今週の注目トピック
Eisuke Tamoto(@coin_ettomato)より
今週のBiz編には中国と米国のブロックチェーンへの動きが並びました。特に米国の中央銀行発行デジタル通貨プロジェクトのニュースは今まで米国では公にあまり出てこなかった内容なだけに注目が集まります。他の二つのニュースでは、ブロックチェーンと法的手段との関係で注目できる内容となっております。今週も下記のListと合わせてご覧くださいませ。
Section1: PickUp
●イリノイ州、スマートコントラクトおよびブロックチェーン上の記録を以って法的手段として認める法案「Blockchain Technology Act」が通過
米イリノイ州において、ブロックチェーンを以って生成・格納・検証された記録・署名やスマートコントラクトが、法的な執行力あるものとして認められるようになった。この法案では、まず用語定義として、ブロックチェーンを「トランザクションのデジタル記録を検証・格納する複数参加者によって分散的方法を用いて生成された電子的記録であり、前トランザクション情報の暗号学的ハッシュを用いて安全確保される」と定めている。また、スマートコントラクトについては、「ブロックチェーンを用いて検証される電子的記録として格納されたコントラクト」としている。
次に、ブロックチェーンの利用が認められる場合については、以下のように定めている。まず、ブロックチェーンを用いて生成・格納・検証される場合に、スマートコントラクトや記録・署名は、法的効果や強制力を否定されない他、スマートコントラクトや記録・署名のエビデンスは排除されることが無いとのこと。また、法が記述による記録を求める場合に、記録を電子的に含むブロックチェーンの提出を以って法を満たすとしているほか、法が署名を求める場合には、署名を電子的に含むもしくは署名を提供する人物の意図を検証するブロックチェーンの提出を以って満たすことができるとしている。
では、どのような場合に「利用制限」がかけられるのかというと、例えば「契約や記録の保持する権利のある参加者により正しく検証・再生成される形でない場合」や「この法以外の法が、特定の方法で提示される記録を求める場合」および「ある個人が、ブロックチェーンに含まれる情報の格納や取り出しを阻害できる場合」などを挙げている。
その上で、地方政府に対する制約として、以下をあげている。ブロックチェーンやスマートコントラクトの利用について、「税や手数料を課してはならない」「地方政府からの認定・免許・許可を求めてはならない」「その利用を要件として強制してはならない」と定めている。
このように、ブロックチェーンによる記録やスマートコントラクトが法的な執行力を持つものとして定める例ができたことは重要なトピックと考えられる。既に中国では、ブロックチェーンによる記録をエビデンスと定めてインターネット裁判所で扱われている。例えば、杭州インターネット裁判所の副所長は、「スマートコントラクトは、従来の契約と違い、エビデンス収集に時間を要することなく自動的に執行することができる」と述べている。
具体的な実績としては、中国の「インターネット裁判白書」において、デジタルエビデンスの収集・保温・認証の難しさに取り組むため、ビッグデータやクラウドストレージとブロックチェーン技術の組み合わせに意味があるとした上で、2019年10月31日時点で、22の省における裁判所が、ブロックチェーンベースの電子エビデンスプラットフォームと接続されているとのこと。このバックでは、中国科学院の国立タイムサービスセンターや、争議解決プラットフォーム・公証役場・法科学センターなどとリンクされており、公的なインフラとして、ブロックチェーンが定着していることが窺える。今後、商取引のインフラとして、クラウド同様にブロックチェーンの利活用が浸透・定着していくべく、その実績が積み重ねられていくことを期待したい。
●中国がブロックチェーンを知財に加え企業秘密管理の応用に向けて開発を開始へ
中国が著作権などの知財分野でのブロックチェーン応用に加えて、企業秘密管理領域においてもブロックチェーンを活用するために動き出していることが上海人民検察院への取材で判明。企業秘密には、開発ノウハウやソースコードなど特許等には含まれないが企業価値を担保する情報として企業が指定する情報が当てはまる。例として、コカ・コーラ社のコカコーラ作成レシピが企業秘密として挙げられている。
従来、企業秘密は情報特定の難しさ、企業スパイを通じて秘密情報が漏れたこと自体の特定の難しさなどから、情報漏洩が発生した場合の特定や裁判の難しさが指摘されていた。ここで、上海においてブロックチェーンを利用してこれらの課題を解決しようとする動きが登場したのである。具体的には、各企業が企業秘密として保護したい情報が登場した場合は、その企業情報が定義された時のタイムスタンプと情報に関するフィンガープリントをブロックチェーンに書き込む、というものである。
ただ現在では、具体的な開発プランやメイン企業なども選定されておらず、今後上海の地域知財管理機関を中心に各関連プレイヤーを集めて実用化に向けた具体的リサーチが開始される模様だ。
今回注目されるのはブロックチェーン技術そのものに加えて、それを主導しているのが人民検察院であるという点である。人民検察院の担当者の発言では、「企業秘密漏洩問題の鍵は裁判における証拠能力をどのように認めるかであり、今後ブロックチェーンネットワーク技術を開発した際にはそこの記載データを法的証拠能力のあるものとして扱う」としている。また、「現在中国は知財関連問題の法律基盤の更新を進めているが問題の一つとして、証拠能力の点がある。しかしこの問題は技術の介入なしでは解決できない。」とも発言しており、現代に合わせた規制や法システムのアップデートにテクノロジーを活用していく姿勢が色濃く見られる。
