証券の住所変更が発生した際に他の保険会社にも更新
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●香港の海運会社OOCLのソフトウェア部門CargoSmart、プロセスのデジタル化・ペーパーレス化に向けたパイロット実施
●EUのブロックチェーン国際標準化組織「INATBA」、COVID19対応に向け、組織間の医療情報共有や医薬品寄付のトラッキングなどを行うチームを発足
●国際商業会議所(ICC)、トレードファイナンスにおける書類管理負荷低減へむけ、デジタル貿易への法的障壁の免除を主張。電子的貿易書類の利用通じたトレードファイナンスプラットフォームへのシフトを促すもの
●独Daimler MobilityとRiddle & Code、Mobility Blockchain Platformを開発
●中国で初めて不動産販売向けブロックチェーン請求書が発行。物件の内覧・選択・購入を非対面で行う一環で
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
●dltledgers、銀行・運輸会社・保険会社向けにクロスボーダー取引のデジタル化つうじたトレーサビリティを提供。主な顧客はDBSやStandard Charteredなど
●MIT、プライバシー保護型のCOVID-19対策接触トレースシステムを開発
●COVID-19テスト結果を他者へ証明できる「スマホベースのデジタル資格証明書」をテスト機関が発行できる取り組み
●COVID-19後に安全に経済を再スタートできるための取り組み。分散アイデンティティを用いて労働者の安全証明書を提供することによって、職場への復帰を検証可能な形で実現はかるもの
●中国ByteDance傘下の写真共有プラットフォーム「図虫撮影網」、Ant Blockchain用いた著作権保護サービスを提供
8. Articles : 論考
●ブロックチェーン裁判システムの構築をパブリックチェーン上で、トランザクション詳細を明かさずに可能とする論文「A digital court f A digital court for a digital age」が発表
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