同様の試みは世界知財管理機関(WIPO)においても進められているが、ワークショップを開催するフェーズの模様であり、今回上海人民検察院の担当者は、「WIPOとも協力をしながら、開発が進めば技術を中国に縛ることなく世界的に適用させるようにしたい」との発言をしており、世界を見据えた開発をしていく模様だ。
中国ではすでに著作権訴訟における証拠能力としてのブロックチェーン適用は進んでおり、今回の企業秘密事例に置いてもどのように実現していくか政府の動きにも注目していきながら追っていきたい。
● デジタル米ドルの発行について検討を進める「Digital Dollar Project」とAccentureがパートナーシップを締結
2020年1月16日、元CFTC(米商品先物取引委員会)委員長のChiristopher Giancarlo氏率いるDigital Dollar Projectが、Accentureとパートナーシップを締結したことを発表した。Digital Dollar Projectとは、民間決済で使用可能な米ドルのCBDC(中央銀行デジタルマネー)の発行方法について、公な議論を行うことを目的として設立された非営利団体である。
今回、同団体がAccentureとの提携を決定した背景には、Accentureが過去に取り組んできた中央銀行系プロジェクトから得られる知見を活かしたい狙いがあると考えられる。これまでAccentureは、資金決済領域においてカナダ中銀と実証実験を行った「Project Jasper(Phase 1~3)」やシンガポールの金融当局のMASと行った「Project Ubin(Phase 1~5)」、Cordaを用いたデジタル通貨に関する秘匿化技術の検証を欧州中央銀行らと進めている他、世界初のCBDC「e-krona」を発行したスウェーデン中銀のRiksbankとも技術協力を行ってきている。
Digital Dollar Projectは今後、紙幣に似た性質を持つ第3の通貨「デジタル米ドル」の発行方法について、経済学者や経営者、技術者、イノベーター、法律家、アカデミアや人権学者、倫理学者など、幅広い領域の専門家を議論を進め、初期の発行方法について検討を進めていくとのこと。
海外の中央銀行と比べて、米国の動きは後発となっている。近日になって動きが活発化してきた背景には、中国によるデジタル人民元の発行検討も多いに影響していると考えられる。今後の発行に向けて、米国内でどのような議論が進められていくかの動向について、引き続き注目していきたい。
Section2: ListUp
1. Regulation : 規制動向
●仏中銀副総裁、テック企業や金融機関の発行するステーブルコインは「決済システム強化に貢献できる可能性あり」と講演
●OECD、ブロックチェーン関連のアドバイスと指針の確立を行う専門家グループBlockchain Expert Policy Advisory Board (BEPAB)を設立
●オーストラリア準備銀行、CBDCの有用性を確かめるため、銀行間決済の実験をEthereumベースで実施
●中国人民銀行、規制サンドボックス制度によるプロジェクトを発表
●金融庁、仮想通貨に関わる令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等を公表(内閣府令の概要について解説記事はこちら)
2. Crypto Adaptation: 暗号通貨の普及・応用
●カストディアンのAnchorage、機関投資家むけ仲買サービスAnchorage Trading立上げと発表
●Gemini、カストディ顧客のデジタル資産を保護するキャプティブ保険会社Nakamoto設立を発表
●Binance、Zホールディングス傘下のTaoTaoとの間で戦略的提携へ交渉開始との発表。BinanceからTaoTaoへの暗号資産取引関連技術の提供や暗号資産取引所運営のサポートなど
3. Decentralized Finance : DEXやトークンなど
4. Programable Security : プログラマブル証券関連
●NBAのサクラメント・キングスが所属選手のグッズのオークション販売をEthereum上で実施へ
●タイに拠点を置くトヨタリーシングがタイでブロックチェーン債を発行へ
●BrickMark社が100M$超の不動産を購入し、発行済PSの正味価格が上昇へ
5. Financial Institutions : 金融機関による応用ケース
●Seoul Medical Center、医療情報管理および保険請求むけブロックチェーンアプリケーションをローンチ
●JCB、決済連携プラットフォームへむけて富士通と共同プロジェクト開始と発表
●AUM6兆円を誇るWisdomTree社が独自ステーブルコイン発行を計画へ
●香港企業が新たな貿易ファイナンス向けネットワークをMSのサポートにより開発へ
6. Enterprise/Government : 非金融分野の応用ケース
●IBMによるブロックチェーンおよびWatson用いたサプライチェーンプラットフォーム「IBM Sterling Supply Chain」、Salesforceとの提携を発表し、サプライチェーンのデジタル化を推進へ
●Forbes、ブロックチェーンを利用した会員システムを採用
●北京政府のブロックチェーンアプリ、500万ダウンロード突破
●伊藤忠商事、インドネシアにおける天然ゴム原料調達サプライチェーンを対象としたトレーサビリティの実証実験
7. Startup : 個別プレイヤー・アプリケーション
8. Articles : 論考
●フィナンシャルタイムズの「20年代の3つの技術潮流」より。
●ゼロ知識証明のプライバシー技術がサプライチェーンファイナンスへの中小企業のアクセス負担を軽減するという話
●金融“機関”は、金融“機能”になる「国の存亡を賭けて」挑む、ブロックチェーンの社会実装
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